シャーレの部長はブラックマーケットの代表   作:四脚好き

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125話

 

ブラックマーケット『塔』内部 

────────────────────────―――――――――

 

「ふぁーあ……。昨日は色々あったなー。結局寝るのも遅かったし、眠みぃ」

 

 シャーレでカフェをオープンした翌日、俺は『塔』に戻ってきて、書類とにらめっこをしていた。正直に言うと俺はアビドスを一年生時に中退しておりそれ程頭の出来は良くない。教育を受けていない+地頭もそれほど優秀ではない+努力もしてない、スリーアウトチェンジって感じ。それでも今俺がこうしてブラックマーケットの長としてやれてるのはこんなダメな俺を慕って支えてくれる『ODI ET AMO』のみんなのお陰。だから俺は俺の出来る事を精一杯して少しでも『ODI ET AMO』を発展させて部下たちとってよりよい職場であり続けたい。

 ……まぁ結局ブラックマーケットの組織だから命賭けるときは命かけてもらう事にはなるんだが。

 

「にしても、相変わらず膨大な量だな……」

 

 とは言うが余り文句は言えない。この俺の前に積まれている書類は日々各部署から上がってくる書類の束をキッドや他の文官たちが処理して、その中で得に重要度が高いものや、俺の承認が必要なものに絞ってくれている物なのだから。しかもさっき言った通り、頭の弱い俺用に難しい話のときは注釈と要約もつけてくれている。

 ……いや、本当に感謝しかない。

 

「それでも苦戦する時は苦戦するんだがな!」

 

 おっと口よりも手を動かすべきだな。でないと終わるものも終わらん。でも……。

 

「やっぱ眠みぃ……」

 

 予想通りと言えば予想通りだが、昨日はシャーレの俺の私室にはちょっとした先客がいて()()()()をしていたのでバレるまで鑑賞していたんだが……・。うん、普段抱えているストレスもあったんだろうが、すさまじく激しい()()()()だったしバレた後も大変だった。先客さんの普段見れない一面も見れたということで個人的に気大満足何だがな。

 あと、アリスの乱入で結局マコトとはお預けだし、アリスが帰った後も先客がいるだろうからと断ってしまった。今度埋め合わせをしてやらないといけないな。それはそれとして先客と盛り上がっているときに送って来た画像に関してはしっかり反省させるがな! ……アレのせいで余計激しくなったからな。

 とまあ時折思考が他の事にトビながらも書類の山と格闘を繰り広げていると部屋のドアがノックされる。

 

「代表、伊地知アム様が面会を求められています」

「通せ」

 

 ドアの前に立っているであろう、メイドが来訪者の名前を教えてくれる。……キッド3か得に来訪の予定は聞いていないが、何かあったか? 一度書類から目を離してドアの方を見ると手を振りながらキッド3がこちらへやってくる。

 

「やっほー、帰還報告(デブリーフィング)以来じゃーん?」

「そうだな。ここのところ先の戦いのせいで色々とごたついてたからな」

 

 キッド3は俺のデスクの上に軽く腰掛けて話しかけてくる。

 

「ここのところ、っていうかシャーレの部長になってからいっつもごたついてない? アビドス、百鬼夜行、レッドウィンター、ミレニアム、オデュッセイア、そして今回の戦い。グラン大丈夫? 最近無茶してばっかりじゃぁない?」

 

 心配そうにこちらの顔を覗き込むキッド3。

 

「別に大丈夫だ、これくらい。お前たちも支えてくれてるしな」

「ディヒヒヒヒ」

 

 そう言いながらキッド3の頭を撫でる。そうするとキッド3は嬉しそうに首を竦めながら独特の笑い声をあげる。

 

「ねぇねぇ、そう言う言えばあの報告書は大丈夫だったの?」

「連邦生徒会に提出した奴か?」

「そうそう。強襲勢力についての記載なし、PL.L.Lに関しては損傷が激しく立ち入り調査拒否、問答無用の爆破処理、おまけに首謀者の一人『キラー』は護送中に逃亡、行方不明。矯正局には『クイーンビー』の身柄引き渡しのみ。よくこんな要望通ったねぇ」

「それには俺とリンの関係性を利用させてもらったさ。おまけに最後の方に機嫌も取ったしな。もっと言うなら今の連邦生徒会は他の自治区に対して強い影響力を持っていないし、ブラックマーケットなんてもってのほかだ。何を言っても無駄なことを察していたんだろう。キラーは?」

 

 俺がキラーの状態を聞くとキッド3はどこからか、タブレットを取り出して画面を少し操作した後俺に見せてくる。そこに映っていたのはベッドに横たわり体中にチューブが繋がり生命維持装置を付けられ、もはや生きているだけの状態になったキラーだった。

 

「……悪いなキラー。宣告通りお前の体は全てしっかり利用させてもらう。()に行くのはその後だ」

 

 俺は自分の声が届かないと分かっていながらそう画面に向けて語り掛ける。っといけない。

 

「ありがとう。そしてすまない、お前がここに来た理由を聞いてなかったな」

「いやいや、気にしないでぇー、グランの願いを叶えるのが僕たちの喜びなんだから」

 

 キッド3は俺の頬にキスしたあと机から降りてパラパラと何かの資料を取り出して俺の前に並べる。その内の一枚を手に取ってみるが……。

 タンパク質、アミノ酸……プチペド? ペド趣味はないが……。駄目だ全然わからん。

 

「これは一体なんだキッド3?」

「それを知るためにもこれを見てー」

 

 そう言ってキッド3は何かのグラフを取り出す。

 

「これは『ODI ET AMO』内の食料自給率の現在とこれからの予測をまとめたグラフなんだけどここ見て!」

「……ここ一週間でかなり下がったな。しかもそれ以降も下がり続けている。なんでだ?」

「市街区の避難民だよ」

「あぁ……」

 

 俺はキッド3の言葉に合点がいき少し声が低くなるのを抑えきれなかった。

 

「彼らを受け入れたのは良いけど現状彼らはタダのごく潰し。かといって『ODI ET AMO』の領域内で仕事をさせるにはまだ多くの不安が残る人たちでもあるのは事実。今は元々の備蓄などを使ってるからいいけど、このままだと彼らはタダの負債になる。だからせめて自分たちの食料は自分たちでどうにかしてもらおうって話!」

「それは助かる話だが、そう簡単な話でもないだろう?」

 

 そう言うとキッド3はグラフを閉じて先ほど俺が手に取った資料を手に持つ。

 

「そこでこの新開発の合成食糧『ソイレント・グリン』の登場だよ! 大量生産可能で保存性も良好、栄養バランスも考えられてる! この施設を廃棄都市エリアに建ててそこで避難民の皆に働いてもらおう! ソイレント・グリンはあくまで避難民たち向けの食料だから決して流通させず、彼らでつくり、彼らで消費してもらおう! 上手く行けば『ODI ET AMO』内の監獄とかに配っていも良いだろうし、囚人たちが自分たちで食料を作るようになれば私たちが今までかけてきた食費代も浮くって寸法さ!」

「確かにそうなれば浮いた資金は別の事業に充てられるし一石二鳥か。建築予定地は……随分海に近いな? これ下手したら逃げられたりしないか?」

 

 俺はキッド3の提案書を見ながらそういう。するとキッド3は手を顔に当ててあちゃー、と声を漏らす。

 

「ごめんね、グラン。これは直ぐに解決しないとと思って急いで持ってきたから注釈とか忘れてた。えっとね、海に近い理由は材料にプランクトンが含まれてるからなんだ。海水の組み上げ労働とかもさせて避難民の運動不足も解決したいんだ。それに海沿いはしっかりと警備が付いてるから安心して!」

 

 プランクトン……クジラとかが食べてるっていうあれか。あれ、食えるのか。資料に目を向ければまだまだ色々な材料について書いてあるらしいがまったくわからん。長ったらしい漢字やら、英数字が並び過ぎだ。ただキッド3の説明を聞いている限り問題なさそうだし、承認しよう。

 

「よし、なら避難民の食糧事情についてはお前に一任する。頼んぞ」

「ディヒヒ。まっかせて! さぁーて避難民や囚人どもには()()()()()()()()()()()()()。それじゃあ、ありがとねグラン! 僕はさっさく作業に入るよ!」

 

 そう言い残しキッド3は部屋を後にする。……やけに上機嫌だな。

 

 

 

『塔』廊下 

────────────────────────―――

 

 グランと別れた後、キッド3ことアムは歓喜の表情を浮かべ廊下を走っていた。途中、文官や他のキッドともすれ違った気がしたがそんなこと今のアムにはどうでも良かった。

 

(承認した。承認した。承認させた!)

 

 走って息を切らし、痛む胸を抑えながらも一目散に自室へと駆けこむ。そしてそのままベッドにダイブして冷めない興奮のままボカボカとベッドに拳を叩きつける。

 

「これでッ! これでまた『代表の物語』に新たな偉業がッ!」

 

 そう叫んだあとアはベッドから跳び起きて自室のパソコンにしがみつく、そしてガタガタと激しいタイピング音を響かせながら先ほどの出来事を記録していく。時には自身の身体に付けた盗聴器や隠しカメラを使って先ほどのグランの表情、声、仕草。その一つ一つを精巧に記録していく。

 

「ああ、グラン。君の物語は最高だ! こんなにも苦難に満ちて居ながらも決して諦めない精神。常人では到達しえないイカれた思考。そして普通じゃない行動、施策の数々!

 昔、レッドウィンターにこう言った医者がいたそうだよ。『人はいつ死ぬと思う?・・・人に忘れられた時さ』とね。……なら! 僕はグランを不死身の存在にして見せる! このキヴォトスの歴史上最も恐ろしく、最も壮絶な人生を送った人間として! このキヴォトスに永久に『水戸グラン』という存在を刻みつける!」

 

 アムはそこまで言って机から離れて部屋の端にある本棚へと向かう。その六段ある本棚には一冊の本も入っておらずそこにあるのはすべて『水戸グラン 記録日記』と書かれたファイルでそれぞれナンバーが振られていた。そのファイルに愛おしそうに舌を這わすアム。

 

「ん、レロォ。ああ、グランっ。僕いま、グランの全部を舐めてるッ!」

 

 ファイルを舐め上げながら徐々に顔を赤くしてもじもじと身体をくねらせるアム。その表情は恍惚としており他のキッドから見てもドン引きな行為である。

 

「ディヒヒ、僕はグランの全てを記録する。そしてグランを不死身にして見せる。だからグラン、君はもっと苦しむべきなんだ、もっと苦難に襲われるべきなんだ。その全てを解決するのに僕たちはなんだってやり遂げて見せる。そして全ての試練を乗り越えたグランの人生は、物語は、より一層忘れがたいものになる」

 

 アムの独白はファイルの背表紙を撫で上げつつも止まらない。

 

「だからね、偶々拾った女と全てを捨てての逃避行なんて許されるわけないじゃん。そんなハッピーエンドなんか"僕の水戸グラン物語"には不要なんだよ! だからあの日僕はクイーンに匿名でこはねと子供の情報を流した。そしたらあとは予想通り! 嫉妬深いアイツは自分の部下数人を連れてこはねとその子供の命を奪った! 妻になるはずだった女性と子供を失って涙を流すグランは本当に物語の一ページとして最高だったよ! 今でも夢に見て絶頂出来るくらいにね!」

 

 そこまで言い切った後アムの体がガクガクと震え力なく床にへたり込む。アムは息を整えながら本棚に寄りかかり語り続ける。

 

「そして妻と子を奪った相手との再会と新たなる敵の登場……本当に痺れるよぉ。その戦いが終わった後にグランが承認したこの『ソイレント・グリン』これもグランの物語を鮮やかに彩ってくれる。ディヒヒヒ、もしグランが材料をちゃんと理解したらどんな表情を浮かべてくれるのかな? ディヒ、ディヒヒ。

 

ディィヒヒヒヒヒヒヒヒ!! 僕がこれからも君の人生をさいっこうの物語にしてあげるからね! グラン!

 




・ソイレント・グリン
 キッド3が考案した合成食糧。『究極の栄養食』らしくこれを配給すれば近いうちに食糧問題で困る避難民たちは"いなくなる"らしい。アビドスを一年で中退したグランには難しすぎる製法と栄養表が並んでいたためグランはよく理解しないままゴーサインを出した。製法や原材料は後年発表され、大炎上した。

 
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