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第一次特別学力試験があった日の夜、先生とグランは初日にやって来たティーパーティーのテラスに再び訪れていた。テラスに出るとそこには一人、トリニティの夜景を見ながら紅茶を飲んでいるナギサがいた。
「あら、先生、水戸グランさん。お疲れ様です。補習授業部の方はいかがですか?」
「うーん。まぁ……ね?」
「良く言うよ、とっくに情報は耳にしているくせに」
ナギサの言葉に先生は気まずそうに頭を掻きながら苦笑いを浮かべ、なにやら若干不機嫌なグランはそっぽを向きながらナギサの白々しい態度を指摘する。
「……えぇ、お話は聞いております。どうやら最初の試験は、上手く行かなかったようですね。……あと水戸グランさんの点数も聞きましたよ」
「……」
ナギサの言葉に顔を歪めるグラン。そのやり取りの間先生はナギサの手元に注目していた。
「ですがまだ、あと2回残っていますので……。……先生どちらを見て……あぁ、これですか? チェスです、趣味でして」
「随分変わった形だね」
先生は興味深そうにナギサの席に近づき盤面を見つめる。
「はい、恐らく見慣れないタイプですよね? 黒はキングとクイーン、後は全てポーンだけ。城はキング、ルーク、ビショップ、ナイトがそれぞれ3~4個ずつ……きっとあまり見ない形でしょう」
「んだそれ、圧倒的に白が有利じゃねぇか」
「これ、一人でやってたの?」
先生の後ろについて歩いていたグランもナギサの説明に興味を惹かれ盤面を覗き込む。そしてその圧倒的な戦力さにうげぇ、と顔を顰める。
「はい、今は私一人で。うるさいミカさんもいないですし。今日は先生に、お伝えしておきたいことがあったのですが……それよりも先に、先生の方からなにか言いたげなことがあるように見受けられますね」
ナギサは駒を動かしていた手を止めて先生の方に向き直る。それに合わせて先生も姿勢を正して真剣な表情でナギサに向き合い口を開く。
「3回とも不合格になったら、補習授業部のみんなはどうなるの?」
「……」
先生の言葉にナギサの目元がピクリと動く。
「小耳に挟まれてのでしょうか? 出どころは……ヒフミさん、ですかね。彼女は、そういう所がありますからね。まあ、それが、ヒフミさんの良いところでもあるのですが……さて、質問にお答えしますと、簡単なお話です。試験で不合格を繰り返す、落第を逃れられそうにない、助け合うことも出来ない……だとすればみなさん一緒に、退学していただくしかありません」
「退学!?」
先生は大きく驚き、体勢を崩しかける。それほどまでに衝撃が大きかったのだ。そしてナギサの口から語られた補習授業部の本当の目的のその理由、エデン条約に関する裏切り者の存在。グランはすでにミカから聞かされていたため平然としていたが、先生にはどれもこれも初耳の事でどんどんと先生の顔は険しくなっていった。
全てを話し終えた後、ナギサは頭を下げる。
「……ごめんなさい。こんな、血なまぐさい事に先生をを巻き込んでしまいました。私のことは、罵っていただいても構いません」
「……でも本当に私を利用する気だったらだったら、こうして今話してくれてないよね」
「……流石、理解が速いですね。言っても信じてもらえるかなと思っていましたが、仰る通りです。こうなったらお話は早いですね」
ナギサの謝罪に対して数秒の沈黙のあとに返事をする先生。グランとしてはナギサに1つ2つ言いたいことがあったのだが、先生の手でそれを制される。先生がそうしてしまえばグランは黙らざるを得なくなり開きかけた口を閉じるのだった。
「補習授業部にいる裏切り者を、探していただけませんか?」
「お前、いい加減にしろよ……?」
「ッ!」
「ちょっ、グラン!?」
ナギサの言葉にグランはついにキレる。ナギサの前にあったテーブルを蹴りどかし、自身がナギサの前に立って椅子に座るナギサを見下ろす形で銃を突きつける。先生はそんなグランを止めようと銃を持ってを下ろさせようとするがびくともしない。そして銃を突き付けられたナギサは特に何か喋るわけでもなく、ただ目を閉じて手に持ったティーカップに口を付けて中身を飲む。
「誰よりも生徒の事を考える
「その先生を、トリニティを騙そうとしている者がいます。平和を破壊しようとするテロリストです。私たちだけでなく、キヴォトス全体の平和を、自分たちの利益と天秤にかけようとしているのです。裏切り者を探し出すことが、キヴォトスの平和に直結します。いかがでしょう、連邦捜査部シャーレとしてご理解いただけますと幸いなのですが―――」
「まだ言うか!!」
ギリッ、と歯ぎしりの音が聞こえる。まさに一触即発と言った雰囲気に場が包まれる。その時先生が大きな声を上げる。
「はい! そこまで!」
「「!?」」
「まず、グラン。そこまで私の事を想ってくれてありがとう。けど私は大丈夫、だから銃を下ろして。そしてナギサ、騒がしくしちゃってゴメンね。ナギサがこの学園の事を大切にしているのがとても伝わった。でも……私は私のやり方で、その問題に対処させてもらうね」
グランは先生の言葉に銃を持っていない方の手を強く握り絞め、まだ何か言いたげではあるがひとまず銃を終いナギサの正面から退く。そして代わりにナギサの正面に先生がやってきて、屈んでナギサと同じ高さに目線を合わせたうえでナギサの提案に対して返事をした。ナギサは先生の言葉を聞いて一つ深呼吸をしてから残念そうな表情を浮かべる。
「……そうですか。わかりました。……ですが、先生。ゴミを細かく選別して捨てるのが難しい時は、箱ごと捨てるというのも手段の一つ……そうは思いませんか?」
同意を求めるような顔を先生に向けるナギサ。しかし先生は真剣な表情のままナギサを見つめ返す。その隣でナギサの言っていることが理解できてしまうグランは顔を逸らす。
「それからもう一点……試験については基本的に、私の手のひらの上にあります。例えば『急に試験の範囲が変わる』ですとか、『試験会場が変わる』ですとか、『難易度が変わる』ですとか……。そう言ったことが起きないことを祈っていますが……。失礼しました、良くない物の言い方でしたね。それではこれからも、引き続き補習授業部をよろしくお願いします、先生。私たちの方から、先生に対して不利益や損害を与えることはありません……と、言いたいところなのですが……」
「……そうとも言い切れない?」
ナギサが言葉を詰まらせると先生がその後を続ける。
「……そうですね。簡単にはお約束しかねます。ですが、だからといって、先生が生徒たちを放っておくような方ではないと思っておりますので……これからの展開は私にも予測しきれておりません。どうかこの結末が……できるだけ、苦痛を伴わないものであることを願うだけです」
そうナギサは話を終える。が、しかし何かを思い出したように口を再び開く。
「ああ、ですが一つだけお伝えしておきますと……1次試験において、私たちの方では如何なる操作も行っておりません。この部分については、誓って嘘ではないことをお約束します」
「……」
「……ぅ」
ナギサの言葉にグランが軽く凹む。
「先生なりのやり方……それが、トリニティに利するものであることを願っていますね。……それではまた」
その言葉を最後に今度は確実に話が終わり、グランと先生の二人はテラスを後にするのだった。ティーパーティー本部の廊下を並んで歩く先生とグラン。
「先生、さっきは悪かった。少し……いや、大分感情的すぎた」
グランは数歩早歩きになり先生の前に立つと軽く頭を下げる。先生はそんなグランの頭を背伸びして撫でる。
「ふふ、大丈夫だよ。さっきも言ったけどグランがそこまで私のことを考えてくれていてくれたことの方が何倍も嬉しいんだから」
「……先生」
「それよりも、明日から合宿だよ! たくさん勉強できるんだし、しっかり学力向上に励むこと! わかった? "グランくん"」
「ッ!! は、はい!」
「それじゃあ、まずは今晩中に合宿所にアレグロを移動させちゃおう!」
二人はすっかり笑顔になり、ティーパーティーの本部を後にするのであった。
最後の先生とのやりとり、先生はいつもの相方とでも言うべきグランではなく生徒としてのグランを強く意識したためくん付けでグランの事を呼びましたがグランはより強くある人物を思い出させる結果となった。
ちょっとした質問、ヒフミはグランのヒロインに……
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なれる
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なれない