シャーレの部長はブラックマーケットの代表   作:四脚好き

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171話

『ODI ET AMO』所属フリゲート艦

────────────────────────―――――――――

 

「うおぉ……結構揺れるねぇ」

「海上施設付近は流れが早く、波も高い、そりゃあ揺れるさ。ないとは思うが、落ちるなよ」

「でも落ちたらグランが助けてくれるでしょ」

「……まぁ、それはな」

「んふふ」

 

 曇り空に荒れる波。そんな中、何故かグランとホシノは甲板に出ていて外の景色を楽しんでいた。グランはある程度見慣れたが砂漠のアビドスで育ち、殆ど学園外に出ることのなかったホシノから見れば目に入る全てが真新しく、輝いて見えた。さらに隣に好きな人がいるとなれば気分は最高だ。

 

「ほら、見えてきた」

 

 グランが視界にとらえた海上施設を指さしてホシノのに伝える。

 

「おぉ! おっきいねぇ……」

「いくつかの施設群からなるメガフロート。戦闘艦の製造、物資の輸送、いくつかの実験場などその大きさから様々な任務を任されてる拠点の一つだ」

「へぇ~。それでこんなに色々な船が集まってるんだ……」

 

 ホシノは施設に近づくにつれて増えるほかの船や施設に停泊している船を見ながらそう呟く。

 

「キヴォトスの輸送の大半は海上輸送だからな。必然的に様々な組織、団体の船も受け入れてる」

「海上輸送……。だから海がないアビドスには物資も人も来ないのかな……」

「うーん……」

 

 ホシノの呟きにグランは考え込む。確かに一理ある、と。アビドスの輸送は陸路か線路を使ったものに限られるのだがはっきり言ってしまえば二つとも重量と待ち伏せなどの妨害に遭いやすいという問題点がある。陸路は地雷や待ち伏せを受けやすく、線路の移動ではハイランダーが上手く対処をしているがそれでも不良どもによる線路の爆破、や陸路と同じような待ち伏せは後を絶たない。

 

「いっそ砂漠を海みたいに渡れればいいのに……」

「砂上船か……今度開発班に相談してみるか」

「ありがとうね~」

 

 そう言いながらグランを見上げてくるホシノ。照れくさそうにしてホシノの頭を撫でることで強制的に視線を外すグラン。そうこうしている間にグラン達の乗るフリゲート艦は商船たちの間を抜ける。

 

「ありゃ、ここでは止まらないの?」

「海上施設は外縁を商業用、中間に造船所、最奥に実験棟がある。養殖設備は一番最奥の実験棟でやってるからな。ほかの奴等は入ってこれない、そこまで俺たちは船で行く」

「ほほーう」

 

 辺りに他の船もなくなったことで航行はスムーズになり、それからグラン達は直ぐに目当ての実験棟に着いた。

 

「ほら、手」

「うん」

 

 グランはホシノの手を引いて船から降りる。

 

「ようこそ、『ODI ET AMO』の海上施設の最奥へ。多分、組織外でここまでやって来た人間はホシノが初めてだよ」

「うへへ~、それは光栄なことだぁ」

 

 そうして二人は様々な水性生物の養殖を研究している施設へと足を踏み入れた。

 

「おおー、変わった形の水槽に沢山のお魚だ! かぁわいいー」

「……あぁ可愛いな」

 

 広い研究施設内に並べられた様々な水槽とその中を泳ぐ魚たち。食用ではなく観賞用の魚の養殖も研究しているため、色とりどりの魚たちが水槽の中を泳いでいる。そんな魚たちに目を輝かせるホシノ。グランとホシノで少し見ている物は違うが二人とも幸せいっぱいな顔をしている。

 

「ほら、ホシノ。はしゃぐのも良いが、お前この施設全然知らないだろ。迷子になっても困るから……その、手」

「……うん。離さないでね」

「あぁ」

 

 グランとホシノは手を繋いで次のエリアへと進む。

 

「ここは……」

「クラゲのエリアだ」

「クラゲって食べられるの?」

「全部ではないがな。あとは観賞用だったり逆に効率のよい駆除方法の研究の為にも置いてある」

 

 先ほどのエリアとは違って薄暗い通路。ライトアップされた水槽の中をユラユラとクラゲたちが漂っている。

 

「……」

「……綺麗、だね」

「綺麗だな」

 

 最初のエリアは明るく、様々な魚たちがいて研究員たちも数名居たがここはそれほど重要度がないのか、薄暗いし研究員も全然いない。二人きりという環境を意識してしまい神秘的に光るクラゲを前にジッと黙り込む二人。

 

「ホントは、色々言いたいことがあったんだ」

「色々?」

 

 グランが視線を水槽に向けたまま口を開く。

 

「俺が今やってること。将来アビドスの為にやりたいこと。まだホシノに伝えてないこと。色々あるんだ。多分……ここからシャーレが、俺が、『ODI ET AMO』がもっと忙しくなる。だから俺がこうして二人っきりでゆっくりと会話する機会なんて()()()()()()()()取れないと思うから。でも、こうしてホシノといると……。どうも決意が鈍るというか、まだこうしていたいって思ってしまう」

「……忙しいねぇ……?」

「なんだよ、本当のことだぞ?」

 

 グランの言葉にホシノが怪訝そうな顔を浮かべる。

 

「まぁ? グラン君はモテモテだし? そりゃあ忙しいだろうね?」

「うっ」

 

 ホシノのまさかの言葉に胸のあたりを抑えるグラン。そんな反応のグランが面白かったのかくすりと笑うホシノ。しかしグランもただでやられるつもりはない。

 

「最初に付き合ったのが最高の女だったからな。それはモテたとも」

「……っ、バカ」

「いった!? 結構本気で蹴りやがったな」

 

 グランの発言に顔を赤くしたホシノはグランにローキックを叩き込む。かなりの威力にグランが驚いてホシノに文句を言う。その時初めて二人の視線が合わさる。

 

「……っく」

「……ふっ」

「「はははは」」

 

 顔を見合わせた二人は良きを合わせたように笑いだし、先ほどまでの雰囲気が消え去った。

 

「いいよ、グラン。私たち、まだこのままでいよう。だから全部終わったら教えてよ?」

「っ! ああ。約束する。……さて、次は大水槽だな」

「大水槽! 良いねぇ~。一体どんなお魚さんたちがいるのかな~」

 

 そしてこの後もグランとホシノは水槽を見て回った。そして探索がひと段落した頃、丁度昼飯時だったので施設の食堂で一緒に食事をとることに。

 

「お洒落なレストランじゃなくて悪いな」

「んーん。別に気にしないよ。それにここの料理すっごく美味しいから」

「そうか、なら良かったが……」

 

 グランは何か言いたげにホシノの食べている者に目線を向ける。

 

「どうしたの?」

「さっきまで可愛い、可愛い言っていたのによくそんなバクバク食べれるよな」

「それとこれとは別だよ~」

 

 釜揚げシラス丼、単品でアジフライ付き。小さなシラスの群れをキラキラとした目で見つめていたホシノの姿を思い出して頭に手を当てるグラン。そんなグランの苦悩とは裏腹にパクパクと美味しそうにシラスを食べるホシノ。

 

「そういうものか……」

 

 グランも自分の前に置かれている天ぷらそばを口に運ぶ。盆の上に載っている海老天は先ほどまで二人が見ていたものだということは頭から抜け落ちているようだ。

 

「さて水族館であればこの後イルカショーがあったりするんだろうが、残念ながらここにはそんなものはない。あとは帰りの船に乗るだけだが最後にもう一度みたい所とかあるか?」

「もう一度見たいところかぁ……。あ! あそこもう一度見たいかも!」

「ん?」

 

 二人は食事をとった後、ホシノのリクエストに従ってもう一度みたいと言っていたクラゲのエリアにやってきていた。

 

「てっきり大水槽かと思ったがこっちだったか」

「大水槽の方も良かったんだけど、こっちの方が落ち着いてるからね。……二人きりにもなれるし」

「……おう」

 

 ホシノの言葉に赤くなった顔を隠すように口元に手を当てるグラン。

 

「ねぇ、グラン」

「な、なんだ?」

「私のこと好き?」

「!?」

 

 ホシノの問にギョッとするグラン。グランがホシノを見ると、ホシノは上目図解で少しだけ困ったような表情をしていた。

 

「そ、そんなに驚かれると、少しだけ、傷ついちゃうかも……?」

「す、すまない……」

 

 ホシノの言葉に頭を掻きながら視線を逸らそうとしたグラン。しかしその顎元にホシノの手が添えられて目線を逸らすのを阻止される。

 

「悪いと思ってるのなら行動で示してほしいの」

 

 グランは自分のことが隙に違いないという確信を持っているホシノの物言いにグランは笑う。

 

「それはちょっと、ズルくないか?」

「あれぇ~、グランは色んな女の子を相手にしてきて知ってると思ったんだけどな? 女はズルい生き物だよ」

「……何がご所望かな? お姫様」

 

 顎元に添えられたホシノの手を取ってグランはそう言う。

 

「キスして」

「お望みのままに」

 

 グランがアビドスを去ってから重なることのなかった二人の影が再び重なったのだった。

 




このあと、普通にアビドスにホシノを送り届けて帰ったら、ホシノ本人よりもアヤネやノノミから『送り狼しろよ』と責められるグランだった。

グラン「……いや、それはちょっと段階飛ばし過ぎだろ」←ホシノ相手だと好きすぎて一周回ってめんどくさくなる男。
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