◎・便利屋事務所・
「おはよー」
「おはよう……」
ムツキが元気に声を上げながら便利屋の事務所に入ってくる。それに対し、社長のアルの声はやつれていた。
「うわ、アルちゃんどうしたの? 徹夜でもした?」
「いえ、ちゃんと寝たわ……」
「社長、何か悩みでもあるの?」
「計画はしっかり立てたじゃん? 人は二倍雇って、地の利を生かせる戦場にアビドスを誘い出す」
「ハルカは爆弾を設置にしに出掛けてる。爆弾を数十か所埋設した場所でアビドスをコテンパンにする計画だよね」
ムツキとカヨコがこれからの計画を語る。しかしアルの顔色は優れないまままだ。
「ただいま戻りました」
「お帰り。お疲れ様、ハルカ」
「主要ポイントに爆弾を設置してきました。あとはこのボタン一つで……」
「よしよし、頑張ったねー。場所だけ忘れないでねー」
ムツキがハルカの頭を撫でる。ハルカは照れ笑いをしながら妖しげな笑みを浮かべる。
「いつでも言ってください。私がこの手で全部吹っ飛ばしますから……そう、全部この手で……」
「……はぁ」
「なぁに死にそうな顔しているの? それなら最初からクライアントからの手付金をもらって、それを資金に充てればよかったじゃん」
「……手付金はもらわない。それがうちの鉄則よ」
それだけは譲らないと、アルは強い言葉でムツキの考えを否定する。
「手付金をもらうと、クライアントの命令に従わざるを得なくなるから……って理由だっけ?」
「その通り。華麗に仕事を終えてから依頼料を受け取る。この順番が崩れたら私たちの美学は達成できないの」
アルは決め顔でそう宣言するがそれを見ていたカヨコとムツキは首を傾げている。
「美学? そんなのあったっけ?」
「さぁ?」
「あるわよ! 法律と規律に縛られないハードボイルドなアウトロー! それが便利屋の目指すもの! その為の美学!」
アルはテーブルを叩いて立ち上がりながら大手を振って説明する。
「さっき言ったように、クライアントの依頼も同じ。それが、私たちを縛り付ける足かせになることもあるわ。私たちの美学に反する行動を強いられるかもしれない。だから依頼料は絶対に成功報酬として受け取るの。それに常識でしょ、前金が妙に高い依頼は危険だって」
アルが語っているのはこのキヴォトスの傭兵たちの間で語られているジンクスのようなものだ。偽情報で任務の難易度を偽ったり、高額報酬でつられた傭兵たちに行われる騙し討ちだ。主な手口は『依頼文からは情報が上手く読み取れない。もしくは妙に簡単なもの』『依頼内容に比べてやけに報酬が高い』『全額、もしくは一部前払い』などがある。
「プレッシャーを感じるなら、全部投げ捨ててゲヘナに帰るのありだよ、社長」
「はぁ!? ぷ、プレッシャーだなんて感じてないわよ!」
「うーん、ゲヘナに帰るのは無理じゃない? 風紀委員の奴らが黙っちゃないよ?」
「風紀委員会……か」
カヨコが、忌々し気な顔をして風紀委員会の名を口に出す。その表情からは決して浅くはない因縁があることが察せられる。
「確かに風紀委員会の連中は手強いけど……今の私たちは奴らから逃げてきたわけじゃない。それと、そもそもうちの風紀委員会が時にキヴォトス最強とも言われている理由は―――風紀委員長、空崎ヒナの存在があるから。風紀委員会の戦力の大半は、殆ど彼女が担っていると言っても過言じゃない。一騎当千という言葉を体現しているような人。言い換えるなら、ヒナ以外の風紀委員会はどうにでもできる。計画をキチンと練れば、勝算はある」
カヨコの語りに便利屋の驚愕の視線が集まる。その視線に気が付いたカヨコは少し居心地が悪そうに、咳払いをする。
「カヨコっち、滅茶苦茶考えてんじゃん」
「い、いつか必ず相まみえるだろうから。ヒナ抜きの風紀委員会なら今アビドスに向けている労力を考えれば、難なく戦えるはず。逆に言えば、アビドスはそれだけ侮れない相手ってこと。生徒の数が少ないのが最大の弱点だけど」
「えー? そんなに強いかな……」
ムツキとカヨコが互いに意見を出して、アビドスの評価について語っていく。そんな中、アルはゆっくりと、けれど全員にしっかりと聞こえる低い声で告げる。
「今更、ゲヘナに戻るという選択肢はないわ」
「なら、一体何が引っかかっているの?」
「そ、それは……」
一転、アルは言葉に詰まる。
「わかったわかった。面白くない話はこれくらいにして、アルちゃん、ご飯食べに行こうよ。 お腹すいたし。ラーメン食べよ、柴関行こ!」
「また?」
「いいの、いいの。バイトちゃんは午後から入るし。鉢合わなきゃ問題ないじゃん」
「まぁ……美味しかったし、とにかく社長を元気づけないと……」
「きっまりー!」
◎・柴関ラーメン・
「来たぁ! いただきまーす!」
「ひ、ひとりにつき一杯……こんな贅沢しても良いのですか?」
「アビドスさんとこのお友達だろう? 替え玉が欲しけりゃ言ってくれな」
「……!?」
柴関ラーメンに来た便利屋68。臨時収入もあったことで前回とは違いしっかりと全員一人一杯頼んでいる。柴大将の『友達』発言を聞いたアルが驚く。
「こんなに美味しいのにお客さんが居ないなんて」
「場所が悪いんじゃない? 廃校寸前の学校の近くだし」
「まあ、美味しいから良いけれど。それじゃ、いただ―――「……じゃない」
カヨコが食べようとした瞬間、アルが何かをつぶやく。
「ん?」
「どしたの、アルちゃーん?」
「友達なんかじゃないわよぉー!!」
「わわっ!?」
アルがテーブルを両手でたたきながら絶叫して立ち上がる。ムツキは突然の大声に驚きよろめく。
「わかった!! 何が引っかかっていたのかわかったわ! 問題はこの店、この店よっ!!」
「!?」
「どゆこと!?」
ハルカは驚き固まる。カヨコも箸を一度おく。
「私たちは仕事をしにこの辺りに来ているの! ハードボイルドに! アウトローっぽく! なのに何なのよ、この店は! お腹いっぱい食べられるし!! あったかくて親切で! 話しかけてくれて、和気あいあいで、ほんわかしたこの雰囲気! ここにいると、みんな仲良しになっちゃう気がするのよ!」
「それに何か問題ある?」
「駄目よ! 滅茶苦茶でグダグダよ! 私が一人前の悪党になるには、こんな店いらないのよっ! 私に必要なのは冷酷さと無慈悲さと非情さなの! こんなほっこり感じゃない!」
ムツキの言葉に勢いよく否定するアル。それを聞いていたハルカの顔が少しずつ笑みを浮かべ始める。そしてスッと立ち上がる。
「それは……こんなお店はぶっ壊してしまおうってことですよね! アル様!」
「……へ?」
「良かった、ついにアル様のお力になれます」
「起爆装置? なんでそれを……」
「ま、まさか! ハルカちょ、ちょっと待っ―――
カヨコの制止も届かず。ハルカは手に持った起爆装置のパタンを押し込む。
「……へ?」
ドゴゴゴゴゴゴゴーーーン
◎・対策委員会 教室・
対策委委員の教室に入ると、先生に膝枕をするノノミがいた。……。
「……どういう状況だ?」
「さっきまでホシノが膝枕されてたから、気になって私もノノミに膝枕をしてもらってるの!」
「ついでに耳かきもしてしまいましょうか?」
「ホントっ!?」
そういって俺を置いてきぼりにして先生はノノミに耳かきをしてもらい始めるのだった。……途中でノノミが何かを囁いてる。ASMRみたいなもんだろあれ。事実、先生の顔は大分赤い。
しかし、小鳥遊ホシノはいないのか……そうか……。しばらくしてアヤネ、セリカ、シロコも来たので俺はアヤネにオーレリアの所で買った服を渡した。アヤネはブラックマーケットに来ていなかったから、変えてなかったしな。俺自身のセンスだったから、少し不安だったが、アヤネが嬉しそうに笑ってくれて本当に良かった。後日、ブラックマーケットを案内してほしいと頼まれた、その時にこの服を着てくるそうだ。
ほっこりしていると、教室内にアラートが響く。アヤネのパソコンからだ。
「前方、半径10km内ににて爆発を検知! 近いです!」
「そこは確か、市街地だったよな?」
アビドスの地図を思い浮かべて場所を確認する。
「まさか……襲撃!?」
「衝撃はの形状から推測すると、C4の連鎖反応だと思われます。砲撃や爆撃ではないようです。……爆発地点は市街地、正確な位置は……柴関ラーメン!? 柴関ラーメンが跡形もなく消えてしまいました!?」
「はぁ!?」
「どういうこと!? なんであの店が狙われるのよ!?」
なんで、柴関が? というか、跡形もなく……? 大将は無事か? というか、まだ月4も行ってないんだが!?
「戦略拠点でもなく、重要な交通網でもないのに。一体誰が……」
「ま、まさか、また私を狙って?」
セリカの顔が若干暗い。もしかしたら自分のせいで迷惑をかけたと思っているのだろうか。
「大丈夫。絶対にセリカのせいじゃない。だから安心して」
「せ、先生。で、でも……」
先生がセリカの頭を抱き寄せてあやす。それにつづいてシロコも励ます。
「憶測は後でも遅くない。今は私たちにできることをしよう、セリカ」
「そうですね! 今は現場に急ぎましょう! みんな行きましょう!」
ノノミがそう音頭をとり、武器を取る。
「アヤネはここでホシノに連絡を取って! グラン車出して! 対策委員会出撃だよ!」
「「「「「了解」」」」」
さて前回のあとがきに書き忘れたことでも書きましょうか。
過去ホシノはグランという緩衝材もありユメ先輩に対して最初こそトゲトゲしていましたが、それなりに早く打ち解けることができました。タンクのユメ、アタッカーのホシノ、サポートのグランとかなりバランスも良かったです。ホシノは自身に適格な援護射撃をして戦闘面でも、学生生活でも先輩との間を取り持って献身的なサポートをしてくれた優しいグランに淡い恋心を持っていました。それこそ、ファーストキスするほどに。
そんな日々もユメ先輩の死によって終わりを告げます。詳しいことはまた今度ですが、グランは『ここで3人全滅するか、ユメ先輩を見殺しにして自分とホシノを助けるか』という問題に対して、後者を選びました。そのことで2人の間に亀裂が入り、大ゲンカ、という名のホシノの一方的なリンチが始まります。結果、グランは左腕を失います。翌日、ホシノも冷静になり、あの時はああするしかなかった。『仕方なかった』グランの判断を理解して、謝るためにグランの家に向かうんです。あぁ、この時ホシノはグランの左腕をダメにしてしまったなんて気が付いてません。呼びかけても返事が返ってこない家にしびれを切らし合鍵で中に入るホシノ。そこでグランの退学届けを発見してしまうんですね。んほ~、退学届けを見つけたホシノの表情溜まんね~~。というわけです。でもホシノは泣きません、そんな時間がありませんし、泣いて悲しむことができる程健全な精神はもうありませんでしたから。ただただ、昨日の発言を悔いるばかりです。早くユメ先輩の死体を探しに行かないといけませんしね。それで昨日いた場所に向かって、『盾』をみつけるんですね。はい、例のスチルです。すっげ、これ、ユメ先輩死んで1日の間に全部起きてる。ホシノ真っ当に泣けなくなっちゃったじゃん、グランのせいだよー。ちなみにここに退学届けを出さずにグランも一緒にいるIFだとグランはユメ先輩の死体を目の当たりにして精神が耐え切れず、ホシノの前で自分のヘイローを壊しちゃいます。
そう、実は本編のグランくん。ユメ先輩の死体を見てないし、お墓も見たことがないんです。
さて、話を本編に戻します。アビドスにグラン君が再び訪れたときのお話です。ホシノの目の前には変わり果てた思い人が現れたことになります。こちらのサポートなんてしないで敵に突っ込むし、優しい笑顔は向けてくれないし、憧れを抱いていた長髪は短く切られている。なんなら、過去の自分のエミュしてる。自分がユメ先輩の真似事をしているみたいに。ここでホシノは初めてあの日、自分がグランの左腕を奪っていたことにも気が付くんです。いっぱい散弾叩き込んだもんね♪心当たりしかないよね。罪悪感と責任感と恋心でホシノの心はぐちゃぐちゃです。そういった事情から、ホシノはグランに帰ってきてほしいし、過去のグランに戻ってきてほしいと思っています。そして今度は後輩たちも一緒に青春物語をやり直そうとホシノは考えています。
もうグランが引き返すことのできない場所まで行っていることに気が付かないままね。
グラン君がこの中で一番仲良くなるのは?その2
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ヒゲ
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側近
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突撃
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望遠鏡
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カンポット
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文学少女
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ストライキ