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「お待たせしました、ではそろそろ始めましょうか?」
「は~い♡」
「うん」
「うぅ……全部見られた……もうダメ……」
合宿二日目。補習授業部の面々とグランは教室の机に座りながら次の学力試験に向けて勉強を始めようとしていた。
「どうして下江は朝からあんなぐったりしてるんだ?」
「あ、あはは、それはですね……。今朝起きたと―――「特に大事はありませんでしたから大丈夫ですよ代表。ね? ヒフミちゃん♡」
「え、あ、は、はい」
「……そうか」
グランはなぜか既に疲れ切っているような表情で机に突っ伏しているコハルの事が気になり、ヒフミに話しかける。話しかけられたヒフミは答えようとしたのだが、途中でハナコが笑顔のまま二人の間を遮りなんでもないとグランに告げる。ヒフミにはわからなかったが、そのときハナコはグランの方に向いた時だけ一瞬目を開いて昨晩の真っ黒い目を再びグランに向けた。
「その……グランさんの方こそ、ハナコちゃんと何かありましたか? なんか、その……雰囲気が……」
「あー、まー、色々?」
今度は逆にヒフミの方からグランに何かあったのかと聞くが、グランはどう答えた物かと考え、結局ははぐらかすことに。何とも煮え切らない返事だがグランとそれなりに付き合いのあるヒフミはグランも事態を把握しきれておらず悩んでいることを察する。
「話せるようになったら聞かせてくださいね?」
「あぁ、すまないな」
そうとだけ言ってヒフミはグランから離れる。そして教壇へと向かう。
「みなさん、こちらをご注目ください!」
大きな声を出して注目を集めるヒフミ。全員の死線が集中していることを確認もすると再び口を開く。
「……今日は補習授業部の合宿、その大切な初日です! 私たちは大変な状態で、ともすれば慌ててしまいがちな状況ではありますが……。難しく考える必要はありません! 一週間後の第2次特別学力試験で合格する、それだけです!」
「そうだね」
「ですね♡」
「……」
「ほぅ……」
教壇に立ってそう力強く宣言するヒフミ。アズサ、ハナコは頷いて返事をして、コハルはまだ不安なのかヒフミの方をジッと見つめるだけだった。そんな中、グランだけは別の意味でヒフミに注目していた。
「(ヒフミの奴……自分では自身のことを普通だとか言っているが、何度言ってもブラックマーケットに来る度胸、好きな物の為なら手段を選ばない思考、人を惹きつけるカリスマ、そしてこうやって皆をその気にさせるように口も上手い。……案外ヒフミは政治家向きの才能があるな。……もしかして桐藤がヒフミに目をかけているのは次代のティーパーティーとしてか……?)
「そこで……今から、模擬試験を行います!」
「……模擬試験?」
「なるほど……?」
「きゅ、急に試験!? なんで!?」
「闇雲に勉強をしてもあまり効率が良いとは言えません。着実に目標達成のためには、何が出来て何が出来ないのか、今どのくらいの立ち位置なのか……まずそれを把握する必要があります!」
「成程……道理だな」
「ふふふ」
ヒフミの言葉にグランが頷いて感心する。するとその隣でハナコがクスクスと笑う。
「……何が可笑しい」
「いえ。ただ、ブラックマーケットの人間が"道理"ですか?」
「……」
バチバチと不穏な空気を募らせるグランとハナコにヒフミは気が付かず話を続ける。
「どいうわけで、昨晩こちらを準備してきました! 昨年トリニティで行われた試験問題と、その模範解答です! まだ中途半端と言いますか、集められたのは一部だけですが……。先生も昨日遅くまで手伝ってくださって……第2次特別学力試験を想定した、ちょっとした模試のような形にできました!」
「昨日ってあの後にそんな作業を……(俺がプールに落とされていた間に……)」
「ま、先生だからね。これくらいは!」
グランが驚きつつ模試の用紙を見つめるとその隣で胸を張ってドヤ顔をする先生。
「試験時間は60分、100点満点中60点以上で合格。つまり本番と一緒です。さぁ、まずはこれを解いてみましょう!」
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「みんな準備できた?」
先生の呼びかけに頷いて答える生徒たち。それを確認した先生は手にタイマーをもって合図をする。
「じゃあ……試験、開始!」
先生の合図に一斉に回答を始める。
「……」
アズサは黙々と回答を続け、
「あら、これは……♡」
ハナコはなぜか微笑みながら回答し、
「どこかで見たような……見てないような……」
コハルは首を傾げながらゆっくりと筆を進め、
「(みなさん、頑張りましょう……!)」
ヒフミは元から合格点に届いていたこともあり、他社を心配する余裕すらある。
「……たかしが時速320㎞を超えた? なぜ……どうして」
グランは自身の計算のどこが間違っているのか理解できず、疑問符を頭に浮かべている。そうこうしているうちに試験時間は終了を迎え模擬試験は終了した。しばらく先生が採点作業をして結果が出そろう。
「では先生、結果発表をお願いします!」
第1次補習授業部模試、結果―――
ハナコ 4点 不合格
アズサ 33点 不合格
コハル 15点 不合格
ヒフミ 68点 合格
グラン 40点 補習授業部でないため合否関係なし
「……そうか」
「……え?」
「あらまぁ」
「……」
「……おぉ」
発表された結果に各々のリアクションを見せる。そして結果を見たヒフミは再び教壇の所まで行き、語り出す。
「これが今の私たちの現実です。このままだと、私たちの先に明るい未来はありません……。ここからあと一週間、皆で60点を超える為には、残りの時間を効率的に使っていかなければならないのです!」
ヒフミは教壇をバンッと叩いて宣言する。
「そこで! まず、コハルちゃんとアズサちゃん、それからグランさんも1年生用試験ですので……私とハナコちゃん、先生が、三人の勉強内容をお手伝いします! ハナコちゃん、最近何があったのかは知らないのですが、1年生の時の試験では高得点だったんですよね?」
「あら……? えっと、まぁそうですね……」
「……嘘だろ、これ一年用だったのか……」
ヒフミがなんとなくで言い放ったグランの問題用紙が一年生用であるという事実にグランは激しく動揺する。そしてハナコは自分の過去の成績がヒフミにバレたことであることを恐れて反応が鈍る。
「実はその、1年生の時のハナコちゃんの答案を見つけてしまいまして……それでハナコちゃんの方については後程、今の状態になってしまった原因をしっかり把握した上で、私と先生と一緒に解決策を探しましょう!」
「写メ、写メ撮ってホシノにも送ろう……。『頼む、何も聞かずにこの問題解いてみて欲しい。』っと……」
「まだ途中ですが他にも試験を作成中ですので、今日から定期的に模試を行って、進捗具合も確認出来ればと思っています」
そこまで言い切ってヒフミは眼を瞑り一呼吸淹れる。
「これが恐らくは、今出来るベストの選択……。頑張りましょう! きっと頑張ればどうにか、みんなで合格できるはずです……!」
「……うん、了解。指示に従う」
「わ、分かった……」
「ヒフミちゃん……凄いですね。昨晩だけでこんな準備を……」
「あ、いえいえ、先生も手伝ってくださったので……」
「成程、先生が」
ハナコの視線が先生へ向く。ハナコの視線に気が付いた先生は穏やかな表情で首を振る。
「大したことはしてないよ、これはヒフミの頑張りの成果」
「それだけではありません、何とご褒美も用意しちゃいました! えっと……」
そう言ってヒフミは一度教室から出ていく。
「こちらです!」
そして次に教室に入って来たヒフミは大きなカートを押していた。カートの上にあるのは大小さまざまなぬいぐるみ。
「いい成績を出せた方には、この『モモフレンズ』のグッズをプレゼントしちゃいます!」
「モモフレンズ……?」
「……何それ?」
「……ッ!!」
ヒフミの持ってきたぬいぐるみを珍妙な物を見る目で見つめるハナコとコハル。その時、アズサに電流走る。
「あ、あれ? 最近流行りの、あの『モモフレンズ』ですが……もしかして、ご存知ないですか……?」
「初めて見ましたね……いえ、どこかでちらっと見た気も……?」
「ええっ!?」
「なにこれ、変なの……豚? それともカバ……?」
「ち、違います! ペロロ様は鳥です! 見てください、この立派な羽! そして凛々しいくちばし!」
コハルの勘違いを許せないのかヒフミはペロロの人形を持ってコハルにしっかりと見せる。
「……目が怖い。それに、なんか名前も卑猥だし……」
「えぇっ……!? た、確かにそう仰る方も一部にはいますけど……よ、よく見てください。じっくり見てると何だか可愛くないですか?」
「キモカワってやつだね」
先生がペロロのことをそう称する。実際先生も最初は不気味に見えていたがキヴォトスで過ごしているとそれなりに目にする機会があり、だんだんと可愛さを見出せるようになっていった。
「あ、思い出しました。そういえばヒフミちゃんの鞄や、スマホケースがそのキャラでしたね。たしか、舌を出して涎を垂らしながら、もう許して……っ! と泣き叫ぶキャラクターだったとか……?」
「え、いえっ、後半部分は色々と違いますよ!?」
ハナコの言葉に愕然とするヒフミ。
「……わ、私は要らない」
「あうぅ……」
コハルの拒否にしょんぼりとするヒフミ。そんな中一切話さずにぬいぐるみを見つめ続けるアズサ。
「……」
「おい、アズサ。どうした?」
「……か」
「か?」
だんまりを続けるアズサにグランが話しかけるとアズサは『か』と言って動きがぎこちなくなる。グランが続きを促す様に繰り返す。
「可愛い……!」
「!!?」
「!?」
「あら……?」
「ノノミに続いてお前もか……」
「おまかわ」
アズサの発言にヒフミ、コハル、ハナコが驚き、グランはノノミに続いて二人目の意外な人物がモモフレ好きだと発覚したことに天を仰ぎ、先生はアズサの可愛さに感動している。
「か、可愛すぎる……何だこれは、この丸くてフワフワした生物は……! この目、表情が読めない……何を考えているのか全く分からない……!!」
「あ、アズサちゃん……?」
「流石はアズサちゃん、ペロロ様の可愛さに気づいてくれたんですね! そうです! そう言うところが可愛いんです!」
「うそぉ……!?」
そこにはコハルの知らない世界が広がっていた。
「こ、こっちは? この長いのは? いもり……いや、キリン? 何だか首に巻いたら暖かそうな……!」
「それはウェーブキャットさんです! いつもはウェーブして踊っている猫なのですが―――」
その後もアズサがキャラを聞いて、ヒフミが解説をするという場面が暫く続いた。そうして全てのキャラを説明し終わると……。
「……やむを得ない、全力を出すとしよう。良いモチベーション管理だ、ヒフミ。約束しよう。必ず任務を果たして、あの不思議でフワフワした動物を手に入れて見せる!」
「は、はいっ! ファイトです! えへ、えへへへへへ……」
「あら、何だかヒフミちゃんが楽しそうに、と言いますかお人形さんと同じような表情に……♡」
「モモフレ仲間が出来て喜んでいるのかな?」
先生が微笑ましいものを見る目でアズサとヒフミを見ながらそう話す。
「えぇ……」
コハルの信じられない物を見る目と声が響いた。
数分後、教室ではホシノからの返信に突っ伏すグランがいた。
ホシノ、100点
ノノミ、100点
シロコ、93点
アヤネ、72点
セリカ、68点
ホシノだけに送ったつもりが、何故だかアビドス全員で模試を実施したらしく。一年生用の試験であるため3、2年組は楽々クリアし、一年生組が多少遅れをとったものの無事合格点に到達しているという結果だった。
「……俺はセリカよりもバカだった?」
若干失礼なことを言いながらグランは項垂れるのであった。
因みにセリカはバイトの会計時の経験で計算が滅茶苦茶得意だったりするのだが、グランはそれに気が付かなかった。
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