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ミカへと一気に距離を詰めたグランはその勢いのまま右手のショットガンを槍のように突き出してミカの顔面に銃口を叩きつけようとする。
「シィッ!」
「おっと」
しかし突き出された銃口はミカの左手の甲で軽く受け流され、逆にミカに対して大きな隙をさらすことになったグラン。そこにミカが『えーい』などと可愛らしい口調でパンチを繰り出す。口調の可愛さとは違いパンチのスピード、威力ともに凄まじいものがあり、当たれば致命傷になることを悟ったグランは咄嗟に義足の足裏をミカの拳に乗せて、勢いを利用して大きく飛ぶことに成功する。そうしてグランは体育館の二階に着地した。
「っう……相変わらずの馬鹿力め」
グランはそう愚痴りながら義足の状態を確認する。何処かが壊れたのか動かすたびにどこからかギィギィと不快な音を鳴らす義足にグランは冷や汗を掻く。
「そう何発も耐えられないか……」
「もう大丈夫みたいだし、続けるね☆」
「ッ!」
グランが義足の状態を丁度確かめ終わった時不意に目の前から声が聞こえグランが顔を上げる。そこには既に拳を構えたミカが滞空していた。急いで横に跳び回避するグラン。瞬間、先ほどまでグランが居た場所は暴風が吹き荒れ、壁が吹き飛んだ。
「クソっ!」
「効かないよ~」
自分と同じように二回に着地してゆったりと歩いて近づいてくるミカにグランは射撃をして足を止めようとするが、グランの射撃はミカに全く効かなかった。そしてミカが銃をグランに向けて射撃を始める。グランはそれを二階から手すりを足場として跳んで回避する。そうして最初の激突のように空中戦へと場を移した。
「ほらほらもっと動かないと当たっちゃうよ!」
「こんのぉッ」
「散弾ではねぇ!」
ミカの放つ銃弾を縦横無尽に跳び回り、どうにか回避するグラン。それでも避けきれないと判断したものは左腕の義手を盾替わりに使うことで防いでいるがそう長くは持たない。それに加え義足も連続して跳び回る行為で負荷がかかり過ぎているのか不快音は増し、動きが鈍くなっていく。鈍くなる動きを誤魔化そうとグランはミカに向けて射撃をする。しかしミカ自身の耐久力とグランの銃がショットガンであり距離が離れていることでいまいち効果的な反撃が出来ていない。
「(やはりこの距離ではキツイか……。かといって無闇に接近して万が一にも掴まれたりしたら俺の力では抜け出せない。そのまま即ゲームオーバーだ。けど、スピードならまだ俺の方が上ッ! 義足が完全にイカれる前にケリを付けられれば!)」
「(動きが変わった?)」
今まで体育館内を跳んで攻撃の隙を探るように動いていたグランが急に動きを変えて積極的にミカの懐に入り込み、一撃を狙うようになった。
「えいっ、そい! あー、もう、近づいたと思ったら離れて、離れたと思ったらいつの間にか近くにいて! ちょこまかちょこまかと……」
「そりゃ、お前に捕まるわけにはいかないからな!」
自分の周りを跳び回りチクチクと攻撃してくるグランに嫌気がさしたのか苛立ちを見せるミカ。そんなミカを見て微笑むグラン。このまま苛立ちで視野を狭くしていけばその分隙も生まれて自身に勝ちの目が出来ると考えているからだ。
「もー……あ! そっか! こうしちゃえば良いんだ! ……えい!」
「は? ガァッ!?」
ミカは何を思ったか急に床を踏み壊した。さいしょはその行動の意味が解らず混乱したグランだが、次の瞬間辺りに飛散したかつて床だった瓦礫の礫に打たれ吹き飛ばされる。また地面へと叩きつけられるグラン。
「(跳び回ってる関係上、落とされたら地面に叩きつけられるのはそりゃ、そうなんだが……。もうほんと、今日だけでどんだけだよ。背中痛いし、羽の付け根がヒリヒリする)」
「グランさん! 早く逃げて!」
仰向けに叩きつけられた姿勢から痛みに耐えながら体を起こそうと苦戦しているとハナコの悲鳴にも近い声が聞こえてきて目を開けるとそこには正にいま、自分に向かって拳を振り下ろさんとしているミカがいた。サーッと血の気が引くのを感じるグラン。どうやっても回避は不可能だと悟りこれから来るであろう激痛に耐えようと目を瞑る。
銃声がした。そして何かが転がる音。いつまでたっても衝撃が来ないことに疑問を感じてグランが目を開けると、剣先ツルギが居た。先ほどまでグランに襲い掛かっていたミカはツルギのショットガンによって吹き飛ばされたのだろう、少し離れた位置で立ち上がっているのが見える。
「キヒヒヒ。久しぶりだな代表」
「え? あ、な、なんでここに正義実現委員会が?」
「私が呼んだの」
グランが事態を飲み込めずに混乱していると先生が呼んだと説明してくれる。
「今の私は、正義実現委員会の『剣先ツルギ』……シャーレの部員『剣先ツルギ』だァ! かぁはははははは!」
「いくら、シャーレでも待機命令を無視させられるとは思わなかったな。剣先ツルギ、いくらシャーレの先生から呼ばれたからってこれは重大な命令違反じゃ……」
ミカはツルギの方に向かって目を向けて喋っていたが何かを見つけて途中で言葉を止める。
「ええ、本来正義実現委員会が動くことはありません。でも、それはミカさんの権限が正しく使われていた時の場合のみです。そのミカさんがこんなことをしていると知れば正義実現委員会は動かざるを得ないでしょう」
「ナギちゃん……」
体育館の奥からナギサが出てきてそう説明する。
「しかし事前では証拠が集まりきらず、こうして事が起こるまで手の打ちようはありませんでした。そして今、トリニティの各地でアリウス達と自警団が、シスターフッドが、フィリウスの生徒たちが争っています。ここまで大規模に戦闘が起きているのです。正義実現委員会が動かない訳はないでしょう? ミカさん、貴女が仕掛けたこのクーデター、貴女が出てきてしまった時点でもうあなたの負けだったんです」
「ナギちゃん……」
「ミカさん、お願いです。もう止めてください」
ナギサは自身が狙われているのにも関わらずミカの真正面に立ち、真っすぐにミカを見つめて手を伸ばす。ミカは一瞬その手を掴もうと手を伸ばし駆けるがすぐに引っ込めてしまう。
「ごめんね、ナギちゃん。私はもう、止まれなくなっちゃったの」
ひっこめた手をそのまま拳へと変えてナギサへと放つミカ。ナギサは自分の言葉で止められなかったことと、そして幼馴染に今襲われそうになっている事実に酷く傷ついて泣きそうな顔をする。
「ナギサ様!」
「ナギサ!」
「止まれ! このバカ力がァ!」
ナギサへと拳が迫る瞬間グランは体に鞭を撃ってミカの拳へと渾身の蹴りを放つ。壊れかけの義足では拳を止めきれないと判断して右足でミカの拳を正面から受け止める。衝撃と鈍痛が足に走り顔を歪めるグラン。それでも止めて見せると万感の思いを込めて放った蹴りはミカの拳を押し返し、彼女を倒れさせることに成功した。
尻餅をついて転んだミカの上にグランは覆いかぶさり両手を押さえつけて怒鳴る。
「いい加減にしろこのバカ! お前はなァ、止まれるんだよ、戻れるんだよ! 止めてくれる大切な友達がいるじゃないか! 手を伸ばしてくれてるじゃねぇか! なんで払いのけるんだよ!」
「だって私のせいで、セイアちゃんは! セイアちゃんは! もう、もう止まれるわけないじゃん! 私はもう、こんな、こんな汚れた手になっちゃったんだよ!」
感情的に叫ぶ二人。その怒涛の剣幕に回りは口を挟めないでいた。
「違う! ミカの手は汚れてなんかいない! 分かるんだよ!!」
「な、何を……。分かる訳ない、分かる訳ないじゃん! グランの先輩みたいに間違いなんかじゃない、私は自分の指示でセイアちゃんを殺したの。私の気持ちなんて分かる訳ないよ!」
「分かる!」
「なんで!?」
「俺が……俺が人を殺したことがあるからだ! 指示や間違いなんかじゃない! 俺の手で! 直接!」
「……え」
グランの言葉にミカだけでなく体育館の中にいた全員が固まる。
「なぁ、ミカ。お前は殺した人間が夢に現れるか? なんともない時に自分の手が血で真っ赤な幻覚を見るか? 食事に味を感じなくなってるか? ……違うだろ? 俺は人殺しだから分かるんだよ。人殺しはな独特な匂いがするんだよ。死体の匂いじゃない、そいつの身に纏う危険な匂いが……。それがミカからはしないんだ。だから大丈夫お前はまだこっち側じゃないんだよ。……お願いだからこっち側に来ないでくれミカ、頼むよ」
慰めるような、諫めるような、あるいは縋るかのような声を出しながらグランは言葉を綴る。衝撃で固まっていたミカだが自身の胸元にぽたぽたとグランの涙が落ちてきているのを見て戦意がすっかり消えてしまい銃を手放した。
そんなミカの元とにハナコは近寄りある事実を伝える。
「ミカさん、セイアちゃんは無事です」
「え?」
「ずっと、偽装していたんです。襲撃の犯人が見つかるまでは安全のためと言うことで……今は、トリニティの外で身を隠しています」
「セイアちゃんが無事……?」
「はい。まだ目は覚めていませんが……救護騎士団の団長がすぐそばで守ってくれています」
「ミネ団長が……?」
ハナコの言葉を聞いてゆっくりと自分のなかで反芻させるミカ。
「な、言っただろ、お前は人殺しなんかじゃない」
「グラン……」
ミカに優しい視線を向けながら泣き笑いをしているグラン。。
「そっか……生きてたんだ。……良かったぁ」
ミカはそう言って少しだけ笑った。
ひとまずアリウスの侵攻は抑えたけど、グランの人殺し暴露にナギちゃん傷心と実はまだまだ問題は盛りだくさん。
とはいえ、ブラックマーケットの治安を知ってる人からすると『まあ、経験あるだろうな』と薄々思ってたぐらいはありそう。
あとナギちゃんは『アハハ』で脳破壊ない分こちらで傷ついてもらうことでバランスを調整しました。