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暗闇と静寂に包まれた夜のトリニティ。その中を素早く蠢く複数の白い影。
「チームⅣ、到着。 特段変わった様子は無し、警戒も予想通り」
白い影の正体、それはアリウスの生徒たちであった。彼女たちは
「チームⅤ、チームⅥ、チームⅧ、全て準備完了との報告あり」
「了解。ターゲットの位置は確認済み、予定通り作戦を開始する。総員、前へ」
指揮官の生徒が指示を出してトリニティ内に潜伏していたアリウス生が一斉に動き出す。セーフハウスの中に勢いよく突入するアリウス生。
「セーフハウスを発見! ターゲットは見当たりません!」
「……どういうことだ。『スパイ』からの連絡ではここにターゲットがいるはず……」
指揮官の生徒は辺りを見回しながら考える。周囲に争った形跡はなく、そもそもこのセーフハウスにには護衛の一人もいなかった。事前情報通り屋根裏に秘密の部屋などもあったため、ここがセーフハウスであることには間違いはなかった。
「周辺を捜索しろ! できるだけ静――「随分と調子よさそうだねぇ。騙されたとも知らずに……」―――何者だ!」
捜索を部下に命じようとしたアリウスの指揮官の耳に粘着質な嫌な男の声が届く。その声に反応して振り向くとティパーティーの制服に身を包んだ生徒たちがセーフハウスの内にアリウス達を閉じ込めるように整列していた。先ほどの声はその一段の先頭にいる二人の男子生徒の片方の発言らしい。ニタニタと気味の悪い笑顔をアリウスの生徒たちに向けている。そしてその隣のもう一人の男子もアリウス達を見下した目で見ている。
「空き巣とは、なんとも情けない。匪賊には、誇りもないのか? 生き易いものだな、羨ましいよ」
「なんだと……?」
アリウスでの日々を『生き易い』などと表現され、トリニティに見下されたような態度を取られたことにいら立ちを浮かべるアリウスの指揮官。苛立ちを感じながらも自分たちが罠にはめられたことを悟る。
「『スパイ』はどこだ!? あいつに連絡を入れろ! 問いただせ!」
『こちらチームⅣ、奇襲に遭遇!』
「何っ!?」
指揮官は突如として舞い込んできた通信に驚きの声を上げる。
『"スパイ"です! "スパイ"が裏切りました!』
『(シューッ、シューッ)』
「『スパイ』が裏切っただと!? な、何が起きてるんだ!」
『裏切り、それ以上でもそれ以下でもない』
驚愕の声を上げていた指揮官の元にアズサから淡々とした通信が入る。
『目標は私が先に貰った』
「な、何故だ! どうしてそんなことを……!」
『早く終わらせて、試験を受けなきゃいけないから』
「……え?」
『ちなみにもう正義実現委員会に報告は届いている、逃げるなら今のうち』
アズサはそう言って通信を切った。
「……退却しますか?」
「ブラフだ。情報が正しければ、正義実現委員会は絶対に動かないはず。気にすることは無い、目の前のこいつらを蹴散らして他チームと合流する!」
「了解!」
指揮官の掛け声とともにアリウス生たちが戦闘態勢をとる。それに合わせてティーパーティー一団も武器を手に取る。
「殺しはせん。体に聞くこともある」
「後輩たち、すぐに援護しろ!」
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「指揮官たちは!?」
「ダメだ既に戦闘に入っている。この場は我々のみで切り抜ける。『スパイ』は?」
「あちらです。ターゲットと共にこの建物に入るのを確認しました!」
「なるほど……ここに陣地を築いたということか、白洲アズサめ」
合宿所付近でアリウスの生徒たちが忌々し気な目線で合宿所を睨む。
「中に通じる入り口は二か所のみ! そのうち一か所はバリケードで塞がれています!」
「開いてる入り口は一つ……いや、そっちは罠だ。塞がれたバリケードを爆発させて、そちらから侵入せよ!」
「騒ぎになりそうですが、大丈夫でしょうか?」
チームリーダーの判断に部下が不安そうな声で疑問を投げかける。
「構わん。指揮官の所はすでに戦闘を始めてしまっているし、『スクワッド』からも連絡がきた、すぐに増援部隊がトリニティ自治区に入ってくる。もはやトリニティとの全面抗争も時間の問題だ。しかしそうなる前にターゲットだけでも回収する! 行くぞ!」
アリウスは手早くバリケードを破壊して合宿所に突入した。
「だと思った」
「なぁっ!?」
しかしその動きはアズサに予測されており、待ち伏せをされていた。アズサは手に持っていた起爆装置のスイッチを入れた。
「ぐあぁぁっ!?」
「くっ! 退くな退くな! 攻め入ってしまえば数がある以上、こちらが有利!」
爆発で吹き飛ばされながらも懸命に進むアリウスであったが……。
「なっ、こっちも!?」
爆発
「く、クレイモアだと!? どわあぁ!?」
爆発
「なんだ、ビニール袋……? いや、IED!? ぎゃあぁぁ!?」
爆発
「燃える……燃えてしまう…。これは……面倒なことに、なった……」
爆発
合宿所内、いたるところに仕掛けられた爆弾にアリウスたちは大きく手こずった。大きく数を減らしながらもどうにかアズサを追い詰めることに成功したアリウス達。
「……手こずらせてくれたじゃないか、白洲アズサ」
「……」
「大分消耗していますね。さすがはアズサちゃん」
「うん」
アズサの隣にハナコが現れ、爆発での負傷や疲労を浮かべているアリウスたちを見て笑顔を浮かべる。ハナコに褒められて嬉しいのかアズサも僅かにドヤ顔をしている。
「このまま行けば行き止まり。ターゲットはどこだ?」
「さぁ、どこでしょう?」
「……速めに吐いた方が良い。他の部隊がこちらに向かい、今にもこの建物を包囲しようとしている。逃げて抵抗しても、どちらにせよ無意味だ」
アリウスのリーダーの言葉にハナコが笑顔のまま答える。そんなハナコの態度が気に入らなかったのか、僅かに怒気をにじませながら脅しをかけるアリウスのリーダー。
「増員?」
「ああ、それも部隊単位でな!」
「……『スクワッド』は?」
「『スクワッド』が来るまでもないさ。それにどうやら、他にやる事があるみたいでね」
「なら問題ない」
アズサはそう言うと、ハナコの手を取って更に逃亡を開始する。
「この期に及んで! この先に体育館しかないのは把握済みだ! それに、これ以上トラップが無いこともな! 逃がすか、追え!」
アズサ達を追って体育館に突入するアリウス達。
「なるほど……逃げたのではなく、待ち伏せだったと」
アリウスのリーダーが見たのは、並べられた長机にロッカーなどの障害物。そして補習授業部とグラン、先生の姿だった。
「だが、それだけか? たった6人で私たち相手に、何分耐えられると思っているのだ。こんな退路も無い場所で!」
「退路……それが無いのは一体どっちだ?」
「なに?」
グランが口を開いてそう言い放つのと同時にアリウス達のいる場所目掛けて、天井を突き破り、何かが降ってくる。
「退避ー!」
リーダーの言葉にアリウスは散開してその場から散り散りになる。直後巻き起こる爆炎!
「迫撃砲!? いや、しかしそんなものは無かったはず!?」
突然の頭上からの攻撃に戸惑いを覚えるリーダー。
「あぁ。迫撃砲なんて準備できなかったよ。だから……
「人力……だと?」
先生がインカムでどこかへ連絡を入れる。
『良い感じだよ、ヒナタ! そのままその位置に投げ続けて!』
『はいぃ!』
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先生からの通信を受けてシスターフッドの若葉ヒナタは爆発物のたんまりと詰まった大きな壺を持つ前の怪力で持ち上げて合宿所の体育館に向かって投げ飛ばした。
「よいしょ、と! 先生は行ってました。『これはとっても大事な仕事だ』って。こ、こんな私に期待してくださるなんて……。……嬉しいです。だから、頑張って、期待にお応えしてみせます……!」
言葉の内容とは裏腹に大壺はかなりの速度で体育館へ向かって跳んでいき、また爆炎を上げるのだった。
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「っくぅ……。この状況では……! おい! 他の部隊に連絡! この攻撃を止めさせろ!」
「……ダメです、他の部隊も交戦中で動けません!」
「交戦中!? どことだ!? 正義実現委員会は動けないはずだろ!」
頭上からの大壺を避けながら支援要請をするアリウスのリーダーだったが、どこの部隊も動けないと聞き、苦い顔をする。
「シスターフッドと自警団です!」
「なぜ、シスターフッドが!」
浮足立つアリウスを眺めてほくそ笑むハナコ。
「良い感じにかく乱できてますね」
「ならそろそろこちらも終いにしようか。……先生」
グランが武器を構えながらそう告げる。そして先生がシッテムの箱を起動させて指揮の準備をする。
「そうだね。……それじゃあ、補習授業部、行くよ!」
・気味の悪い笑顔の男
かつて正義実現委員会で伝説的な戦果を挙げた男とまったく同じ装備をしているティーパーティー直属部隊所属の男。ハスミ曰く『優秀な武器を扱いきれない実力不足の卑しい小物』であり、ツルギからの評価も最低で正実に居場所がなく、仕方なくティーパーティーが引き取った。
かつての伝説の威を借りる状態にあり、その為、伝説の彼に憧れを抱いている生徒たちから評判は良くない。
・アリウスを見下した男
ティーパーティー直属部隊の指揮官を務める男。高い技術ととんな状況でも実力を発揮できる安定した精神を兼ね備えており、その美貌からもトリニティ内に多くのファンがいる。
騎士道精神溢れる真面目で実直な人物。ティパーティーとトリニティに住む多くの人々を守るという使命を誇りに思っている。その使命のためか、敵対する者にたいして侮蔑・軽蔑を込めた台詞を叩きつけてくる。
・若葉ヒナタ
壺投げトロル