『部員との交流2 今はまだ分からないけど』
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「……おい」
「ふぁ~……ん、んんっ……すぅ……」
「おい、起きろツバキ」
「zzz」
参った……。今日は俺、先生、そして当番のツバキ、アスナ、ヒフミを入れた5人体勢で仕事をしていた。人懐こい大型犬のようなアスナにじゃれつかれてオロオロしているヒフミ、マイペースに寝惚けているツバキ、それを眺めてニコニコしている先生とはっきり言って人数こそいたが仕事の進み具合は人数の割には並だったと思う。
そして仕事がひと段落して休憩にしようという話になったのだが、そこで一つ問題が起きた。
「まったく、起きやがらねぇ……」
俺の肩によりかかって寝ているツバキがまったく起きないのだ。声をかけても揺すってもまったく反応がない。しかも俺の腕を掴んでまったく離さない。そのせいでツバキだけを置いて休憩に行くということもできない。
結局、俺はこちらを見てニマニマと笑う先生たちを見送り、ツバキと一緒にオフィスに居残るという事になってしまった。
「……はぁ」
多分、思いっきり頭を叩けば起こせることは起こせると思う。ただ、それをやるのは嫌、だなぁ……。
脳裏に思い浮かぶのは共にオールドキングと戦った時の記憶。あの時の俺はアビドスでの出来事にどこか心の内で引っ張っられていて精神的に参っていた。そんなグチャグチャとしたものを抱えていた俺の心を吹っ切れさせてくれた。百鬼夜行から帰って来た時にいたホシノに真正面から向き合えるようになっていたのはツバキがいたからだろう。あれ以来、ホシノとは若干まだ気まずい瞬間が訪れたりするが、たいがいは互いに一年生の『友人』だった時のように接することができるようにはなっている。そういう意味でツバキは俺の恩人だ。そんな恩人の頭ひっぱたくのは……なぁ?
「仕方ない、か。……俺の負けだ。 ふぁ……俺も少し寝るか……」
今日は天気も良くこのシャーレオフィスには日の光が大量に差し込む。その陽気に誘われ、更には隣で快眠している人間がいるためか俺も眠くなってきた。どうせ腕を掴まれて何も出来ないのだからいっそのこと俺も寝てしまおうと思い、意識を手放す。
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「すぅ……んんっ。ふわぁ、よく寝たぁー」
グランが眠りについてから数十分後ツバキは大きなあくびをしながら目を覚ます。大きく伸びをしたときに自身の頭の上に載っていたであろう何かが肩にずり落ちてくる。
「んー? ……わぁ、びっくりしたぁ」
重さの正体は何だろうと肩に視線を向けるとグランの寝顔が目に入る。普段であればほとんど見ることの出来ないグランの寝顔にツバキは驚きを隠せず、まじまじと眺める。
「そっーと……うわ、結構さらさらー」
次第に好奇心に負けたのかグランの頭に手を伸ばすツバキ。最初はあくまで触ってみるだけのつもりだったが、触ってみると髪の手触りに驚いて指を通してみたりもしてみる。
少ししてピタリと手を止めるツバキ。手を止めて再びジッとグランの顔を見つめる。
(グランの寝顔、こんな感じなんだ……)
そんなことを考えながらツバキは不思議な感覚に浸っていた。その感覚は自身の肩に頭を寄せて眠るグランの顔を見る為に強くなっていく。思えばツバキにとってグランほど距離の近くい異性は初めての事だった。もちろん百鬼夜行にも男子生徒はいるが女子に比べれば数は少ないし、話したことのある男子生徒も『終止…』『無念…』と二言しか話さなかった。ツバキにとってグランとは本当に初めて真っ当な関わり合いをもった男子なのである。
その為この感覚が幼馴染であるミモリがよく読んでいる少女漫画にあるような恋心なのか、それとも初めての異性に緊張しているだけなのかは分からない。それでも―――
「なぁ、そんなに見られていると起き辛いんだが……」
「あっ、うわっ……! お、起きてたの!?」
「髪に触れられたときから……」
「っ!?」
それでもこれが恋心であれば嬉しいと心のどこかで思うツバキであった。
『???との交流 "狂"の異名を持つ者』
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シャーレでの勤務後俺は『Binoculars』から上がってきていた興味深い報告の真偽を確かめる為にある人物に連絡を入れてD.U地区内にあるおでんの屋台に訪れていた。
ただし、普通に訪れは決してしない。シャーレからでたあと近くで待機していた『Binoculars』たちの車に乗り込み中でヘアセットやメイクをしてもらう。髪には少しパーマをかけ、丸メガネと少しヨレたクロノスの制服とコートを身に付ける。そして懐にブラックマーケットで仕入れた偽造学生証を忍ばせ、ここまでしてやっとおでんの屋台に訪れて目的の人物が来るのを待つ。
おでんをつまみながら待つこと十数分。背後で暖簾が上がる気配がする。それに少し遅れて声がかけられる。
「こんな所に呼んで一体何の用ですか。順道さん」
「そう構えないで下さい。貴女と少しお話したかっただけですよ……。カンナさん」
そう言いながら振り返ると目に入るのは少しボサツいた金髪にピンとたった犬耳。鋭い目線にチラリと見えるギザ歯。生徒とは思えない剣呑な雰囲気と大人の色気を僅かに醸し出している綺麗な女。ヴァルキューレ警察学校、公安局局長、尾刃カンナの姿がそこにあった。
「まぁ、少しばかり確認したいこともあるのですが……。ほら座ってください。今日は私のおごりです」
「……」
そう俺が自分の隣を叩くとカンナは無言のまま、俺の隣に座る。因みに順道、というのは俺の偽名でジョン・ドゥ、ジェーン・ドゥからもじっている。ジョーン、ジェーン、ジョーン、ジョーン・ドゥ、じゅんどぅ、じゅんどう……みたいな感じで。フルネームだと『順道司』クロノススクールの三年生で自分では記事を出さず、ゴシップ取材ばかりしている情報通の生徒。という設定だ。
「なんにせよ、まずは一杯やってからですね。……大将、彼女にも適当に見繕ってやって」
「へい」
隣にカンナが座ったのを確認して屋台の大将に声をかける。
「情報屋ってのは儲かります。そのおかげで10万するフグの懐石や、100g1万の霜降り牛だのなんだの高いものはあらかた食べましたが……こんなボロイ屋台の80円の大根が一番美味しいです。……お金って一体何なんでしょうね……」
大将が出したサラを受け取ってカンナの前に置きながらそう話す。アビドスの借金を返すためにブラックマーケットに入った俺。のし上がる過程で勿論接待などの経験もありその時色々食べてきたが、本当にそんなものより遥かにこの屋台のおでんは美味しかった。……もう味を感じることが出来なくなったことを本気で後悔するぐらいには。
「一体何が言いたいんですか?」
「……ヴァルキューレ警察学校の予算縮小の件です」
「――― ……なんの話でしょうか?」
成程、どうやら情報は本当か。俺は隣に座っているカンナのリアクションを見ながらそう確信する。
「そうですか、カンナさんも知らないならこのネタはガセでしたか。まったく情報料が無駄になりました。しかたがありません。今夜はバーッとやって忘れるとしましょうか! ほら、カンナさんも! 仕事終わりでしょう、さぁ一杯どうぞ!」
我ながら白々しい。落ち込んだ振りを見せた後にそれを吹っ切るために一気にコップに注がれた特性ウーロン茶を飲み干し、カンナにも勧める。
「……そうですね。ありがたく頂きます」
カンナが差し出したコップに特性ウーロン茶を注ぐ。そのあと自分のコップにも注ぎ直してコップを掲げる。
「お仕事お疲れ様です、乾杯」
「乾杯」
乾杯をしたあとカンナと他愛もない会話をしながら食事をする。最初のウチは警戒されていたが、次第に知りたかったことが最初のことだけだと分かった様でそのあとは大分キを緩めて会話をしてくれた。
「そういえばカンナさん、最近出た新メニュー『ゆでカニ』は食べましたか?」
「カニですか? おでんにカニとは珍しいですね」
「ということはまだ食べていないんですね。それはいけない、店主! 彼女に『ゆでカニ』を!」
「おう、…カニ好きには、いい奴しかいねえ。ちょっと待ってな」
店主に『ゆでカニ』を注文した後、カンナの方をじっと見る。その視線に気が付いたのかカンナは少し照れくさそうに耳に髪をかけながら視線を逸らして話しかけてくる。
「じゅ、順道さん、そんなにこちらを見て、何かありましたか?」
「カンナさんと出会った頃を思い出していました」
「なっ!」
「思えばそれなりの付き合いですねぇ……。最初の頃のキツめのカンナさんも魅力的でしたが、やっぱりあなたは笑っている方が魅力的だ」
「や、やめてください、私みたいな……『狂犬』なんて言われるような女に魅力なんて……」
照れながら自分を卑下するカンナの手を取る。
「――っ」
「そんなこと言わないで下さい、貴女はとても素敵な女性です。自信を持ってください。それに……」
そこまで言ってスッ、とカンナの耳元に顔を近づけて囁く。
「それに、魅力を感じない女性を抱きはしませんよ」
「! こ、今夜も……?」
「そのつもりで誘いに乗ってくれたのだと思ってましたけど?」
「……」
そこまで言えば屋台の机の下でカンナはそっと俺の手に自身の手を絡ませて恋人つなぎの形になる。
「今は食事を楽しみましょう? お楽しみは後で、ね?」
「……はい」
翌朝、体中が噛み痕だらけになった。
・ゆでカニ
茹で上げられたカニの身肉
プリプリとして汁気もある見事なもの
店主の塩加減にコツがあるらしい
おでんでは珍しいこれはカニである
まあ、美味ければそれでよいのだが