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「ふぅ、スッキリしました!」
「もうお風呂に入ったんだ、早いねヒフミ」
勉強終了後の空き時間、グランたちは合宿所のラウンジで雑談をしていた。するとそこに唯一その場にいなかったヒフミがジャージ姿でタオルを使って髪の水分を拭きとりながら現れる。先ほどまで風呂に入っていたようで僅かに石鹸の香り辺りに漂う。
「うふふ、そうですよね。なにせヒフミちゃんは朝にシャワーを浴びれず、今日一日中あるがままの香りで―――」
「わわっ! そ、その言い方は恥ずかしいです……っ! うう、寝坊さえしなければ……」
そんなヒフミの隣にささっと移動してハナコはヒフミの耳元で話し出す。その内容にヒフミは慌ててハナコの口を塞いで話を遮る。
「別にそんな神経質にならなくても別にヒフミは良い匂いだぞ? なぁ?」
「ああ、ヒフミはいつも良い匂いだ」
グランはラウンジのソファに寝ころんで、偶々目に入ったトリニティの学園案内のパンフレットに目を通しながらヒフミのにおいについて発言する。そして隣にいる一人用クッションに座っているアズサに同意を求めるとアズサも真剣な表情で首を縦に振って同意する。
「そ、そういう問題じゃないですよ!」
「代表さん……ほんっとうに……はぁ」
「えっ、エッチなのはダメ!」
「グランー。女の子の香りについて語るのは少しデリカシー無いんじゃない?」
二人の発言にヒフミは顔を真っ赤にしてプリプリと怒り、ハナコはまた黒い目でグランを見つめ、コハルが暴走し、先生も窘める。
「……っす」
アズサを除く全女性陣から避難の視線を向けられたグランは首を竦めた後、視線を急いでパンフレットに戻して黙り込む。
「元々の原因はヒフミが私たちの為に模試を準備していたからだ。ゴメン、ヒフミ。もし明日の朝も起きるのが辛かったら言って。今度はヒフミの体を洗ってあげる」
クッションから立ち上がったアズサはヒフミの両手を取って真剣な表情でそう告げる。
「い、いえ、それは遠慮させていただこうかと……!?」
「自分で洗えば良いでしょ! 子供じゃないんだから!」
アズサの提案にヒフミは苦笑いで遠慮する。すると部屋の隅で体育座りをして本を読んでいたコハルも立ち上がり意見する。
「効率の問題だ。みんなで洗うことによる利点は少なくない。もちろん水の節約にもなる」
「大浴場はないので、皆で一心不乱に洗いっこというイベントはちょっと難しいようですが……。あ、良い事を思いつきました。今度お風呂代わりに、みんな裸でプールに飛び込むのはどうでしょう?」
ハナコが暫く考え込んだ後、衝撃的な発言をする。
「さらっと何言ってんの!? ダメ! そんなすごいの絶対禁止ッ!!」
「("すごいの……?")」
「悪くない案だと思うけど、それをプールでやるメリットがあるのか?」
ハナコの提案にコハルは顔を真っ赤にして首を千切れんばかりに横に振りまくり拒絶を繰り返す。そんな中先生がコハルの発言に内心疑問を感じて微妙な表情を浮かべ、アズサは自分の感じた疑問をハナコに質問する。
「解放感があると思いませんか? 青空の下、全てをさらけ出して掛け合う様子を想像するだけで……うふふ♡」
「なるほど、そういうのは確かに考えていなかった。解放感、か……」
ハナコの回答にその場面を想像し始めるアズサ。
「バカバカバカバカ!! 考えちゃダメ想像しちゃダメそういうのはダメッ!」
コハルが大声を出してそのアズサの思考を無理やり止めさせる。そしてコハルはハナコにビシッ、と指をさして言葉を続ける。
「アズサを変な風に染めるな!! トリニティの変態はあんただけで十分だから!!」
「そういえばコハルちゃんも全裸で泳ぎたい派ですよね?」
「脈絡全無視!? 無敵なの!?」
話の流れを全て無視してブッ込んでくるハナコに驚愕するコハル。そんな二人にグランは一言を添える。
「相手の言い分無視して自分の言いたいことだけ言い続けるのは狂ってるが有効な手段だぞ下江。レッドウィンターじゃそれが当たり前だ」
「え、何それ……。と、というか、そもそもそんなこと言ってないから! プールでは普通に水着! それが正義なの! あんただって昨日はちゃんと着てたじゃん!」
「あら……?」
コハルの指摘に一度首を傾げたハナコはそのあと薄く笑ってコハルに近づく。
「よく思い出してみてください、コハルちゃん。私が昨日プールで来ていたものを……」
「え、あ、あの水着が何……?」
コハルはハナコの言葉に記憶を遡りハナコの昨日の格好を思い出す。
「あれは、本当に
「!?!!? み、水着じゃなかったら何なのよ……!?」
ハナコの発言にコハルは肩をビクリと震わして恐る恐るといった様子でハナコの顔を見る。
「最近の下着はデザインがかなり充実していますし、一目で水着かどうかの判断は難しいと思いませんか? それに、ペイントという線も……♡」
「……!?!? え、嘘!? って、いうことは……!?」
「あら、どうしたんですか? あれがもし水着じゃなかったとして、何かが変わってしまうんでしょうか? ねぇ、コハルちゃん?」
「え、だ、だって……」
コハルはシドロモドロになり、次第に声が小さくなっていく。
「例えば、水着と下着の違い……それは何でしょう? 防水機能? お肌の保護? デザイン? 露出の範囲? コハルちゃんは見た目で分からなかったですよね? あの場、あの時は、それは『水着』だと信じられていましたよね?」
「……???」
ハナコの言葉は途切れることなく続きコハルの脳はすでにパンク寸前だった。
「実はアレが下着だったとして……その『真実』かもしれない何かは、どうすれば証明できるのでしょう? 証明できない真実ほど無力な物は無い……そう思いませんか?」
「な、なに言ってるのか分かんない……け、結局どういうこと?」
「(いや、アレは確実に水着だった。結局は下江を揶揄いたいだけだろうな……)」
真剣な表情で語り続けるハナコにコハルはついに我慢が出来なくなり、結論を求めて声を荒げる。そんなやりとりをソファから聞いていたグランは自身の記憶をたどりハナコの着用していたものを水着だと結論図蹴るが、混乱しているコハルの様子は見ていて飽きないのでしばらく黙っておくことに。
「あの水着可愛かったですよね、というお話です♡」
「……ッ」
「はぁ!? 全部冗談!?」
秘密にしておこうとグランが内心決めた瞬間ネタ晴らしが始まったため、グランはがっくりとしてソファから落ちかける。
「……なるほど、五つ目のあれか」
グランがソファから落ちかけた体制をもとに戻しているとアズサが何かを思い出したかのように口を開く。
「……!」
「五つ目……? えっと、アズサちゃん、何のお話ですか……?」
アズサの発した言葉にハナコが驚愕の表情を浮かべる。そして何の話かさっぱり理解できなかったヒフミがアズサに質問をする。
「ただの聞いた話だけど……キヴォトスに昔から伝わる七つの古則。確か、その五つ目だったはず。『楽園に辿り着きしも者の真実を、証明することはできるのか』……そんな感じだった気がする。残りは知らないけど。つまり、誰も証明できない楽園は存在し得るのか……そういう禅問答みたいなものだったと記憶している」
「アズサちゃん、どうしてそれを……その話を知ってるのは……もしかしてアズサちゃん、セイアちゃんに会ったことがあるんですか……!?」
アズサの説明を聞いて考え込むグラン。
「……セイア?」
「それって、ティーパーティーのセイア様のことですか……?」
コハルがセイアの名前を聞いて首を傾げるのを見て、『正義実現委員会……なんだよな?』とグランは内心心配になり、ヒフミはナギサからの繋がりで聞いた名前だということを思い出す。
「……分からない。この話はただ、どこかで聞いた記憶があるだけで……」
「そうでしたか……そういえばアズサちゃんは転校生、でしたね…… vanitas vanitatum……ということは……」
ハナコはアズサがかつて口にした言葉を思い出して何かを考えこむ。グランはその言葉にアズサが語った以外の意味があるのかと思案する。
「いえ、何でもありません。もう遅い時間ですし、そろそろ寝た方が良さそうですね。では今日も一日お疲れ様でした!」
そういってハナコは話を終わらせてラウンジを後にする。残された面々は急なハナコの行動にしばし茫然とした。しかしハナコの言葉も真実でそれぞれ寝支度を整えて解散となった。
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合宿所の屋上でグランは携帯である人物へ連絡を入れる。
「あぁ、俺だ。すまないな、こんな時間に。え、起きてた? なんで……あぁ、水音から察したから言わんでいい。 悪いが真面目な話だから本題に入らせてもらう。お前の所の情報部はかなり優秀だったな。うちの部署でも調べているんだが、少し力を貸してほしい。……あぁ、そうだな。貸し一つ、だな。―――『vanitas vanitatum』この言葉の意味、よく使われている地域、語源とか……そうだ。多角的な視点から調査してくれ。それもなるべく早く、特急で。ありがとう。今度必ず時間を作るよ。ん? ……そうか、俺も愛してるよ、マコト」
『―――ッ♡ ―――!!♡!♡』
最後のマコトはどうしてこんな夜中まで起きていたんでしょうかねぇ……?