シャーレの部長はブラックマーケットの代表   作:四脚好き

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151話

ナギサのセーフハウス 

────────────────────────―――――――――

 

「―――ええ、そのように。お願いしますね。……お待たせしました」

「もう良いのか?」

「はい。世間一般的にはただの廃墟ですから、現状は被害者がいないかの確認のみ、爆発の原因追究は後日と言う形に落ち着かせました」

 

 そう言ってナギサはソファに座っているグランの隣に腰を下ろす。深夜の大爆発から時間は過ぎてもうすぐ日が空に登る頃であろう時間帯。

 

「じゃあ立て続けで申し訳ないが、こちらの報告も聞いてくれるか?」

「勿論です」

 

 爆発事故に対して各所への指示だしを終えたばかりのナギサに少しだけ申し訳ないと思いながらグランは自分があの廃墟で見た物を報告する。

 

「今回手に入れた物的な物は羽とこの地図だけだな」

「少しばかり焦げてしまってますね」

「それは申し訳ない」

 

 グランは自身のポケットから廃墟で回収したものをテーブルの上に広げる。

 

「本職ならもう少し色々なものを回収できたのかもしれないな。引き出しなんて絶対に無警戒に開けないだろうし……。爆発物トラップに引っかかるとは」

「それは私が出来るだけこの事態を知る人間を少なくしたいとグランさんに潜入をお願いしたせいです。貴方は立派に仕事をしてくれました」

「そう言ってもらえると助かる」

 

 もう少しやり様があったんじゃないか、と落ち込むグランの手をそっと握ってナギサは慰める。慰められたグランは少し笑った後二人で机の上の物を確認する。最初に注目するのはやはり地図。

 

「この地図……トリニティ校舎のかなり細かいところまで書かれてるな」

「ティーパーティー本館、正義実現委員会本部、 各派閥の建物の内部構造まで……」

「これ程の地図を手に入れられるのは……」

 

グランはちらりと机の端に置かれた白い羽に目が映る。

 

「ミカさん……でしょうね」

 

 グランがあえて黙っていたことをナギサは口に出した。

 

「もう……良いのか?」

「……まだ信じたくはない、と言うのが本音です。ですが、これだけの証拠があるのです。もう覚悟を決めるべきだと理性では判断しました。私は……この学校の、トリニティの長、ティーパーティーのホストなのですから」

 

 決意にあふれた目をグランへと向けるナギサ。グランはナギサの決心を受け止め頷いて再び地図に視線を戻す。

 

「ここまで精巧だと逆にまったく情報の描かれていないシスターフッドが恐ろしいな」

「あそこは秘密主義の塊ですから……。ですが……この場合は都合が良いかもしれません」

「ん?」

 

 話している間に何か思いついたのかナギサは少しの間俯いて考え込む。そんな様子のナギサをジッと見つめるグラン。少しした後ナギサはそんなグランの目線に気が付いたのかハッとなる。

 

「す、すいませんグランさん。少し考え込んでしまいました」

「いや、別にいい。それで何かあったのか?」

「はい。もしかしたら後日、グランさんに会って欲しい方が出来るかもしれません」

「……今日ではない?」

「はい。グランさんも今日はお疲れでしょうし、この場は解散いたしましょう。私は学園に戻りますが、グランさんはこのあと如何お過ごしですか? もし休まれるというのでしたらこのセーフハウスでお休みになられても構いませんよ?」

 

 ナギサはそう言ってセーフハウスの鍵を取り出して見せる。

 

「いや、俺は一度補習授業部の方に戻る」

「そうですか」

「そういや、アイツらの方は?」

「全て予定通りです。試験用紙は紛失、試験は不合格扱いです。現在は合宿所で仮眠中のようですね」

 

 ナギサは補習授業部を監視している別の部下からの報告をグランに伝える。

 

「先生は?」

「……無傷です。最初グランさんの提案を受けたときは何事かと思いましたよ。まさか先生を爆発に巻き込ませるだなんて……。あの人は本当にキヴォトスの外から来た人なんですか?」

 

 二人ともセーフハウスから出る準備をしながら先生について語る。

 

「ああ、それは間違いない。しかしそうか……無事だとは予想していたが傷一つ付けられないか」

「何らかのオーパーツ……でしょうか?」

「……」

 

 グランの脳裏にはいつも先生が手にしているタブレットの存在がよぎる。ただそれを口にすることは無く身支度を終える。

 

 

「今回手に入ったのはミカが裏切り者だという証拠だけだ。肝心のアズサの証拠は手に入れられなかった。俺は補習授業部と共に過ごしながら引き続き証拠探しをする」

「お願いします。ですが第3次特別学力試験まで時間はあまりありません。頑張ってください」

「おう」

 

 二人とも身支度を整えてセーフハウスの玄関を出て別れた。

 

「どうか、お気をつけて」

「お互いにな」

 

補習授業部 教室 

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「もう嫌っ!! こんなことやってらんない! わかんない! つまんない! めんどさい!!」

「あ、えっと、その……こうして集まっているのは、そもそも退学せずに済むようにするためですし……取り合えずその、今はみんなで知恵を寄せ合って、何かいい方法を探さないと……。そうしないと、一週間後には本当仲良く全員退学、なんてことに……」

「『知恵を寄せ合う』……なるほど。悪くないのですが……――――」

 

 グランが補習授業部の教室に戻ると教室内は以外にも賑やかな声で溢れていた。

 

「……思ったより、元気そうだな」

「グラン!」

 

 グランが声をかけると先生が真っ先に気が付いて駆け寄ってくる。

 

「爆発に巻き込まれたと聞いたが平気だったのか?」

「うん、アロナのお陰で何とか。それよりグランも大丈夫? なんか……疲れてない?」

 

 代表としての仕事で補習授業部を離れていたことになっているグランを見て妙に疲れている、というか煤けている気がして先生はグランの無事を問う。

 

「くくく、良い事を教えてやろう先生。昨日は俺も爆発オチだった」

「それはなんとまぁ……」

 

 グランの発言に苦笑いを浮かべる先生。

 

「せ、先生ぇ……」

「あ、ひ、ヒフミ。私も協力するから。ねっ」

「よ、よろしくお願いします……」

 

 グランと先生が話ている間どうにか補習授業部の面々を制御しようとあくせくしていたヒフミが遂に先生に泣きついてきた。

 

「このままだと、本当に……私たちみんな、退学に……」

「ヒフミ」

「先生?」

「大丈夫、そんなことは絶対に私がさせない」

 

 不安がるヒフミの肩をしっかりとつかんで先生はそう強く宣言した。

 

その晩 合宿所 

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「何だかんだで戻ってくることになっちゃいましたね」

「もうお別れだと思って出たのに、すぐこうなるなんて。やっぱり人生は分からない物だ」

 

 再び全員集まることになった合宿所のラウンジでハナコとアズサがそう言って感傷に浸る。そんな二人を見てグランは少し笑う。

 

「感傷に浸っている場合じゃないでしょ!? これからどうするの!? っていうか、本当にティーパーティーの偉い方たちが私たちを退学にさせようとしてるなら、どうしようもないじゃん! 知恵を寄せ合ったところで、何をしたって無駄なんじゃないの!?」

 

 コハルがそう叫ぶ。

 

「一応、一週間後にある第3次特別学力試験が最後のチャンスではありますが……」

「ここまでありとあらゆる手で邪魔されてしまいますと、確かに厳しいかもしれませんね」

「あぅぅ」

「試験会場がブラックマーケット(ウチ)になるぐらいなら対応は出来るが……」

 

 ハナコはナギサによる妨害の数々を予測して、グランは試験会場の場所を予測する。

 

「そ、そもそもどうしてこんなことになってるのよ!? 何で退学にならなきゃいけない訳!? 『トリニティの裏切り者』とか意味わかんない! どうして私たちが疑われなきゃいけないの!?」

 

 コハルは感情を抑えきれず地団駄を踏んでそう叫ぶ。しかしその動きは次第に小さくなり肩を震わすだけになる。

 

「もし……本当に。本当に退学になったら……正義実現委員会には、もう……」

 

 俯いたコハルの表情は分からないが震えた声、床に落ちる水滴からコハルの感情はありありと周囲に伝わった。

 

「コハルちゃん……」

「……」

 

 ヒフミが素早くコハルに近寄り背中を擦り、その様子を見ていたアズサの表情が僅かに曇る。

 

「……ごめん。私がナギサにああ言ったせいで」

「いいえ。そのお話を聞いた限り、先生は私たちの為に言ってくださったのでしょう? むしろ感謝するべきことです。もし私がその場に居たら、あの猫ちゃんにはもっと酷いことをしていたかもしれません」

「……"トリニティ的なやり方で?"」

「……」ニコッ

 

 先生がナギサとの会話を思い出して後悔するように謝ればハナコは冷静にフォローする。その言葉の中で気になったことをグランが興味7割、揶揄い3割で聞けばハナコはにっこりと黒い笑顔をグランに向ける。

 

「ぉぉ~怖。まぁ、あれだ、先生は権力者との相性がすこぶる悪いからなそんなに気にすることはねぇよ」

「それは実体験ですか?」

「……」

「ふふふ」

 

 ハナコに笑顔を向けられたグランはサッと視線を外して先生を慰めようとするがハナコに言われた言葉にビシリと固まる。そんなグランを見てハナコは満足気に笑うのだった。

 

「と、ともかくこの一週間で、90点以上をとれるようにだなんて……」

「そうですね。それに、これ以上ナギサさんが良からぬことをしないように見張らなければなりませんし……」

 

 どうにか話題を変えようとヒフミが声を上げるも結局話題は暗い方向へと向かってしまう。

 

「ぐすっ……無理、絶対無理よ……ここまですっごい頑張ったのに、これ以上なんて……。頑張ったもん……でもこれ以上は、私にはもう無理……私、バカなのに……無理だって……うぅっ……」

「コハル……」

「コハルちゃん……」

 

 どうにかして泣き顔を見せずに、大きな声で怒りを露わにし、気丈に振舞っていたコハルだがそれでも耐え切れなくなったのかついに周りを気にせず泣き出してしまった。ヒフミだけでもなく、アズサ、ハナコの二人もコハルに近寄って彼女を慰める。

 

「と、とりあえず、今日はもう休みませんか? 何か、何かしらきっと方法はあると思います……いいえ、あるはずです。頑張って見つけます。先生も、グランさんも手伝ってくれますし……」

 

 ヒフミがそう言うのをグランが手で止める。

 

「お前の話は同意するがまずはお前も休め。今日は色々なことがあって知らず知らずのうちに疲れがたまってるはずだからな」

「で、ですが今頑張らないと……」

「ハナコ、頼んだ」

 

 グランはそれでも働こうとするヒフミの肩を掴んで止めてそのままハナコに預ける。ハナコはグランからヒフミを受け取り、話しかける。

 

「私も、一緒に考えますから。コハルちゃんの勉強も、ヒフミちゃんのことも手伝います。だから……今日は一旦お休みしましょう?」

「……そう、ですね……はい」

 

 ハナコの説得もありヒフミも休息をとることに。

 

「桐藤ナギサ、聖園ミカの動向に関しては俺に任せろ。部下を使って探りを入れる」

「はい、お願いします。では、今日は一旦この辺りで。お疲れさまでした」

 

 グランはそう言ってどこかへ連絡する為に通信機を取り出す。その後ろ姿を見つめつつハナコたちは挨拶をしてその場は解散となった。

 

 

 誰もいなくなったラウンジでグランは一人テーブルに腰掛けながら虚空を見つめる。

 

「アイツらにとっては俺も"裏切り者"……なのかね」

 

 一人ナギサ側について補習授業部に探りを入れる自身の現状とこの状況を作り出した元凶を重ねる。

 

「どこもかしこも、裏切り者だらけだ……」

 

 




 本当はセーフハウスから出ていくときにグランの曲がったネクタイをナギサが直すシーンを入れたかった。しかしよくよく考えるとグランくんはネクタイをしていなかったため、没に……。


「グランさん……ネクタイが曲がってますよ」
「え、マジ?」
「動かないでください」
「お、おう」

 ナギサの白い手がグランのネクタイを掴んで曲がりを直していく。

「なんだか……」
「どうかしましたか?」
「新妻みたいだな」
「ッッ!?」
「あ! く、首、シマって!!?」



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