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「は、ハスミ先輩!?」
スイーツショップの店内でコハルは驚愕の視線でハスミを見つめて大声を上げてしまった。
「先生に代表、それから補習授業部の皆さん……」
「あ、あぁあぁぁぁ……!」
ハスミはグラン達を一瞥する。コハルは今の状況で最も会いたくない人物に遭遇してしまったことで顔を真っ白にして軽く震えている。
「ハスミさん、奇遇ですね♡ あら、真夜中にパフェを三個も……たしかダイエット中だと伺いましたが?」
「……うわぁ」
グランは気になりながらもあえて黙っていたことを、自身の隣で笑顔を浮かべたまま無遠慮にぶち込んだハナコに思わず引いた声を出す。一方でそのことを指摘されたハスミは顔を赤らめてグラン達とパフェの間で視線を行き来させる。
「こ、これはですね、その……」
「はい、心中お察しいたします。真夜中に襲ってきた悪しき欲望に導かれて、ここまで来てしまったのですよね?」
「え……!? い、いえその……」
「そうして欲望のままめちゃくちゃにしてしまった後、理性を取り戻したころにはもう取り返しがつかない程に乱れて……」
「夜中って、お腹空くよね!」
ハナコの物言いが段々と危なくなってきたのをキッド1との経験で察した先生は話を遮るために態と大きめの声で二人の間に割って入る。
「せ、先生……こほん。その、自分のことを棚上げするようですが、補習授業部のみなさんはそもそも合宿中の外出が禁じられているはずでは……?」
「ヒゥ!」
ハスミの言葉にコハルがビクリと肩を震わせる。
「そうだなぁ……。だからハスミ、ここはこうしよう。"お互いに何も見なかった"それでこの場はすべてが収まる。どうだ?」
そう言いながらグランはゆったりとハスミの前の席に座り、そう話しかける。そしてテーブルの上に置いてあったハスミの伝票を手に取る。
「限定パフェ、それも複数。いくらトリニティがお嬢様学校とはいえそれなりだろう。もしお前が同意してくれればお前は今日の出来事も、ここの支払いも心配せずに思いのままパフェが味わえると思うんだが……」
グランの提案にハスミは黙り込む。そして目の前のパフェをスプーンでひと掬いして口へと運ぶ。そしてゆっくりと口内で味わった後飲み込む。それからゆっくりと口を開く。
「乗りました」
「ありがとう」
グランとハスミの間で合意が結ばれて握手が交わされる。グランはそうしてハスミの伝票をポケットに入れる。
「は、ハスミ先輩……」
「コハル、お勉強頑張っていますか?」
話がひと段落ついたのを見てコハルがおずおずとハスミに話しかける。それに対してハスミは慈愛に満ちた表情でコハルを撫でつつ対応する。
「あ、えっと、それは、その……」
「コハルは最近、成績がすごく上がってるよね」
「は、はい、そうです……! コハルちゃんはこのまま行けば全然合格できるくらい、頑張っていて……!」
ハスミの質問に緊張して上手く答えられないコハル。そんなコハルに代わって先生が答えて、ヒフミが更にアピールをする。
「成程、そうでしたか」
「うう……その、えっと……」
「それはなによりです。言ったではありませんか、コハルはやればできると。あの時も言った通り……」
そう言ってハスミは何かを思い出しているようだった。
「えへへっ。ハスミ先輩の期待を裏切りたくないですから」
「はい。引き続き応援していますよ、コハル。早く正義実現委員会に戻ってきて、一緒に任務を遂行できる時を心待ちにしていますから」
「はい、頑張ります……!」
「良い話……」
コハルとハスミのやり取りに先生が若干目を潤ませながら感動する。そんな最中ハスミのスマホが急になり出す。
「……こんな時間に、連絡……? はい……イチカ? どうかしましたか?」
『ハスミ先輩、ちょっと問題が発生しちゃいまして。今どちらに?』
ハスミはスマホの画面に表示された名前を見て電話に出る。そして電話先にいるイチカの声からただ事でないことを察して声が硬くなる。
「問題……? 詳しく聞かせて頂けますか?」
『どうやら学園の近郊にゲヘナと推測される生徒たちが無断で侵入、さらに無差別に銃撃を行いつつトリニティの施設を襲撃している、との情報が』
「襲撃……ゲヘナの風紀委員会ですか!? それとも万魔殿が遂に本性を……!?」
『あ、いえ、それが……』
ハスミの剣幕に押されたイチカ。イチカが押されて返事をためらった間にハスミの感情はヒートアップしていく。そんなハスミの様子を隣で見ているグランと先生も厄介ごとの気配を感じ取ってか顔を引き締める。
「誰であれ、きっとエデン条約を邪魔しようとする意図に違いありません……! 規模は何個中隊ですか? 場所は、その施設はどこですか!?」
「落ち着けハスミ。感情的になり過ぎだ、少し変われ。ほらこれでも食ってろ」
「ちょ、グランさ、むぐぅ!?」
「イチカ、俺だ。状況報告」
グランんはハスミからスマホを奪い取り、おどろいたハスミの口にパフェをスプーンですくって入れる。最初こそ何事かと驚いたがすぐに舌の上でとろける甘味にうっとりするハスミ。
『ぐ、グランさん!? なんでハスミ先輩と一緒にいるっすか!?』
「今、それどころじゃないだろ。敵は?」
「え、あ、えっと……取り合えずゲヘナの風紀委員会ではなく兵力も全然少ないっす。確認されてるのは4名だけっすね』
「4……便利屋か――」
『襲撃されたのは……アクアリウムみたいっすね。展示中だった希少種の"ゴールドマグロ"を強奪して逃げてるとかで』
「――美食研究会の連中で決まりだな」
イチカの報告で襲撃犯の正体を断定したグラン。
「イチカ、そいつらは美食研究会だ。美食の探究の為ならなんでもするテロリストみたいな奴等だ。リーダーは黒舘ハルナ、ゲヘナでもかなりの要注意人物だ」
美食研の厄介さはブラックマーケットでも変わらずであり、幾度か美食研の襲撃報告を受けたことのあるグランは頭に手を当てて、深い溜息を吐く。
『ところでグランさんとハスミ先輩はいまどちらっすか? 早くご命令を頂かないと、このままだとツルギ先輩が発射……跳び出しちゃいそうっすけど』
「あぁ、ほらよハスミ」
グランはハスミにスマホを返す。スマホを受け取ったハスミは大急ぎでイチカに指令を出す。
「と、とりあえずツルギは止めておいてください。私は今その、私用で少々外に……」
『いやー無理っすよ。ハスミ先輩以外じゃそうそう止められな……あっ、ツルギ先輩! 行かないでください! あとそっちはドアじゃなくて壁―――』
突如電話越しにガラスやらなにやらが砕け散る音が響く。それから数秒後……
『あー……とりあえずあたしらも一旦追いかけて、出撃しますね』
イチカがそう言い残して通話は切れてしまった。そして爆発音が聞こえる。通話は既に切れている、となれば実際に耳に届く距離で爆発が起きたということ。すぐに銃を手に取り警戒を強めるアズサ。
「近いな。爆発音からしてここから1㎞以内だ」
「え、えぇっ!?」
アズサの言葉にヒフミが驚く。そこで今まで沈黙していたハスミが口を開く。
「みなさん。突然の事ですみませんが、皆さんの力が必要です。お願いできますでしょうか? 今はエデン条約を目前に控えて、色々と過敏な時期です。この問題が傍から見て『トリニティの正義実現委員会とゲヘナの衝突』ととらえられてしまうと、状況が不利になることは想像に難くありません。つまり、補習授業部と『シャーレ』が一緒に解決してくださる……そういう構図が望ましいのです。せんせい、お願いできますでしょうか……?」
ハスミの視線に先生は笑顔で頷く。
「うん。よし、じゃあ補習授業部一同出動準備」
それから先生は真剣な表情になってシッテムの箱を取り出す。
「了解した。先生の指示に従う」
「ええっ!? い、いきなり戦闘ですか……!? あ、あうっ……」
「ふふっ……まあ、先生がそう仰るのであれば♡」
「よし、付近にいる部下共に偵察を命じる。戦闘地域の状況は随時シッテムの箱へ伝達させる」
先生の声でアズサは武器の動作確認などを始めて、ヒフミも困惑したように声を上げてはいるがバッグを開けて中にあるペロロデコイの数の確認をしている。ハナコは何故だか楽しそうにしており、グランはトリニティにいる諜報部員を動かす様にキッド3へ連絡をする。
「あっ、わ、私も……? 先生と……ハスミ先輩と一緒に……?」
あたりをキョロキョロと見回していたコハル。その肩にハスミが優しく手を置く。
「いつかこうして肩を並べる時期が来るとは思っていましたが……想像より早かったですね、コハル」
「は、はい! 頑張ります……!」
憧れの先輩と肩を並べて戦えることがよほど嬉しいのかコハルの頭にある羽がパタパタと激しく揺れていた。
「よし! それじゃあみんな、安全第一で行くよ!」
先生の合図でグラン達は美食研究会の元へ向かうのであった。
「グランさん……なんでハスミ先輩と一緒にいたっすか……。それに先輩は私用って……。こんな夜中に二人で……私用……」ギリィ