30話
◎・便利屋68 事務所・
「はぁ……」
「アルちゃーん、さっきから溜息ばっかりだよ。テキパキ荷物運ぼう?」
「はぁぁぁ……」
柴関での戦闘から数日。事務所内では引っ越しの準備が進められていた。アルはまだ片付けられていないデスクに座り、溜息をついていた。ムツキは作業をしながらそのことを指摘するがアルは全く動かなかった。
「え、えっと、これはどこに運べばいいでしょうか?」
「ん? これ……ああ、アルちゃんが天賦の才を発揮した書道の残骸じゃん、あっちの燃えるゴミでいいよ」
「捨てないでよ! 持っていくに決まってるじゃない!」
ハルカが事務所の壁に掛かっている『一日一悪』の書初めを壁から外して抱えながら聞く。ムツキは捨ててよいと言ったが、アルが立ち上がって否定した。そしてハルカから書初めを取り上げて抱きしめる。
「でもそれ、書道の授業で書いたやつでしょ~? ホントにいる? それに『一日一悪』って何? どういう意味?」
「き、きっと10年後には10億円ぐらいの価値が……。はぁ」
「打っても響かないし、元気ないねぇアルちゃん……」
「社長、どうしたの」
弄っても何時ものようにリアクションを返さないアルにムツキも不満気だ。カヨコはそんなアルの様子を見てムツキに質問する。
「アルちゃん、事務所を引っ越すのが嫌みたい」
「でも風紀委員会に場所を知られちゃったし、任務失敗で最初のクライアントからも狙われるだろうし、仕方ないでしょー? そういえば、アビドスとの闘いも流れで解散したせいで中途半端な感じで終わっちゃったしね」
「仕方ないでしょ! 一緒に背中を合わせて戦った人たちを今になって狙うなんて……それに庇われてもいるし、できるわけないじゃない!」
アルがそう言って書初めを持ったまままブンブンと両手をふる。そのアウトローとはあんまりにもかけ離れた姿にカヨコは溜息を吐く。
「あの鞄のお金も、残り全部ラーメン屋の修理代としておいてきたし、本当にこの社長は……」
「だ、だって、私は……ハードボイルドなアウトローは……」
「……はぁ。本当に、手のかかる社長だ」
そう言いながらもカヨコの顔は笑顔だった。
「でも、こういうのがアルちゃんだもんね? 一緒にいてすっごく楽しい!」
「はい! 私もそう思います! アル様! わ、私、アル様がいなかったら今こうしてこうして生きていないはずなので……。元気出してください! 私が一番尊敬しているのはアル様ですから!」
「う、うるさい! 知ってるわよ!」
アルが照れながら大声を出したところで事務所の扉がノックされた。即座に警戒態勢に入る。風紀委員会か、クライアントの手下か、緊張した面持ちでハルカが扉を開ける。
「外まで声が漏れていたぞ。随分賑やかな事務所だな」
「お邪魔するっス!」
車いすに乗ったグランと、その車いすを押している水色髪のサイドテール、白のダブルストラップキャミソールとデニムのローライズホットパンツを着ている『っス』という口調が特徴の女が入ってきた。
「代表!? あなた、もう動いて大丈夫なの!?」
「あ、代表じゃ~ん。何々報酬持ってきてくれたの?」
「それよりも、良くここがわかったね」
「代表さんでしたか、いきなり銃向けてごめんなさい。不愉快でしたよね、すいません、すいませせん、すいません」
便利屋がそれぞれの反応を示す姿を見て、苦笑いをするグラン。
「お前たちは本当に賑やかだな」
「いや~、代表に聞いたときから面白そうとは思っていたんスけど、本当に愉快な人たちっス!」
グランの言葉に同調して笑う水色髪の女、そんな彼女に便利屋の目線が集中する。
「アナタは誰よ!?」
アルがビシッと指を差す。指を刺された女はキョトンとした顔をしたあとに手を叩いて、納得した。
「そういえば自己紹介してなかったっス。はい! アタシ、キッド4!
そういって敬礼もどきのポーズをとるフセ。 便利屋の面々もフセが危害を加えようとしているわけではないと安心した。場合によってグランが便利屋を消すために連れてきた手練れだと思っていたのだ。
「ほれ、陸八魔。とりあえずコートだ」
「こ、これ……」
アルが受け取ったコートは以前に使っていたものと全く同じものだった。
「同じものを探すのに手間取った。けど……ああ、陸八魔、お前にはやっぱりそのコートが一番似合ってる」
「そ、そうでしょ! 代表もやっぱりセンスがいいわね!」
少し照れながらコートを着るアル。いつもの恰好になったおかげで調子が出てきたらしいアル。体を動かして着心地を確かめる。その様子を見ながらフセに声をかけて資料を取り出させるグラン。それをアルたちの前で広げる。
「あと、これがうちで準備したオフィスだ。家賃はこっちでもつ、使うも使わないも自由だ」
資料を見る便利屋の面々。
ブラックマーケット内オフィスビル『グリーシス』55階建てビルの20階の一室。面積70.5㎡。有人による受付対応、郵便物対応、宅配物対応可。全室個別空調、ルームクリーニング(週1回床清掃、平日限定ゴミ回収)、内線電話設置、貸室契約者の法人登記、共用部Wi-Fi、ドリンクサービス、ガジェット貸出サービス、書類溶解サービス、共用ラウンジのゲスト利用、シャワールーム設置、家具の持込み可、会議室利用料1日3H~5H無料。
「どうだ?」
「これ、凄く良いじゃない! まさに一流って感じ!」
アルが目を輝かせる。しかしその横でカヨコとムツキの顔が険しくなる。
「何を企んでるの?」
カヨコがグランの事を睨みつけながら問う。グランはそんな睨みでは怯まん、と言いたげに鼻で笑いながら質問に答える。
「企む……か、答えは『何も』だ。便利屋68個々の能力は素晴らしいが、組織としては下の下。どうとでも潰せる」
その言葉にムッとするアル。
「覚悟しろ、便利屋68。このビルに居るのは、俺の支配領域内でも粒ぞろいのやつらだ。そいつらを見て、話して、考え、学べ、アウトローとは、悪党とは、自分たちはどうかを。俺がお前らに与える報酬はチャンスだ。精々周りの奴らと交流して利用できるようになれ。それができたら一流の組織として扱ってやる。逆に飲み込まれて利用されるだけに終わるかもしれない。どうする?」
グランは手を広げて、アルに決断を迫る。アルはじっくりと考えて自身の周りの社員たちの見る。ムツキはこれからを楽しみにして笑う、カヨコは溜息を吐いた後頷く、ハルカはキラキラとした目であるに絶対の信頼を寄せる。
「そのチャンス、絶対にものにして見せるわ! 今に見てなさい、貴方も見上げる程の存在になって見せるわ!」
コートを翻し、アルは不敵に笑い宣言する。グランはそれを見て感嘆の声を上げ、拍手する。
「俺を超えるか……。楽しみにしてるぞ、陸八魔アル」
「ええ、首を洗って待ってなさい!」
◎・・・
「これで荷物は全部積み終わりました!」
「それじゃあ、行こうか」
「先生にもよろしくねー、お・兄・ち・ゃ・ん」
「誰がお兄ちゃんだ」
ムツキが軽口を叩きながら車いすに乗ったグランの膝の上に横座りする。グランも文句を言いつつ、頭を撫でている。
「風紀委員会と戦うとき、お世話になりましたと伝えてください」
「おう。伝えておく」
ハルカに言葉にも返事をする。ムツキは膝からおりて後ろに手を組みながら荷物が積み込まれたトラックに歩いていく。
「ここ、良いところだったし、また来たいねー」
「まぁ……それはそうだね」
「はい、本当に」
「次はゆっくりラーメンを食べに来るわ。アビドスの子たちにそう伝えておいてくれる? ……本当に美味しかった、から」
「伝言ばっかりだな。 ああ、絶対に伝えるとも」
そうして、便利屋の乗ったトラックはブラックマーケットの新事務所に向かって走り去っていった。
その姿が見えなくなったころにキッド4がグランに質問をした。
「良かったんスか? あの程度の奴ら、代表が世話するに値するとは思えないっス」
キッド4の目が、先ほどとは打って変わり極寒、と表現するのがふさわしいものになっていた。その目線の先には便利屋が去っていった道がある。
「ああいう奴らは大きくなる。今に見てると良い。それとも俺の決定が不満か?」
「そんなわけないっス! アタシにとっとてはグラン様の決定、命令が絶対っスから。 ただ、聞きたかっただけっス!」
グランはキッド4の返事を聞いて前を向く。
「そうだよな。……そうなることを望んだのは俺だしな」
キッド4『衛府フセ』白のダブルストラップキャミソールとデニムのローライズホットパンツを着ている。髪型はサイドテール。生まれも育ちもブラックマーケットの存在でありしっかりとした年齢も不明。生まれたときからブラックマーケットで過ごしていたため、ブラックマーケット内の物流や運び屋に精通している。急速に力を増してきていたグランの組織に対し彼女が当時率いていたチンピラグループで喧嘩を売りに行きグランの左足を奪うも、返り討ちに会う。その後彼の傘下に入った。今ではグランの忠犬。商業部門のトップではあるが、戦場では鉄砲玉として働く。武器はKO-8K2の二丁持ち 『まだまだ行けるっスよ、代表ぉぉぉぉおおお!』
あとグラン君。自分で回りをイエスマンで固めた癖に反対意見が無いことを今更悔やまないでくれる? 誰も君を止めてくれないよ? 君がそれを望んだんだから。
キキキッ、この活躍。グランには……
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頭を撫でてもらう!
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手をつないでもらう!
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一日、私の隣で書類仕事だ!
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お、お出かけデートをしてもらう!
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一日中、家でゴロゴロするぞ!
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……(裾を引っ張ってベッドを指さす)