シャーレの部長はブラックマーケットの代表   作:四脚好き

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40話

◎・『塔』内部病室・

 

 ホシノを助けてから一週間がたった。現在グランはブラックマーケット内の病院で寝ており意識はまだ戻っていない。あの決戦の後、グランは意識を失って倒れた。そこに駆けつけた先生たちとキッド2の手によって応急処置がなされ事なきを得たが、重症には違いなくすぐさま病院に運び込まれた。そこから一週間、グランは眠ったままだ。

 この一週間様々な人がグランの病室を訪れていた。ブラックマーケットの有力者たち、キッドたち、先生、対策委員会、便利屋68、チナツ、セナ、イロハ、マコト、ヒフミ、救護騎士団、聖園ミカなど多くの人が訪れていた。

 キッド2は治療や看護の為、グランの傍にいたため例外とすると実は一番グランの見舞いに来ていたのはマコトだったりする。

 

「……」

 

 キッド2はグランの病室に入る。服を脱がして体を拭いていく。

 

「『いってきます』でしたか……いけませんよ、代表。あなたはブラックマーケット代表の水戸グラン(私たちの理想の主人)であって、アビドスの水戸グラン(無邪気な子供)じゃないんですから。貴方が帰るべきなのはアビドス(穏やかな日々)ではなくブラックマーケット(闘争と血にまみれる日々)なんです……」

 

 清拭を終えて、そう言い放ちいつもの薬(・・・・・)を注射するキッド2。薬がグランの体内に入っていってしばらくした後、魘され始めたグランを見て笑みを浮かべるキッド2。そっとグランの頭を撫で、額にキスをする。そうしてキッド2はグランの病室を出ていった。

 

「代表の様子は?」

良好ですよ(・・・・・)。キッド1」

「なら良かったっス! アタシも代表がいなくなっちゃうのは嫌っスからね」

 

 そこにはキッドたち全員が揃っていた。キッド1がグランの容態を尋ねれば、キッド2は意味ありげな笑みを浮かべて答える。その言葉を聞いたキッド4が尻尾を振って喜ぶ。

 

「ディヒヒ、本来ならもう起きてるはずなのにグランも大変だね~。睡眠薬、幻惑剤のダブル投与。おまけに周りの医療機器も見せかけだけのもの。実際は脳波を計測するものじゃなくて、脳波をいじるもの。今頃アビドスの奴らに関係する悪夢でも見てんじゃな~い?」

「キッド3……。グラン様、もしくは代表と呼べと言っているだろう」

 

 灰色のツインテールとゴスロリ服が特徴のキッド3『伊知智アム』が廊下のベンチに座り足をプラプラさせながら笑う。キッド1が言葉遣いを注意するが、キッド3はさらに笑うだけだった。

 

「ディィイヒヒヒヒヒヒヒ!! それこそナイナイ。僕は代表の部下ではあるけど、君たちみたいに『忠臣』じゃあない。僕は『代表のファン』だよ。この呼び方もちゃんと許可貰ってるモーン」

 

 大笑いするキッド3。その笑いは基本的には真面目なキッド1の神経を逆撫でる。それをキッド3は察知して更ににやける。廊下の空気が悪くなり始めた。そこでキッド2が手を叩き、空気をリセットする。

 

「そこまでです。含むところがあれば戦場で好きなだけやればいいでしょう。誰も止めはしませんよ」

「……フン」

「ディヒ」

 

 その場は解散し、キッドたちは互いの持ち場へ帰っていった。

 

◎・・・

 

『人殺し』『痛い痛い痛い痛い痛い』『私は裏切ってなんかいません! 信じてください!』『いや、やめて!』『排除排除排除』『人殺し』 『や、やめてください。来週! 来週には返せますから!』『どうしてこんなに酷いことができるの?』『お願いします、お願いします』『代表……自分はッ、ここまでです』『グランくん、どうして私を置いて行ったの?』

 『ゴボッ!……ガホッ……もう止めて……もう殺して……』『お兄ちゃん、痛いよ、寒いよ……』『た、助けて!』『光が逆流する……!』『本当に戻れると思ってるの?』『う、腕! 俺の腕がぁ!』』『代表? 少しイイことしてあげるからウチの組織に援助してくれないかしら?』『もっと、お金がいるんです! どんな仕事もやります!』『私の初めて……グスッ……汚れちゃたなぁ』『へへへ、これが約束の金ですぜ』『こんな事までさせておいて自分は明るいところに戻るつもり?』

「グラン先輩、もう、やめてください。それをしたら、この腕を振り下ろしちゃったらもう、後戻りできなくなっちゃいます! 私、そんなグラン先輩見たくないです……」

「そうです! グランさんは冷たかったり、意地悪な時もありますが、根は良い人です。こんな事をしたら、心が壊れちゃいます! 私は絶対そんなことさせません!」

「グラン、これ以上は先生として全力で止めるよ。貴方のこれからの未来の為にも、殺しだけは絶対にしちゃいけない」

『うへ~、どうしたの『代表』くん』

 

「ッッ゛!!」

 

 あ゛あ゛あ゛!? ……クソっ、なんて夢だ。……うっ、急に吐き気が……ッ! 

 

「ほら」

 

 隣からバケツが差し出される。

 

「う゛、出゛っ…ッげぽッゴポゴポゴッホ」

「大丈夫……。ゆっくり、落ち着いて……」

 

 胃の中は何も入っていなかったせいか、粘っこい胃液だけがべちゃぺちゃとバケツに滴る。ある程度落ち着いて余裕ができる。背中をさすっていた手の持ち主を確認する。

 

「よかった。やっと起きてくれたね」

「ホシノ……」

 

 小鳥遊ホシノがこちらを見て微笑んでいた。……良かった、この笑顔が見れただけで満足だ。俺のやってきたことは無駄じゃなかったんだ。……ああ、駄目だ、涙が溢れて止まらない。

 

「……大丈夫。私はここにいるよ。私の為に頑張ってくれたよね。ありがとう、グラン」

 

 ホシノがベットに乗っかってきて抱きしめてくれる。暖かい……ちゃんと生きてる。もっとくっつきたい。こっちからも手をまわッッッ!? 自分の手をホシノから遠ざける。

 

「どうしたの?」

「あ、ああ、いや。なんでもない」

「そう? じゃあ私はグランが起きたって伝えてくるから」

 

 ホシノはそういって体を話して病室から出ていった。俺は自分の手を見る。そこには真っ赤な血に染まった手があった

 

「ヒィッ!?」

 

 なんだこれ!? なんでこんなに血が付いてる!? た、タオルでッ!? ……なんで!? なんで落ちないんだ!? あああ! 落ちろ! 落ちてよ! タオルに血が染みない! なんで!? どう……して……? 手に塗れた感覚が無い? 幻覚か? ……あ、そっか、これは……。

 

「自分のしてきたことを忘れて、アビドス生として幸せになろうとした罰か」

 

 そうだよな。今更、真っ当に生きようとする権利なんてある訳ないよな……。ははは、なんでこんな大事なことを忘れて居たんだろう。こんな手じゃ、もうホシノに触れないな……。

 義肢を着けて、ベッドから立ち上がる。少し……ふらつく。というかよく見たらここ、塔か。カーテンを開けて外の景色を見ているとドタバタと廊下を走る音が聞こえる。

 

「グランさん! 今、ホシノ先輩から起きたって!」

「グラン先輩! あぁっ! 良かった……」

「グラン! 無事!?」

「ん、もう立って良いの?」

「グラン、おはよう。ずっと待ってたよ」

 

 アヤネ、ノノミ、セリカ、シロコ、先生の順で部屋に入ってくる。賑やかな奴らだな、本当に。

 

「……ん?私の顔、何かついてる?」

「……いや、なんでもない」

 

 先生の方をじっと見る。今回のホシノ救出作戦、先生がいなければ俺は何もできなかった。ホシノの居場所は調べられず、ヒフミが助けに来ることもなかった。もっと言えば、先生がこのキヴォトスに来なければ、俺は知らないうちにアビドスを失っていたかもしれない。先生だ。先生のような大人になれば、アビドスはきっと救える。

 

「なぁ、先生。質問しても良いか?」

「構わないよ。私に答えられる質問ならなんでも答えるよ」

「俺、先生みたいな大人になりたいんだ。どうすればいい?」

 

 俺の質問に驚いた顔をしたあと少し、考え込む先生。

 

「『大人』になりたいかぁ……。難しいね。それに私みたいな、か。私は大人っていうのは責任を負う者だと思ってるよ。力と知恵を使って子どもたちが伸び伸びと成長できるように支えてあげる存在それが私にとっての大人かな」

「そっか……」

 

 責任を負うもの……か。そうだよな。責任とって最期(・・)までやり通すべきだよな。さっきまでの幻覚はもう見えない。やっぱりあれは、俺が自分のしてきたことを忘れさせないための物だったんだろう。ホシノはもう、大丈夫。先生も、頼りになる後輩もいる。なら今度は、アビドスを救おう。ホシノだって黒服とかいう奴のところに行くぐらいだ。やっぱりアビドスを大事に思っているんだろう。アビドス自治区を救えば、ホシノもユメ先輩も喜んでくれるはずだ。可愛い後輩と協力して好きな人を救う。……アビドス生としての最後の思い出としては悪くなかったよ。

 

「お待たせ~。皆、走って行っちゃうんだから早いよ~。おじさんはもう、階段が大変で……」

「そんなに歳変わらないでしょ!」

 

 笑い出す対策委員会と先生たち。うん、いい景色だ。それじゃあ、生徒会員として最後の仕事をしようかな。

 

「あの後、アビドスはどうなったんだ?」

 

 俺が質問するとアヤネが一歩前に出て話し出す。

 

「対策委員会はいつものように楽しくも慌ただしい日々を送ってます。あの後、対策委員会は先生の公的な認証によって、アビドス高等学校の正式な委員会として承認されました。非公認だったせいで酷い目にあったという部分も大きいので、これで一安心です」

 

 アヤネは態々窓の近くにいる俺の所まで来て資料を見せてくれる。……何だか、随分距離が近いし、香水か? 良い匂がする。……ホシノとノノミからの視線が何故か冷たいな。

 

「お陰様で対策委員会は、正式にアビドス生徒会としての役割も担う事になりました。個人的にはホシノ先輩に生徒会長になって頂きたかったのですが、断固として拒否されまして……」

 

 一度資料から顔を上げてホシノに顔を向ける。

 

「なんだ、やればいいのに」

「無理無理、私のキャラじゃないしね。……それに私たちにとって生徒会長はあの人だけでしょ」

「それ、先輩留年してることにならないか?」

 

 顔を見合わせ、笑う。ユメ先輩がアワアワしながら『留年しちゃった~』なんて泣いてる姿が想像しやすすぎる。きっとホシノも同じ光景を想像したのだろう。ああ、楽しいな。

 

「と、言うわけで新しい生徒会長はまだ決まってません。……あと柴関ラーメンは、屋台の形で復活しました。グランさんもまた来てくださいね」

「私もバイトとして復活したわ!」

「それは良かった」

 

 セリカが胸を張ってどや顔をする。それを後ろで見ているノノミ達の顔が優しい。ずっと居たいな。

 

「大将も以前に増して元気に仕事されてますので、引退はまだまだ先になりそうです」

 

 ……あの大将なら『麺の代わりに全部メンマにしてくれ』とかいってもやってくれそうなんだよな。メンマ丼とかないかな……屋台だしないか。

 

「それから、先生のお陰でホシノ先輩の件は解決しましたが、アビドスの借金は相変わらず9億円のままです。まぁ、これは最初と余り変わらないのですが……。カイザーローンはブラックマーケットでの不法な金融取引がバレて、連邦生徒会の捜査が入るとのことです」

「……連邦生徒会が、ねぇ」

 

 まぁ、大した証拠は出てこんだろうな。

 

「あのカイザー理事は、生徒誘拐未遂事件の容疑者として指名手配されているそうです」

「それは……なんとも……。こっちで行方は調べる」

「あ、それからあの無理に引き上げられていた利子についても問題とされまして、最終的には以前より遥かに少ない利子の支払いで済む形になりました」

「本当か!? 良かったじゃないか!」

 

 思わず熱くなる。こればかりは本当にいいことじゃないか。俺があまりに興奮したせいか、アヤネがクスクスと笑っている。……なんか、恥ずかしいな。でも、駄目だよな。

 

「ただ、アビドス自治区の大半は相変わらず、カイザーコーポレーションが保有したままで……。アビドスとカイザーコーポレーションの取引自体は違法ではなかったので、ひとまず仕方ないみたいです。あの砂漠で何を企んでいたのか……それは結局分かりませんでした」

「土地かぁ……。そっちはこちらで対応してみる」

「はい、ありがとうございます」

 

 アヤネがアビドスとカイザーコーポレーションの土地売買に関する資料を取り出してこちらに渡してくる。あとでキッド4辺りに流すか。

 

「それから」

 

 アヤネの顔が険しくなる。

 

「『黒服』という人について、先生とホシノ先輩から聞いたじょうほ「それ以上は何もしない方が良い、アヤネ」え?」

 

 話を急にぶった切ったせいか、アヤネは驚いた顔をするし、先生たちもこちらを見てくる。

 

「ろくでもないやつらなのはわかりきってる。これ以上関わらない方がいい。そういうのはこっちに任せておけ」

「そうはいかないよ、グラン。あのゲマトリアという人たちは生徒にとって悪影響すぎる。大人に、私にまかせてほしい」

 

 先生が話に入ってきて、そう言う。ただ先生は良い人ではあるが、おっちょこちょいだ。今の出二つの知らない情報が手に入った。『人たち』、つまり少なくとも、二人以上の組織であること。『ゲマトリア』これが組織名だろう。ここは了承したふりわしていたほうが良いな。

 

「わかったこれは先生に任せるよ」

「うん。ありがとう」

 

 報告するべきことは終わったのだろう。元の位置に戻っていくアヤネ。

 

「それではグランさんも起きたことですし、アビドス対策委員会の定例会議を始めます!」

 

 え、ここでやるの? というか俺起きたばかりなのだが……。

 

「申し訳ありません、対策委員会の皆さま。『代表』の身体検査を先にさせて頂きたいのですが」

「キッド2か」

 

 部屋にキッド2が入ってきて、アヤネを止める。キッド2の言葉に興奮気味だったアヤネはハッとした表情になる。

 

「そ、そうでした。すいません、グランさん」

「いや、大丈夫だ。それじゃあ行ってくる」

 

 思わずアヤネを撫でそうになったが、抑え込む。その場は解散して、また後日となった。そうしてキッド2に支えられながら病室を後にする。診察室に向かう道すがら、キッド2に質問する。

 

「何日たった?」

「7日です」

「何人……死んだ?」

「11人です」

「……」

 

 そうか、そんなに逝ったか。俺一人の願望の為だけに。

 

「丁重に……な」

「心得ています」

 

 自分の背負うものがまた重くなったのを感じる。ふと先程見た、笑いあう対策委員会の姿が脳裏に浮かぶ。自分がいたら、この重石をあいつらも背負うことになるかもしれない。そんなことは絶対にさせたくない。なら……。

 

「キッド2」

「はい、代表」

「俺と一緒に堕ちてくれるか? どこまでも」

「ッ! はい! どこまでも、どこもでもご一緒します! 私はいつまでも代表と共に!」

 

 おおう、なんだか妙に気合入った返事だな。それじゃあ、身の回りの整理とか片付けし始めるか。

 

 

◎・・・

 

 やった! 代表は私を選んだんだ! あの小鳥遊ホシノでなくて、この私を! 毎日毎日少しずつクスリを盛ってきた甲斐があった! 

 ……代表は自分の精神的弱さからクスリに手を出したと思ってるけれど、そんなはずはない。 むしろ尊敬する先輩を失って、初恋の人に拒絶され、左腕を失って、殺人をしても、目標を遂げるために折れなかったあなたの精神力は異常なまでに強固でした。

 けど貴方は自身の体の診断を私だけに任せた、何も疑わずに。幻肢痛に悩む貴方に処方した薬にも、貴方の為に調合したタバコにも私特性のクスリを入れていたんです。そして貴方の見える位置にそのクスリを態と置い放置したのも私。初めて乱用がバレて焦ったあなたは、とてもかわいかったです。少しずつ治療していきましょうといって、実際はまったくクスリの量が変わっていないのに、少しずつ改善していると思っている貴方もとっても愛おしくて……。

 それほどまでにクスリに犯されようとも根の目標だけは変えなかったその精神性に私は惹かれ、貴方と共に歩む覚悟をしたんです。だから、今更変わろうとなんてしないで下さい、『代表』。

 

最後まで"私が"お供しますから、代表。

 





薬物乱用の障害。

・興奮
・多弁、寡黙
・思考分裂
・感覚過敏
・情緒不安定
・嘔吐
・幻聴、『幻覚』

いやー、本編40話にてついにグラン君も他人を頼ることを覚えました! 嬉しいことですね!

貴方が一番好きなキッドは?

  • キッド1 大鷲ハルミ
  • キッド2 白羽ムイ
  • キッド3 伊知智アム
  • キッド4 衛府フセ
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