◎・ブラックマーケット 高層区 『塔』 グランの執務室 ビーハイヴによる巨大兵器降下から1日経過・
ビーハイヴによるプロトタイプL.L.Lが投下されて、地獄と化した市街区からグラン達が帰還してから一日が経過した。幸いなことにケガをした生徒は何名かいたものの全員軽傷で命に係わるものや、後遺症が残るものは無かった。
そうして現在、『ODI ET AMO』の本拠地『塔』に作戦に参加した生徒たちは待機しており、数名の選ばれた生徒がグランの執務室に集まり各チームの得た情報をまとめた報告書を確認して作戦会議をしようとしていた。
「クソッ!」
「ッ!」
「ちょ、グラン落ち着いて」
ガチャンとガラスのコップが割れる音とグランの怒声が執務室内に響きわたる。その音と今まで聞いたことがなかったグランの怒号に執務室にいたアヤネはピクリと肩を震わせる。そんなアヤネの様子を見てか先生がグランの怒りを納めようとする。
現在執務室には先ほどから怒りが収まらないグラン、そんなグランをなだめる先生、何か言いたげな目線をグランに向けるホシノ、自身の隣に座っているヒナを見て気が気ではないアル、他のチームが集めた情報を整理してアコと話しているカヨコ、治療を受けた傷の具合を確認するヒナ、ヒナの方を心配しつつもカヨコと共に情報の精査をするアコ、無言のままジッと座り込んでいるツルギとハスミ、ガラ悪くソファに座りながら机の上に足を乗っけているネルがいる。喧噪と重い空気に包まれた執務室、まったく進まない話し合い、どうにかして状況をリセットしないと、と先生が考えていると、執務室のドアがノックされ全員の動きがピタリと止まる。
「代表、キッド1と……キッド3です」
「入れ」
「失礼します」
「失礼するよ~ん」
部屋に入ってきたのはキッド1とキッド3だった。キッド1はがしっかりと礼をしながら入って来たのに対して、キッド3はフリフリと手を振りながら入ってくる。なんとも言えない気の抜けた声で入室してきたキッド3にグランも毒気が抜けてしまい、少しだけ口角を上げながら手を上げて返事する。そんなグランの様子を見て面白くないのがキッド1とグランに想いを寄せる女子たちである。しかし今ここで喧嘩する訳にはいかないと女子たちは思い、キッド1は『その手に私は尻を叩いてもらえるんだぞ!』と内心自慢することで怒りを納めた。
「お前たち二人が揃ってやってくるなんて珍しいな。普段それ程仲良くないだろ」
「それは……その……まぁ、はい……」
グランの言葉に苦虫を嚙み潰したような表情を浮かべ返事をするキッド1に対してへらへらと笑いながらキッド3はキッド1の肩にしな垂れかかる。
「僕は別に嫌ってなんかいないよ~。ただ、この子の頭が少しばかり固すぎるだけだよ」
「えぇい! 寄りかかるな、抱き着くな!」
キッド1が自身に抱き着いてくるキッド3を引きはがそうとする。そんな二人を見てグランは苦笑、会議室無いの空気もなんとも言えない微妙なものになった。
「話がズレたな。それで? 二人とも一体どうした?」
「プロトタイプL.L.Lの設計書を開発部の倉庫から引っ張り出してみんなで精査し直したんだよ」
「そうしたところ、プロトタイプL.L.L……長いので今後PL.L.Lと呼称します。PL.L.Lの弱点を発見しました」
キッド1の発言に会議室にいた面々の目の色が変わる。
「やったね! それで一体どんな弱点なの?」
「各所にある砲台を破壊するとその損害が内部に伝播しやすいという構造上の欠陥が報告されてます」
「え、そんなんあったの?」
先生が事態解決の糸口が見つかったことに喜び、どんな弱点かを聞く。先生の質問にキッド1が答えて、その答えを聞いたグランの目が点になる。
「まぁウチでも初期のほうに設計されたものだし、杜撰なものだったよね……」
グランの言葉にキッド3が首を竦めながら返事をする。
「つまり、あれか? デカブツの攻撃と周囲にいるビーハイヴの連中を相手しながら接近して、あのデカブツの砲台を壊して回らなきゃいけねぇてことかよ?」
「そういうことです」
ネルがキッド達の情報を纏めた話をしてキッド1が肯定する。その肯定を受けたネルは首を横に振りながら目を瞑る。ネルほど露骨ではなかったが会議室にいる面子も難しい顔をしていた。
現在旧市街区にはPL.L.Lを中心にビーハイヴの戦力が集結しており、ネルの言ったことがどれだけ難しいか全員が理解していた。
「少数精鋭で砲台近くまで突入、その後まわりにいるビーハイヴたちがPL.L.Lの元にいかないように別部隊を展開……かな?」
「先生の言う通りよ、けど……」
「少数精鋭部隊がどうやって砲台まで突入するかだね……うへぇ、困ったなぁ」
先生が呟いた作戦にヒナが賛同するが、途中で言葉に詰まってしまう。そしてその後ホシノがバッサリと問題点を指摘する。
「軽装甲機動車ならどうでしょう?」
アコが装甲車での突破を提案するがそれを集結しているビーハイヴの戦力を確認していたカヨコが否定する。
「軽装甲だとビーハイヴの連中の攻撃に耐え切れないかもしれないね……。本末転倒だよ」
「んなっ、じゃあカヨコさんはどうしろって言うんですか!?」
「それを今考えてるんでしょ……」
カヨコに駄目だしされたのが気に障ったのかアコが怒り出す。そんなアコの起こり様にカヨコは目元を軽く揉みながらあきれ顔で呟く。
「アコ、落ち着いて……」
「ですが委員長!」
「アコ」
「……はい」
しかし重要な会議の場であったためかすぐにヒナに注意されてしまう。
「かといって重装甲の戦車では機動力が足らず、すぐにビーハイヴに包囲されてしまいます」
「仮にそこでビーハイヴを迎撃しては肝心の砲台破壊やその後に起こるであろうキラー、クイーン戦で弾薬が心もとなくなるでしょう」
「補給シェルパはまだ開発できていないんだよな」
「ごめんね~、ちょっーと開発が難航しててさー」
ハスミが装甲車ではなく、戦車などの重装甲の車両を使った場合も上手くはいかないだろうと話し、キッド1が話を引き継いでキラー、クイーンとの連戦の可能性を示唆する。その時ふと思い出したようにグランがキッド3に自身が依頼した物の開発状況を確かめるがキッド3は申し訳なさそうに手を合わせて完成していないことを伝える。それを気にしてないという風に軽く手を上げて答えるグラン。
「それじゃあどうやってあの兵器を止めれば良いんでしょう……」
アヤネがギュッと手元のバインダーを抱きしめながら不安そうにつぶやく。そうしてまた執務室の空気が沈み始めたとき、キッド3があっけらかんとしていう。
「あ、移動方法ならこっちで解決できるよ!」
「「「え?」」」
「な、なんですってーー!」
「それを先に言え」
キッド3が余りに軽く言うので今までとは別の意味で執務室内の空気が止まり、グランがジト目でキッド3を睨みつける。
「そ、そうですよ! そんな方法があるなら先に教えてください!」
「今までの時間は一体……」
「ま、まぁまぁみんな落ち着いて、方法が見つかったのは良いことだから……」
それぞれ怒ったり、頭を抱え込んだりで一気に騒がしくなる執務室。それを先生がどうにか納める。
「それで? その方法は?」
執務室の騒ぎがひと段落した頃、グランが改めてキッド3に方法を尋ねる。するとキッド3はニヤリと笑い部屋の電気を落とす。その後執務室の壁についているプロジェクターを操作してあるものを映し出す。そこにはいくつものロケットを束ねたような形をしたブースターの飛行実験記録が映し出される。
「VOB……正式名称『Vanguard Overd Boost』これを使って精鋭部隊をPL.L.Lの足元まで一気に運ぶんだよ!」
◎・グラン君たちのワイワイハロウィンパーティー・
ハロウィン。今となっては仮装大会の様なものだが、元々は秋の収穫物を集めた盛大なお祭りだ。まぁ、本来の意味を忘れ仮装を楽しむ人間で溢れかえるのは外の世界もキヴォトスも違いは無かった。……はずだった。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
グランとキッド達は全員普段着のまま執務室に集まり月次決算の作業をしていた。『ODI ET AMO』は徳に服装についての規定はなく、ID付きの腕章を付ければどんな格好も咎められることは無い。そのせいか、朝から本部の中でも仮装している部下をチラチラと見かけていたグラン。その中でも過激な格好をしていた部下を何名か物陰に連れていくなどして今日を過ごしていたグラン。もしかしたらキッド達もなにか仮装をしてくるのではと少し考えながら執務室に入ったグランは部屋の中に入るキッド達の姿を見て少しばかり肩を落とした。
「……みんな、仮装はしなかったんだな」
ぽつりとグランが口を開く。その言葉にキッド達は一瞬ポカンとしたあと顔を見合わせる。そして代表してキッド1が口を開く。
「まぁ、部下たちと違って我々は各部門のリーダー、仮装なんてしている暇はありませんよ。……それに代表も普段通りで仮装していないじゃないですか」
キッド1の言葉にグランは自分の格好を見下ろした後数巡して目を逸らしながら答える。
「ほら、俺はあれだよ……。その……えっと……小鳥遊ホシノ」
ぼそりと呟くように放たれた言葉に部屋の空気は凍り、藪蛇を踏んだような表情になるキッド1に目を手で覆ってしまうキッド2、何とも言えない表情のまま冷や汗を掻くキッド3に、ワタワタするキッド4。
そんな空気を変えようとしてかキッド3が立ち上がりポーズをとる。
「ぼ、僕も実は仮装してたんだよー! じゃーん! ゴスロリ少女ー!」
「いつも通りだな」
キッド3の言葉に冷静につっ込みを入れるグラン。しかし流れが出来たのかキッド4、キッド2、キッド1と次々に立ち上がる。
「お、狼人間っス!」
「いつも通りだな」
「ナ、ナースです!」
「それもいつも通り」
「痴女!」
「平常運転でなにより!」
「……」
グランの突っ込みを最後にシンと静まり返る執務室。グランは深いため息をついた後、机に向き直る。
「仕事、するか」