シャーレの部長はブラックマーケットの代表   作:四脚好き

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110話 黄道十二宮 『巨蟹』

◎・探索チーム・

 

 アルたちは現在、ビーハイヴの秘密拠点にあった装甲車を一台拝借して移動していた。と言っても装甲車には運転するカヨコ、後部座席に縛られているキングビーしか乗っておらず、あとは拠点で得た資料が入った段ボールで埋め尽くされている。装甲車は瓦礫などで一杯の道をゆっくりと走り、その前をハルカやツルギ、ムツキが走り事前に敵を排除していた。

 

「キャァハハハハハハハハ!」

「どいてください、どいてください、どいてください!!」

「おおー! ハルカちゃんも正実の委員長も張り切ってるねー! ガンガン撃っちゃってー!」

「前進するのは良いけど、進み過ぎには注意しなさいよ! 私たちはただ撤退するんじゃなくて、情報源を守りながら撤退するんだから!」

 

 敵を次々になぎ倒していくハルカとツルギの姿を見て後方から敵を狙撃し、援護していたアルは注意する。市街区にはリーダーが逃亡したとは言え諦めずに抵抗を続けるレジスタンス、脱出しようとするアルたちを追撃するビーハイヴ、更にこの混乱に乗じて暴れたい、のし上がりたい、と言った第三勢力までもが現れ市街区の狂気はますます増している。、そんな中、車両を護衛しながら撤退するという作戦にアルは緊張していた。

 

「カヨコ殿!」

「おかえりイズナ、どうだった?」

「橋は崩落していました、このルートは駄目ですね」

 

 ふと、イズナが車両の隣に姿を現す。それを見たカヨコは車の窓を開け地図を取り出してイズナに見せる。その地図にはディフェンダーチームの拠点へのルートが何個か書き込まれていた。イズナは地図を指でなぞりながら先行して確認してきた街の状況を伝える。それを聞いてカヨコはまた地図に情報を書き込んでルートの訂正を図る。

 

「そっか、となると……トンネルを使うルートか……。橋以上に崩落してそうだけど……。ごめんイズナ、見てきてくれる?」

「かしこまりました! イズナにお任せください!」

 

 少しして、作業がひと段落ついたのかカヨコはイズナに地図を見せながら次に見てきてほしいルートを伝える。それを見たイズナは場所を確認したあとまた一瞬で姿を消した。その光景を見ていたアルが冷や汗を流しながら口を開く。

 

「いきなり現れたり消えたり、中々びっくりするわね……」

「そう? 慣れれば何ともないよ、社長。……でも、確かにあの身体能力は凄いね」

「カヨコ」

「どうしたの社長?」

「ゆっくりで良いわ。安全第一で行きましょう、だから焦っちゃだめよ」

 

 アルはそう言いながら窓から車内に手を入れて地図を握るカヨコの手を取る。地図を握る手は少し汗が滲んでおり、強張っていた。

 

「バレてたんだ」

「私は貴女の上司よ。部下の体調ぐらいすぐに分かるわ」

 

 カヨコが驚いた顔をしながら喋れば、アルは胸を張ってどや顔を披露する。そんなアルの様子にいくらか緊張が解けたカヨコ。通信機を手に取り先行気味な3人に通信を飛ばす。

 

「3人ともそこでストップ。イズナが新しいルートの偵察に向かってくれてるから、その場で周囲警戒をお願い」

『は、はい!』

『……けひゃ』

『おっけーい』

 

 カヨコの通信を受けて3人は周りの敵を片付けて大人しく待機する。待機中手持無沙汰になったのか辺りを警戒して周囲に視線を送りながらもツルギが口を開く。

 

「……良い、連携だった。徳にお前タフネスもあって良い前衛だ」

「うえっ!? あ、はい、えっと……。あ、ありがとうございます……」

 

 急に褒められたことに驚いたハルカ、手をわたわたとして銃を落としそうになりながらもなんとか言葉を紡いでしっかりと銃を握りしめてからペコリと頭を下げてお礼を言う。そんな二人の様子を見て何か面白くないのか頬を膨らませながらツルギに抱き着くムツキ。

 

「ねぇー、ツルギっちー」

「ツ、ツルギっち……?」

「ハルカちゃんだけなのー? ムツキちゃんの事もちゃんと褒めて、褒めてー!」

「……数多くの爆弾とそれを状況に応じて使い分ける判断能力、味方であって良かったと思っている」

「くふふ、褒められたー!」

 

 恐る恐ると言った様子でムツキのに頭を撫でながらムツキを褒めるツルギ。そんなやり取りを後ろから見ていたアルとカヨコは思わず苦笑い。

 

「馴染んでるね」

「馴染んでるわね。というか、ムツキもよく絡みに行けるわね……正義実現委員会の委員長よ、相手」

 

 アルは少し冷や汗を流しながらそう続ける。

 

「多分……大丈夫じゃないかな。あの委員長あだ名をつけられてなんか喜んでる気がする」

「そう?」

 

 カヨコがムツキとツルギの様子を見ながらアルに返事をするがアルはどこか懐疑的な目線を送る。そうこうしていると再びイズナがカヨコの傍に姿を現す。

 

「イズナ、戻りました!」

「おかえり、イズナ」

「は、早かったわね。それじゃあ、報告を聞かせて?」

 

 イズナが現れたことに一瞬驚きながらも、すぐに社長としての顔を出し手余裕たっぷりの表情でイズナに質問するアル。その堂々とした立ち振る舞いにイズナは眼を輝かせ、内心を知っているカヨコは少し口角を上げた。

 

「トンネルは無事でした。 損傷もほとんどなく、多少の戦闘が中で起きても崩落の心配はないかと!」

「やったじゃない! これで無事に拠点まで戻れそ――「ただ……」――ね……?」

「何かあったの?」

 

 喜ぶアルの言葉を遮って、イズナが涙目になりながら不安げな顔を浮かべる。急に変わったイズナの雰囲気にアルも驚く。まるで怯えるかの様なその表情に何かを感じ取ったカヨコがイズナの頬に手を添えて聞く。イズナは自身の頬に添えられたカヨコの手を握って少しずつ話し出す。

 

「トンネルの近くには多くのレジスタンス、ビーハイヴと思われる方々の遺体がありました。血が壱か所に集まってまるで川のようになっていて、正しく地獄の光景でした……」

「ッ!?」

「それは辛いものを見たわね。大丈夫? 辛いなら言いなさい車の中で休んでも良いわ」

 

 イズナの言葉にカヨコは言葉を失い、アルは震えるイズナを抱きしめながら体調を気遣う。イズナはアルに抱きしめられたおかげか少しずつ、落ち着きを取り戻す。

 

「だ、大丈夫です。イズナはまだ戦えます」

「そう? でも無理しちゃ駄目よ。辛くなったらすぐいう事、良い!」

「はい! 社長殿!」

 

 アルの腕の中でイズナは笑顔を浮かべ尻尾も嬉しそうに振っている。なんとなく、カヨコがそれをうらやましそうに見つめる。しかしそれもすぐに真面目な表情に切り替わり、イズナの方に向き直る。

 

「……イズナ、辛い事を思い出させるけど、どうしても大切なことだから答えてほしい。それは……『自殺』それとも『他殺』?」

「……『他殺』です。執拗に射撃され、ヘイローが砕かれたものと……」

「そっか……ありがとう。どうする社長? ここを逃せば大分遠回りになる。そうなれば状況はもっと悪くなるかもしれないし、敵に遭遇する確率も高くなる。けど近道のトンネルには恐らく……大量殺人鬼がいる」

 

 カヨコはアルのほうを見ながら質問する。アルは顎に手を当てながら考える。そうして暫くして顔を上げる。

 

「トンネルに行くわ。カヨコ、前方の3人を呼んで。詳しく状況を話すわ」

「了解」

 

 アルの言葉にカヨコは通信機のスイッチを入れて前方に待機していた3人を呼び寄せる。そうして集まった3人に、事情を説明する。

 

「……成程、私としてはその殺人鬼も拘束したい。トンネルに向かうことに賛成だ」

「わ、私はアル様が向かうというならどこまでもついて行きますッ!」

 

 ツルギとハルカは賛成し、いつでも戦闘出来るように気合をお互いに声をかけあって高めている。そんな中、ムツキがぎゅっとアルの服を掴む。

 

「アルちゃん……大丈夫? 無理してない? いつもの悪戯とかとは違う、命が関わってるんだよ。無理せず逃げても良いよ。笑う奴がいたら私がぶっ飛ばしてあげるからさ……」

 

 ムツキは彼女にしては珍しい不安に満ちた表情を浮かべてアルを見上げる。そんなムツキをアルは正面から見つめ返す。そして不適に笑って見せる。

 

「大丈夫よ、ムツキ。私は無理なんてしていないわ。私も、貴女も誰も死なない、死なせないわ。だって私たちは最高のアウトローになるんだもの。こんなところで死んでられないわ」

「アルちゃん……。うん、分かった。……それじゃあ、行こうか。どんな敵もムツキちゃんが吹っ飛ばしちゃうんだから!」

 

◎・トンネル内・

 

 そうして一行はトンネル内に歩みを進める。途中にあった遺体は全員で道路の端に寄せて手を合わせていく。覚悟はしていたとは言え、直接死体を目撃したことは精神的に来るものがあったのか、若干顔色が悪い。

 

「ッ!? 戦闘音です! こちらに近づいてきます!」

 

 トンネル内をゆっくりと進んでいた時、先頭を歩いていたイズナが地面に耳を当てて何かを聞き取った。

 

「恐らく犯人だね」

「全員、戦闘準備! 大丈夫、私たちなら勝てるわ!」

「ぶっ飛ばしてやる!」

「キヒヒヒヒヒ!」

「アル様は傷つけさせません!」

 

 アルたちが武器を構えたとき、それは姿を現した。右手に大口径ライフル、左手にショットガンを持った腕に『NO.7』とタトゥーのある男。

 

「クソが! 雑兵だらけか、ここは! どうなんだテメェは!?」

 

 




ウチのキヴォトスの生徒たちは多少の差はあれどグランとのかかわりによって『そういう世界もある』と認識して死体を見ただけでは動じない(心が痛まない訳ではない)という風にある程度耐性ができています。
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