シャーレの部長はブラックマーケットの代表   作:四脚好き

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156話

合宿所

────────────────────────―――――――――

 

「グラン、近づけさせないで!」

「おう!」

 

 先生の声を切っ掛けにして補習授業部とアリウスの生徒たちの間で銃撃戦が始まる。徹底的に訓練されてきたアリウスに比べ補習授業部は戦闘能力に乏しい。ハナコやヒフミは荒事には向いていないタイプであるし、コハルも正義実現委員会として訓練は受けているがどちらかと言うと後方支援要員である。元アリウスであるアズサの戦闘能力が補習授業部の中では頭一つ、二つ、跳びぬけている。そんな状況で数に物を言わせ、接近されたらアリウスのリーダーが言っていたようにひとたまりもない。その為先生は接近戦が得意(と先生が思っている)なグランを前に出してアリウスを補習授業部に近づけないようにと指示を出す。

 

「そらっ!」

「な、がぁっ!?」

「そ、空から人が!?」

 

 先生の指示を受けてグランは障害物の後ろからジャンプした。そして空中で見事に体を捻り、一度体育館の天井へと着地して見せた。そこから天井を蹴って加速した後まるで特撮ヒーローの様なキックをアリウスの生徒の顎に叩き込みながら敵の戦列内に侵入。顎に直撃を貰った生徒はガクガクと膝を震わしながら気を失い倒れこむ。

 

「何をしている! さっさと倒せ!」

「りょ、了解!」

 

 訓練では無かった敵の攻撃方法に唖然として一瞬動きを止めてしまう周囲のアリウス生。折角相手が自分から自陣へ突っ込んできたのに茫然として動かない部下の姿にリーダーは大声を出してグランの制圧を指示。リーダーの声に驚いた部下たちは急いで銃をグランに向け発砲した。

 

「バカ!この距離で囲んでいるんだ、銃なんか打ったら同士討ちに……!」

 

 リーダーの忠告も虚しく、部下たちは発砲してしまいグランがソレを回避して見せたことで対角線上にいた味方に被弾してよろめく。そしてその一瞬のよろめきを見逃さずグランは回し蹴りで周囲のアリウス生をなぎ倒した。

 

「クソッ! あがっ!?」

 

 部下の醜態に苛立つリーダーだったが丁度その頭部に銃弾が炸裂する。振り返ればそこには障害物に身を隠しながらもこちらに銃を向ける補習授業部の姿。

 

「私たちもいることを忘れては困る」

「はん! 忘れるわけないだろうが、この裏切りものがぁ!」

 

 アズサの言葉にリーダーは障害物ごと吹き飛ばそうとグレネードランチャーをアズのいる方へ向ける。そして引き金を引こうとしたところで邪魔が入る。

 

「そらっ!」

「なっ、銃が! 貴様っ、殺してやっ―――」

「遅い」

 

 グランがグレネードランチャーを蹴り上げて吹き飛ばす。銃を手放してしまったリーダーはナイフを取り出してグランに突き立てようと振り下ろす。そのナイフをグランは義手である左腕で態と受け止めて、部品と部品の間に刃を挟んで固定する。そしてがら空きになったリーダーのボディに膝蹴りを叩き込んで拘束、盾替わりに補習授業部の方へと向ける。

 

「! 今だよ、一斉射撃!」

 

 先生は補習授業部に射撃命令を出してアリウス陣地を一気に攻撃する。

 

「ぐっ、うっ……」

 

 一斉射撃が止んだ頃、アリウス生たちはバタバタと倒れ、グランがのっそりと補習授業部の方に向かってくる。それを見てコハルが呟く。

 

「か、勝った……?」

「全員戦闘不能」

「あうぅ……先生の指揮があって本当に助かりました」

「はい。では難所を一つ乗り越えた所で、次のフェーズに移りましょうか。……グランさん、腕は?」

「……問題なし」

 

 ハナコがグランに声をかけて状態を確認する。その言葉にグランは左腕を動かしてみる。そうするとほんの僅かに動きにラグがあることがグラン本人には分かった。しかしこの程度なら問題ないだろうとグランはハナコに問題なしと言ってしまう。

 

「この後アリウスの増援部隊が到着するでしょう、ですが私たちは時間を稼ぐだけで大丈夫です。シスターフッド、自警団ともに優勢らしいですし、これだけの騒ぎです、正義実現委員会も確認のために部隊を動かすはずです。それまで持ちこたえれば―――」

 

ドガァァッッッン!!

 

 ハナコの声を遮り響く爆音。グランは急いで補習授業部の陣地まで戻り銃を構える。

 

「これは……」

「増援がこんなに早く……!?」

 

 体育館にぞろぞろと現れたのはアリウスの増援部隊だった。

 

「え、えっ……?」

「……数が多い、大隊単位だ。多分、アリウスの半数以上いる……」

「あ、あぅぅ……! こ、これだけたくさんの方が、平然とトリニティの敷地内に……!?」

 

 先ほどまでの部隊とはけた違いの人数のアリウス生たちに慄くコハルとヒフミ。アズサも冷や汗を流しながら状況を見極めようとしている。

 

「先生、正義実現委員会は?」

「ダメ、ハナコ。まだ動いてないみたい……」

「一体何故……?」

 

 ハナコが先生に正義実現委員会の状況を尋ねるが帰って来たのは絶望的な答え。ハナコが疑問を感じているとアリウスの一団が綺麗に二つに分かれ道が作り出される。そしてその道を歩いてくる生徒が一人。堂々と、それが当たり前かのように歩いてくる生徒の姿を見てコハル、アズサ、ヒフミは驚き、ハナコは眼を細め、先生は悲しそうな顔をして、グランは真顔のままだった。

 

「それは仕方ないよ。だってこの人たちはこれから、トリニティの公的な武力集団になるんだから」

「ミカ……やっぱりあなたが」

「やっ、久しぶり先生。またあえて嬉しいな。それから、正義実現委員会は動かないよ。私が改めて待機命令を出したから。他にもティーパーティーの命令が届く限り全ての所に、いろんな理由を付けて足止めしておいたから。ナギちゃんを襲うときに、邪魔なんてされたら困っちゃうもんね。

 まぁ、それでも? シスターフッドや自警団を動かされちゃんたっんだけどね」

 

 まるで日常会話のようになんの異常も感じさせないでミカはつらつらと話す。その様子は妖しく不気味であった。そして彼女は体育館の中央、アリウスと補習授業部のちょうど中間にやってきて頬に人差し指を当ててにっこりとほほ笑みこういった。

 

「簡単に言うと、黒幕登場☆ってところかな? 私が本当の『トリニティの裏切り者』」

「……」

「……」

 

 ゴクリと生唾を飲む音が聞こえる。

 

「という訳で、ナギちゃんをどこに隠したのか教えてくれる? 私も時間がなくってさ。まぁここにいる全員を消し飛ばしてから、ゆっくり探しても良いんだけど。それは面倒だし……グランは出来るだけ傷つけないで欲しいしからさ」

「……俺?」

 

 笑いながらグランを見つめるミカの視線にグランは疑問を感じて自分を指さすとミカは幼子のように笑顔のまま首を縦に振る。

 

「ミカ、どうして……」

「んー? 聞きたい? 先生にそう言われたら仕方ないなぁ。それはね……ゲヘナが嫌いだからだよ。私は本当に、心の底からゲヘナが嫌いなの」

「……だから、エデン条約を取り消そうと? その為にナギサさんを……?」

 

 先生の質問に真剣な表情でそう返すミカ。ハナコはミカにそんなことの為にと質問する。するとミカはジッとハナコの顔を見てからヘラりと笑う。

 

「えっと……誰だっけ? ごめんね、私あんまり顔を覚えるの得意じゃなくってさ。……あぁ、思い出した。浦和ハナコじゃん。礼拝堂の授業に水着で参加して追い出された、あの。あはははっ、懐かしいねぇ」

「……」

「まぁ、一応答えてあげるとその通りかな。だってナギちゃんが、エデン条約だなんて変なことしようとするからさぁ。ゲヘナのあんな、角が生えたやつらなんかと平和条約だなんて、冗談にもほどがあると思わない? 考えるだけでゾッとしちゃうよ。絶対に裏切られるに決まってるじゃんね? 背中を見せたらすぐに刺されるよ? そんなこと、させるわけにはいかない。ナギちゃんもほんと、優しいっていうか優しすぎるっていうか……創作の中の明るい学園物語じゃないんだし。そんな都合の良い話、現実には存在しないのに。私たちはもっとこういう、ドロドロした世界の住人だってこと、そろそろ分かってくれても良い頃なのにね?」

「まあ、それには一理ある」

 

 ミカの言葉にグランが少しだけ同意する。

 

「そういう訳だから、ナギちゃん返してくれる? 大丈夫、痛いことはしないよ。ただ、残りの学園生活は全部檻の中かもしれないけど」

「じゃあエデン条約は、やっぱりれっきとした平和条約……」

「あっ、あの時は騙してごめんね先生。うん、あれは嘘。条約は本当に平和条約だよ。そもそも素直でおバカなナギちゃんに、エデン条約を武力同盟として活用するなんてこと、できっこないからね」

 

 先生の言葉に謝罪をしながらミカは喋る。そして少しだけ真面目な顔になって先生を見つめる。

 

「でもね、あの時話したこと、全部が全部嘘っ訳じゃないよ。私がアリウスと和解したかったっていうのは、本当のこと。この子たちは、同じゲヘナを憎む仲間。アリウスだって元々はトリニティの一員。先生にも言った通り、この子たちもゲヘナに対する憎しみは凄いよ、私たちにも勝るとも劣らない。むしろこの子たちこそ、純度の高い憎しみを持っているとすら言えるかもしれない。だから手を差し出したの。志を共にして、ゲヘナと平和条約を結ぼうとする悪党たちをやっつけない?って。ティーパーティーのホスト『桐藤ナギサ』に正義実現委員会がいるなら。次期ティーパーティーのホスト『聖園ミカ』にはアリウスがつく。これはそういう取引。和解へのステップアップ的な?」

 

 ミカは後ろを振り返り手を広げて自慢するようにアリウスの兵隊を先生たちに見せつける。

 

「共通の敵の為に、一時的に敵同士が互いの手を取り合う。そういうことだよ。それで私は、密かにアリウスを支援してたの」

「アリウスは最初から、トリニティのクーデターの道具だった……?」

 

 アズサが恐る恐るそう聞けばミカは顎に手を当てて少し考え込んでから答える。

 

「うん? ……うん、確かに。これはクーデターとも言えるかもね。最終的にはナギちゃんを失脚させて、私がティーパーティーのホストになるんだから。ああ、貴女の事は分かるよ。ありがとう、白洲アズサ。私はあなたの事はあまり知らないけど、私にとって大事な存在であることは変わらない。今までも、これからも。だって今からあなたには、ナギちゃんを襲った犯人になってもらわないといけないからね」

「……!!」

「スケープゴートって言った方が良いかな? 罪を被る生贄としての存在がいてこそ、みんながぐっすり安心して眠れるの。世の中ってそういうものじゃない? ねぇ、グラン?」

「否定はしない」

「でもびっくりしたな。ナギちゃんが逃亡したって聞いて、計画が崩れるかもと思って少し焦ってみたら……。まさか補習授業部の所に転がり込んでたなんてねー、これは予想外だったよ。うん」

 

 腕を組んでうんうん、と何度も頷くミカ。

 

「……すべてはティーパーティーのホストになるため?」

「うん、そうだよ。ああでも誤解してほしくないな、先生。別に権力が欲しい訳じゃないの。私はゲヘナをキヴォトスから消し去りたい……本当にただ、それだけだから」

「……」

 

 ミカの言葉に先生は苦い顔をして黙り込む。

 

「トリニティの穏健派を追いやって、その空席をアリウスで埋める。もしかしたら新しい連合になるかもね? 必要なら新しい公会議でも開いて……うん、それも良いかも? それで、新たな武力集団を得て再編されたトリニティが、ゲヘナに全面戦争を仕掛ける。そう、これが私の計画!」

「戦争なんてっ!」

 

 ミカの言葉に先生が大声を出す。それと同時に先生に注目が集まりアリウス達を除く全員が先生の顔を見て驚愕した。

 

「わっ、びっくりしたー……。先生、そんな怖い目も出来るんだね……うん、先生がすごく怒っていることはよくわかった。ごめんね、説明も何だか急いじゃったし、雑だったよね? もっと丁寧にお話したいところだけど……まずは色々と邪魔なのを片付けてからにしよっか?」

 

 ミカがそう言って手を上げると、後ろで待機していたアリウス達が武器を構えぞろぞろと戦線を構築し始める。それにミカも自身の武器をとりだして片手でクルクルともて遊ぶ。

 

「気を付けて先生。こうして見ただけで分かる……かなり強い」

「ふふっ、そうだよ。先生には前言ったけど、私結構強いんだから。はい、じゃあ補習授業部を片付けてくれる?」

 

 ミカはそう和やかに笑いながらアリウス達に指示を出す。先生も急いでシッテムの箱を抱えなおして先頭に備える。そんな中ミカはグランに向かって笑いかけて手を伸ばす。それを見てグランはやれやれと苦笑しながら銃を手にミカに向かって歩き出す。

 

「ダンスの誘いだな? お相手させてさせて頂く」

 

 そうして体育館は再び戦場と化したのだった。

 

 

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