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バタンッと大きな音を立ててテーブルを叩きながら立ち上がり、あろうことかテーブルに置いてあったロールケーキを鷲づかみしてまるで剣を突き付けるようにミカに向けて肩で大きく息をするナギサ。
その剣幕には強烈なインパクトがあり、ミカとグランも冷や汗を流して固まり、先生も目を見開き驚いている。
「……」
「……」
「……」
「……あら。私ったら、何という言葉遣いを……。……失礼しました、先生……ミカさんも」
少しして落ち着いたのかナギサはロールケーキを元に戻し席について先生とミカに謝罪をする。
「いやー、怖い怖い」
「おまけに俺の方には謝罪なしだぜ」
「何か?」
「いや、何も」
小声で自身に謝罪が無かったことをミカに愚痴るグラン。しかしそんな呟きも聞こえたのかナギサはにっこりとした顔のままグランの方を向く。グランはその顔を見て苦笑いし、誤魔化した。
「(中々本題に入らないなー)」
生徒たちのやり取りを生暖かい目で見つめながら先生はそんなことを考えていた。
それからしばらく適当な雑談をして場をどうにか持ち直させた。
「……そろそろ本題に入りましょうか。私たちが先生たち『シャーレ』にお願いしたいのは、簡単なことです」
「簡単だけど、重要なことだよ」
「はい、そうですね。……ある部活の、顧問になっていただけませんか?」
ミカとナギサが真剣な表情になり、先生にお願いをする。
「補習授業部だよね、手紙に書いてあった」
「勉強かぁ……」
「はい。つまり、落第の危機に陥っている生徒たちを救っていただきたいのです。『部』という形ではありますが、今回は顧問というより『担任の先生』と言った方が良いかもしれませんね」
そこまで言ってナギサは手に持っていた紅茶を一口飲んで目を瞑る。そして少しだけ眉を顰めながら話を続ける。
「トリニティ総合学園は、昔からキヴォトスにおいて『文武両道』を掲げる、歴史と伝統が息づく学園です。それなのにあろうことか、よりによってこの時期に、成績の振るわない方がなんと4名もいらっしゃいまして……」
「この時期……」
グランがナギサの言葉の中で引っかかった部分を口に出す。するとミカが隣で頷く。
「そうなの。私たちとしてはちょっと困ったタイミングでっていうか……。『エデン条約』の件で、今はバタバタしててね。あの子たちの件も何とか解決しないといけないんだけど、人手も時間も足りなくって……。その時にちょうど見つけたの! 新聞に載っていた『シャーレ』の活躍っぷりを! 猫探し、街の掃除、宅配便の配達まで、八面六臂の大活躍!」
「……なんか、もっと……こう、なんか無かったのか」
ミカの上げたシャーレの活躍の例にグランは『うげぇ』という表情を浮かべてそれを誤魔化すためにテーブル上に置かれていた紅茶にてを伸ばして口にする。
「この『シャーレ』になら、きっと面倒ごとを任せられそうだなって!」
「……」
「面倒って言ったな」
ミカが笑顔のままはっきりと『面倒ごと』と言い切ったことに先生は顔を引きつらせて、グランはじっとりと半開きの目でミカを睨む。
「……『面倒ごと』なんて言ってはいけませんよ、ミカさん」
「ま、まあでも、ある意味本当のことでもあるし……。それに、『先生』なんでしょ? 今はみんなBDで学習する時代だし、学校の職員とか、教授とかならまだしも『先生』って概念は珍しいんだよね。先の道を生きると書いて『先生』……つまり、『導いてくれる役割』ってことだよね?」
ミカが目を輝かせながらグランの方を向いて同意を求める。
「まぁ……確かに
「導きだなんて、そんな……えへへへ」
グランの言葉に先生は照れくさそうに頭を掻いてだらしない笑顔を浮かべる。
「尊敬の対象、あるいは生きる指針としてみんなに手を差し伸べ、導く……『補習授業部』の顧問として、これはぴったりだなって思って!」
「噂では『尊敬』という言葉が合うかどうかについては、意見が割れているようですが……」
「ブッ」
ミカの言葉にナギサが補足を入れたのだが、その補足の言葉に思い当たる節がいくつかあったためグランは我慢できずに笑い吹き出してしまった。
「あー、そうだったね。報告書によって全然違うっていうか……まあ、これは先生の名誉のために何も言わないでおくね」
「え、まって、いったいどんな噂が……?」
「とにかく! 今はちょっと忙しいこともあって、ぜひ先生に、この子たちを引き受けて欲しいの!」
「ちょ、スルー!? グラン!?」
「……」
先生は一体どんな自分の噂が流されているのかがかなり気になってミカに質問したが、ミカは華麗にそれをスルー。質問がスルーされたことに先生は更に驚きながらグランの方を見て助け舟を求めたが、グランも先生の方から視線をそらすことで質問スルーした。
そして間を置かずにナギサの説明が始まる。
「もう少し説明しますと……この『補習授業部』は常設されている物ではなく、特殊な事態に応じて創設し、救済が必要な生徒たちを加入させるものです。少々特殊な形ではありますが、急ぎと言うこともあり、シャーレの超法規的な権限をお借りしつつ……といった形で、ですね」
「(シャーレの権限だと……?)」
ピクリとグランの眉が動く。
「色々とややこしいですが、本質はあくまで『成績の振るわない生徒たちを救済すること』にあります。だからこそ、こういった特殊な形での創立が許されたわけですが……。いかがでしょう、先生? 助けが必要な生徒たちに、手を差し伸べて頂けませんか?」
「
グランが何かを先生に伝えようとするが、その前に先生がナギサに返事を返す。そのことにグランは先生だけに分かるように抗議の目線を送るが先生はそれを手で制す。
「やったありがとー先生!」
「……何かありましたか、水戸グランさん?」
「……いや、何でもない」
「そうでしたか。……ふふっ、きっと先生なら断らないでしょうとは思っていましたが……。ありがとうございます。では、こちらを」
そう一と手ナギサは補習授業部の部員の名簿を取り出してそれを先生に渡す。先生はその名簿を受け取りパラパラと中身を見る。
「そちらの方々が対象です」
「つまりトリニティのやっか―――「その表現は愛が足りませんよ、ミカさん。こう言いましょうか、トリニティにおける『愛が必要な生徒たち』」
「まあ呼び方は何でもいいけどねー」
先生が名簿を眺めて、ティーパーティーの二人がそんなやり取りをしているあいだグランはずっと考えごとをしていた。
「あれ、この子……」
「ん? 何か気になる子でもいた、先生?」
「……ううん、何でもない」
先生の手がある生徒のページになった時、パタリと止まる。
「詳しい内容についてはまた追ってご連絡致します。他に気になる点はございませんか?」
ナギサの質問に先生は手元の名簿を閉じてナギサ達の方に向き直す。そしてゆっくりと口を開いて聞く。
「エデン条約……って、何?」
「……」
「……」
「あー、先生は確かにわからんか……」
先生の質問にキヴォトス人の三人は眼を丸くして唖然とする。しかしすぐにグランは先生がキヴォトス外から来た人間であるというコトを思い出して仕方がないと納得する。
「うーん……それは、なんて言えば良いのかなぁ」
「その説明には中々時間がかかってしまいますので、また後日お話しますね。一応、それなりに内部機密ということもありますし……。それに、補習授業部の件とはそれほど関係のない事ですから……」
「……」
先生の質問にどう答えた物かと頭を捻るミカのグラン。それに比べてきっぱりと補習授業部とは関係ないと言い切ったナギサ。先生も一応はそれで納得したのか頷いて次の質問をする。
「あと、ティーパーティーのもう一人の生徒会長は?」
「……」
「それは……」
今まで凛とした姿勢が崩れなかったナギサの表情が崩れる。その目には僅かに不安をはらんでいた。
「セイアちゃんは今、トリニティにいないの。入院中で……」
「本来であれば、今のホストはそのセイアさんだったのですが……そういった事情で不在の為、私がホストを務めているところです」
「元々ティーパーティーのホストは、順番でやるものだからね」
言葉に詰まったナギサに代わりミカがこの場にいないもう一人のティーパーティー、百合園セイアの事について語る。
「そっか、早く良くなると良いね。……今聞きたいのはこれぐらいかな」
「承知しました、また何かあれば聞いてください。では……準備が整い次第、先生はトリニティ総合学園に派遣という形で来ていただくことにできればと」
「うん、分かったよ」
「先生のご協力に感謝します、これで一安心です」
「じゃっ、またね先生。また会えるのかどうか分からないけどっ」
「笑顔のまま辛い事言うなぁ……」
ミカは満面の笑顔で先生に向けててを振るう。
「そうですね。特に今は忙しい時期ですし、ティーパーティーの生徒会長がこうしてまたすぐに集まれるとも限りませんから」
「ふふっ、やっぱり忙しいんだ? ま、でも先生のおかげでナギちゃんの顔も見られたし、良かった良かった。
「はい、私もですよ。ミカさん」
「ふふっ」
互いに顔を見合わせて笑いをこぼす。ロールケーキの下りも何だかんだ久々の旧友とのやり取りでテンションが上がっていたために起こったものなのだろうと先生は思う。
「では、これからよろしくお願いいたしますね、先生。私もティーパーティーのホストとして、先生をエスコートいたしますので」
「うん、これからよろしくね」
その場これでお開きとなり先生とグランはテラスを後にした。補習授業部の名簿にあった生徒たちと出会うためにトリニティの口内を並んで歩く二人。
「いやー、流石トリニティ。歩いてる生徒たちも、さっきの二人も『ザ・お嬢様』って感じ! 私少しお嬢様学校って憧れがあったからなんかワクワクする!」
「……」
「……グランどうしたの?」
先ほどから先生はトリニティの校舎や歩く生徒たちの姿に目を輝かせている。しかしその隣を歩くグランはそれどころではないようで顎に手を当てて何か考え込んでいる。グランの反応がない事を不思議がって隣のグランの様子を確認する先生。そこにいた真剣な表情をしたグランに何かただならぬものを感じた先生は仕事モードになってグランに質問をした。
「すまない、
「……大丈夫?」
「あぁ、危険はない」
「そっか、じゃあ何かわかったら私にも教えてね」
「さぁて、確約しかねるな」
グランの返事を聞いた先生が何かを言おうとする前にグランは高く跳躍して目的の場所に向かう。
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「やっほ、来ると思ってたよ、グラン」
「……片付けはしたんじゃなかったか? こんな薄暗い部屋で一人篭っているなんて……まるで『魔女』だぞ」
グランはパテル分派本部の最上階、首長の部屋でミカと対面していた。
「ああずっと、ずっと側にいてくれたんですね 我が師 導きのユメ先輩」
ちょっとした質問、ヒフミはグランのヒロインに……
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なれる
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