◎・ブラックマーケット・
「はひー、息苦し。もう脱いでいいよね?」
「のんびりしていられないよー、急げ急げ。追手が直ぐ来るだろうからー」
「出来るだけ早く離れないと……間もなく道路が封鎖される筈です……」
銀行から離れて、深く深呼吸するセリカ。セリカ、ホシノ、ヒフミが覆面を取る。……ヒフミの覆面はたい焼きの袋で急遽作ったものなのだが、丁寧にたたんでいるあたりヒフミの性格が良く出ている。
「ご心配なく。万全の準備を整えておきましたから」
「こっち急いで」
「まもなく、『ODI ET AMO』の領地だ。そこまでいけばひとまず安全だ」
「それはわかったんだけど。……あの、シロコ先輩……覆面脱がないの? 邪魔じゃない?」
セリカが肩で息をしながら、いまだに覆面をしているシロコを横目で見ている。……確かにいつまで覆面してるんだこいつ。
「天職を感じちゃったっていうか、もう魂の一部みたいなものになっちゃって、脱ぎたくないんじゃなーい?」
「シロコ先輩はアビドスに来て正解だわ。他の学校だったら、物凄い事やらかしていたかも……」
「そ、そうかな……」
お前ならブラックマーケットでも十分やっていけるよ、と言いそうになったがどうにか抑え込む。今普通の……普通とは言いづらいか。まぁ、ともかく態々学生をブラックマーケットに誘う必要はないだろう。そう思いながら移動していると、アヤネから通信が入る。
『封鎖地点を突破。この先は安全です』
「やった! 大成功!」
『本当にブラックマーケットの闇銀行を襲っちゃうなんて……』
「シロコちゃん、集金記録の書類はちゃんと持ってる?」
「う、うん……バッグの中に」
何だ? 歯切れが悪いな? ……集金記録だけにしてはやけにバッグがパンパンだな。
「へ? なんじゃこりゃ!? カバンの中に……物凄い量の札束が……!?」
「うえええええっ!? シロコ先輩、現金盗んじゃったの!?」
「や、やりやがった、コイツ!」
や、やりやがった、コイツ!
「ち、違う……目当ての書類はちゃんとある。このお金は、銀行の人が勝手に勘違いして入れただけで
……」
「この量、一億以上はあるぞ」
「うへ、本当に5分で一億稼いじゃったよー」
鞄の中に腕を突っ込んで、札束を取り出す。……本物だな。以前ブラックマーケットに入りたての頃、依頼達成の報酬で、札束をもらったが束の裏表の二枚だけ本物で後は偽札だった時があったからな。一応、確認。
「やったあ! 何ぼーっとしているの! 運ぶわよ!」
セリカが喜びの声を上げる。それもそうだろう。一億だ。借金を大分減らせる、日々の生活にも余裕ができるはずだ。本当に良かった。
「……」
『ちょ、ちょっと待って下さい! そのお金、使うつもりですか!?』
アヤネから制止してくるが、何かまずいのか?
「アヤネちゃん、なんで? 借金を返さなきゃ!」
『そんな事したら……本当に犯罪だよ、セリカちゃん!』
「は、犯罪だから何!? このお金はそもそも私達が汗水流して稼いだお金なんだよ!? それがあの闇銀行に流れていったんだよ! それに、そのままにしておいたら、犯罪者の武器や兵器に変えられてたかもしれない! 悪人のお金を盗んで何が悪いの!?」
セリカの言ってることは割と正しいことだと思うんだがなぁ? ……ブラックマーケットに長くいたせいで思考が染まりすぎたか?
「私はセリカちゃんの意見に賛成です。犯罪者の資金ですし、私達が正しい使い方をした方が良いと思います」
「俺も賛成だ。それはお前たちが危険を冒して手に入れた戦利品だ。奪い奪われ、それが
「ほらね! これさえあれば、学校の借金だってかなり減らせるんだよ!?」
……こう考えるとセリカもブラッドマーケットでやっていけるな。実力もあるし、常に成果に貪欲だ。本人の正義感が強いからブラッドマーケットの気風は合わないだろうが。
「んむ……それはそうなんだけど……シロコちゃんはどう思う?」
「自分の意見を述べるまでもない、ホシノ先輩が反対するだろうから」
は?
「さすがはシロコちゃん。私の事、分かっているねー。私達に必要なのは書類だけ。お金じゃない。今回のは悪人の犯罪資金だから良いとして、次はどうするの? その次は? こんな方法に慣れちゃうと……ゆくゆくはきっと、平気で同じこをするようになるよ。そしたらまたピンチの時に『仕方ない』と言いながらやっちゃいけないことに手を出すと思う。もしかしたら、もっと酷いことに手を出すかもしれない。……うへ~、おじさんとしては、可愛い後輩がそうなっちゃうのはイヤだなー。そうやって学校を守ったって、何の意味があるのさ」
沈黙。小鳥遊ホシノの言葉にアビドスの面々は言葉を失っていた。かくいう俺も何も言えなかった。『仕方ない』そういってどんどん手を汚してきた人間をよく知っている。よく知っているからこそ、その言葉が深く突き刺さった。無意識の内に手をかなり握りこんでいた。
「こんな方法使うくらいなら、最初からノノミちゃんの持ってるゴールドカードに頼ってたよ」
「……私もそう提案しましたが、ホシノ先輩が反対されて……。先輩の気持ち、分かります。いくら頑張ったって、きちんとした方法で返済しない限り、アビドスはアビドスじゃなくなってしまう……」
いや、ノノミ。お前はさっきまでこっち側だっただろうが。
「うへ、そういうこと。だからこのバッグは置いて行くよ。頂くのは必要な書類だけね、これは委員長としての命令だよー」
小鳥遊ホシノがそう言って書類だけを持って歩き出す。
「うわああっ!! もどかしい! 意味わかんない! こんな大金を捨てていく!? 変な所で真面目なんだから!」
そう言いつつもセリカも小鳥遊ホシノの後を追う。ツンデレか……ツンデレか?
「ん、委員長としての命令なら」
「私はアビドスさんの事情は良く知りませんが……このお金を持っていると、何か他のトラブルに巻き込まれるかもしれません。災いの種、みたいなものでしょうから」
「考えられるのは銀行の報復攻撃か……」
「やっぱり、あるんですね」
シロコとヒフミもついていく。ヒフミの疑問の答えをその背に投げかければ、一度振り返って困り顔でそう返してきた。
「あは……仕方ないですよね。このバッグは私が適当に処分します」
「ほい、頼んだよ~」
「大丈夫か? 不安だったらいっその事、領地内で燃やすか?」
「いえいえ、そこまではしなくて大丈夫だと思います」
ノノミに焼却処分を持ちかけるが断られた。確かにブラックマーケットの犯罪資金とは言え、紙幣を燃やすのは抵抗があったか。そうしてバッグを担いでノノミは歩き出した。
「ふふふ。良かった」
「何がだ、先生?」
今まで黙っていた先生が、喋ったので思わず声をかける。なんだ? 妙にニコニコして?
「今回は特別な事情があったから目を瞑ったけどね、やっぱり生徒に悪事に手を染めてほしくない。だからあの子たちが自分たちででああいう結論を出したこと凄くうれしくて」
ああ、そういうことか。ホントにつくづく良い人だよ、先生。『手を染めない』か。先生は以前俺みたいなやつでも『未来を変えることはできる』と言っていたが。
「なぁ、先生」
「ん? どうしたの?」
「……やっぱ、なんでもない」
「……そう。話せるようになったら、話してね」
先生はそう言い残し小鳥遊ホシノたちの元へ駆け寄っていった。彼女たちの判断をほめているのだろうか、笑顔で皆の頭を撫でている。
―――『未来を変えることはできる』か。もし、その生徒にもう未来がないとすれば先生はどうするつもりなんだ?
『ッ! 待ってください!ドローンのセンサーが何者かの接近を検知しました!』
「!」
アヤネの声に意識が一気に引き戻される。
「追っ手のマーケットガード!?」
「ここまで追ってくるの?」
「おいおい、ウチの哨戒にも引っかかるぞここらは」
まさかとは思うが、ウチと一戦交えるつもりか?
『ドローンのカメラが対象を捕らえました! これは……べ、便利屋のアルさん!? 敵意はないようですが』
便利屋68がなぜここに? それに敵意がない? とりあえず、覆面を被り、一応正体がばれていないことを祈ることにした。
「はぁ、ふぅ……ま、待って! あ、落ち着いて。私は敵じゃないから!」
そう言って胸を張る陸八魔アル。……これは……こちらが対策委員会の面々だと気が付いていないな? 本当にどうしてコイツがトップで便利屋でやっていけているんだ?
「何であいつが……?」
「撃退する?」
「どうしよっか、戦う気がない相手を叩くのもねぇ」
「お知り合いですか?」
「まあねー、そこそこー」
小声で話し合う俺らを気にせず、声高らかに、喋りはじめる陸八魔アル。
「あ、あの……た、大したことじゃないんだけど、さっきの銀行の襲撃見せて貰ったわ。ブラックマーケットの銀行をものの5分で攻略して見事に撤収……。あなた達、稀に見るアウトローっぷりだったわ!」
「……!?」
「まぁ一応、本物のアウトローいるしね」
「……俺の事言ってる?」
「正直、凄く衝撃的だったというか、このご時世にあんな大胆な事が出来るなんて……感動的と言うか。わ、私も頑張るわ! 法律や規律に縛られない、本当の意味での自由な魂! そんなアウトローになりたいから!」
宣言を響かせる陸八魔アル。その様子を白い目で見る俺ら。
「そ、そういう事だから……名前を教えて!」
「名前……!?」
「その、組織っていうか、チーム名とかあるでしょ? 正式な名称じゃなくても良いから……私が今日の雄姿を心に深く刻んでおけるように!」
「うへ……なんか盛大に勘違いしているみたいだねー……」
「確かに、今はチームだが……」
呆れかえっているとノノミが陸八魔アルの手を取り感激した様子を見せる。
「……はいっ! 仰る事は、よーくわかりましたっ!」
「の、ノノッ、違ッ、グリーン先輩!?」
「私たちは、人呼んで……覆面水着団!」
「……覆面水着団!? や、ヤバい……! 超クール! カッコ良すぎるわ!」
「おい、何か始まったぞ」
「うへ~本来はスクール水着に覆面が正装なんだけれどね、ちょっと緊急だったもんで、今日は覆面だけなんだー」
「待て、なんだそれは」
「なんか妙な設定を加えてる!」
急に始まった小鳥遊ホシノ、ノノミ劇場にセリカと共に小声で突っ込みを入れる。
「そうなんです! 普段はアイドルとして活動してて、夜になると悪人を倒す正義の怪盗に変身するんです! そして、私はクリスティーナだお♧」
「『だお♧』……!?ぎゃ、キャラも立ってる……!?」
「うへ、『目には目を、歯には歯を。無慈悲に、孤高に、我が道の如く魔境を往く』これが私らのモットーだよ!」
「……
「そういえば、それ、グランのとこのモットー?」
ぼそっと呟けば隣のセリカが質問してくれる。後で答えてあげよう。
「な、なんですってー!!」
「も、もう良いでしょ? さっさと逃げるよ!」
「それじゃあこの辺で、アディオス~☆」
「行こう! 夕日に向かって!」
「夕日、まだですけれど……」
「もう、なにも言うな。ファウスト」
そう言って駆けだす俺ら。……ノノミがポーズをとること夢中で現金の入ったバッグを置いて行ってるが、まぁ良いだろう。どうせ捨てる予定の物だ。便利屋、せいぜい上手く使うといい。
◎・ブラックマーケット・
「よし! 『我が道の如く魔境を』……その言葉、魂に刻むわ! 私も頑張る!」
「あ、あの……アル様。このバッグ、どうしましょう? あの人たちが置いて行った行ったんですけど……」
言葉を噛み締めているアルにおずおずと発言するハルカ。その手にはパンパンに膨らんだ、バッグがあった。便利屋の視線がそのバッグに集まる。
「ん? これはまさか……覆面水着団が私の為に?」
「いや、それはないわ……ただの忘れものじゃない?」
「結構重いよ? 何が入っているんだろ?」
そう言ってバッグを開ける、ムツキ。その中身を見て驚愕する。
「………!?」
「ひょええ!?」
「これは……!!」
「えええええええーッ!」
「うわわわわーっ!?」
「これは……」
絶叫が止まらない便利屋の面々。一億近い現金の山が入っているバッグは貧乏生活を続けている便利屋にとって眩しすぎた。
「……もしかして、これでもう食事を抜かなくてもいいんですか?」
ハルカがそういってこれからの食事に思いをはせ笑った。
グラン君、ブラックマーケットでのは上がるために色々してきたもんな。ホシノの言葉に傷ついちゃうのも『仕方ない』よ。ほらいつもの『仕方ない』ことだよ、気にすんなよ、いまさら善人ぶるなよ。
グラン君がこの中で一番仲良くなるのは?その2
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ヒゲ
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側近
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突撃
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望遠鏡
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カンポット
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文学少女
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ストライキ