シャーレの部長はブラックマーケットの代表   作:四脚好き

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123話

 

連邦生徒会本部 生徒会長室 

────────────────────────―――

 

 

「―――とまぁ、以上が事の顛末だな」

「成程。それであれだけの軍事行動を……」

 

 幾重もの円が浮かぶ青い空。陽光が差し込む神聖さを感じつつも空調の利きが壊滅的に悪そうな部屋。そんな部屋でグランはソファに座りテーブルの上にあるコーヒーを手に取り喉を潤す。なんとも気楽に報告をするグランの様子に本来連邦生徒会長が座っているべき椅子に座っているリンは報告書に目を通しながら青筋を立てる。

 

「それだけの危険がブラックマーケットにあったとは驚きです。対処していただいたことには感謝しますが、正直事前連絡の一つは入れてほしかったですね。『ODI ET AMO』はもはやただのブラックマーケットの団体ではないのです。そして貴方はそんな組織のトップなんです。その立場と責任を考えてください」

「……」

 

 リンが眼鏡をクイッと持ち上げながらそうグランに話す。グランはリンの放った言葉を聞いて呆けた表情を浮かべる。そんな呆けた表情のグランを疑問に思ったのかリンが若干眉を顰めながら質問する。

 

「どうかしましたか?」

「いやー……似たようなことをアイツに言ったことがあったな、とな……」

「そうでしたか」

 

 グランの表情から"アイツ"と言うのが誰を指しているのかに気が付いて自分も"アイツ"との思い出に少しだけ浸るリン。

 

「……っといけないな。少し浸り過ぎた。ともかく、それが連邦捜査部『S.C.H.A.L.E』として初めての総力戦の活動報告書だ。確かに渡したからな」

「はい。確かに受領しました」

 

 そう言ってグランはソファから立ち上がって扉へ向かって歩き出す。

 

「ぁ」

 

 その背中につい手を伸ばしてしまいそうになるのを咄嗟に抑えるリン。せっかく久しぶりに会えたのだからもう少しだけ一緒にいたい、もっと話していたい、そう口に出したくてたまらなかった。しかし頭の中で『互いに多忙の身、ここで引き止めるわけにはいかない』と、理性が囁く。グッと出かかった言葉を飲みこんで、出来るだけ自然な表情でグランを送り出そうとするリン。

 

「そういえば、渡し忘れてた」

「……必要な書類は揃ってますが?」

 

 扉の前でグランがくるりと体の向きを変え、リンの方に顔を向ける。グランの言葉にリンは手元の報告書の枚数、種類などを確認するがどこにも不備はない。中身まではまだ精査しきっていないのでもしかしたら訂正箇所が出てくるかもしれないが、渡し忘れている物はない。リンが不思議がりながらグランの方を向く。

 

「ほれ」

「な、キャッ」

 

 するとグランはリンが自分の方を向くのを待っていたらしくリンが自身の方を見ると何かを投げ渡してきた。唐突にモノを投げられたことに驚きつつもリンはなんとかモノをキャッチした見せた。リンの手のひらに伝わる硬質な触感と冷たい温度。何だろうと思いながら手のひらを見るとそこには一個の鍵があった。

 

「これは……?」

「シャーレにある俺の私室の鍵」

「!?」

「リン代行なら好きな時に来て、好きなようにしてくれてかまわない」

 

 リンは渡された鍵をじっと見つめる。その間にグランは部屋を出る。そして扉を閉める時にこう口にした。

 

「あぁ、ちなみに渡したのは"リン"だけだからな」

「ッ!?」

「じゃ」

 

 グランの言葉に顔を赤くしながらギョッとして顔を上げるとグランは軽く手を上げあいさつした後、パタンと扉を閉めるのだった。一人きりになったことで静寂が訪れる部屋。リンは鍵を大事そうにギュっと握って胸元で握りしめる。

 

「あの人はまた……ッ」

 

 唇を薄く噛みながら必死になって顔がにやけるのを終える。努めて冷静になるべきではあるが、それでも自然と顔は赤くなり、リンの特徴でもある長い耳の先がへにゃりと力を失う。

 

「大切に……しますね」

 

 すでに見えなくなっている愛しい背中に向かってリンはそう呟いたのだった。

 

 

シャーレ ???

────────────────────────―――

 

 リンに今回の戦闘の報告書を届け、俺の部屋の鍵も渡した後、俺はシャーレにやってきていた。前回シャーレに訪れたのはビーハイブとレジスタンス共を相手取るための会議の時以来だからか少し懐かしい気がする。実際は一週間ぐらいか何だがな。いや、一週間も離れたら懐かしさを感じるのは普通か? 

 

「……懐かしさよりも違和感を感じることになるとは思わなかったが」

 

 シャーレとしても戦後処理で色々とバタバタしたが、正直に言って『ODI ET AMO』としての戦後処理の方が遥かに手間取った。というか、疲れた。

 莫大な損害、接収した財産、投入した兵器の整備と再配置、市街区の復興と浸出させる傘下の企業の選定、やることは山住だ。だが俺を今一番悩ませているのは避難民問題だ。市街区から逃れてきた避難民の数が想定よりもはるかに多かった。避難民の多くは表の世界で競争に敗れ居場所を無くし、ブラックマーケットに落ちてきても競争に敗れた、敗者たち集まり。何を生み出す訳でもないのに、金もかかるし、数だけはいるせいで、食料の配給も足りていない。ほんとうに……どうすっかなぁ。先生の方も色々と連邦生徒会に働きかけてくれてはいるみたいだが……どこまでの支援が受けられるやら。

 

「先生からの連絡だとここだが……なんだここ?」

 

 そうやって日々頭を抱えながら過ごしていた時に先生から『見せたいものがある』とモモトークで連絡を受けた。リンに報告書を持って行く必要もあったし、丁度いいと思ってシャーレに来て先生の連絡にあった部屋に来たのだが……真っ暗だ。なにか広めの空間ということはわかるし、色々と物が置かれているのもなんとなくわかる。そして誰かの気配も感じる。恐らく先生だろう。

 

「おーい先生、来たぞー。なんだここは、物置か?」

 

 暗闇の中に声をかけるが無反応。え、本当にここが呼ばれた部屋だよな? くっそ、このビル、デカいうえにマジで大量に部屋があるからどれがどこだか今だに迷うときがあるんだよ! シャーレしか入ってないのになんでこんなデカいビルにする必要があったんだよ連邦生徒会長!

 ……まぁ、ここにいない人間に文句を言ってもしょうがないか。

 

「ふ、ふ、ふー。よく来たねグラン。これをとくと見よ!」

「おっ?」

 

 そんな事を考えていると暗闇の奥の方から先生の声が聞こえる。それと同時に電気が灯り部屋中が明るくなる。こ、これは!? 照らされた部屋の中には自販機やソファ、テーブルに、ソファとテレビにキッチンまである。まるで大きなリビングか? いや普通のリビングに自販機はないんだがな。あ、無料の給水機もある。

 

「これは……?」

「ここはね……カフェ!」

「かふぇ?」

 

 先生がそう胸を張りながら宣言する。カフェ、カフェねぇ? もう一度部屋の中を見回すが……うーん、カフェかこれ? いや、でもなんか見たことはある気が……あ。

 

「カフェというよりスパリゾートとかの休憩所だな」

「あははは、確かにそう見えるね」

「というか、何故急にカフェ? を」

 

 俺はそう言いながらカフェの中に入ってソファを触ったり自販機の中身を見て回る。

 

「うん。最近は初期に比べてシャーレの部員も増えたし、ここを出入りする生徒も増えたでしょ? だからこうやって休憩と交流の場を作ったの。これで同じ学校の生徒とだけじゃなくて、他校の生徒たちとも仲良くなってくれたら嬉しいなーって」

「成程な」

 

 確かに部員や依頼をしに来る人、たまに来る連邦生徒会の役員たちの全員をあのオフィスに招くわけにもいかないし、一応休憩室が無いわけでもないが、あそこは少し狭いからな……こっちななら大人数にも対応できるな。

 そう考えながらカフェを見回しているとあることに気が付く。

 

「先生」

「どうしたのグラン?」

「恐らくだが、『これはカフェの家具』と言い張ってもユウカの目は誤魔化せないと思うぞ」

「ギクッ」

 

 やっぱりだったか。上手い具合に溶け込んでいるが明らかに先生の趣味であろうフィギュアが置いてある。しかもなんか見覚えのないものまで増えてる……。まぁ、俺は趣味にもどうこう言わないから別にいいが……直近のユウカが当番の日には少し遅れてくるか、休んだほうが良い気がしてきた。

 そんなことを考えていると先生が俺の前にやってくる。……なんか妙にニコニコとしているけど何かあったか?

 

「はい、これグランに上げる!」

「ん?」

 

 そう言って先生が手を伸ばしてこちらに何かを渡そうとしてくる。まぁ、危険なものではないだろうし受け取るか。俺は手を伸ばすと先生は俺の手のひらに何かを落とす。何だろ? 金属製で……小さめ、ん? なんかこんなモノをさっきも握っていた気がする。確認する為に手のひらを開く。

 

「これは、鍵。ど、どこのだ?」

 

 あ、ヤバ。さっき自分がしたことが脳裏によぎって変に声が裏切った。そんな俺の様子が可笑しかったのか先生はクスクスと笑っている。くっ、顔が熱い!

 

「うっふふ、ふふふ、急に変な声どうしたのグラン?」

「な、何でもない! それでこの鍵は一体どこのなんだ?」

 

 先生の笑い声を止めたくて思わず声が大きくなる。先生はひとしきり笑った後息を整えながら教えてくれる。

 

「実はカフェは上の階にもう一個あるの。そのカギはそのもう一個の方のカフェの鍵」

「もう一つ?」

「そう、カフェ二号店!」

 

 二号店の方が上階にあるのか。

 

「私はこの一号店の内装を担当したし、二号店はグランの隙にしていいよ! 部長特権だね! あと必要な家具があったらクラフトチェンバーを使っていいよ! これ、権限キー!」

 

 先生にカードキーを渡される。クラフトチェンバー……確かシャーレの地下にある生物以外なら生み出すことが出来るとかいうオーパーツの一つだったな。恐らく先生もそれを使ってこのカフェの家具をそろえたんだろうな。

 

「ということで今日のグランの仕事は二号店の内装工事です! グランが作ったカフェ、どんなものになるか楽しみにしているね!」

 

 そう言って先生は仕事をしにオフィスに戻っていってしまった。カフェかぁ……どうすっかなぁ。ひとまず上にあるという二号店が今どんな状況か確認していくか。階段は……あっちか。おっ、ここか。

 

「大きさは変わらないな。家具も何もなしか……。ホントに自由だな」

 

 うーむ。とりあえず方向性を決めないとだよな。部屋の広さと窓の位置を写真にとって、と。これでクラフトチェンバーのとこまで言って先に何が作れるか確認しよう。

 

 

数時間後 

────────────────────────―――

 

 

「よし、こんなもんかな」

 

 家具をカフェに運び込んで掃除も完了! カフェ二号店準備オッケー! 明るく賑やかな先生の一号店とは差別化を目指してヴィンテージモダンで落ち着いた雰囲気の喫茶店という方針にした。 飲み物も自販機ではなく、豆や茶葉、道具をそろえて自分で好きなように入れられるようにもした。他の生徒の賑やかな交流ではなく、茶でも飲みながら会話するための場という趣だな。

 

「……よし、じゃあやってみるか」

 

 先生に確認をして、俺はあることをシャーレの公式SNSに投稿して一度カウンターの裏手に向かった。

 

 




  今回から場面転換の時の区切りをダクソ風にして見ました。しばらくこれを続けてみてどっちが良いかのアンケートを取るかもしれません。
 リンちゃんはツンデレも良いと思うんですけど個人的にはツンギレ、ちょっとデレみたいな感じの方が好きです。
 
 そして遂にカフェ解禁。色々な生徒が訪れて交流をしていきます。さて、グランがやろうとしていることとは?

 そして現在読者参加企画を計画中です。『代表の電波も支配しちゃうぞRadio』第二回開催決定! グランがパーソナリティのラジオが再び帰ってくる! 今回の収録はなんとシャーレで! ゲストに先生を迎えてお送りします!
・この『シャーレの部長はブラックマーケットの代表』世界の住人エミュをして質問してください。いくつかの質問を代表直々に回答いたします。ペンネームをつけてご応募ください。
・こちらで今後の話に影響がないと判断すればネームドキャラのエミュものも採用します。
・前回とまったく同じでもつまらないので、少しばかり前回とは状況が違います。今回グランがラジオを収録するのは『シャーレの私室内』! なんとゲストには『ニイ先生』が登場します! と言うことでグランに対する質問だけでなく、先生に対する質問などもお答えできます!

例 ペンネーム『かんぺき~会計』
「先生、先日の当番の際引き出しの奥に見慣れない領収書がくしゃくしゃになっていましたけど、これはなんですか?」

先生「え、あ! やっば!」
グラン「オイ、今度は何を黙って買ったんだ先生! 俺はもう庇いきれないぞ!」

 質問はこちらの活動報告にて募集中です。
https://syosetu.org/?mode=kappo_view&kid=317388&uid=101362
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