シャーレの部長はブラックマーケットの代表   作:四脚好き

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119話

◎・・・

 

 グランは机から取り出した写真を慈しむようにゆっくりと撫でる。

 

「あいつは……小一孁こはねは、本当に優しくて……。荒れていた俺の心を癒してくれた」

「本当に大切だったんだね」

 

 写真を撫で続けるグランを少しばかり複雑そうな表情で見るホシノ。グランの穏やかな表情に案と寝室自摸、その表情が自身に泣いていないことが気に入らないらしい。

 

「なんでも都会に憧れて故郷の田舎からD.U地区に出てきたらしい。けれど、無知な田舎娘に都会の大人は無遠慮に牙をむいた。武器も、学籍も、金も、全てを奪われてこはねは路地に捨てられていた」

「そんなことが……」

「酷い話だが、表沙汰にならないだけでここではよくあることだ」

 

 驚いた表情を浮かべるノノミをグランはチラリと見ながらそう続ける。ホシノがキッド達の方を向けば、キッドたちも首を縦に振り、グランの言葉が真実であることを教える。

 

「そしてそんなこはねを見つけたのが俺だ。当時、ウチの組織は独立したてでな、組織の拡大に注力していたんだ。そんな中どこの組織が手を出したのか、どんな厄ネタを持っているのか分からない女を拾う事には当時俺の護衛をしていた女に苦言を呈されたよ」

「当時は私どもも反対でした」

「まったくだね~」

 

 昔の事を一つ一つ思い返しながら喋るグラン。そんなグランと同じようにキッド1も過去を振り返りながら眉を顰めて当時のことを話す。

 

「ともかく、俺はそんな周りの反対を押し切ってこはねを保護したんだ。しっかし、驚いたことに彼女の精神は真っ当なままだった。騙され、奪われ、捨てられ、それでも彼女は持ち前の明るさを失っていなかった。保護した次の日には『恩返しです』と言って組織内の掃除やら、なにやら自分に出来ることは無いか聞いて回り仕事をしていた。……正直なところいつか仕事をさせるつもりではあったが、最初の内はメンタルケアが必要だと思ってたんだけどなぁ……」

 

 感心しているような、呆れているような曖昧な表情を浮かべながら背凭れに深く寄りかかり天井を見上げるグラン。数秒そうした後に再び状態を起こしてキッド達の方に視線を向ける。

 

「さっきも言ったが当時俺達は独立したてで一杯一杯でな、掃除なんてしてられなかったからとても助かったし、色々訳アリなメンバーが多くて彼女の明るさというか、前向きな姿に救われた者も多かったんじゃないか? なぁもキッド1?」

「……彼女が懸命に励む姿は見ていて気分が悪くなるものではなかった、とだけ」

「ふっ」

 

 何だか恥ずかしそうに視線を逸らすキッド1にグランは小さく笑う。

 

「そしていつしかこはねは『ODI ET AMO』でアイドル? マスコット? まぁ、そんな感じのポジションに落ち着いていた。他のメンバーと会話したり、そうだかされることも増えてた。笑えないか? メンタルケアが必要なのはこはねじゃなくて俺達だっただなんて」

 

 少しずつ声のトーンが落ちていき、俯いていくグラン。

 

「ああ、俺もこはねと話す機会があった。というか、俺が保護したんだ。一番話すことが多かったと思う。そうしているうちに俺は本気であいつに惚れて……一時期『ODI ET AMO』も何もかもほっぽり出してアイツと駆け落ちしたいとも考えたことが会ったよ……」

「それは……ッ」

 

 グランの言葉に嫌な考えが頭をよぎるホシノ。よく見れば後ろの方にいるキッド二人も顔色が悪い。

 

「……そう。アビドスのことさえ忘れてな。笑えるだろ? 情けないだろ? でも、アイツは『それは貴方が背負う責任じゃない』って言ってくれた。それが何よりも救いに思えた……」

「……」

 

 黙り込む周囲の女子。部屋にはただグランの独白だけが響く。

 

「そうして俺達は幾度となく身体を重ね、子を成した。……最初は驚いた、そして不安になった。俺に子供が出来た、俺は真っ当な親になれるのか、何もわからなかった。でも、アイツとならきっと明るい家庭を築けるかもしれないと後ろめたい事、辛い過去、全部を捨てて明るい未来を想像したんだ。……そして罰を受けた」

 

 力なく項垂れるグラン。ポタリ、ポタリと机には水滴が落ちていた。

 

「ある日、『ODI ET AMO』の何人かのメンバーを連れてこはねは買い出しに出かけた。こはねの料理は上手かったからな。いつのまにか、『ODI ET AMO』の食堂はこはねの職場になっていた。ただ、その日はいつもなら帰ってくる時間になってもこはね達は帰ってこなかった。最初は遅れているだけかと思った、けどそれは違った。日が落ちて流石におかしいと思って捜索隊を出した。そして戻ってきたのは遺体袋に包まれたこはねだった」

「ッ」

 

 そこまで言って口を閉ざすグラン。余りに悲壮感が漂うグランの姿に息をのむ。ほんとうなら今すぐそばに行って慰めてあげたいるしかし今のグランが余りに一杯一杯に見栄て触れた瞬間はじけて消えてしまいそう。そんな予感を誰もが抱いて全員が動けないという状況だった。ただ一人を除いて。

 

「結局、自分がしでかしてきたことから目を背けて楽になろうとしたから、罰が当たったんだよ」

 

 そう口にしたところでグランは自分に誰かが近づいてきているのに気が付いた。

 

「それは罰じゃねぇよ」

「ネル?」

 

 グランに近づいて来ていたのはネルだった。そう一言言った後グランが項垂れている机の前までくるとグランの襟元を掴み上げる。

 

「ッぐ」

「ちょ、ちょっと!?」

 

 その乱暴な行動に周囲が驚く中ネルは真正面からグランの見つめていた。

 

「嫌なことから逃げて、楽しいことに夢中になる。ンなこと誰だってしたことあんだよ! ンなことで一々罰なんか受けてたら今頃キヴォトスはテメェみたいな奴ばっかだよ! 悪いのはお前とその女の幸せをぶち壊したクイーンだけだ! お前は罰を受けることなんか一つもしてない! アタシが断言してやる!」

「……ネル」

 

 ネルの真っすぐな言葉にグランは唖然とする。しかし、すぐにネルから目線をずらしてしまう。

 

「けど……俺は……」

「けどもヘチマもねぇんだよ!」

「ゴッハァ!?」

「ちょっ!?」

「美甘さん流石にストップです!」

 

 ネルの言葉を受けてもうだうだとしていたグランにネルが青筋を立てて、頭突きをくらわす。ネルの頭突きを受けたグランは体勢を崩して椅子に倒れこむ。頭突きにはかなりの威力があったらしくグランの額が軽く切れて血が出ている。それに比べてネルのでこは傷一つなく、少し赤くなっているだけという、こんな所でも実力差と言うべきか戦闘の才能の差を思い知らされて少しばかり辟易するグラン。

 

「これで少しはそのうんざりする考えも頭から流れ出るな!」

「あ、荒治療が過ぎます……」

 

 そう笑顔で言い切ったネルにチナツはグランの額に自身のハンカチを当てながら引き気味にそう言う。傷が浅かったためすぐに血は止まった。それを確認したチナツはグランの額に当てていた手をそのまま左頬に移して言う。

 

「ですが……私も美甘さんの意見には賛成です。グランさん、あなたは自分を許してあげてください」

 

 アヤネが続いてチナツの横に移動してグランの左手を握る。

 

「それでも許せないというなら、私たちが許しを与え続けて上げます。だから一人で抱え込まないで欲しいです」

 

 ノノミがグランの右肩当たりに寄りかかりながら抱きしめる。

 

「あの時支えてもらったから、励ましてもらったから、今度は私が貴方を支えてあげたいです」

 

 ネルが右隣りにやってきてグランの右腕に抱き着く。

 

「辛くなったら言えよな! そしたらまたぶっ叩いて、そのあと引っ張ってやっから!」

 

 最後にホシノがグランの前にやってくる。ホシノはグランの前に手を伸ばす。

 

「行こう、グラン」

「……あぁ」

 

 グランは立ち上がりホシノの手を取る。そんな様子をキッド1は少し寂しそうに眺めており、キッド3は

 

 

真っ黒な目でグランを見つめていた。

 




・小一孁こはね グランの元カノ。一時グランは本当に何もかもを投げ出して彼女との結婚を目指していた。元ネタは言わずもがな、良くも悪くもブルアカと関係があった、死んでしまったゲームの恐らくメインヒロイン。


・他のヒロインがどことなく卑しいかったり、ヒロインムーヴするなか、真正面から手を伸ばすだけのホシノ。本気になれば他のヒロインを圧倒できるだけの対グランスペックや思い出補正があるにも関わらず、ヒロインレースを独走できない原因がこの辺りに出ている。




 
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