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体育館の中は銃声と爆音に包まれていた。アリウスの攻撃をなんとか防ぎながらも必死に反撃する補習授業部。今はどうにか持ちこたえているが気を抜けば一瞬で飲まれてしまう。そんな状況での指揮に先生のシッテムの箱を握る手にも力が入る。しかし先生を焦らせる原因はアリウスの物量以外にもあった。
「私はこっちだよー?」
「ちょこまかと! 俺の真似事か!?」
狭い体育館内を飛んで、跳ねて、アクロバティックな動きをしながら空中で互いに銃撃し合うミカとグランの姿があった。二人とも体育館の壁や床を自慢の脚力で蹴って飛び、翼を使って細かな体勢を整え、攻撃したり、回避したりと有翼の生徒ならではの戦闘を繰り広げていた。二人が交差する度に舞い散るミカの白い羽とグランの黒い羽が天井の空いた穴から差し込む月明かりに照らされ幻想的な光景を作り出していた。その光景に時折補習授業部だけでなく、アリウスまでもが攻撃手が止まってしまうほどだった。
「せりゃっぁ!」
「あははっ、ムリムリ☆」
「こぉんの、バカ力!」
グランが壁を蹴って空中にいるミカに向かって蹴りを放つ。しかしミカはそれを難なく片手で受け止めて見せ、逆にがっちりとグランの足を掴んで逃れられないようにして自身の銃を向ける。グランはミカの呆れた腕力に怒鳴りながら両手を顔の前でクロスさせて防御の体勢を整える。その瞬間グランに大量の銃弾が叩きつけられ、墜落し、床を転がるグラン。それを隙だと判断してアリウスの生徒たちからも攻撃が開始されるがそのまま転がって回避して補習授業部の陣地内まで退避するグラン。
「くっそ!」
『グラン、大丈夫?』
「ああ、それ程ダメージはない。まだまだイケるぜ、先生」
障害物の後ろに隠れ、銃撃を防ぎながら先生からの通信に変身するグラン。ミカの方を確認すれば向こうは優雅にアリウス陣地に着地していた。額に流れる汗とペタ付く髪に若干のイラつきを覚え乱暴に拭おうとするとハンカチがグランに差し出される。
「ん?」
「返却はしなくていいので使ってください」
「ハナコ……」
グランが何だ、とハンカチの方を見ればそこにはハナコが居た。普段とは違い真面目な顔、というより険しい顔をしながらアリウスに射撃しているその姿に一瞬グランは『コイツ誰だ?』となった。
「お前さっきまで向こうの物陰に居たじゃないか。態々こっちに来たのか?」
「えぇ、誰かが情けなく転がって来たので心配してこっちまで来て上げたんですよ」
グランはハナコのハンカチを受け取って汗を拭きつつ、ハナコが先ほどまで別の障害物の後ろにいた子とを指摘すればハナコはチラリと一瞬だけグランを見てそう言い放ち、再び射撃に戻った。そんなハナコの態度にグランは笑いながら汗を拭きとって再び跳躍の体勢に入る。
「心配ねぇ……。よくもまぁそこまで思ってもない事を口にできるな!」
そう言ってグランは再び跳んだ。グランの蹴りの風圧で僅かに体勢を崩したハナコはしりもちを付きつつ、飛び上がった行ったグランの背を見つめる。
「まったく思っていない訳、ないじゃないですか」
「ミィィィィカァァァッッッ!」
「そんな大声出さなくても聞こえてるじゃんね!」
再び空中で交差する二人の銃撃。戦いの場は空中。今まで自前の脚力で空中に飛び上がりそこからの攻撃という戦法をとって来たグランに空中戦闘は一日の長がある。しかしミカとグランの能力差は圧倒的な差があり、ミカはその身体スペックで技術の差を無理やり埋めてくる。その事実にグランは顔を歪めた。そしてミカはそんなグランの表情を見てゾクゾクとしていた。
「(グランが一生懸命、時間と経験と努力で築き上げた物を身体能力だけで覆す! さいっこうに気持ちいいじゃんね!)」
徐々にグランに傷が増え、ミカが圧倒し始める。けれどもアリウスの生徒たちはそうはいかなかった。先生の指揮により力を増した補習授業部にアリウス達は苦戦して制圧されかけていた。
再び空中での戦闘が一旦止まり、地面に叩きつけられるグランと華麗に着地するミカ。ミカは周りの倒れているアリウス生たちに気が付いて腕を組んで考え込む姿勢を見せる。
「……なるほどねー、そっかそっかぁ。そりゃぁみんな『シャーレ』『シャーレ』って言うわけだ。厄介だね、『大人』って。これは予想外に時間がかかりそうかも……まぁ問題ないんだけどね。セイアちゃんもナギちゃんもいなくなってこれでようやく始められるっていうのに、変に邪魔しないでほしいなぁ」
「……!」
「さて、アリウスの増援部隊はまだまだ来るし、続けよっか☆」
銃を構えなおし再び攻撃姿勢に移ったミカにハナコが声をかける。
「ミカさん、一つ聞かせてください! セイアちゃんを襲撃したのも、あなたの指示だったんですか!?」
「? あはっ、ハナコもそんな目をするんだね。うん、私の指示だよ。セイアちゃんってば、いつも変なことばかり言って。楽園だのなんだの、難しい事ばっかり。でもヘイローを破壊しろとは言ってないよ。私は人殺しじゃない。ただ卒業するまで、降りの中に閉じ込めた方が良いなって思っただけ。でもなぜかああなっちゃったの」
「……」
ハナコの質問にミカは一瞬動きを止め、真顔になった。しかしすぐに笑顔へと戻りハナコの質問に答えていく。そんなミカの様子を黙って見ていたアズサ。そんなアズサの方にミカは視線を向けて話しかける。
「それ以上は、当事者に聞いた方が良いんじゃないかな? ……ねぇ白洲アズサ。私の代わりに説明してくれないかな? セイアちゃんがあんなことになっちゃったのが、ここまで事態が大きくなった切っ掛けなんだよ? そこからもう色々どうしようもなくなっちゃったわけだし……そのあたりどう思う?」
「そ、それは……」
「アズサちゃん……? それは一体、何のお話、ですか……?」
ミカの言葉に動揺を隠せないアズサ。そんなアズサの様子にヒフミは何事かと話しかける。
「ち、違う……あれは……」
アズサが何かを口にしようとしたとき、体育館に轟音が響く。
「んー?」
「シスターフッドたちがこちらに向かってきています!」
「……うっそ、外のアリウスたち片付けられちゃったわけ?」
アリウス生の報告にミカは少しばかり驚く。まさか戦闘訓練を受けてきたアリウス生たちがいつもお祈りばかりしているシスターフッドの生徒たちに負けるとは思ってもいなかったのだ。
爆発して吹き飛んだ体育館の壁、そこからぞろぞろと現れる修道服に身を包んだ生徒たち。
「けほっ、今日も平和と安寧が、皆さんと共にありますように……けほっ」
「す、すいません、お邪魔します……」
「聖園ミカさん……。信仰を守るためには"覚悟"と"強さ"を求められる時もあるのです。シスターフッド、これまでの慣習に反することではありますが……ティーパーティーの内紛に、介入させて頂きます」
「シスターフッド、歌住サクラコ……」
シスターフッドの先頭にたって強く自身の銃を握りしめながらそう告げるサクラコをミカは真正面から見つめ返す。
「ティーパーティー、聖園ミカさん。他のティーパーティーメンバーへの傷害教唆および傷害未遂で、貴女の身柄を確保します」
「……あはっ。流石にシスターフッドと戦うのは初めてだなー。浦和ハナコ、どうやってシスターフッドを動かしたの?」
「動かしたのは私ではありませんよ」
「え?」
ハナコの言葉にミカは首を傾げる。そんなミカの様子にハナコはほくそ笑みながら転がっていたグランを抱え起こす。
「シスターフッドを動かしたのはグランさんと、ナギサさんです」
「ねぇ、グランから離れてくれない?」
「……ようやく顔色が変わりましたね、ミカさん?」
グランとハナコの距離に少しばかり青筋を浮かべるミカ。そんなミカの様子にハナコは微笑んでグランのポケットから先ほど渡したハンカチを取り出して見せる。
「……へぇー」
「ふふふ」
「おい、アイツと戦うのは俺なんだが?」
グランは急に殺意の溢れ始めたミカに少しばかり引きながら余計な挑発をするなと目線でハナコに訴える。
「はぁ……片付けないといけない相手が一気に増えちゃったよ。じゃ、やってみようか?」
「あくまで戦うつもりですか、ミカさん。この状況での勝算がどれくらいか、分からない貴女ではないですよね?」
再び銃を構えだしたミカにハナコは言外に降参を進めるがミカは首を振るう。
「そうだね。でもここまで来て『おとなしく降参します』なんて訳にはいかないの。セイアちゃんも犠牲にしちゃって、ナギちゃんも裏切って、こんな大騒ぎまでおこしちゃって。だからもう、私は行くところまで行くしかないの」
「ッ!」
ハナコの言葉に目を瞑ってそう答えていたミカ。彼女は言葉を言い終わると同時に目を開いて見せた。その時の彼女の目はまるで魔女のように恐ろしいもので、補習授業部やシスターフッドの生徒たちを恐怖させる。
「酷い面しやがって。まるで魔女じゃないか」
ただ、グランだけが真っすぐミカに向かっていく。ミカはそんなグランを見てにこりと微笑み銃を向ける。
「けどな、お前はまだやり直せる。だから俺のようにさせる訳にはいかないんだ。ここで、止めさせてもらう」
その言葉を合図にグランは駆けだして、ミカはそれを迎え撃つように翼を広げたのだった。