◎・・・
「さて……挨拶が遅れたが、お前が『キラー』、俺のクローンで間違いないよな? これだけ似てて違ったら逆に驚きなんだが」
腕を組みながらジロジロとキラーの顔を見るグラン。そんなグランの姿が少しばかりツボったのか笑うキラー。
「クハハッ、安心しろオリジナル。俺がキラー、正真正銘お前の完全なるクローンだ」
「そうかあっていたようで何よりだ。にしても完全なクローンな割に俺と思想の差があるのは、経験か、環境、どっちが原因なんだろうな」
「はっ、そんなことが気になるのか」
相も変わらずキラーの顔を見て何かを考えこんでいるグラン。そんなグランが気に食わないキラーは少しばかり挑発して誘うが、グランは誘いには乗ってこない。
「それはそうだろ。お前は俺が見る最初で最後のクローンなんだからな。お前を倒した後はもうクローンなんて作らせないようにしないとだしな」
「……ほう、俺を倒せるつもりか? 手足の無い欠陥野郎が。手足が完全で肉体的にも全盛期の自分に勝てると思っているのか?」
グランの物言いが癪に障ったキラーは額に青筋を浮かべながら、自身の手足を見せびらかす様に広げて見せる。それを見たグランはスッと表情を消した。
「な、なんだッ!? はっ! もしかして手足のことは地雷だったか? ハハハなんだ、結局強がってるだけでお前は本当はうらやましいのか!」
一瞬にして真顔になり見てくるグランの変わりようにキラーはビビったが、すぐにそれを自身への羨望だと判断して更に煽り立てる。
「いや……なんというか、本当に俺の
「なんだと……?」
グランがキラーとのやり取りで覚えたのは驚愕、それから憐みだった。
「お前は何も知らなすぎるんだ。この怪我を負った経緯を。組織の上に、キヴォトスの頂点に立つということがどれだけ苦しい事かを」
「何を!「お前が自分のモノだと思っている物の全てはクイーンから与えられたものだ。組織も、ユメも……そしてその命さえも。だから俺のクローンでありながら『キヴォトスの統一』なんて俺なら
「……」
今度はキラーの顔から表情が消え失せる。グランの言ったことはあっていた。クイーンの望む『水戸グラン』を作るために生み出されたキラーはそのすべてがクイーンの欲望によって構成されている。
クイーンの望む『手足が完全な状態の水戸グラン』の肉体を持ち、クイーンの望む『クイーンの事しか女として見ない水戸グラン』としての性的趣向を持ち、クイーンの望む『巨大な組織のリーダーの水戸グラン』としてビーハイヴを指揮し、クイーンの望む『キヴォトスを支配する野望をもった水戸グラン』として思考、行動をする。そんなクイーンのクイーンによるクイーンの為のお人形、それが『キラー』だった。
そしてグランは一度キラーから目を逸らしてクイーンに向ける。
「よくまぁ、態々こんなもの作ったよ。お疲れ様」
「ッぐゥゥ……。黙れ、黙れ! もとより貴様が我のモノになればこんなモノ作らなくて良かったのだ!」
「えぇ……それ本人の前で言うのぉ?」
グランに苦笑いで小ばかにされたクイーンは激高する。その過程で思いっきりキラーを『モノ』と言ってしまう。それを聞いたグランは若干引いてしまう。
「やっぱ憐れだなお前。だが安心しろ、お前もクイーンもお前たちのバカげたこの計画も俺のユメの為に利用させてもらう。決して無駄にはさせない」
「……オリジナルの夢?」
「なんだ、気になるのか? ……折角だ、冥途の土産に俺のユメを教えてやる」
もはや、暗い目でグランの方を見つめるだけだったキラーが僅かに反応する。その反応が気になったのかグランは首を傾げる。そして数舜悩んだ後、手を広げ空を見上げて自身の夢を語り出す。
「俺のユメは――――」
「は?」
「それが夢だと……? 貴様、イカれたのか!」
グランの夢を聞いて茫然とするキラーとクイーン。グランの語った夢は到底ブラックマーケットでのし上がってきた人間が持つようなものではなく、二人には到底理解できないものだった。キラーは無表情が崩れて大口を開け、クイーンはグランがイカたのだと疑う。しかし、グラン本人はどこ吹く風で真剣な表情をしている。それを見た二人はグランが本気であることを悟る。茫然としているとグランは歩き出して、道を譲るかの様な恰好になりそしてクイーンに顎でPL.L.Lの内部に戻るように促す。
「俺はコイツとサシでやる。下がれ、クイーン。まだ内部に残っている兵力を集めれば他の五人相手にもそれなりに善戦出来るんじゃねぇか?」
「誰が貴様の提案などッ――「俺からも頼むクイーン」――キラー!?」
グランの提案に反対して今にも襲い掛かろうとするクイーンだったが、まさかのキラーからもお願いをされて驚く。振り返ってキラーの方を見れば、なんとキラーが自分に向かって頭を下げていた。キラーは頭を下げたまま、口を開く。
「オリジナルの言う通りだ。俺の全部はお前から与えられたものでできている。だけど今、俺は自分の意思でコイツを倒したい。ブラックマーケットの支配だとか、キヴォトス統一の為だとか、お前に与えられた目的の為じゃない。心底、このイカレ野郎をぶっ飛ばしたくなった。だからオリジナルと一対一で戦わせてくれ」
「こ、な、何を言っている! この、贋物が! お前は私の願いを叶えるためのッ……私の理想の……!」
キラーの言葉に動揺しつつ、自分の思い通りにしないキラーに怒り、銃口をキラーの頭に向けるクイーン。キラーはそれでも頭を下げたままでいる。
「頼むよ、愛蜜」
「ッ……」
キラーは困ったような表情を浮かべ、クイーンを上目遣いで見ながら彼女の本名を口にする。固まるクイーン。少しの沈黙の後、銃を下ろして今にも泣きだしそうな笑みを浮かべる。
「まったく、そこで本名を口にするとは……狡い男」
「ありがとう」
キラーに背を向けて内部に戻る扉を目指して歩くクイーン。途中グランの方に向いて、泣きはらした目で笑いながらグランに声をかける。
「どうやら、我はお前をどうやっても手に入れられないらしい。それがクローンであっても、な」
「俺は誰かのモノにはなれないからな。なんでも支配しようとするお前とは相性が悪かったんだよ」
「そうか……」
それだけの言葉を交わしてクイーンは甲板上を後にした。
「さて、始めるか」
そう言って手に持ったショットガンの状態を確認するグラン。
「初めの合図は何にする?」
グランの言葉に自身もライフルの状態をチェックしながら返答するキラー。一足先にチェックを終えたグランは腰のホルスターからサブウェポンとして持っていたTT-33を取り出して見せる。
「コイツを上に投げる。それが地面に落ちたらスタートだ」
「……お前は自身の武器を一つ失うが良いのか?」
「なぁに、落ちたら走って拾うさ、それから攻撃しても十分間に合う。……それくらいのハンデはやるよ」
「ほう……ではそうするといい。その判断をお前は永久に後悔するだろう」
グランはニヤリと笑い、拳銃を空高く放り投げた。拳銃は空高く舞い上がり、少しして落下してくる。グランは姿勢を低くして落下と同時にすぐに拳銃を拾いに行けるようにし、キラーはしっかりとライフルを構えグランに狙いをつける。
―――ガツーンッ!――
「シッ……!」
「……」
重く鈍い音が響く、それとほぼ同時にグランは駆けだして拳銃を拾いに行く。その動きを見逃さず直ぐに攻撃するキラー。数発の弾丸がグランに襲い掛かる。拳銃を掴もうとしている左手に被弾したため、一度手を引っ込めてサイドステップで距離を取るグラン。
「どうした? 拳銃拾わないのか?」
「ひぃん……そんなにがっちり待ち構えてるとこに突っ込みたくはないなー」
笑いながら挑発的に問いかけるキラーにグランは左手の義手の被弾箇所を摩りながら確認し、苦笑いする。
「しかし拾うと言ったからには拾わないとカッコが付かないよな……ッ!」
「させるか!」
再び落ちた拳銃に向かって走り出すグラン。しかし速度は最初の時よりも早く、グランと拳銃の距離は一気に縮まる。キラーは再び拳銃を取ろうとしているグランの手を狙う。
(いくら速かろうが拳銃を拾い上げる以上、手は必ず拳銃の元に伸びてくる。そこを撃つ! 目に映るものしか撃てないのは二流のやること……このキラーを舐めるなよ!)
しかしキラーの思惑は外れてグランの手は拳銃まで伸びなかった。グランは拳銃に手を伸ばすことはなくそのままの速度でキラーに急接近する。
「なッ!? (拳銃を無視して! ハンデは嘘か!)」
キラーは急接近してきたグランに照準が合わせきれずに射撃を諦めてライフルのストックで殴り掛かる。
「おっと」
「な、あ!」
それを予測していたのかグランはキラーの攻撃をあっさりと避けて今度は急速に後退し、拳銃の元へ。ストックを振り切ったキラーは急いで銃を構えなおすが、既に拳銃はグランの手に。
「俺の勝ち」
「勝ってに終わらすな! むしろここからが本番だろうが!」
キラーは拳銃を手に勝ち誇ったような顔をするグランに向かって射撃する。それをグランは大きくジャンプして避ける。そして翼を使い空中で耐性を整えてキラーに向かって散弾の雨を降らせる。
「散弾ではなぁ!」
「マジか!?」
微妙に距離があったためか、散弾が広範囲にばらけてしまいキラーが翼を使って防御したこともあり大したダメージは与えられなかった。防御した後、キラーもグランを追ってジャンプしてグランに掴みかかる。そのままライフルをグランの首に押し付けながら、地面に向かって急降下する。
「このまま叩きつけてやるッ!」
「このッ、距離なら!」
キラーによって地面に落とされながら、この密着している距離なら有効打だろうとキラーの腹にショットガンの銃口を押し当てて引き金を引く。
「ゴハッ!」
「ぐへっ!」
キラーは腹部への攻撃で吹き飛び、グランは落下で頭をぶつける。いち早く起き上がったのはキラー、素早く起き上がり腹の痛みを無視して仰向けに倒れているグランに向かって何発もの弾丸を撃ち込む。グランもすぐに立ち上がって回避しようとするが、頭から落ちた影響か足元がふらつき、攻撃を受ける。確かな手ごたえを感じたキラー。
「このまま!」
「"このまま"何だ?」
「!?」
キラーが攻撃を受けてのけぞったグランに追撃をしようと、再び狙いを付け直そうとするとグランの声が響いて次の瞬間、こちらに突撃してくるグラン。驚いたキラーだったがその動きは直線的何者でありキラーから見れば的同然だった。冷静さを取り戻しグランに銃弾を浴びせるキラー。しかし、グランは止まらなかった。前進に銃弾を浴びて傷を負いながらも決して止まらない」
「な、何故止まらない!?」
「おいおい、逃げて引き撃ちしてんじゃねぇぞ!」
止まらないグランに対して距離を取ろうと、バックステップをして距離を取りつつの射撃を浴びせ続けるキラー。次第に端に追い込まれ、ガンッと背後のフェンスに当たってしまうキラー。
「しまった!」
「どらぁっ!」
後ろに行くことの出来なくなったキラーにグランは地面を蹴って更に加速、再び腹部にショットガンの銃口を叩きつける。
「ごぼっ」
「そして、このままァ!」
腹部に叩きつけられた銃口の衝撃で吐くキラー。若干吐しゃ物が掛かるのも気にせずにグランは引き金を引く。四つの銃身から同時発射された散弾がキラーの腹部に命中する。キラーの背後はフェンスになっているため、衝撃もどこにも逃げずに全ての負荷がキラーの肉体に襲いいかかる。
「ぐっ、の、このぉッ!」
グランが再び引き金を引く前にキラーは蹴りを繰り出してグランを後方に吹き飛ばす。
「うぅ……げほっ、ごほっ」
「いっつぅぅぅ」
フェンスと銃口のサンドイッチから抜け出せたことで、膝から倒れこむキラー。大きく咳き込み、口の中に残った吐しゃ物を吐き出す。転がったグランは蹴られた場所を摩りながら立ち上がる。
「う、撃たれたまま進むとか、頭がおかしいのか!?」
「はっ! お前には経験ないだろうが、俺はこういう修羅場を何回も経験してんだ、場数が違うんだよ、場数が!」
「このっ!」
グランの言葉にキラーは顔を歪めながら射撃する。それを走り回り回避するグラン。走りながら左手にもった拳銃をキラーに向けて数発放つ。
「そんな豆鉄砲で!」
「……」
そう言ってキラーはグランの放った弾丸をステップで避けて再びグランに攻撃を開始する。そんなキラーの様子をグランは無言で観察していた。そしてタイミングを見て再び接近戦を仕掛けるグラン。途中でフェイントをしながら走り寄るグラン。キラーはそれに対して弾幕を形成して今度は背後にも気を付けつつ距離を取ろうとする。
「そらッ!」
「はっ!?」
グランは攻撃をしながら接近している最中、キラーの目線が左手の拳銃に集中した時を見計らい、拳銃を左に放り投げる。キラーは集中していたため放り投げられた拳銃を目で追ってしまう。キラーが拳銃に意識を割いている間、グランは拳銃とは逆の方向から一機に距離を詰める。
「ふん! 目の良さが命取りだな!」
キラーの持っているライフルを右足で蹴り壊すグラン。咄嗟にキラーは懐からサイドアームを取り出そうとするが、その手をグランの右手に持ったショットガンで弾かれる。両腕が弾かれ、ガラ空きになった胴体に左足を軸として一回転して戻って来た右足で追撃の蹴りを上から押しつぶすように叩き込むグラン。
「ぉえ」
その場で地面に叩きつけられるキラー。度重なる腹部への衝撃で内臓がどこか損傷したのか吐しゃ物に血が混じる。最後の蹴りが決めてになったのかキラーは仰向けに倒れ、目でグランの方を見るだけでピクリとも動かなくなった。そんなキラーを見下ろし、銃口を向けるグラン。
「短い人生だったな」
「だか……それなり、に、愉しん、だ……さ」
「それは良かった。次は俺のクローンなんかに生まれてこないと良いな」
「つぎか……それは
キラーの問にグランは考え込む。そして少し考えた後グランは改めてキラーに銃口を向ける。
「さぁな? でも、俺みたいなロクデナシよりかは次がある可能性はあると思うぞ?」
―――バァッン!!―――
引き金を引いた後轟音が響き、キラーの瞼が閉じられる。それを見届けた後、グランはPL.L.Lの端の方まで歩いて行き、眼下に広がる戦闘を見下ろしながら、タバコに火をつける。吸った煙を口から吐き出す。
「下ももう終わるな……」
それから少ししてホシノたちがクイーンを捕らえて甲板上に上がってきて、地上部隊を指揮していた先生からも戦闘終了の通信があり、ビーハイヴ掃討戦は幕を閉じたのだった。
ま、キラーもクイーンも死んではいないんですけどね。その最後はまだ先のお話で。これにてビーハイヴ編は終了! 小話を3から4話挟んで物語はエデン条約編に……。
評価、感想は作者の承認欲求モンスターが満たされるので執筆速度向上につながります。どうぞよろしくお願いします。