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「……」
「結局、実際にプールに入って遊ぶことは出来ませんでしたね……」
「そういえば、水を入れるのは結構時間がかかるものでしたね……ごめんなさい、失念していました」
すっかり日も落ちたころ、補習授業部は綺麗になって透明な水が並々と注がれたプールを前に並んで立っていた。プール掃除を終え水を張り出したところまでは良かったのだが、プールの水が十分な量になる頃には日は暮れてしまい。結局プールには入ることなく、こうしてプールサイドに立って眺めるだけに落ち着くことになった。
「いや、謝ることは無い。十分楽しかった」
「……綺麗」
「そうですね。真夜中のプールなんて、なかなか見られない景色で……」
コハルがライトを反射して真っ暗な夜の中キラキラと光るプールを見てそう呟く。その非日常感あふれる光景にヒフミも同感なのか、目の前の景色に夢中だ。
「……そうかぁ? ナイトプールなんていくらでも―――」
「グラン、シーッ!」
色々な意味で見慣れている景色にグランは首を傾げてそう珍しいものでもないと口にしようとするが寸でのところで先生に止められる。先生に止められたことで口を閉じたグランだが、脳内では今まで訪れたナイトプールの思い出を再生している。その思い出の中でグランの隣にいる女性が全部違うのはもはや語るまでもない。
なんてグランがくだらない事を思い出しているとうつらうつらとコハルが船をこぎ出す。
「あら、コハルちゃんおねむですか?」
「そ、そんなことないもん……でも、ちょっとつかれた……」
ハナコがそんなコハルを心配して少しだけ手を引っ張ってプールサイドから離す。
「確かに、今日は朝から大掃除でバタバタでしたもんね。では、そろそろお部屋に戻って休むとしましょうか? 明日から本格的に勉強合宿が始まってしまいますし……そろそろ寝ないと明日に支障が出てしまうかもしれません」
「うん」
「そうですね、では今日はこのくらいで」
そう言ってグラン達はプールを後にして合宿所内に戻っていくのであった。
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「それでは、お疲れさまでした」
「お疲れ様」
「はい、ではまた明日」
「……お疲れ様」
シャワーも浴び終え、パジャマ替わりのジャージに着替えたヒフミたちは自身のベットに腰掛けながら話している。
「そしたら、私は向かいの11号室、グランは隣の12号室にいるから、何かあったらいつでも呼んでね」
先生とグランは部屋の入口に並んで立ってその様子を見ていた。先生が自分とグランのいる部屋を伝える。
「はい、ちゃんと覚えておきますね♡」
「お前はなんでそういう、含みある言い方をするんだか……なッ!」
「あうっ! もうっ、いきなり酷いじゃ? ……」
ベッドの上で体をくねらせながらハナコが艶っぽい声で返事する。そんな様子のハナコにグランは呆れながら手に持っていた何かを親指で弾き飛ばし、ハナコの額に当てることで突っ込みを入れる。グランの放ったそれは綺麗にハナコの額に直撃しぺチン、と軽い音を立てる。
ハナコは急に何かが額にぶつかり怯み、そのあとグランを睨むがベッドの上に転がる何かが紙を細かく丸めた物であることに気が付く。
「ハナコちゃん?」
「いえ、何でもありませんよヒフミちゃん。それと代表? 私は突っ込みを入れられるなら、こんな紙屑ではなくて生―――」
「そ、そういうハレンチなのは、ダメ! 死刑!」
「あ、あははは! みんなお疲れのようですし、すぐ寝ましょうかー! では、お休みなさーい!」
ジッと、紙屑をみて何かに気が付いたハナコ。場を誤魔化すためにかなり攻めた発言をしようとするがすぐにコハルが止めて、ヒフミが大声で更に状況を有耶無耶にする。そして先生とグランは部屋をあとにして、廊下に出た所で分かれてそれぞれの部屋に入っていくのだった。
しかし、ほどなくしてグランの部屋の扉はゆっくりと開く。すると部屋の中からジャージではなくブラックマーケットの代表としてのいつもの格好をしたグランが現れ、静かに部屋を後にする。グランが部屋を出ていったあと、ヒフミたちが寝ている方の部屋のドアも開いて何やら深刻な表情をしたヒフミが先生の部屋の扉をノックしたのだった。
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ヒフミが補習授業部設立の際にナギサに言われたこと、これからのこと、退学への恐れを先生に打ち明けているのと同時刻、グランはライトアップされて輝く水面、水面から反射した光が作り出す揺らめく光の波に包まれた幻想的な空間である人を待っていた。
「……」
グランは懐からタバコを取り出し火をつけようとする。しかしライターが見つからずどこにしまったかとポケットを探りながら思い出していると背中から声をかけられる。
「トリニティ校舎の敷地内は全館禁煙ですよ、代表」
「……一本ならバレないか?」
「本数の問題じゃありません」
「……分かったよ」
グランはそっとタバコをしまい後ろを振り返る。そこにはジャージ姿で昼間と同じように常に微笑を浮かべた浦和ハナコが立っていた。
「それにしても、こんな方法で呼び出されるとは思いませんでした」
そういってハナコは先ほどグランがハナコに向けて放った紙屑を見つめる。くしゃくしゃにそして小さくされた紙屑を開いてみればそこにはグランからハナコへの呼び出しのメッセージが書かれていた。
「これが私に当たらなかったり、他の人のベットの方に飛んで行ってしまって別の子がここに来てしまったり、当たったとしても私が読まずに捨てていたらどうするつもりだったんですか?」
ハナコにそう言われたグランは少しの間頭を掻いた後、答える。
「標的には必ず当てる自身があるから外したときのことなんて考えてない。あと捨てられたときかぁ……。正直どうすることも出来ないな」
「ふふふ、代表さんの計画は随分と穴だらけですね。とても一年弱でブラックマーケットの代表までのし上がった人とは思えません。運が良いのか……相当優秀な部下がいるのか―――」
「両方だ」
「え?」
「正直な話、俺は二流だ。何やっても中途半端で何か一つでも優れていることがあれば良かったんだが、結局自分が一番優れていると思っている技術もキヴォトス全体で見れば三番手程度だし。ほんと、俺がここまでのし上れたのは運がデカかったよ」
グランはハナコから目をそらし、水面を見つめつつ独白を続ける。
「ブラックマーケット入りしたての頃なんかキッド2に拾われてなければ死んでただろうし、ホント運が良かった。それにキッド1、2、3、4、全員が俺の持っていない才能の持ち主で、その分野で一流の人間だった。俺は一人で何百人も相手には出来ねぇし、怪我の治療も出来ない。電子戦、情報戦なんてできるほど頭は良くないし、商売も出来ねぇし、伝手も無い。……そうだな」
グランはそこまで言って、一度深呼吸をする。そしてハナコの方を向いて真剣な顔をして言い放つ。
「俺は、アイツらに助けてもらわないと生きていけない自信がある」
「……変わった宣言ですね」
グランの言葉にハナコは変わらず微笑を湛えながら聞いている。
「アイツらとの友情、絆……愛。これらがあったから俺は今ここにいる。だから浦和ハナコ。お前の指摘は何も間違っていない」
曇りのない瞳でグランはそう言い切った。そして僅かな沈黙が二人の間に流れた後、グランはハッ、とする。
「あぁ、すまない。話が大分脱線したな。それで本題だが……浦和ハナコ。お前、本当は頭良いだろ。あんなテスト簡単に100点取れるぐらい」
「あら、どうしてそう思ったんですか?」
「一つはお前がアズサに教えた知識に間違いはなかったこと。他人に教えられるほどしっかりと知識が定着している証拠だ。そしてもう一つ……俺はお前を知っている」
「補習授業部以前に会ったことがありましたか?」
グランの言葉にハナコ目はスウッと細くなる。そしてどこかで会ったことがあるのかと過去の記憶を遡るが少なくともハナコの記憶にグランの影は無かった。
「あぁ、言い方が悪かった。"お前の様な人間を知っている"」
「私の様な?」
「その身に有り余る才能に人生を振り回され、ただただ虚しく死んだように生きていた女を知っている。その女はハジけると今のお前のように変態行為に走っている。お前もそうなんだろ?」
「……そうだとしたら、なんです」
ハナコは眼を伏せながらグランに話の続きを促す。
「今、ウチの組織にその女がいるんだが仲良くやれそうだなと思ったんだよ。同じ悩みを抱えていた人間としてな。どうだ"ハナコ"
「私は……」
グランはハナコに向かって差し伸べる。ハナコはグランの顔と手を交互に見る。グランの言葉はもっともで、いくら本性を隠そうともトリニティ総合学園はもはやハナコにとって生き辛い場所であり、退学したいとも思っていた。退学した後どうするかはまだ思いついていなかったが、自分と同じような人間がいるならば、色々と話せるかもしれないと思いグランの手を取ろうとした。
「もう自分の力を発揮できる場がなくてストレスをためることは永遠に無いぞ」
ハナコの手が止まる。
「ブラックマーケットは退屈な高校生活とは程遠く、暴力と欲望渦巻く場だ。決してお前を飽きさせることはない。お前のその頭脳と才能、存分に活かしてほしい」
「……あぁ、なんだそういうコトでしたか」
ハナコは伸ばしかけた手を引っ込めて胸の前で握りしめる。そんなハナコの行動にグランは首を傾げる。
「どうした?」
「ええ、私分かったんです」
そういってグランの胸に抱き着くハナコ。グランはそんなハナコの行動を快諾してくれたのかと思い、腕の中のハナコに笑いかける。
「そうか、分かってくれたか! お前の才能はブラックマーケットでこそ―――「貴方も結局、私を見ていないってことが」
「は?」
気が付いた時には既にハナコによって体を突き飛ばされた状態だったグランはそのまま夜の冷たいプールの中に一人落っこちるのであった。
グランが水の中から見たのは今まで見た事がないほどの無表情で真っ黒な目でこちらを見つめるハナコだった。
「期待したのに……」
グラン君、痛恨のプレミ。これにてハナコの『ODI ET AMO』加入√は消え去りました。
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