シャーレの部長はブラックマーケットの代表   作:四脚好き

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143話

合宿所 教室

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 ラウンジでの一件と、グランがマコトに電話をかけた次の日、今日も今日とて補習授業部は勉強に集中していた。

 

「……よし」

「……」

「んん……?」

「(先生、グランさん、いったいどちらへ……)」

 

 しかし、その場にはグランと先生の姿はなかった。先生は朝一、シャーレとしての活動があり今日は席を外すとだけ教室に伝えに来て補習授業部の活動をヒフミに一任して去っていったのだった。そしてグランに関しては『今日は欠席する』とだけ書かれた置手紙を教室に残されており行方知れずだ。それぞれが勉強に熱心に打ち込んでいる中ヒフミだけが集中しきれずにいたのだった……。

 

合宿所 プール

────────────────────────―――――――――

 

「わぁっ、水が入ってるー! あはっ、ここに水が入っているのなんて凄く久しぶりに見たかもー。もしかしてこれから泳ぐの? それともみんなでプールパーティー?」

 

 プールに水が入っているのを見て駆け出し、プールサイドについて驚いた表情を見せる白い翼をもった美しい生徒。ティーパーティー、パテル派首長、聖園ミカは先生に相対していた。

 

「ミカ、用件を聞いても良いかな?」

 

 プールサイドに走り寄ったミカににワンテンポ遅れて先生もプールサイドに立ち入り、ミカを見つめる。

 

「……えへへ」

 

 先生に見つめられたミカは少しばかり照れくさそうにはにかんだ。

 

「先生は上手くやってるかな、って思って」

 

 

トリニティ ???

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「今朝、あなたから連絡があったときは驚きましたよ、水戸グランさん。それでトリニティの裏切り者について分かったこととは一体何でしょう? 態々こんな場所まで用意したのです、それなりの情報を持ってきてくださったと考えますよ?」

 

 補習授業部とも、先生のいる場所とも違うその場所。フィリウス分派の本部、首長の部屋。トリニティらしい気品を感じる調度品が置かれ、家具の一つ一つが纏うオーラと言うべきものが違うのを感じさせるその部屋で部屋の主である桐藤ナギサは目の前を見つめる。

 

「トリニティの裏切り者……それが誰かは判明した。そして……別の問題が発生した」

 

 ナギサの目の前にはソファーに尊大な態度で座り紅茶を音を立てて啜る男がいた。そんな男の態度にナギサの目線は自然と鋭いものになる。

 

「……いくら招かれた身とはいえ最低限のマナーは守るべきでは?」

「俺がそんなのを気にする人間に見えるか?」

 

 ナギサの方を向いて不敵に笑う男、それは水戸グランだった。

 

「守らないではなく、ただマナーを知らないだけではありませんか?」

「……」

 

 ナギサも条約や裏切り者のことで気が立っているのだう。普段なら絶対にしないであろう強気の指摘をグランに対してぶつける。ナギサに言われたことが図星だったのか固まるグラン。それを見て察したナギサは一つ溜息をついた後自身もカップを持って実践してみせる。

 

「ティーカップの取っては指を入れるのではなくて、つまみます。それから紅茶を飲むときは、あごを上げずカップを傾けて飲んでください。さらに今回のようななローテーブルの場合、左手にソーサーを持ち、右手で取っ手をつまみます。最後に紅茶は音を立てて飲みません。わかりましたか?」

 

 ナギサがそう教えるとグランはそそくさとナギサの動作などを見ながら言われた通りにして今度は行儀よく紅茶を飲み始めた。

 

「(……あら? こういうところは素直なんですね……。ずっとこうだったらまだ可愛げがあるのに)」

 

 直ぐに言われたことを直して優雅に紅茶を飲み始めたグランを眺めるナギサはがらもなくそう思った。

 

「……なんだ、まだ何か違うのか?」

 

 グランはそんなナギサの視線を感じ取ったのかナギサの方を見て小首をかしげるグラン。

 

「いえ、大丈夫です。良く出来ました」

「……ん」

 

 何故だか不思議に子供っぽい目の前の男の雰囲気のせいかまるで年上か教師のように振舞い、グランの所作を褒めるナギサ。グランもすんなりナギサの誉め言葉を受け入れている。

 

「……」

「……」

 

 微妙な空気が漂い始めてしまったナギサの部屋。どうにか空気をリセットさせようとナギサが一つ咳払いをして姿勢を正す。

 

「では……単刀直入に聞きます。トリニティの裏切り者とは誰ですか?」

「裏切り者の一人は『白洲アズサ』で間違いない」

 

 グランはナギサを見つめてそう言い切った。ナギサはグランの言葉を受けて数秒考えこむ。

 

「何か……証拠はありますか? それに今"一人は"と言いましたね? それについても説明を」

「物的な証拠はは無い。全て状況証拠だ」

 

 グランの言葉にナギサは目に見えて落胆する。

 

「そしてこれが新たな問題……。『裏切り者は複数いる。それも補習授業部外に』」

「そんなッ!?」

 

 勢いよくナギサが立ち上がりガチャリと大きく茶器が音を立てる。狼狽えた様子のナギサを見上げつつ、グランは紅茶を口にする。

 

「……続きを」

「ん」

 

 暫くしてナギサが平静を取り戻し席に座り直す。そして続きを促されたことでグランは話の続きを喋り出す。

 

「まず確認するが、ここ最近姿を見せないティーパーティーの一人、『百合園セイア』は少し前に何者かの襲撃を受けた、間違いないか?」

「……その情報、どこからです?」

「企業秘密。だがその反応、肯定と受け取るぞ」

 

 ナギサの反応にグランは内心やはりか、と思い話を続ける。

 

「俺が白洲アズサを『トリニティの裏切り者』と結論付けたのにはいくつか理由がある。一つ目はあいつ自身の異常な戦闘技術からだ」

「戦闘技術……」

「ああ。回数は多くないがアイツの身のこなし、歩くときの重心移動、どれもこれもブラックマーケットでも見たことがある"本職"の動きだ。……キヴォトスには稀に生まれもって強大な戦闘センス、力をもって生まれるイレギュラーがいる。それは知ってるな?」

 

 グランは脳内にホシノ、ヒナ、ネルなどの人物を思い浮かべながらナギサに問いかける。その言葉にナギサも頷く。

 

「我が校では正義実現委員会のツルギさんなどがその例に当てはまりますね」

「あといるだろう、もう一人」

「?」

「お前の幼馴染もその類だろうが」

「そうでしたね……」

「ともかく、その線でも考えてみたんだがアイツは違う。後天的な訓練で培われたものだ」

「その根拠は?」

「実際にイレギュラーどもと戦ってきた俺の経験が違うと言っている」

「また、個人の主観ですか……」

 

 グランの言葉に頭を抱えるナギサ。

 

「他にもアイツはIEDを作るのがうますぎる。作れる種類も短時間で作れる数も異常なほど多い。あれは普段からそう言ったたぐいの物を作っていないとできない動きだ。補習授業部の中でアイツだけだ、アイツだけが百合園セイアを襲撃できる能力を有している」

 

 そう言い切って再び紅茶に口を付けるグラン。しかしナギサはまだ納得は行っていないようで、懐疑的な視線をグランに向ける。

 

「それだけでは何とも言えませんね。他の理由は?」

「二つ目、白洲アズサは百合園セイアと接触したことがある。百合園セイアと浦和ハナコに親交があったことは?」

「僅かですが、あったようですね」

「昨日の出来事だ。ハナコはキヴォトスに伝わる古則をたとえ話に用いた。そしてアズサだけがそれが古則の話だと理解できた。するとハナコは凄まじく驚いていたよ。『百合園セイアにあったことがあるのか』とね。アズサはその場では否定していたが、アレは紛れもなく嘘だ。アズサにしては珍しく返事まで間が開いていたし、視線も泳いでいた。ともかく、アズサは百合園セイアと接触したことがある。それが襲撃される前、もしくは直前、あるいは……襲撃時なのかはまだ分からないが」

 

 グランは再び言葉を切る。二つ目の理由の説明が終わった、そう判断したナギサは口を開く。

 

「キヴォトスの古則ですか……。たまたま白洲アズサさんが知っていたという可能性は?」

「なくはないだろうが、限りなくゼロだ。なんならあの時話していたハナコにも聞いてみると良い。アイツもあの場では納得していたがアズサの嘘に気が付いているはずだ」

「浦和ハナコさんですか……」

「呼びかけても応じないだろうがな」

「……」

 

 ナギサは苦い顔を浮かべて自身も紅茶に口を付ける。

 

「三つ目の理由。これはさっき言った別の問題にもかかってくるもので、今こうしてお前と一対一で話している理由でもある」

「……」

「『vanitas vanitatum』聞いたことは?」

「古代語ですか?」

「あぁ。正式には『vanitas vanitatum et omnia vanitas』らしい。アズサが良く口にする言葉で……かつてこのキヴォトスに存在した学校……『アリウス』の校章にも描かれている一節だ」

「アリウス、まさか……」

 

 アリウスとい単語を聞いた時、ナギサの目が揺れ、肩が僅かに震える。グランはその動作を見逃さなかった。

 

「俺の所の人員を使ってアリウスについては詳しく調べているが、正直言ってお前ら(トリニティ)の方が詳しいだろ? 分かっていることだけでも、公会議の異端、現在のトリニティ以上にゲヘナを憎んでいるであろう存在、そんな場所からの転校生なんだよ。白洲アズサは。」

「……」

「それでもう一つの問題なんだが。白洲アズサの転校書類はどの派閥が持ってきたものだ? そしてティーパーティーの内部で以前『アリウス』という名前に聞き覚えは?」

 

 ナギサは何も答えない、ただギュッと手を強く握り口を噤んでいる。ただその動作からグランは何かを察する。

 

「パテル……だろ? それにさっきの反応、アリウスの名前も聞いたことがあるみたいだな」

「ッ」

「俺の言いたいことは察しが付いたか?」

「そんなはずはありませんッ! ミカさんが、ミカさんがそんなことをッ!」

 

 激高して立ち上がるナギサ。そんなナギサを冷めた目で見つめるグラン。

 

「だれもミカだとは言っていないが?」

「――ッ! 貴方がッ!?」

 

 ナギサはついに我慢ならず、あろうことかグランの首に手をかけ、締め上げる。目は見開かれ、興奮からか白い翼がバッサバッサと音を立てて動いている。しかしグランはいたって冷静に言葉を続ける。

 

「落ち着け、桐藤ナギサ。言っただろう? これは状況証拠でまだ全ては推論だ、真実とは限らない。今のお前は色々なことを抱え込み過ぎて冷静じゃない。というかこれはヒステリックが過ぎるだろう、もう一度いう、落ち着け」

 

 グランはナギサを刺激しないようにゆっくりと自分の首に回ったナギサの手に自身の手を重ねて、包み込みゆっくりと首から手を外させる。目を合わせてゆっくりと喋りかけてナギサを落ち着かせる。グランの誘導通りに手を離して少しずつ正気に戻ってきたのだろう、ナギサの顔色はどんどん青くなっていく。

 

「え、あ、ご……ごめんなさい、私、なんて……ことを……」

 

 腰が抜けたのだろう、ふらりと倒れかけるナギサ。

 

「おっと」

 

 それをすかさず抱きかかえて床に腰を打ち付けるのを寸でのところで防ぐグラン。

 

「……しっかしあれだな。割と激情家ですぐに手が出る所とか、ミカそっくりだな。お前」

「……え?」

 

 グランの腕の中にすっぽり収まったナギサは急にかけられた言葉に呆気にとられる。

 

「さっきも言ったけど、これは全部俺の推論で最悪なパターンだ。そこまで思いつめるな。それでお願いがあるんだ」

「何でしょうか?」

 

 ナギサはグランの腕の中で顔を上げてグランの顔を見る。

 

「物的証拠を押さえる為、このまま補習授業部を続けさせてくれ。ミカやアズサが怪しい動きをしたとしても放置だ。勿論他の人間が犯人だった場合も考えてたの部員にも目は配るから安心してくれ。お前は今まで通りの接し方で構わない」

「分かりました」

「それからもう一つ、先生にはなるべく干渉するな。あの人は少しばかり高潔が過ぎる。以前話してるから分かると思うが、先生は先生のやり方で解決を目指すだろうからな、お前のやり方とじゃそりが合わない。

 それならいっそ、先生は先生のやり方で、俺達は俺達のやり方で事態の解決を目指すしかない。俺はお前の側についてやる」

 

 そこまで言ってグランは言葉を切る。ふとナギサの中に疑問が浮かぶ。

 

「どうしてあなたは私の側に? 以前の態度からあなたは先生側に着くのかと思いましたが……?」

「あー……」

 

 ナギサの言葉にグランは気まずそうする。

 

「確かに最初はお前が嫌いだった。誰よりも生徒の事を思う先生を利用して生徒を退学させようってんだからな。でもまぁ……なんだ、一度頭、というか、全身びしょ濡れになって冷静になる機会があってだな……」

「全身ですか……?」

「あぁ、それで思い出したんだよ、自分の学校を守るためになんでもやって、後輩たちの為なら自分の命も使ってしまう。先輩もそういう人だったってことを。ずっと隣にいた気がして忘れてた……」

 

 グランの目は後悔に満ちていて、目はナギサを向いているはずなのにその目はナギサではない誰かを映していた。

 

「ずっと俺は俺が先輩に何をしたのかを見ていて、先輩が何を俺にしてくれたのかを見ていなかったんだ」

「えっと……グランさん?」

 

 少しずつ黒くなっていくグランの目にナギサは危険な物を感じて声をかける。

 

「ん? あ、ああ。ともかく、俺も同じ状況なら同じ判断をしたと思う。"大丈夫、ナギサは間違ってない"」

「……ありがとう、ございます」

 

 グランの真っすぐな言葉にナギは顔を伏せる。少ししてすすり泣くような声が聞こえてくる、その間グランはずとナギサの頭をなでていたのだった。

 





 錯乱した女の子を慰めて肯定して甘やかす。ミカにも使ったグラン君の常套手段です。
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