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海辺で転がるヘルメットを足置き代わりにして倒れたスケバン達の上にどっかりと座るハルミ。『うぅっ』などの下から聞こえるうめき声など気にしない。ただし『重い』と言った奴に対しては銃撃を食らわせておく。ブラックマーケット最大組織の幹部であっても一人の男に想い寄せる一人の乙女、その言葉だけは許すわけにはいかなかった。
「先輩、いくら規則違反者とはいえ虐め過ぎるなよ……」
「人食い反社?」
「規則違反者! どうやったらそんな聞き間違いをするんだ!? ……ったくとりあえず分かったことの報告」
ハルミのもとに拘束した不良どもから得た情報をまとめた端末をもってイオリがやってきた。
「スケバンもヘルメット団の方も、どうやらまだまだ先遣隊らしい」
「この規模が先遣隊?」
イオリの言葉にハルミは驚愕する。一人ひとりの実力は大したことは無く、まさに烏合の衆と言って問題の無かった集団だが数だけは揃っていた。となれば本体の規模はどれほどの物なのか、ハルミは少しだけ憂鬱になる。目頭を軽く揉んでいるハルミのもとにチナツもやってくる。
「はい、つまり我々が鎮圧したのはただの前哨戦のようです。四時間後の本格的な全面戦争では、あれとは比べ物にならない数が集まるみたいでして……」
「本格的に衝突した時に少しでも戦況を有利にするために、地雷とか罠を仕掛けようとしてたんだと思う。そして両方同じことを考えていて、この場で鉢合わせた……ってところかな」
イオリとチナツの言葉にハルミは自陣営の戦力を思い起こし、対処方法を探る。できれば先生とヒナ、それからグランを除いた面子での制圧が望ましい。グランは除いて全く問題はない。ハルミはグランの戦闘力が自身の数段下であることは理解している。そのためグランの戦力的な価値はハルミの中では全くない。ハルミにとってのグランは存在してくれているだけで尊いものであり、自分の上に座って、指示を出してくれればそれで良いのだ。もっと言えば、踏んで、罵って、凌辱してほしいと思っている。
「というか全然話が違うじゃん! 閑静な場所ってアコちゃんは言ってたのに!」
「この場にいない行政官に文句を言っても仕方がありませんよ。ここも一応ゲヘナの自治区ですし、とにかく対処せざるを得ないでしょう。ただ、かなり規模が大きくなりそうですし、これは委員長と先生に報告した方が良いのでは……?」
「だがそうなると今回のもう一つの方の目標は達成できないということになるな……」
ハルミは顎に手を当てながら考え込む。そんなハルミの様子にイオリも頭を掻く。
「まぁ、それはそうだけど……この規模が前哨戦だとすると、普通に不味い」
「取り合えず、アコ行政官に報告だな」
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そうしてハルミ達は不良どもを拘束したあと部隊を撤退させホテルに戻り、事の経緯をアコに報告した。
「なるほど……しかしここで諦める私ではありません。こうして委員長を海にお連れすることができたのに、たかがこれしきの障害でチャンスを逃してなるものですか! アムさん、調査はどうですか?」
アコはオペレーションルームのパソコンの前で作業でカタカタとキーボードを叩いていたアムに話を投げかける。アムはクルリと椅子を回転させてアコ達の方を向いてニタリと笑って見せる。
「現在海岸に集まってきているスケバンとヘルメット団たちについてはグラン達からの偵察情報とゲヘナの情報部に協力してもらって調査してもらったよぉ。データはまとめてあるから、関連資料をそっちの端末に送るねぇ」
そう言って再び作業に戻るアム。アコは自身の持つ端末を確認してアムの言っていたデータを受け取る。
「ありがとうございます、アムさん。それではまずスケバンの方ですが、自称スケバン集団『破茶滅茶』と名乗るグループでして、この海岸区域には最近になってやって来たようです。どうやら一か月ほど前に別の海岸地区で色々とあった結果、勢力争いに敗北してしまい、ここへ流れ着いたという経緯のようですね。そしてもう片方は、『びしょびしょヘルメット団』以前からずっとホテルの近くのスラム街に拠点を構えていた、海辺の問題児集団です。すでにどちらも、勢力の規模、装備のレベル、数などは全て把握済みです。その上で、結論から申し上げましょう。作戦は続行。委員長には連絡せず、私たちだけで解決します!」
アコは手元の資料を見ながらそう判断を下す。
「それ、本当に大丈夫?」
「私たち風紀委員だけではどうなっていたか分かりませんが現状の戦力なら、というお話でと思いますが……」
「現存の戦力を二分してスケバン集団『破茶滅茶』及び『びしょびしょヘルメット団』を早急に撃破します!」
「つまり、全面戦争が始まる前に各個撃破してしまおう、と」
「その通りです!」
チナツの言葉にアコはギュッと拳を握りこみ返事をする。
「まぁ、確かにそっちの方が勝率はあるか……」
「大丈夫だ、イオリ。先ほど教えたことをしっかりと実践すればお前が苦戦することはない」
少しだけ不安げなイオリの肩にハルミは手を置いて励ます。
「ありがと、先輩。……うん、やるだけやってみるよ」
「では、イオリとチナツはスケバンの方をお願いしますね。ハルミさんはヘルメット団の方を。近くに代表率いる部隊が待機していますので合流して対処に当たってください」
「了解した」
「さぁ、出動です! 全ては、ヒナ委員長の夏休みの為に!」
アコの号令でハルミたちは再びの出撃に向け準備に取り掛かる。
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ゲヘナの中で比較的穏やかなアラバ海岸の中でも更に穏やかな海岸で万魔殿のメンバーは思い思いに楽しんでいた。イブキが元気よく遊び回り、イロハが相手をしてあげながら危険がないか目を光らせ、チアキははしゃぐイブキを写真に納め、サツキとマコトはパラソルのもと海やイブキを眺めてリラックスしていた。
そんなマコトの元に近づく二つの影。
「マコト」
「……ヒナか」
影の内の一つがマコトに話しかける。その声にマコトは掛けていたサングラスを外して声の主を見る。そこにいたのは白いフリンジ・ビキニのヒナがいた。その隣には軽くてを振っている先生の姿もある。先生の手には水鉄砲やら、ボールのなど多くの遊び道具が入ったバケツがあった。
「先生、先に海の方行ってて、少しだけマコトと話したい」
「分かった! それじゃあ先にイブキたちと色々遊んでるから話し終わったらヒナも一緒に遊ぼうね!」
「あらぁ~、それじゃあ私も先を外すわ。委員長もパラソルの下どうぞ」
そう言ってサツキは立ち上がり自身のいた場所をヒナに譲る。
「ありがとう」
「別に構わないわ。それじゃあ先生海の方まで行きましょ。イブキちゃんが玩具で一杯のバケツを見て目を輝かせているわ。早めに行ってあげないといけないわ」
「本当だ、それじゃあヒナ。また後で!」
「うん、先生。また後で」
サツキと先生が海へ向かった後ヒナはゆっくりとサツキに譲られた場所に腰を下ろす。
「こうやって落ち着いて貴女と話すのはいつ振りかしら」
「……雷帝政権崩壊後の祝賀会以来か?」
「そう……そんなに久しぶりだったかしら」
互いに視線は海の方を見ていてお互いを見てはいない。ヒナはどこか嬉しそうに笑っているが、マコトは少しばかり気まずさがあるのか微妙な表情だ。
「そ、それよりも先ほど少し騒がしかったが、問題ないのか? 訓練はもう少し先に開始だったと思うが?」
「あぁ、そのことなんだけれど―――」
ヒナはマコトに事の経緯を説明した。ヒナの説明を聞き終わったマコトは少しだけ目を瞑って考え込む。
「まぁ、いざとなればお前が動くなら問題ないか」
「そうね、でもせっかくの機会だから出来るだけあの子たちだけで頑張って欲しいわ」
「それは……時代の風紀委員会のために、か?」
「そうよ。なんたって私も今年で3年生、卒業よ?」
「……」
ヒナの言葉に黙り込むマコト。ヒナは何故マコトが黙り込んだのか分からすせ少しだけ考え込みある事実を思い出す。
「あー、まぁ、いつ卒業するのも自由で良いんじゃないかしら。ゲヘナらしいし」
「……余計な気遣いはしなくていい」
「ふふっ、そう?」
マコトの言葉にヒナは笑ってしまう。
「そういえば、今回、貴女にも感謝しなくちゃね」
「何かした覚えはないが」
「あら、そう? 貴女も私に休暇を与えたくて協力してくれたって聞いたけど?」
「知らんな。私はただイブキを海に連れて行きたかっただけだ。その護衛ついでに風紀委員会の訓練合宿をしろと命令しただけだ」
「……そういうことにしといてあげるわ。ありがとうね、マコト」
「何のことかまったくわからんな!」
ヒナはマコトに礼を言うがマコトは知らんといって、どこか行ってしまえと言わんばかりに手を振る。そんなマコトを見てヒナは笑顔のままゆっくりと立ち上がり先生たちのほうへ向かって言った。一人残されたマコトはそんなヒナの背中をジッと見つめていた。
「卒業、か……。もうすぐ、エデン条約も締結する。そうすればお前も引退できるだろう。最後の年ぐらいそうやって笑って過ごせ……」
マコトは誰にも聞こえない声でそう話すのだった。
ヒナとマコトの関係ってハズビンホテルのアラスターとヴォックスみたいな関係なのかなぁ、と思う最近。ヒナはアラスターというには性格は良すぎるけど、ヒナに対してマコトの感情はアラスターに対するヴォックスみたいなものなんじゃないかと……。