シャーレの部長はブラックマーケットの代表   作:四脚好き

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149話

ティーパーティー テラス

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「……お待たせしておりました。ご無沙汰しております、先生」

 

 補習授業部が模試で合格点を取ってから数日。第二次特別学力試験が明日に迫ったある日、先生はナギサから呼び出されて合宿所を離れ、トリニティ本館に訪れていた。

 

「あれからお変わりはありませんか? 合宿の方はいかがでしょう、何か困ったことなどありませんでしたか?」

「うん、お陰様で何とか。ところで今日はどんな用事?」

 

 ナギサの問いかけに先生はハッキリとそして僅かに硬い声色で返答をする。先生の表情は笑ってこそいるものの僅かに警戒の色が浮かんでおり、いつもの先生の姿を知っている人間が見れば非常に驚く態度だった。

 

「ふふっ、この合宿は言うなれば元々、『生徒たちをよく観察できるように』という配慮でした。そういうことなのですが、いかがでしょうか? 何か判明したことなどありましたか?」

「判明したこと?」

 

 ナギサの言葉に先生はわざと何を言っているか分からないという態度をとる。そんな先生を見てかナギサはスッと目を細めて冷笑を浮かべる。

 

「……もっと直接的に言いましょうか、『トリニティの裏切り者』はどなただと思いますか?」

「……前と同じになるけど、私は私のやり方で対処するよ」

「……そうでしたね。ただ第二次特別学力試験を目の前にして、あらためてそこを確認したかったのです。そこで、本日もこうしてお越しいただいたわけでして。……おそらく、ミカさんも接触してきましたよね?」

「!?」

 

 ビクリと驚きで肩を震わす先生。そしてすぐに内心『しまった』と反省する先生。先生のその反応を見てミカが先生と接触したのが本当であることを察したナギサは紅茶を一口飲んで再び問いかける。

 

「ミカさんと何をお話になったのか……よろしければ、教えていただけません?」

 

 声と顔こそ朗らかであったがナギサの目には決して逃さないと確固たる意志が宿っていた。

 

「私は、誰かを疑うことに時間を費やすつもりは無いよ」

「……?」

「あの子たちの頑張りが報われるように最善を尽くすだけ」

 

 しかし先生も一歩も引くことは無く、自身のやり方を貫き通すことを伝える。

 

「一度改めて、説明してみましょうか? どうして彼女たちなのか。先生の方にも色々と情報網があるかと思いますが……順番にお話ししましょう」

 

 そうしてナギサは先生に語り出す。コハルが、アズサが、ハナコが、そしてヒフミがどうして補習授業部に入れられたのか、彼女たちをどう疑っているのかをナギサは説明した。

 

「……どう足掻いたって私たちは所詮『他人』ですから。ですから、退学させるしかないのです。エデン条約……その成功の為に」

「……分かったかもしれない」

「……?」

 

 ずっしとナギサの話を聞いていた先生がここでようやく口を開く。 けれども先生の言葉はナギサにとっては理解できない物であり、疑問を浮かべるナギサ。先生はナギサの目を真正面から見つめる。

 

「ナギサ。今の君はきっと、疑心暗鬼の闇の中だ」

「……はて? 疑心暗鬼の、闇……」

「見たいものだけ見て、信じたいことだけを信じているんだと思う」

「……」

 

 先生の言葉に思うところがあるのか口を閉ざすナギサ。

 

「君をそこから出してみせる。そして絶対に、補習授業部のみんなを合格させる」

「……ふふっ、そうですか」

 

 先生の言葉から数舜沈黙が続く。そして急に口元を手で隠しながら笑うナギサ。

 

「理解しました。まあつまりは、お話がシンプルになったということですね。……承知しました。どうか頑張ってください、先生。私は、私なりに頑張りますので」

 

 そうして先生とナギサの会談は終わった。先生がテラスを出て行ってから少しすると柱の陰からグランが出てきた。

 

「……先生、頑固だろ」

「まったくです」

 

 グランは先ほどまでの先生とナギサのやり取りを隠れてずっと聞いていたのだった。

 

「人の上に立つ指導者には向かないタイプだよ。生徒にとっての良い指導者にはなれるんだがなぁ……。ナギサの事もすぐに分かっただろ?」

「私が疑心暗鬼だという話の事ですか……?」

 

 グランはゆっくりと歩いてナギサの座っているテーブルに自身も座り込み、テーブル上の茶菓子を一口、口に放り込む。既に食べ物の味は分からないが口内に広がるサクサクとした触感から出来の良いクッキーというのが理解できる。

 

「上手いな、これ。どこの店?」

「……私の手作りです」

「……すっげぇ上手い」

「ありがとうございます」

 

 グランの素直な感想が嬉しかったのか少しだけ上機嫌になったのかナギサは何を言わずにグランの前にカップを置いて紅茶を注ぐ。グランは会釈をして注いでもらった紅茶を飲む。その時グランはしっかりと以前ナギサに教えてもらったマナーを守っており、そのことに気が付いたナギサは思わず笑みがこぼれる。

 

「どうかしたか?」

「いえ、何でもありませんよ」

 

 グランはナギサの視線に戸惑い質問するが、ナギサは笑って何でもないと言ってごまかす。

 

「そうか? なら本題だが……これを」

 

 そう言ってグランはある建物の写真を取り出す。その写真をナギサは手に取って興味深そうに眺める。

 

「これは?」

「トリニティ郊外の廃墟だ。白洲アズサが夜中にこっそりと合宿所を抜け出してこの建物に出入りしているのを確認している」

「なるほど」

「あとこれは別の日だが、面白いものが写った」

 

 そう言ってグランは更に一枚の写真を取り出してナギサに見せる。

 

「これはっ……」

 

 その写真を見たナギサは驚いてみせた後悲し気な表情を浮かべる。

 

「聖園ミカだ。彼女もまた同じ廃墟に出入りをしている。……これは黒だろう」

「まさか本当にミカさんが……」

 

 以前にグランにその可能性を指摘されたときも動揺していたが今回でミカの関与が明らかになったことでナギサのショックは大きなものになっていた。頭を押さえてふらふらとした後椅子から落ちそうになる。

 

「お、おい! しっかりしろ」

「……ぁ、す、すいません。以前言われたときから覚悟はしていたのですがこうして目の前で現実を突きつけられると……」

 

 寸でのところでグランが対面から肩を掴んだことで椅子から落ちることは無かったナギサ。

 

「ところでこの建物については何か?」

「……内部についてはまだ詳細な調査で来てない。基本的にアズサか、ミカのどちらかが出入りしている間しか使われていないだろうし、無数のトラップもある。それにビル全体を調査できるような時間は無い。そこで相談があるんだが……」

「第二次学力試験をビルから遠い場所で開催してほしい……。そんなところでしょうか?」

 

 グランが言い切るよりも先にナギサが言葉の先を予想して言葉にして見せる。ナギサの予想が当たったのかグランは笑顔を浮かべる。

 

「話が早くて助かる」

「そして遠い場所で補習授業部の皆さんが学力試験を受けている間、グランさんがビルの中に入り調査をすると」

「より詳細な調査にカメラの設置なども計画している。上手く行けばこのビルの中でミカとアズサは何をしているのか、何と接触しているのか、それが判明出来る」

 

 グランの言葉にナギサは頷く。そして少しの間顎に手を付けて考え込む。時折、ぼそぼそと何かを喋っている。グランが何事かと耳を澄ませばいくつかのトリニティの施設の名前であろう単語を呟いている。恐らくどこが最も時間を稼げるのかを考えているのだろう。

 

「……グランさん」

「ん?」

 

 少しした後ナギサが何かを決意した目でグランを真っすぐ見つめる。

 

「ゲヘナの施設で借り受けられる場所はありますか?」

「は? ゲヘナ? ……ま、まさかゲヘナまで行かせて試験を受けさせるとか言うのか!?」

「はい、そのつもりです」

 

 思わず椅子から立ち上がって驚愕するグラン。その衝撃でティーカップが揺れてテーブルに紅茶がこぼれ広がる。グランにも紅茶にも反応せず淡々と返事をするナギサ。

 

「先ほどの先生と同じです。私は私なりのやり方で。……全力で『トリニティの裏切り者』を排除します。ですからグランさん……」

 

 ナギサはテーブルから立ち上がり、テーブルの上に広がった紅茶に左手を浸す。そして紅茶で濡れた左手をグランの口元へ突き出し、指先から滴り落ちる紅茶の水滴をグランに呑ませるナギサ。

 

「私の共犯者になってくださいますか?」

 

 そう語り、グランに抱き着いたナギサの目は決意に溢れ、冷たく、そしてとても妖艶であった。

 

 





 グラン君のクッキーに対する『上手い』は誤字ではありません。グラン君は書かれている通り味がもう判らなくなっているので『旨い』かどうかは判別できません。しかし触感は伝わるのでとても丁寧に作られたクッキーと言うのは判別出来ました。それゆえに『上手い』となっています。

 最近私の中でナギちゃんのヒロイン力の上昇が止まらない……。
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