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「なんなのですかあの男! なんなのですかあの男! なんなのですか!」
「ちょ、ハルナ落ち着いて!」
今回砂浜に用意された風紀委員会専用の模擬戦用陣地の高台、そこにハルナは陣取って目下の敵を狙撃し続ける。しかしその顔色は赤く、ライフルの引き金を引く指の動きも早く乱射気味、もはやスナイパーとは言えない仕草をさらしていた。そんなハルナを落ち着かせようとジュンコは声をかけるがまったくハルナには届かない。
「ハルナ、いつもと全然違うね、大丈夫かなぁ?」
「ふふふ、私は珍しいものも見れて、この後お腹いっぱい食べられることも確定してるので大満足です♪」
高台の下ではイズミとアカリが銃を構えており、迫りくる風紀委員たちを薙ぎ払う。
『なにやってるんだー! 相手は美食研、生半可な攻撃じゃ勝てないぞー! 第二小隊もっとキビキビ動け!』
陣地内に響く拡声器越しのイオリの声。確かに美食研と風紀委員は戦闘を開始した。しかしこれは互いの主張の激突によるものでは無い、グランの仲裁によって実現した模擬戦であった。事態は数十分前にさかのぼる。
「ハルナ、付き合ってくれ」
「……な、なななななっ!?」
「「「「はぁ!?」」」」
グランの言葉に瞬間湯沸かし器のように真っ赤になり、フリーズするハルナ。そんなハルナの様子とグランの言葉に驚愕する風紀委員会、美食研、キッド達。
「代表、正気か!? そいつらはゲヘナのテロリストだぞ!?」
「グランん私は二番でも良いと言いましたが流石にその人たが一番なのはちょっと……」
「代表が壊れた? キッド2を……ムイを呼ばないと……あ、ぁぁぁぁあああ? 何が起こっている?」
イオリとハルミはグランの正気を疑いイオリは絶叫し、ハルミはムイを呼んで治療を頼もうとする。チナツは少しばかり考えた後やはり普段苦労を掛けられている人間だからかねはたまた近しいマコトを一番に応援する為かハルナを拒否する。そしてハルナは顔を赤くしながらもどうにか再起動を果たし、自分の手を握っているグランの手にもう片方の自分の手を重ねて質問する。
「そ、そのあなたは私のどんな所にひ、惹かれまして?」
「ん? この手だな」
「手?」
「ケアに気を遣っているが握ればわかる。確かにライフルを持つもの特有のタコがある、それもかなりの。一見騒ぎを起こしてばかりのお前だが、しっかりと鍛錬の重要性を知っていて、鍛錬を重ねて、自分の主義主張を貫き通す努力をしている」
「あ、ありがとうございます」
まじまじと解説されることが恥ずかしかったのかハルナの言葉は尻すぼみになっていく。
「え、なんか良い感じ?」
「なんかびっくりかも~」
「……ふふふ」
初めて見るしおらしいハルナの姿に美食研のメンバも思わず息をのんで見守る体勢に。しかし―――
「演習の相手としては申し分ない」
「ん?」
「今回の風紀委員会の演習だが相手が俺達だけだと物足りないと思っていてな。実際にゲヘナで騒ぎを起こしているお前らにも付き合って欲しいんだ」
「は?」
「勿論ただとは言わない。いまウチの部下に買い出しに行かせてる。高級BBQセットだ」
「……」
「『祭りのなか食べる焼きトウモロコシ』は今回は諦めてもらうしかないが、変わりに『仲間たちと合宿で切磋琢磨しあったあとのBBQ、しかも海辺で』と言うものは提供してやれる。それに風紀委員会とお前たち、さらに俺達も食べるからな、サンプル数も問題ないはずだ。どうだ?」
「わかり……ました……わ」
「ああぁぁぁぁ! 今思い出してもむかっ腹が経ってきましたわ! なんで相手は風紀委員会の皆さまばかりなんでしょう! 出てきなさい、水戸グラン! 私が眉間ぶち抜きましてよ!」
「ハルナ、落ち着いて、本当に! キャラブレまくってるわよ!」
羞恥と怒りに染まった顔で射撃を繰り返すハルナとどうにか納めようとするジュンコ、困惑するイズミと笑うアカリ、美食研の陣地は混沌に満ちていた。
「うーん……ここは側面に部隊を展開するべきかな……先輩はどう思う?」
「私じゃなくてチナツと相談しろ。まぁそれでも一言いうならやってみればいいさ。これは演習、いくらでも失敗できる。最後に纏めて講評はしてやる」
「分かった。チナツはどう思う?」
「私もイオリと同意見ですが展開させる部隊の選考には気を付けた方が良いでしょう。砂地に不慣れな部隊だと展開はただの戦力分散になりかねません」
一方の風紀委員会陣地ではイオリとチナツは直接戦闘を禁じられており、自分たちで部隊編成を考え、運用を考え、指示を出していた。ハルミの教育によってイオリは搦め手を警戒するようになり、いつもイオリやヒナの意見を聞いてばかりだったチナツもある程度は発言するようになってきていた。そんな二人の様子をハルミとアコは優しく見守っており、風紀委員会の陣地では少しばかり和やかな雰囲気で満ちていた。そうしていくつか模擬線を繰り返したのち、日は落ち始める。そうなれば演習も一旦の終了も迎え最後に明日の準備をしたのち、宴が始まる。
「ん~♪ やっぱり動いた後のお肉は格別です」
「焼きトウモロコシも美味しいよ!」
「あぁ~、冷えた炭酸が上手い~」
「あ、その肉私が焼いてたやつ!」
「いーじゃん、代表が奮発してくれたんだからまだまだあるんだしー」
「その肉が良かったの!」
炭酸のバーベキューコンロと食材たち。訓練が終われば風紀委員たちも一人の子供な訳で、各々好きなように集まり肉やら野菜やらを焼いて楽しく過ごしていた。
「随分賑やかね」
「委員長! どうぞこちらへ! お肉もやさいも焼けてますよ! なにから食べます?」
「ありがと、アコ。先生もほら、こっちに来て?」
「はーい、お邪魔させてもらうね」
ヒナと先生はアコと数人の風紀委員たちのグループに合流する。とたんにアコがヒナ専用の給仕となり、相変わらずだなぁ、という視線を風紀委員たちに向けられるアコ。しかし当の本人は粉が自分の焼いた肉を楽しそうに笑いながら小さな口で食べているのを見て幸せを感じていたためその視線に気が付くことは無かった。
「しかし、私も参加して良かったのでしょうか」
「そんなこと言わないで下さい。セナ先輩のお陰で怪我人の治療も不良たちの拘束も手早く出来たんですから」
「チナツ……」
「お久しぶりです、セナ部長。お元気でしたか?」
「ムイ! えぇ、私は健康そのものです。貴女も変わりなく?」
「はい。こうして顔を合わせるのはいつ振りでしょうか……。折角の機会です、三人で色々語りませんか?」
怪我人の治療に当たってくれたセナもを巻き込んでチナツにムイという元救急医学部の面子が集まって懐かしい話や、最近の出来事について華を咲かせる。
「……まさかこうして風紀委員会と共に食事をする日が来るとは思いませんでしたわ」
「そう思うなら普段からもう少し大人しくしてくれよ……」
「んー、無理ですね♪」
「んぐんぐんぐ」
「あー、串から落ちたぁー!?」
イオリはどうしてか美食研と共に串焼きを頬張っていた。
「イロハ先輩、これ食べてもいーい?」
「ん、それはもう少し焼かないとダメですね」
「代わりにこっちは大丈夫よ、イブキちゃん。はい、どーぞ」
「わー、サツキ先輩ありがとー」
「みなさーんこっち向いてー! はい、ピース!」
万魔殿は全員でイブキの面倒を見ているようなものでイブキが食べたいもの、飲みたいものをさっ、とタイミングを見計らって準備する連携の良さを披露していた。
「……各々楽しんでいるようで何よりだ」
「そういう貴様はもう楽しまなくていいのか?」
そんな少し離れた堤防の上から見下ろすグラン。彼の後ろにはいつの間にかマコトがいた。
「またマコトか。今日はよくお前に背後を取られる。どうやら俺も大分気が抜けてるらしい」
「キキッ、お前も休めている証拠だ」
「……そうかもな。近頃色々あったし丁度良かったかもな」
マコトの言葉にグランは少し笑って視線を再びBBQ会場へと向ける。
「おいおい、誰だ花火なんて持ってきたの? 完全にお祭りムードじゃないか」
「あァ、あれならイブキがやりたいと言ってな、先生が買い込んできた」
「……またユウカに怒られるな、アレは」
会場はすでにBBQに満足して先生の買って着た花火で騒ぐ生徒と、残った肉や野菜を焼きながらゆっくり話したり、花火で遊んでいる生徒を眺める保護者系連中に分かれていた。
「明日からはまた訓練なんだ。少しくらいは目を瞑ってやろう」
「そうだな。で、何か用か? いつものお前ならイブキの傍を離れないだろう、マコト? ここでしか、二人きりのタイミングでしか話せない何かがあった、違うか?」
グランの言葉にマコトは真剣な表情を浮かべ、数舜躊躇う様子を見せた後、口を開く。
「この合宿が始まる直前、万魔殿にある組織の使者が接触を図って来た。奴らは『アリウス』と名乗った」
「ほう?」
マコトの口から発せられた言葉にグランは目を大きくする。
「その反応、奴らが何か知っているのか?」
「エデン条約反対派の……あー、元トリニティの分派の一つ? みたいな感じ」
「成程……。そいつらは私にエデン条約調印式を台無しにしてほしかったみたいだ。桐藤ナギサとヒナの両名をいっぺんに消せるチャンスだと誘惑してきた。その為の策と武器を与えるとな」
「……乗ったのか?」
グランの問いにマコトは黙って首を横に振った。
「少し前の私ならそうしていたかもしれん。だが……今は違う。なぁ、グラン。お前も調印式当日は会場に来るんだろう?」
「あぁ、一応シャーレの面子としての招待を受けた」
「私たちゲヘナ側は勿論警備を強化する。そこで桐藤ナギサにパイプあるお前からもこの情報を伝えて警備の強化を要請してくれ」
「了解だ」
「それから!」
そこまで行ってマコトはグランの腕をつかむ。今まであまり聞いたことのないマコトの声色にグランは驚く。
「嫌な予感がするんだ……。グラン、どうか無事でいてくれ……」
泣き出しそうな、懇願するような声のマコト。グランはそんなマコトを抱きしめて安心させるようにゆっくりと頭を撫でるのだった。
「あぁ、大丈夫。きっとアリウスの奴等もお前が提案を蹴ったおかげで何もしてこないさ。だから、大丈夫だ」
調印式まであと少し。
if世界線とかを呼んでいただいた方ならわかるかもしれませんがグラン君。ハルナとの相性滅茶苦茶高いです。相性も良いし、一番グラン君が幸せになるルートです。あのルートのグランくんはハルナと共に大学に進学して結婚してちょっとだけ田舎な所に二人で小さいけどこだわりあるレストランを開業して、子宝に恵まれて老衰で亡くなるぐらいに幸せです。
一番相性悪いの? ホシノだけど。彼女に惚れた時点でグランくんの困難が始まります。愛情の深さと相性は別ですから。