シャーレの部長はブラックマーケットの代表   作:四脚好き

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137話

10分後

────────────────────────―――――――――

 

 

 ヒフミの提案後、大掃除をするためそれぞれ動きやすい恰好に着替えて再び集合の流れになった。

 

「先生、グランさん、お待たせしました!」

「おお、体操服姿!」

 

 合宿所のグラウンドで待機していた先生とグランの元に体操服姿になったヒフミが小走りで近寄ってくる。そんなヒフミの服装に先生が目を輝かせる。先生が自分の服装に注目しているのに気が付いたヒフミはその場で軽く一回転して見せる。

 

「はい、服装から入るのも大事ですからね。体操着の方が動きやすいですし、汚れたときに洗濯もしやすいですし。……グランさんはいつも通りの服装なんですね」

「俺は普段から汚れても良い格好だしな。上着ぐらいは脱ぐが」

 

 グランがそう言いながら羽織ったコートを脱いで畳み始める。

 

「……で、私は何をやれば良いの?」

「あっ、コハルちゃん早かったですね」

「お待たせ」

「アズサちゃんも―――って、どうして銃を……?」

 

 ヒフミに遅れてコハルとアズサも体操服を着てグラウンドに現れる。体操服でも銃を背負っているアズサにヒフミが苦笑いを浮かべる。

 

「肌身離さず持っていないと、銃の意味がない。襲撃はいつ来るか分からないものだ」

「いえ、それはその、何と言いますか、その通りかもしれませんが……」

 

 アズサの言葉に愕然とする面々。そうして、沈黙が訪れた集合場所に一足遅れて、ハナコがやってくる。

 

「お待たせしました、みなさん早かったですね?」

「アウトーーーー!」

「う、うぇっ!? な、ええ、なんでェ?」

「あら……?」

 

 なぜか集合場所に一人だけスクール水着で現れたハナコ。その恰好を見たコハルは思い切り叫んで、グランはなぜか挙動不審になり、一気に視線を逸らす。

 

「なんで、掃除するのに水着なの!? バカなの!? バカなんでしょ!? バーカ!!」

「ですが動きやすいですし、何かで汚されても大丈夫ですし、洗い流すのも簡単で――」

「そういう問題じゃないでしょ!? 水着はプールで着る物なの! っていうか、だっ、誰かに見られたらどうするの!?」

「誰かも何も、ここには私たち以外いませんよ……?」

「と、とにかくダメ! アウトったらアウト! あんたはもう水着の着用禁止!」

 

 ハナコにずいずいと詰め寄るコハル。口調こそ強くハナコ攻め立てるものだが、何故だか視線がたまにハナコの顔より下あたりに移ってしまうコハルであった。そんな風に今一ハナコを攻めきれないコハルの隣に先生がやってくる。

 

「ハナコ、確かにここには私たちだけだけど、ほら」

 

 先生が指をさす。自然に補習授業部の面子の視線が指先の方を見る。そこに居たのは赤くなった顔を隠そうと腕を上げているグランがいた。

 

「一応男子もいるしね?」

「っ……は、はぃ……」

 

 先生の言葉と恥ずかしがっているグランを見ると今までは何ともなかったこの格好が何故だか異常に恥ずかしくなりハナコも顔を赤くする結果になった。その後ハナコは、きちんと体操着に着替えるのだった。

 

 

改めて……

────────────────────────―――――――――

 

「それではまず、建物周辺の雑草から抜いていきましょう! 今日は日差しも強いですし、熱中症には気を付けてくださいね」

「はーい♪」

「草を、抜く……ま、まぁ別に……」

「なるほど。確かに本陣の周囲で、気が隠れられそうなポイントから取り除くのは理に適っている」

「……一気に燃やし尽くしたらダメか」

「ダメだからね」

 

 ヒフミが指示を出して体操服に着替えたハナコが楽しそうに返事をする。コハルは正義実現委員会のらしくない活動に若干戸惑いを覚えるが必要なことだとは理解しているため素直に従う。アズサがまたもやズレた至高を披露して、作業を面倒くさがったグランが焼き払いを提案して先生が止めている。

 

「えっと……と、とにかくまず建物の周りを整えたら、その後はそれぞれ一か所ずつお掃除をしていくという順番でお願いします! ……すぅ、さぁ、始めましょうか!

 

 ヒフミの掛け声を合図として全員が作業に取り掛かる。合宿所周辺の雑草を抜き取り、放置されていたガラクタをグランが運び出す。グランが運び出したガラクタは先生がトリニティのほうに確認を取りながらいるものいらないに仕訳けて廃棄していく。

 

「ここはまず箒を埃掃いて、その後にモップが良さそうですね。埃の溜まりやすいところですので、一度では終わらないかもしれませんが……」

「大丈夫、問題ない」

「アズサちゃんにはこの廊下が終わったら、シャワー室とお手洗いの辺りをお願いしても良いですか?」

「うん、了解。任せて」

 

 居住区の廊下でヒフミにそう指示されたアズサは廊下を掃いて拭いてを何度か繰り返し、他の箇所も順番に掃除を始めていく。

 

「けほっ、けほっ……! 何ここ、凄い埃……」

「そうですね、家具が多いからでしょうか……えっと、ではここも埃を掃いて―――」

「やっ、やり方くらい知ってる! 正義実現委員会でずっとやってるし! マスクを着けて埃を払ってから、水拭きすればいいんでしょ! バカにしないで!」

「ば、バカにしたつもりはないですよ……? では、ここはコハルちゃんにお任せしますね!」

 

 一方合宿所のロビーではコハルが正義実現委員会での経験を存分に生かして掃除をテキパキと進めていく。するとロビーの埃がたちまち掃われていき、家具も綺麗になっていった。

 

「えっと、ここは……」

「ヒフミちゃん、ここは私に任せてください。これから色々とお世話になる場所ですし、きちんとお掃除しておかないとですよね。寝具類は今洗って干しておけば、午後には乾くでしょうし……。他の部屋にもマットレスがあったので、古そうなものは交換して……あとは換気を……」

「すごい詳しいですね! ではお願いしますね、ハナコちゃん」

「うふふ、はい♡」

 

 寝室ではハナコが必要な作業を他の部屋の状況などと合わせて推測してスラスラとピックアップしていく。その手際の良さにヒフミは何も言うことは無くハナコにこの場の清掃を一任するのだった。そうして作業は順調に進んでいき、合宿所の体育館やキッチンなども含めておおよその清掃が完了する。

 

「ふぅ。こんなところかな……?」

「お疲れ、先生」

「グランも各所のサポートお疲れ様。やっぱり男子がいると力が必要な場面は大助かりだね」

 

 清掃を終えた面々は最初に集合した場所に再び集まり互いの労をねぎらった。

 

「良いんじゃない? ずいぶん綺麗になった気がする。うん、気持ちいい」

「……うん、悪くない」

「そうですね、お疲れさまでした!」

 

 ヒフミにコハルそしてアズサが綺麗になった合宿所を見ながら満足そうに笑っているとハナコが何かを思い出したように声を出す。

 

「あ、まだ一か所だけ残ってますよ?」

「あれ、そうでしたっけ……?」

「はい、屋外プールが♡」

「ぷ、プール……? あ、そう言えばさっき見たような……」

 

 ハナコの言葉にヒフミが記憶をたどる。その後、全員でハナコの言うプールまで向かうのだが……。

 

「これは……」

「かなり汚れているな」

「それにだいぶ大きい、どこから取り掛かれば良いのか……いやそもそも、補習授業に水泳の寡黙は無かったはずだけど?」

「試験に関係ないなら、べつにこのままでも良いじゃん。掃除する必要ある?」

 

 ヒフミは目の前のプールの状態に愕然として、グランは屈んでプールの詳しい状態を見て顔を歪める。そしてアズサは補習授業に水泳が無い事を指摘し、コハルが放置を提案する。

 

「いえいえ、よく考えてみてください、コハルちゃん。キラキラと輝く水で満たされたプール、楽しい合宿、はしゃぎ回る生徒たち……」

「……」ゴクッ

 

 そこまでハナコは行って溜めを作る。その間にコハルは何を考えているのかだんだんと頬を赤くしながら生唾を飲み込む。

 

「……楽しくなってきませんか?」

「!? な、何を! わかんない、私は何にも分からないんだから!!」

 

 いやいやと顔を振るコハル。

 

「ですが確かに、こうして放置されてしまったプールを見ていると……何だか寂しい気持ちになりますね」

「このサイズだったし、昔はきっと使われていた時期もあったんだろう。元々は、にぎやかな声が響き渡っていた場所なのかもしれない。それでも、こんな風に変わってしまう。『vanitas vanitatum』……それが、この世界の真実」

「……?」

「えっと……?」

 

 アズサの言葉に疑問を浮かべるコハルとヒフミ。ハナコは少し手を顎において考えた後答えを出す。

 

「古代の言葉でしたね、『全ては虚しいものである(vanitas vanitatum)』……確かに、そうなのかもしれません」

「vanitas vanitatum、か……。結局どこも変わらないのか……

 

 ハナコの解説した言葉の意味、そしてアズサの言った『時期』の話、その話にグランはかつては栄えていたというアビドスの事を重ね、目の前のプールを見てなんだか切なくなっていた。

 

「……アズサちゃん、ヒフミちゃん、コハルちゃん! 今から遊びましょう!」

「え、えぇっ!?」

「今から掃除して、プールに水を入れて、皆で飛び込んだりしましょう! 明日からは頑張ってお勉強をしないといけませんし、となねと今日が最後のチャンスかもしれないじゃないですか。今のうちにここで楽しく遊んでおかないと! 途中からはまた別のことで、色々と疲れてしまうかもしれませんし……! さぁさぁ、早く濡れても良い恰好に着替えてください! プール掃除を始めましょう!」

 

 ハナコの提案に最初こそ驚いたヒフミだが、ハナコの話を聞いてるうちにそれもいいかもと思い始める。

 

「いや、結局また使われなくなるんだし、遊びたいなら別の事でも―――」

「うん」

「アズサ……?」

 

 しかしグランがどうせ無駄になると提案しようとしたところでアズサがそれを添え木るようにハナコに返事をする。

 

「たとえ全てが虚しいことだとしても、それは今日最善を尽くさない理由にはならない」

「アズサ……」

 

 真っすぐな瞳でそう言い切るアズサにグランは眼を丸くして驚く。グランの頭の中ではアズサの言葉が何度もリフレインする。

 

「問題ない、ちゃんと水着も持ってきてる。待ってて」

「あ、アズサちゃん!? 早っ……!?」

「さぁヒフミちゃんも! コハルちゃんも早く水着……いえ、何でも良いので濡れても良い恰好に! さぁ、先生も! 水着をお持ちでないというのならトリニティの物をお貸ししますので!」

「何だかハナコの目が怖いよ……」

「あ、代表も着替えてきてくださいね! 流石にトリニティの水着は貸せませんけど……」

「別に自前で濡れていい恰好を見繕ってくるさ」

 

 ハナコに背を抑え、先生たちがプールから姿を消す。一人になったグランは今だプールを見つめながら一人口を開く。

 

「『たとえ全てが虚しいことだとしても、それは今日最善を尽くさない理由にはならない』か……。俺にとっての最善は……」

 




 ちょっとしたオマケ

 ある日のシャーレ。グランは早々に自身の仕事を片付けてある一点を見つめている。

「……」
「あ、あの、私何か……。い、いぇ、すいません! きっと何か粗相をしたんですよね。 すいません、すいません、すいませんすいません―――」

 視線の先に居たのは便利屋68の社員であり今日の当番、伊草ハルカ。彼女は先ほどから見つめてくるグランの死線に怯え切っており、自分が何か粗相をしたのだと決めつけ謝り倒している。この場に先生がいれば上手くフォロー出来たのだろうがあいにく先生は別の生徒にモモトークで呼び出されたので外出中だ。

「伊草ハルカ」
「は、はいっ、ハルカですッ!」
「こっちへ」
「……は、はい」

 お詫びと言って自害しそうな勢いのハルカをグランは名前を呼ぶことで止める。追い詰められた表情で椅子に座りながら銃を口に咥えるその姿は名画にも見えたがとにかく止めさせたグラン。゛自分の近くにおずおずと寄って来たハルカを再びジッと見つめる。

「(……ショートに、ショットガン……。いざというときのキレ具合……)俺が着ていた奴で悪いが一回これ着てみてくれないか」
「はいぃ?」

 グランは自身が身に付けている防弾ベストを脱いでハルカに渡す。ハルカはグランの行動の意味が解らず呆けた返事をしてしまうがそれでも命令に従いベストを着てみる。

「(ショートにショットガン、ベストも揃った……。うん、大分ホシノだな)よく似合っている」
「へ? あ、ありがとうございます」
「ハルカは便利屋の盾になることが多いだろう? いくら体が頑丈とはいえ、それくらいの防御策は用意しておくべきだ」
「で、でも、私なんかの為にこんなお金のかかるものを―――」
「ハルカが倒れなければその間アルたちはもっともっと攻撃が出来る。そうすれば依頼の達成率も上がるはずだ。それに――」
「それに?」

 そこまで言ってグランは言葉を切る。そして椅子から降りて中腰になり、頭を撫でながらしっかりとハルカと目を合わせる。

「ハルカも女の子だ。ケガは出来るだけしてほしくない。そのベストはやる、上手く活用しろよ」

 そういってグランもその場を後にする。一人部室に残されたハルカ。撫でられた頭に自身の手を重ね、ミを包むベストに顔を埋める。

「代表……。アル様の恩人で今の私たちの目標……。初めて男性から贈り物……。えへへ」



「適当なこと言ったけど、どうだろう……。ホシノっぽい恰好してくれると嬉しいんだけど……」


 

ちょっとした質問、ヒフミはグランのヒロインに……

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