シャーレの部長はブラックマーケットの代表   作:四脚好き

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105話

◎・ブラックマーケット 市街区外縁 ディフェンダーチーム拠点・

 

「た、助けてぇ!」

「代表の野郎、ここまでやるなんて滅茶苦茶だ!」

「痛い痛い痛い痛い痛いぃぃ!」

「ほんとに侵攻してくるとは思わねぇだろうが……ッ」

「なぁ、僕の妻と子供がまだ見つからないんだ……手を貸してくれ、手を貸してくれよッ!」

 

 市街区外縁にある市街区と高層区を結ぶ大橋の近くに設置されたディフェンダーチームの拠点には多くの避難民が押し寄せてきていた。そんな避難民たちを正義実現委員会と修行部そして『ODI ET AMO』の兵士たちが整列させ武器や爆弾の有無を確認していく。

 

「これは思ったよりも骨が折れるっすねェ」

「そうですね。けど、出来る限りのことしてみましょう。それが私たちに任された仕事でもありますから」

 

 ごった返す避難民たちを誘導しながらイチカがそう話すと、隣にいたミモリがそう返事を返す。ミモリの視線の先には親と逸れ泣いている子供をあやしながら迷子が集まっている場所まで連れて行こうとしているカエデの姿があった。そんなミモリの視線に気が付いたのかイチカもカエデのほうを見て笑みを浮かべる。

 

「良い子っすね」

「はい、自慢の後輩です」

 

 そんなやり取りをしていると避難民たちの待機列のほうからなにか怒号が聞こえる。

 

「おい! そんなガキなんかよりこの僕をさっさと避難させろ!」

「キャッ!?」

 

 二人がなにごとかとそちらに視線を向ければ多くの荷物を載せたリヤカーのまえに立つ身体の一部をサイバー化した男性がいた。男は今までの避難民に比べて身なりや体格が良かった。多くの避難民がいるなか、まったく待機列が進まないことに腹を立てたのか辺りの避難民たちを威嚇して無理やりに道を開けさせようとしている。中には大きなリヤカーに押され体勢を崩す人もいる。

 

「あれはマズイっすね……。ハスミ先輩!」

『どうかしましたか、イチカ』

 

 イチカは男の姿を確認するといち早く拠点の指揮をしているハスミに連絡を入れる。

 

「正面待機列でトラブルっス。対応入るんで代わりの誘導員を置いてほしいっす」

『了解です。ただちに人員を送りますのでトラブルの対処をお願いします」

 

 ハスミからの返事を聞いて駆けだすミモリとイチカ。ミモリは直ぐに倒れた人の元に行って怪我の有無の確認や立ち上がるのに手を貸して、イチカは激高している男の前に立つ。

 

「あぁーそこのお兄さん? 申し訳ないっすけどけが人優先ですし、待機列の順番は守って欲しいっす」

「あぁ? 小娘、この僕が誰だか知られねぇのか!?」

「っち……知らねぇっすよ。 ……いやー存じ上げないっすねぇ」

「知らない!? このチキン商会、首狩りのポット様を!?」

「いやホントに誰っすか……」

 

 男が自身満々に名乗りを上げるがまったく聞いたことのない名前に苦笑いをすることしかできないイチカ。それもそのはず、このポットという男、実際はただのガタイの良いチンピラにしか過ぎない。余りにうま味がないため誰も手を出していない地域で取り立て屋まがいのことをして金を稼ぎ、その地域のことしか知らずに他の地域の取り立て屋がどれだけ恐ろしいか、どれだけ稼いでるかを知らずに事業が成功したと思い込んでる小物なのだ。その結果がこのリヤカーに乗る程度しかない家財の数々だが、そんなでも自分を偉大な人物だと思って疑わないのはある意味凄いかもしれない。因みに、"首狩り"の名前は本人が脅しの時に『生首にされてぇか!?』と恫喝をすることから言われているだけで実際には殺しの一つもしていない。

 

「さっきからヘラヘラしやがって! いいからこのポット様の言う通りにしろってんだ! 生首にされてぇか!?」

「い゛っ」

「イチカさんッ!? あなたッ!!」

 

 ヘラヘラと苦笑いしているイチカが気に入らなかったのかポットはイチカに向かって、平手打ちをした。突然の平手打ちにイチカはよろめき、それを見たミモリは怒りを露わにしてイチカとポットの間に割り込む。

 

「あんだァ!? テメェも僕に逆らおうってのか!?」

「ッ!」

「ちょ、ミモリさん!?」

 

 ポットは自身の前に立ちふさがるミモリのことも気に入らないようで、再び手を振り被る。ミモリはこれから訪れるであろう痛みに目を瞑って堪えようとして、イチカはそんなミモリを助けようと手を伸ばす。

 

「はーい、そこまでっス」

 

――ドガガガガガガッ!!――

 

 しかしポットの手がミモリに届くことは無かった。轟音が鳴り響いたあと、何かがポトリと落ちる音。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!! ぼ、僕の腕がぁぁぁぁぁ!?」

 

 ミモリが目を開ければそこにはさっきまで自分に向かっていた腕が千切れ落ちており、腕の断面を抑えて蹲るポットがいた。

 

「だ、大丈夫ですか!?」

「うぅぅぅ、いてぇ、いてぇよぉ」

 

 先ほどまで殴られそうになっていたというのにミモリはすかさずポットに駆け寄り負傷箇所に応急処置を開始する。イチカは誰がやったのかと先ほどの轟音がした方を向く。するとそこには大きなマシンガンを4つ束ねたような武器、『オートキャノン』を構えたキッド4こと衛府フセがいた。フセはイチカの視線に気が付くと笑ったまま寄ってくる。

 

「いやー、怪我がない……とは言えないっスけどすぐに収まって良かったっスね!」

「感謝するっすけどここまでやる必要はなかったんじゃないっすか」

「そうっスか?」

「っす」

 

 イチカの言葉を聞きながら、ポットの前に立つフセ。そしてにんまりとした笑顔のままポットを見下ろして話し出す。

 

「良かったっスね! 負傷者は優先的に避難させるんで、これでアンタの願いは叶ったっスよ!」

「なっ……!?」

 

 そう言ってクルリと身体の向きを変え唖然としたままの避難民の方を向いてフセは声を上げる。

 

「本来なら代表はこんな寂れた市街区の住人なんて高層区に避難させないっス! それをシャーレの先生の願いということで特別に、避難民の受け入れをしているんス! 文句ある奴は今すぐ前に出てくるっスよ! 全員、アタシがぶち殺してやるっスよ! それが嫌なら黙って列に並んでろっス!」

 

 フセがそう言うと今までがやがやとしていた避難民たちは黙り込み、裂にしっかり並ぶようになった。フセのどこかに連絡すると『ODI ET AMO』の兵士たちが何人か寄ってくる。

 

「この人怪我してるっスから先に避難させるっス。"特別ルート"で大急ぎで運ぶっス」

「かしこまりました」 

 

 そうしてポットとポットの押していたリヤカーは兵士たちによって運ばれていった。その背中を見送りながらイチカはフセに話しかける。

 

「いつもは避難誘導なんてしないって言ってたっすけど、どうしてるんすか?」

「……これだけ寂れて、鉱物資源もない土地っスから倉庫街か農耕地っスかね。焼畑農業っス、灰はたくさん出るでしょうし」

「それって……ッ!?」

「うぶっ」

 

 イチカはフセの言葉から避難誘導されずにその場に残った市民がどうなるかを察して驚愕し、ミモリは得意の読心術でフセの考えを呼んでしまったのだろう。口元を抑えて物陰に走っていってしまった。

 

「ありゃ?」

「アンタたち、それ本気で言ってるんすか?」

「本気も何も、それがブラックマーケット、そして『水戸グラン』という男っスよ。アタシたちはずっと代表を見てきたっス。困るんスよね~、最近代表を良い人だと勘違いしてる人間が増えすぎっスよ」

 

 二人の空気が徐々に冷たく剣呑なものに変わっていく。避難民たちも何かを察したのか二人から離れて列を作り出す。二人の緊張感が雅に最高になろうというその時――

 

『あー、あー、ディフェンダーチーム聞こえる?』

 

 先生からの無線が入る。引き金に掛かっていた指を離して無線に集中する。無線の中ではディフェンダーチームの指揮を執っているハスミと先生のやり取りが聞こえていた。少しして、ハスミが全体へと指示を出す。

 

『各員無線の通りです。探索チームが目標らしき敵拠点を発見、しかし現在アタッカーチームは真逆の方向に進軍中、そこでツルギを出します。そこで……衛府フセさん、あなたは正面戦闘が大の得意と代表から聞いています。ツルギがいなくなる分手薄になる正面防衛に手を貸してもらいます。いいですね?』

「おっけーっス。面と面突き合わせての撃ち合いなら負けないっスよー!」

 

 フセはハスミからの無線に返事をしたあとイチカの方を一瞥して拠点の正面に陣取るため移動をするのだった。

 

◎・ディフェンダーチーム拠点 内部・

 

「キヒヒヒヒヒヒ、出番かぁ。壊す、全部壊ァァす!」

 

 拠点の内部では道中の戦闘と敵拠点についてからの戦闘の為に大量の弾薬の準備や便利屋、イズナのプロフィールを確認するツルギがいた。そんなツルギの元に一本の通信が入る。

 

『は、初めまして剣先ツルギさん! わ、私、目的地までのオペレーターを担当します阿慈谷ヒフミですッ!』

「……」

『こちら目標地点とそこに行くまでの経路です』

 

 ツルギは今回の作戦が始まってからずっと疑問に思っていた。『どうして普通の子がこんな危険な作戦に?』と、だが今の言葉を聞いて合点がいく。『成程、オペレーターとしての能力が秀でているのか』と納得したツルギ。作戦が知らされてから数日でブラックマーケットの地形を記憶して最適解のルートを叩きだす能力に内心関心するツルギ。実際は長い月日、このマーケットで過ごしてきたが故に身に着いた能力なのだが、それをツルギが知ることは無かった。

 

『ただ、これはあくまで距離が短いという理由だけで選んだルートですので、その……道中の敵勢力がどれだけいるかは分からなくて……。て、敵がいたらすぐに迂回ルートを出すので―――』

「必要ない」

『え?』

 

 ヒフミの言葉を遮ってそういうツルギ。

 

「全部、すぐに片付けてやる」

 

 そう言ってツルギは二丁のショットガンを構えて拠点を跳び出した。




 特別ルートを通った車両は残念ながら輸送中の"事故で"全員亡くなってしまいました。本当に残念です。
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