シャーレの部長はブラックマーケットの代表   作:四脚好き

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43話

◎・シャーレ・

 

 ゲヘナでチナツとマコトと寝た次の日。俺はシャーレに来ていた。勿論目的はアビドスの一件の感謝と空崎たち風紀委員会の幹部連中のシャーレの応募用紙を届けるためだ。……ゲヘナから直できたからな。匂って……ないよな。自分の体を嗅いでみる。特に匂いはしないな、よし。

 シャーレに入っていく、エレベーターを使ってオフィスに入る。

 

「おぉぉーー! DXフォルテスV可動フィギュア! カッコイイ!! 高かったけど、やっぱり買って正解だったわ!」

「……先生」

「のわっ!? ぐ、グラン!? お、おはよう」

 

 オフィスの中には買ったばかりであろう、ロボット物のフィギュアを手に持ち様々な角度から眺めている先生がいた。随分ディテールやらが細かいよくできたフィギュアだな……。

 

「早瀬に怒られても知らんからな」

「ゔっ」

 

 しばらく、アビドスにいたせいか、随分懐かしく感じるシャーレのオフィスを眺める。……相変わらずの書類の量だな。

 

「先生、フィギュアも良いが先に仕事を片付けよう。休憩用にゲヘナで温泉饅頭を買ってきた」

「本当!? それじゃあ、さっさと終わらせちゃおうか! 今日の当番よろしくね、グラン」

「任せろ」

 

 そうして机に座り、書類を手に取る。……そういえば。机から立ち上がり先生の所に行く。

 

「先生これを」

「お! シャーレへの応募用紙」

「ゲヘナ風紀委員会の分だ」

「おぉー、ヒナちゃんたちか! いやー、色々な生徒が募集してきてくれて、嬉しいなー」

 

 そういって、先生が机の中から別の応募用紙を取り出す。結構増えたな……。俺が寝ている間にかなり募集があったみたいだ。

 

「ちなみに、どこから?」

「ん? グランが寝ている間でしょ……。ヒフミちゃんに、対策委員会のみんなに、便利屋68、ワカモかな」

「ワカモ……?」

「うん。ちょっと困ったとこもあるけどそれも可愛いよね」

「……」

 

 あの厄災の狐も手なずけたのか……。本当につくづく恐ろしいよ、先生。しかし、このメンバーにゲヘナの風紀委員会が加わるのヤバくね。今すぐ、この空崎たちの紙を渡さずに破り捨てたい衝動に駆られるがどうせ意味のないことなので、どうにか抑える。

 

「と、とりあえず、この応募用紙は渡した」

「うん。あとで確認するね。ありがと、グラン」

「どう……いたしまして」

 

 自分の席に戻って、書類仕事に戻る。お、さっそくゲヘナの方から弾薬やら燃料やら、なんやらの連絡がきているな。仕事が早いな……。 取り合えず、一度シャーレとして処理をして……。……これ、マネーロンダリングになるのか? ……いや、違うはずだ。俺がそう判断した。

 

◎・・・

 

「あー、終わった!」

「お疲れ様、先生」

 

 全ての仕事が終わったころには既に日は落ちていた。二人で凝り固まった体をほぐす。あ゛ー、首がゴキゴキ言ってる……。代表としても書類仕事はするが、シャーレに来る書類の量は多すぎないか? というより、先生の元に事務仕事をする専用のスタッフが居ないの大分おかしくないか? 当番の生徒意外に誰かいてもいいような気がするんだが。

 

「いやー、今日も書類の山だったね」

「……なぁ、先生。『ODI ET AMO』の所属に……俺の元に来い。そうすればこのシャーレ内にウチのスタッフを駐留させられて仕事ももっと早く終わるし、給料も増えるぞ。普段の生活は何も変わらん。いつも通りここに来て、仕事をして、今より早く帰れて、給料も多い。余った時間と金は趣味に使うもよし、生徒の為に使うもよしだ」

「……」

「どうだ、悪い話じゃないだろう」

 

 机から立ち上がって先生に様々な提案をしながら、近づいて手を伸ばす。さぁ、この手を取れ先生。

 

「それは駄目だよ、グラン。私は、シャーレはすべての生徒の為にここに居るの、どこか一つの組織や学園に所属することは、その学園を贔屓していると思われかねない。それを防ぐためにも特定の学園への肩入れはできないの」

「……ッ」

 

 先生は俺の手をそっと俺の方に押し返す。ああ。あぁ、そうだな。そうだよな。先生はいつだって正しい。今まで見てきたどんな大人よりも誠実で、優しくて、安心できて……まるでユメ先輩みたいで……。

 

「グ、グラン!? どうしたの!? え、そんなにショックだった!?」

「グズッ……どうして……。どうしてあの時、来てくれなかったんだ……。うぅ……クソっ……こんなこと、言っても…しょうがないのに……ツ! ああ、うぅうウウウ」

 

 言ってしまった、言っちゃった。先生と出会った頃から、ずっと思っていたことを。……先生に一切、非はないのにずっと抱いていた怨み言。こんな事を言ってしまった情けなさ、まるでユメ先輩に拒絶されたような悲しさ、こちらを心配してくれる先生の優しさで頭がごちゃごちゃにされる。

 

「ほら、部下とかにはなれないけど、グランも大切な生徒だからね! なにか困りごとがあればいつでも力になるからね! ね!」

 

 先生が椅子から立ち上がって頭を撫でてくる。その優しさが、その姿がとても辛い。辛くて、苦しくて、この場でいっそ狂えればどれほど良かったことか。でも、もう最後だ。こうやって泣く、水戸グラン(弱い自分)とはお別れするんだ、これから俺は代表(強い自分)として過ごしていくんだ。だから最後に……今だけ、こうして泣かせてほしい。

 

 

◎・・・

 暫くして、涙を拭く。

 

「だ、だい、大丈夫だ。そうだよな、『シャーレの人間がどこかの学園に所属している』のは不味いよな……」

「グラン?」

 

 撫でてくる先生の手を取って頭からどかす。その後懐から俺の退学届を出して先生に見せる。

 

「対策委員会の顧問である先生に、ここにサインをしてほしいんだ」

「え、こ、これ! どうして!?」

 

 先生が退学届を見て驚く。

 

「『どうして?』今先生が言ったじゃないか。『特定の学園への肩入れはできない』と」

「それは私だけの話で……」

「『シャーレの部長』一部とは言え先生の持つ権限を行使できる存在だ。なら俺も先生と同じようにした方が角は立たない」

「でもグランは折角、アビドスに戻れるんだよ!」

 

 先生が涙目になりながらこちらに訴えかける。

 

「これはアビドスの為でもあるんだ。『シャーレの部長』に『無法地帯のトップグループのボス』自分で言うのもなんだが、今の俺は表裏合せて、キヴォトスでもっとも多くの権力を持っているといって良い。そんな存在が所属する学園……。間違いなく余計な厄介ごとを持ち込む。俺はあいつらの近くにいるだけで、迷惑になる」

「そんなことはない!」

「そんなことがあるんだ!」

 

 先生の声を大声を出して否定する。これだけは否定できない。だって……俺自身がそういう手段をとったことがあるから。

 

「俺は……一時であったとしてもまたホシノの同級生として、アヤネ達の先輩としてアビドス高校にいることができて幸せだった、だからもう良いんだ先生。今の俺は『ODI ET AMO』の代表として守るべき部下と取るべき責任が出来てしまったんだ」

「グランが、子供が責任を取る必要なんてッ!」

「それに俺がこれから先に進むためにケジメは付けてないとだめだ。先生は最初にあったときこれからの未来は変えれると言ってくれただろう? これをしないとそもそも未来に進めないんだ、だから頼む。もし『責任』という部分が引っかかるなら、もっと、完全にアビドスを救ってくれ。時間はかかっていいから、頼むよ先生。」

「……ホシノにはどう説明するの」

 

 先生は顔を伏せながらも退学届を受け取ってくれた。けど、受け取っただけで、まだサインはしてくれない感じか。それにホシノのことを引き合いに出された。

 

「どうもこうもないさ。同じ説明をするだけだよ。セラフも倒せたし、アビドスもとりあえずは落ち着いた。だからまたゴタゴタし始める前に一度過去の清算をしとくべきだろう」

「……わかった。私はサインしてあげる。けど、ホシノのサインがもらえないと、退学はできないからね。約束する、アビドスの問題も絶対に私が大人として解決するから。そしたらグランはアビドスに『再入学』してもらうから」

「ああ、了解した。……また一年からやり直させるのか。期待してるよ先生」

 

 先生から退学届にサインを貰い、懐にしまう。……これで残りはホシノだけだな。俺はシャーレのオフィスを出てエレベーターに乗り込み一階へ向かう。その道すがら携帯を取り出して、連絡先から『小鳥遊ホシノ』をタップする。するとまさかの一コールの途中で電話が取られた。

 

『グラン! どうしたの!』

「ごめん、寝ていた?」

 

 何やら驚いた声がする。一コールで取ったからそんな訳ないが、日も落ちた夜なので一応睡眠を邪魔していないか確認する。

 

『全然!』

「そう、なら良かった。……というか、何を驚いてたんだ?」

『だって、この番号から電話がかかってくることなんて夢みたいだったから』

「そうだな……。懐かしいな」

『お互い家に帰ってからもこうやって電話して夜更かしした日もあったね』

「次の日二人とも寝不足だからユメ先輩が盛大に勘違いしてな」

『うん。色々なことがあったね』

「人がいないこと良いことに互いのアパートから花火上げて、どっちがより綺麗な花火を選んだか競ったりな」

『次の日、私も参加したかった、ってユメ先輩がスネたりしてね』

 

 この携帯も色々な思い出があったな。カバー裏の写真は……何だ、俺のとこだけ色褪せて真っ白じゃん。ユメ先輩とホシノのツーショットみたいになってる。……まぁ良いか。

 

『ふふふ』

「どうかしたのか?」

 

 電話口からホシノの笑い声が聞こえてきたため思わず何があったか聞く。

 

『これからが楽しみなの。グランがいて、後輩たちがいて、皆であの校舎に集まって、またこうやって電話もできる。それがとっても嬉しくて』

「……そうか」

 

 ……。

 

「ホシノ。明日大切な話があるんだ、迎えを出すから塔まで来てくれるか?」

『ん? わかった! グランからの大切なことかー、一体なんだろ。楽しみにしてるね!』

 

 ホシノとの通話を終えた後、俺は携帯を少し見つめる。アビドス入学から使い続けた携帯は所々傷が入っておりボロボロだが、ブラックマーケットでの戦闘などの時もポッケに入れていたことを考えればよく持った方だろう。

 

「さようなら。……せっーーのっ!!」

 

 俺は携帯の中身を初期化してから、携帯をシャーレ近くの大きな川に向かって思いっきり投げた。携帯は放物線を描いた後、真っ黒な水面に堕ちて、沈んでいった。

 

「あーあ、やっちゃった。アレが俺の持ってる最後のユメ先輩の写真だったのに。……もう……見つけられないな。もう、手放しちゃったんだな。……アハハ」

 

 一人、真っ暗な帰り道(未来)を歩いていく。

 

アハハハハハあはハハはは ぁははははははははあハハは!! 折角だ、スキップ……いや踊りながら帰るか! ハハハハハハハッ! 最高な未来に! かんぱーい! 酒なんてないのになー!

 

◎・・・

 

「♫〜♫♪」

 

 最近、幸せだ。確かに大変なことはあったし、私が起こしちゃったのもあるけど、それでも幸せだ。アビドスに先生がやってきて、ヘルメット団は数を減らし、利子も平均的なものになった、何よりグランが戻ってきてくれた! 私達はもう3年生、残り少ない学生生活だけどそれを好きな人と一緒に過ごせるならなんの問題も感じない。

 全部が良い方向に向かっている気がする。今日もアビドスはカラカラの晴天、いつもなら少しうっとおしく感じる天気も今なら良いものに感じる。

 今日はグランに塔まで来てほしいと言われた。対策委員会の皆や先生に確認してみたけど、どうやら私だけが呼ばれているみたいだった。『大切な話』かぁ……、一体なんだろう。もしかして告白だったりして! 昔は流れと雰囲気でファーストキスを済ませてしまったけどしっかりと告白をして付き合ったことはない。うへ、うへへへ〜。グランも真剣な声してたし本当に告白だったらどうしよう……。ニヘ

 

「……返事なんて決まってるけどね。だって、こんなにドキドキしてる」

 

 一人、明るい通学路(夢へ)を歩いてゆく。

 

 

◎・・・

 

 相変わらず、高層区は雨ばかりだな。天気に辟易しながらようやく、退院となる病室をせめてと思い自分で片付ける。もくもくと布団やらをたたんでいるとノックが聞こえる。

 

「どうぞー」

「やっほ、グラン。来たよ」

 

 返事をして入室を促すとホシノが部屋に入ってきた。……ついに、来たか、緊張するなぁ。

 

「そ、それで、大切な話ってな、なに?」

 

 なぜか、もじもじしているホシノに対して退学届を渡す。

 

「ホシノ、この退学届に印をして退学を正式なものにしてくれ」

「は?」

 

 ホシノのにやけ顔が固まり真顔になる。目からもハイライトが消えてる。

 

「どうして?」

「……俺はもう、アビドスには居れないんだ」

「なんで? なにか私に駄目なところでもあるの? 言ってくれたら直すよ?」

 

 顔を俯かせたまま震えるホシノ。

 

「ホシノに悪いことなんてないよ。ただ今の俺は『シャーレの部長』なんだ。特定の学園にいたら、不要な争いをアビドスに持ち込んでしまうんだ」

「じゃあ、シャーレの部長を辞めてよ。そうすれば「ホシノ、それでもダメなんだ」

 

 ホシノがこちらに縋り付いてくる。顔を伏せているせいで表情は見えないが声が震えている。

 

「今の俺は『ODI ET AMO』の代表として守るべき部下たちが出来てしまったんだ。ホシノに後輩が出来たのと同じように。だからあいつらの傍にいてやらないといけないんだ」

「そ、それなら、『ODI ET AMO』のみんなもアビドスにおいでよ……。そしたら生徒の数も増えるし」

「そんな簡単に大量の人員の輸送なんて今のアビドスには無理だろう。土地もいまだカイザーのもの、転校しても何らかのいちゃもんを付けられて不動産を売らないだろう。そうすればあいつらが住む場所を失ってしまう」

「なら……えっと、その……。ちょ、ちょっと待って今何か案を……」

「ホシノ」

「嫌! いやだよ! やっと、やっとまた一緒に居れるんだよ! ねぇ、どうしてなの!? アビドスに来てよ……ずっと私と一緒に居てよ!」

 

 ホシノがついに泣き出しながら、こちらを抱きしめて嫌、嫌と言いながら縋り付くだけになってしまった。今すぐ抱きしめ返したい、でもそれをするには俺の手はもう、汚れすぎていて大切なホシノを汚してしまうんだ。だから、俺は……。

 

「離れろ」

「グラン?」

「もう、お前の知っている『水戸グラン』はいないんだ。ここにいる水戸グランは『ブラックマーケットの代表』であり、『シャーレの部長』だ!」

「あぅっ」

 

 縋り付いているホシノを引きはがす。引きはがされたホシノは尻餅をついてこちらを混乱や怯えの混じったような表情で見上げている。

 

「う、嘘だよ。だってあの時……私たち昔みたいに……」

「……そうする必要があったから、そうしただけだ」

「嘘だっ! 嘘なんでしょ!? ねぇ!? そう言ってよ!」

「ぐっ」

 

 素早く立ち上がって俺をベッドに押し倒すホシノ。しかし、いまいち手に力が入っていないし、目の焦点も合っていない。動揺して拘束も甘い。

 

「何かのドッキリとかなんでしょ? それにしてもこれは悪趣味が過ぎるよ。それとも、もしかして、何? あのキッドとかいう子たちにクスリでも盛られておかしくなっちゃってるの?」

「そんな訳があるか、アイツらは俺が最も信頼している部下たちだぞ」

 

 ホシノの顔が歪む。

 

「"最も"? 私じゃないの? どうして私を選んでくれないの? やっぱり左腕のこと怒ってるの? ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。謝ってすむことじゃないことだとはわかってるけど……。ぐ、グランも私の腕取る? そうすればお相子だし、私は全然気にしないからさ。ほ、ほら、他の子に比べたら貧相かもしれないけど私の事も好きにしていいから―――

「いい加減にしろ! 小鳥遊ホシノ(・・・・・・)! 俺も、お前も、もう昔みたいには戻れないんだよ!!」

「……あ」

 

 小鳥遊ホシノの顔から色が抜け落ちたように見える。そうして小鳥遊ホシノはヨロヨロと俺の上からどいた。……せっかく畳んだ布団がまたやり直しだよ。

 

「……これをもって帰れ、サインをしたら証明書を発行して塔まで送ってくれ。それで手続きは終了だ。今日は態々足を運んでもらって悪かった。話は以上だ、帰りの足も準備させてる。」

 

 俯いて、スカートを握りしめて涙をこらえて居るように見える小鳥遊ホシノに床に落ちた退学届をもう一度差し出す。小鳥遊ホシノはそれを震える手で受け取る。そして病室を飛び出そうとする小鳥遊ホシノ。その背中にこちらも背を向けつつ声をかける。

 

「さようなら、大好きだよホシノ」

「――ッ!」

 

 バンッと勢いよくドアが開かれる音と、廊下を走り去る音が聞こえる。走る音が聞こえなくなったころベッド横のハンガーに掛かっているアビドス制服を手に取る。

 

「……もう、着ることもないか。さようなら、俺の青春の記憶(ブルーアーカイブ)

 

 制服をゴミ袋に入れて手放す。……塔は建てたばっかりなのにもう雨漏りしたのか? 室内なのに雨が降ってきたじゃないか。顔に流れる雨粒を拭う、全く最悪な気分だよ。

 




「なにかが可笑しい……。絶対諦めないからね、グラン」

これにてアビドス編は終了です。次からはイベントストーリーを2つ程挟んでパヴァーヌに移ります。
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