シャーレの部長はブラックマーケットの代表   作:四脚好き

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いつも誤字脱字報告ありがとうございます。


41話

◎・トリニティ総合学園・

 

 身体検査を受け異常なしと診断された翌日。俺は今回の作戦で世話になった人たちに礼をするべく、各地を訪れていた。

 最初に訪れたのはここ、トリニティ総合学園。正直見舞いの品にミカからの品があったときは目までおかしくなったのかと思った。

 

「こちらでお待ちです」

 

 事前にアポを取っていたお陰でスムーズにパテル分派のテラスまでやってこれた。途中こちらをチラチラ見ながら何かを話している連中がいたが……流石トリニティだな、権謀術数の渦巻く伏魔殿。……ある意味ゲヘナと同レベルの治安だな。

 

「……争いは同レベルの間でしか発生しない」

「なーに? いきなりそんな事言って」

「なんでもない、ミカ」

 

 白いドレスの様な服に薄桃色の髪、白い翼を持ったわがままお姫様。生徒連合『パテル』首長、聖園ミカがテラスのテーブルに優雅に座ってこちらを待っていた。……お姫様ねぇ。正直俺は初対面時の弾切れにさせたと思ったら柱をもぎ取って暴れ始めた怪物、という印象しかない。けどまぁ。

 

「お前、確かにこう見ればお嬢様なんだな」

「何その言い方!? まるで普段の私がお嬢様らしくないみたいじゃん!?」

「お嬢様は新兵器のアイデアになるような行動はしない」

 

 何を隠そう、そのミカの動きこそ『MASS BLADE』の発想元になったのだ。俺は身体機能をハッキングして無理やり向上させないとできないのにコイツは生身で同じことできるんだよな〜。マジでどうなってんの?

 

「んー☆、もう一回ぶっ飛ばした方が良いのかな?」

「勘弁してくれよ、ミカ」

 

 もうあんな戦闘は勘弁だよ。席に座って用意されていたティーカップに事前に買っておいた、缶コーヒーを開けて注ぐ。

 

「あー、あー、一応のティーパーティー御用達のお店のティーカップなのに」

「俺は紅茶は飲めないと知ってるだろう。それなのに毎回毎回、ことあるごとに紅茶を送ってきやがって。嫌がらせか?」

「いやー私、トリニティのトップだからね。当たり障りないものとして紅茶は最適だし」

 

 そういうものなんかね。テーブル上の菓子に手を伸ばす。うん、菓子はやっぱりうまい。また今度アヤネ達に持って行っ――――。

 

「どうしたの? 口に合わなかった?」

「……いや、うまいよ」

「そう?」

 

 顔にも出ていたか。ボロボロだな、俺のメンタルも仮面も。それにしてもこの菓子、こんなに味薄かったか? ん?

 

「何してるんだ?」

「ふふふ、また羽の手入れしてあげようと思って! ほら背中向けて!」

「お、おおう?」

 

 ミカがいつの間にか、隣に席を移動させていて、翼の手入れ道具を取り出す。……こいつ本当に人の翼手入れするの好きだよな。まぁ、いいけど。上着を脱いで背もたれを抱えるように逆座りをしてミカに背を向ける。今までに何回か、ミカに翼の手入れをされているため、準備などはこちらも慣れたものだ。

 

「またボロボロじゃん。なんでこんなになるまで放置するかな……。というかなにこれ、焦げてるとこあるんだけど! もー、信じらんない! グランも一応、組織のトップでしょ、身だしなみとか気を付けないの!」

 

 翼を手に取って状態を確認したであろうミカの驚愕の声が聞こえる。

 

「着ているものには気を使ってる。体の欠損や傷は相手に威圧感や恐怖心を与えるのに役立つから基本そのままだ」

「……成程、ブラックマーケット内なら傷も意味あるファッションに……いや! それでもこれはないよ! 同じ翼をもつ物としてこの状態は流石にほったらかしにはできないよ!」

「……ミカみたいな綺麗な白なら兎も角、茶だぞ。汚れも焦げも目立たないだろう」

「へっ? き、綺麗? そ、そっかぁ~、グランから見たら私、綺麗なんだー」

 

 今まで、翼をブラッシングしていたミカの手が止まる。背中を向けている為、どんな表情をしているかは判断できないが、綺麗と言われたことが相当嬉しかったらしい。……おかしな奴。

 

「ミカなら言われ慣れてるだろ」

「ふーん、どうしてそう思ったの?」

「だって、ミカは美人だろ? 皆から言われないのか?」

「わーお」

 

 ……いや、何だよその『わーお』は。こっちもリアクションし辛いわ。いや、これはチャンスだな。いつもわがままでペースを握られ気味なミカに対してこちらが珍しくイニシアチブをとれてる。このまま本題に入ってしまえ!

 

「……ありがとな」

「え!? へ!? な、何が? 翼のお手入れのこと? お菓子の事? もしかして、マカロンの意味に気がつ「今回の砲撃支援、本当に感謝している」……あー、そっち。いや、普通そっちだよね。私ったら何勘違いしてたんだろー。ハハハ」

 

 本当に何なんだこいつ。テンションの上がり下がりがいつも激しすぎる。(←クスリに手を出していて情緒不安定になる男)

 

「感謝なら、実際に砲撃を指揮していた子とナギちゃんに言いなよ。フィリウス派が動いて、私たちは別に何もしていないよ?」

「ヒフミには後で会いに行く。……あと、桐藤ナギサは俺に対して結構な苦い意識を持っているだろ。連邦議会の時とか、俺を見る目がスゲーもん。アイツ、あれだろ。優雅に紅茶シバいてるとき実際は結構余裕ないだろ」

「あ、分かっちゃう? ナギちゃん、ビビりな所あるから」

「アイツ、絶対にブラックマーケットに近づけるなよ。絶好のカモが過ぎる」

「おっけー。でもナギちゃんは絶対自分から近づかないと思うけどね」

 

 あたたかな日が差し込むテラスでミカのような美人に羽を手入れされる。中々、贅沢なことしてるんじゃないか俺? 

 

「それで、なに悩んでるの?」

「は?」

 

 不意にミカの真面目な声が聞こえる。

 

「グランが何か思いつめたような表情してたから。顔を見て話すよりかはこうした方が話しやすいかなと思って。どうかな?」

 

 そういう理由だったのか。

 

「お前、そういう気遣いできたのか」

「意外?」

「……まあな」

 

 だってお前、暴の化身みたいじゃん。と口に出そうになった所を寸で抑える。今は、ミカに翼を預けているんだ、下手なこと言ったら翼を引きちぎられそうだ。

 

「実は、学校を退学しようと思っていてな」

「え!? グランって学籍持ってたの!?」

「あのなぁ……」

「だって、ブラックマーケットのトップグループの長だよ! そんな人が学校通ってるとは思わないじゃん!」

「……」

 

 やっぱり、そうだよな。俺なんかが……。

 

「通ってはいなかったんだ、なんというか、退学が正式な物になっていなかったというか……」

「そうなんだ……あ! よかったらウチ来る?」

「少し前の自分の発言を思い出せ、アホ。あと、トリニティはお嬢様学校だろうが。それに桐藤の胃を破壊する気か?」

「あー、そっかー、残念」

 

 全く、残念そうな声じゃない。わかってて言ったんだろうが。

 

「そりゃ」

「あ?」

 

 ふと、後頭部が暖かくなる。上を向けばこちらを見下ろすミカの顔が近くにあった。どうやら、ミカは立ち上がって俺を後ろから抱きしめているらしい。

 

「でも、辛くなったら何時でも此処に来ていいよ。……居場所がないのは……寂しいから」

「ミカ……」

 

 何時になく真剣な顔で、けれども真顔ではなく微笑みを携えた表情。多分シスターフッドとかの話に出てくる聖女ってこういう表情なんだろうな。でも……

 

「勝手に俺を居場所のない奴扱いは辞めろ」

「めーんご☆」

「最近聞かないぞ、それ」

「そうなの?」

「多分、少なくとも俺は聞いてない」

 

 翼の手入れを再開するミカ。その手は優しく、慈しむ様に羽を一枚、一枚撫でていく。その手が心地よくてしばらく身を任せていた。

 

◎・・・

 

 ……駄目だ、眠くなってきた。この後も予定があるんだ、さっさと動くべきだな。

 

「ミカ、なんだが眠くなってきた、この後も予定あるしそこまでで良い。ありがとう」

「えー! まだそんなに経ってないよ。いいじゃんもうちょっといても!」

「それだけ、お前の手入れが良かったんだ。それに予定もあるといっただろう」

 

 わがままを言うお嬢様をなんとか引き剥がそうとするが全然離れない。 というか! 翼を掴むな! お前が手入れしたのにお前が乱すんかい!

 

「そもそもこの後どこ行くのさ!」

「ヒフミ本人にお礼の品を届けに行くのと、ゲヘナ学園にも顔を出すんだよ!」

「……へー。私の手入れした身嗜みでゲヘナの女のところに行くんだ……」

 

 あ、やべ。

 

「身嗜みといっても翼の手入れだけだろ。それ位誤差――痛ってぇ!!?? お、お前、毟った!? 羽、何本か毟ったな!?」

「もう、知らない!! グランなんかどっか行っちゃえ!! バカ、アホ、非力!」

「お前と比べたら誰でも非力だ! パワフルお嬢様!!」

「なにそのゲームソフトみたいなあだ名! これでも喰らえ!!」

「お前!? 自分がティーパーティー御用達とか言ってたじゃないのかよ!?」

 

 ブオォンッ!

 

 ミカが切れてそこらにあったカップやらソーサーやらを投げてきたのでたまらず避ける。今の絶対物投げたときに出る風切音じゃないだろ!? たまらずテラスから飛び出して逃げる。今日のところはもう冷静に話せないだろうし、用事も済んだ。このままズラからせてもらうとするか。

 

「それじゃあ、またなミカ! 桐藤にも礼を伝えておいてくれ、代表としてじゃなくて水戸グラン個人としてだ!」

 

 そう言って走り出す。すると後ろからミカの大声が聞こえる。

 

「もう来んなこのバーカ! ナギちゃんには伝えておくからー! 私、コーヒーはよく知らないけど準備しておくから!」

 

 ……素直じゃないやつ。

 

 

◎・・・

 

 彼はこちらに手を振りながら走り去ってしまった。……はぁ、もう少し落ち着いた別れがしたかったなぁ……。もう! それもこれもグランが悪いんだからね! 私がせっかく手入れしてあげたのにそれをゲヘナの女に見せに行くなんてホント信じらんない! 

 

「ミカ様、今の音はッ!?」

「んー? ああ、無礼な無法者を叩きだしただけだよ」

 

 大きな音を立てたせいか、テラスの外に待機させていた子たちが入ってきちゃった。割れたティーカップやソーサー、私の手にある羽を見てなにか戦慄した様子を見せる傍仕えの子。

 

「私、部屋に戻るからここの片付けお願いするね」

「は、はい」

 

 私は手に毟ったグランの羽を持って自分の部屋に戻る。自室に入り、鍵を閉め、カーテンを閉め、誰も邪魔しに来ないようにする。そして鍵付きライティングビューローを開ける。そこに並ぶたくさんの羽ペン(・・・)

 

「ふん、ふふ~ん。今までは手入れの時に抜けた羽だけだったけど、今回は焦げ羽! なんだかレアな感じ!」

 

 毟った羽のうち何枚かを羽ペンに加工して、もう何枚かを顔に近づけて匂いを嗅ぐ。

 

「ふふふ、えへへ、グランの匂い……」

 

 どれだけ洗っても取れない血の匂いと薬品の匂い、それからうっすらと雨の匂い。確かあのブラックマーケットの高層区はよく雨が降る地域だからね。私はこの雨が降り出したときのような匂いが好き。……それともグランがこの匂いだから好きなのかな? なんてね! 

 

「えへへへ。 次はいつ来るのかなぁ」

 

 

◎・・・

 

「よっ、ヒフミ」

「ぐ、グランさん!」

 

 トリニティ領内の。会員制高級個室カフェ。レンガの壁、暗い木製のテーブルに間接照明、手作りケーキに上手いコーヒーにジャズ、やっぱり何度来てもいい店だ……。店内に入れば、受付がこちらを見ただけで礼をする。そして女給が部屋まで案内してくれる。……顔パスできるまで通って良かった……本当に。部屋に入れば先に来ていたヒフミが部屋の中でガチガチに固まっていた。

 

「なんだ、飲み物でも頼んでおけば良かったのに」

 

 女給にコートを預けながら席につく。

 

「むむむ、無理です。何なんですか、このお店! 事前にグランさんから送られてきた画像を見せたら、個室に通されるし、見てくださいこの美味しそうなフルーツタルト、値段が書かれていないんですよ! 私みたいな一般人には恐ろしすぎます……」

 

 ヒフミは両手をブンブン振って否定する。事前に予約しておいて、連れの証拠として、俺の会員証の写真をヒフミに送って、店には、ヒフミの名前を伝えておいただけだが?

 

「ただちょっと高価な会員制のカフェにそこまでビビらなくても……。今回は俺の奢りだし好きに頼んでいいぞ」

「え、えっとじゃあ。クリームソーダで……」

 

 ヒフミが遠慮がちに注文する。女給もヒフミの緊張をほぐそうと笑顔で注文をとる。いや、まぁ接客時はいつも笑顔なんだが、いつもよりも大分優しい表情だ。俺は……

 

「アイスコーヒーとフルーツタルトで、以上」

「グランさん!?」

 

 女給はにっこり笑った後、注文を確認して部屋を後にした。

 

「好きに頼んで良いといっただろう」

「でも……」

「今日はあの時の礼なんだ気にしないでくれ」

 

 そういってあの日オープンチャンネルで流れたファウストの名乗りをスマホで再生する。

 

「わわわ、なんで撮ってるんですかグランさん!」

「記念に……」

「何の記念ですか!?」

 

 そりゃあ、覆面水着団のリーダー、ファウストの輝かしい、全国デビュー記念のだよ。

 

「……ヒフミ、感謝している」

「い、いえ! 私なんて大したことしてないですよ!」

「いや、あの砲撃が無ければ突入まで時間がかかっていただろうし、そうすればホシノが助からなかったかもしれない」

 

 あのセラフがどうしてあのタイミングで起動したのかは分からないが、もしかすれば、ホシノは武器もない状態であいつの前に立つことになっていたかもしれない。そう考えれば、速やかな突入を可能にしたヒフミの功績は大きい。

 

「『ODI ET AMO』の代表として、アビドス高校の者として心から感謝する」

「グランさん?」

 

 椅子から立って、頭を下げる。

 

「本当にありがとう」

「ちょ、あ、頭を上げてくださいグランさん!  本当に、私は大丈夫ですから!」

 

 頭の上から、ヒフミの焦った声が聞こえる。

 

「どうだ、自称普通の学生がブラックマーケットのトップの上に立った気分は?」

 

 少し笑いながら顔を上げてヒフミに聞く。ヒフミは俺の顔をみてキョトンとしたあと、プリプリと怒り出す。

 

「な、なんなんですかもー! 本当に冷や汗が出たんですからね! 」

「ヒフミならそうなるだろうとは思っていた。ただ、感謝は本気だからな」

「……はい。そこまで言われたらね受け取らない方が失礼ですしね。グランさんの感謝、しっかりと受け取ります。……なのでもっとケーキやら注文しますね!」

「好きにしろ」

 

 このあと本当に好きにされて、中々の量をヒフミは食っていた。けどまぁ、運ばれたスイーツを口に運ぶごとに感動している様子のヒフミを見るのは楽しめた。目的も達成したし、可愛いヒフミも見れた、実に有意義な時間だたといえるだろう。

 支払いも終え、店を出てヒフミを寮まで送り届ける。

 

「それじゃあな、ヒフミ」

「ま、待ってください!」

 

 急に手を掴まれて体勢を崩しかける。何かあったのかとヒフミの方を向くと何やら不安そうな顔のヒフミがこちらを見つめていた。

 

「どうしたヒフミ?」

「え、えっと、自分でもよくわからなくて。でも、なんだかこのまま別れちゃったらグランさんがどっか行ってしまいそうで……」

「それはどっかはいくだろう。いつまでも女子高の寮の前にいるわけにもいかないし」

 

 ヒフミの手をそっと離しながら言うと。ヒフミは慌てながら謝ってきた。

 

「そ、そうですよね! ごめんなさい」

「いや、良い。多分慣れない店に行って慣れない緊張したせいだろう。こちらこそ悪かった」

「……グランさん」

「どうした?」

「また、会えますよね?」

「……あぁ」

 

 そうしてヒフミと別れ、最寄りの駅に向かう。さて、次はゲヘナに行くか。

 ……んー、あの店味付け変えたのかな……前の方が好きだったんだが。

 





 グランの羽を使った羽ペン……。何人かの間で高値で取引される代物ですよクォレハァ。

現在読者参加企画を計画中です。アビドス編終了後、幾つかのサイドストーリーとイベントストーリーをはさんでその時点での設定などを纏めた話を出します。その話り中で質問コーナーを少しやります。その名も、『代表の電波も支配しちゃうぞRadio』 詳しくは活動報告にあげているので皆さん、是非ご参加ください。
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