44話
◎・シャーレオフィス・
小鳥遊ホシノに別れを告げて数日。シャーレで部長業務に勤しむが、今の所俺が当番の日に対策委員会の面々が一緒になることはない。……気を使われているな。
――ジリリリリリリッ
「あ、電話だ、私が取るね。もしもし?」
先生が電話を取る。
『あっ、本当に出ちゃった! ど、どうしよう!?』
『落ち着いて深呼吸デス委員長! スー! ハー!』
『わ、分かった。すぅ、はぁ……』
随分……騒がしいな。電話口からかなりの声が漏れている。というか先生も電話を耳から離して苦笑いしている。
『えっと、もしもし! その、こちらは……連邦捜査部シャーレのお電話番号で、お間違いないでしょうか?』
「はい、私がシャーレの先生、屋浦ニイです」
『あっ、合ってた! 良かった……! ……じゃなくて! すいません、その……』
「初めまして、どういう用件かな?」
『えっと……んんっ、よし。改めて、初めまして、シャーレのニイ先生! 私、河和シズコって言います! シズコ実は、百鬼夜行連合学院に所属している『お祭り運営委員会』の委員長で、なんと! 同時に百夜堂の看板娘だったりします☆』
「看板娘……良い響き」
『え? そ、それで今回お電話させて頂いたのは、私たちの百鬼夜行連合学院で開かれるお祭り、『百夜ノ春ノ桜花祭』に、先生をご招待するためです!』
「桜花祭……? 桜花賞」ボソッ
『はい、お忙しいかと思うのですが、よろしければお越しいただけませんか? 今回の『百夜ノ春ノ桜花祭』……通称『桜花祭』では、以前には無かった新しい試みも行う予定なんです! それからちょーとだけ、大したことではないのですが、先生にご相談したいこともありまして。来てくれると、シズコとっても嬉しいです! ではでは!』
また、新しい仕事の予感だ。荷物を纏め、銃器の点検を開始する。先生が受話器を置いて別の端末を開く。何やら画像が送られてきたようだ。
「にゃん、にゃん♪……え? 可愛い。」
「は?」
「あ、いや、今モモトークの方に『桜花祭』のポスターとシズコって子から『にゃんにゃん』って送られてきて……」
「ああ、そういう」
先生が激務でついに壊れたかの思った。しかし―――
「先生のにゃんにゃんも可愛かったぞ」
「な、な、大人を揶揄うんじゃないの!……それより! グラン、百鬼夜行連合学院ってどんなところ?」
「百鬼かぁ……。気候はこのD.Uと似ているから特別な装備はいらないだろう。建物の多くは木造で、『桜』という百鬼特有の植物が多くある」
「桜! 桜があるのかぁ……花見酒。いやいや、先に仕事、仕事!」
この時期の百鬼夜行といえば……祭関係か? シャーレのビルを先生とともにエレベーターで降りながら話す。
「先生は桜を知ってるのか?」
「うん。私がキヴォトスに来る前に居た場所ではよく見る木だったよ。春に咲く花がとっても綺麗でねー。その花を見ながら飲むお酒が最高でね……。グランは見たことはない?」
「アビドスがそんな木の生える環境だとでも?」
「あ……そっか。……ぶ、ブラックマーケットにはないの?」
「ブラックマーケットは雨が多くて植物は根腐れを起こす。それに基本的に戦国状態だし、植物なんて障害物にされるか、踏みつぶされるかだろ」
「……」
先生が黙りこんでしまう。……うーん、失敗したな。しかし、桜をよく見る場所か、先生が来たキヴォトスの外っていったいどんな所なんだろうな。いつか行けないだろうか。シャーレを出て裏手の専用駐車場に向かう。
「あれ? どこ行くのグラン?」
「先生に……というよりシャーレにプレゼントがあってな。百鬼夜行までは距離もあるし丁度いい」
「プレゼント?」
シャーレ裏の駐車場。そこには白い車体カラーにシャーレのエンブレムが入った大型のキャンピングカーが止まっていた。隣で見ていた先生も目を輝かせる。
「おおおお! ぐ、グラン、これがそのプレゼント!?」
「ああ、アビドスに行った際に思ったんだが一々ホテルに泊まるのは出費も嵩むだろうし、落ち着かないだろう。だから、いっそこうやって移動拠点を持った方が良いと思ってな。『アレグロブリーズ』防弾、防爆、Wi-Fi完備、ダブルシンク、3口コンロ、265ℓタンク、冷蔵庫、オーブン付き電子レンジ、シャワールーム、固定トイレ、大型液晶テレビ、スライドアウト機構、ルーフエアコン付き。6人まで乗れるから前線指揮車としても運用可能なように改造もしておいた。先生はロボットとかに興味を持ってるみたいだからこっちのロマンも理解しているんじゃないかと思ったが、ビンゴだったな。これ鍵」
「良い、凄く良いよグラン!」
鍵を渡した瞬間、ものすごい勢いで車の中に入っていった先生。内装に感激してはしゃぎ回ってる……。元気になったようで良かった。
「これなら確かに出先でも仕事ができるね! よし、行こうグラン!」
「了解、先生」
先生がハンドルを握りながらニコニコで語りかけてくる。
「行こうか、百鬼夜行へ」
◎・百鬼夜行 第7商店街・
アレグロブリーズを駐車場に止めて、百鬼夜行の街を先生と共に歩く。祭りが近いということもあってか、町中が熱気に包まれて活気にあふれている。するとどこからか大きな声が聞こえてきた。
「あっ、あっ! 危ないですーっ!?」
声の咆哮を見れば狐耳の女が物凄い勢いで先生に向かって走ってきている。このままだと衝突するな、狐耳には悪いが先生の身が優先だ。思いっきりの蹴りを狐耳に叩き込む。
「ややっ!?」
「なっ!?」
「ちょ、グラン!?」
さっきまで自分の走る勢いを止められなかった癖に俺の足が迫っていると気が付いた瞬間、目がマジになってよけやがった。……この狐耳、できる!
「ちょ、ちょ、いきなり何で蹴りにいってるのさ! あなたも大丈夫だった? 怪我無い? ウチのグランがごめんね」
「おい、俺は先生の子供じゃないんだが」
「いいから、グランも謝る!」
「……悪かったよ」
「いえいえ、止まれなかったイズナも悪かったので。それに避けられたので怪我もありません!」
狐耳め……挑発か? ん? どこからか別の声が聞こえてくる。
「待てー! 逃がさないんだから!」
「カエデちゃんもちょっと待ってください……はぁ、はぁ、……速すぎます」
「はっ! もうこんなところにまで! ど、どうすれば!?」
状況的にこの狐耳は聞こえてきた声の奴らから逃げていて先生と衝突しそうになったということか。
「先生、誰かがこの狐耳を追ってる」
「……手助けした方が良い感じだね」
「へ? それは、その……」
先生の言葉に言葉を詰まらす狐耳。追っ手の声はもうだいぶ近くまで来ている。
「見つけた! ミモリ先輩、あっち!」
「あっ……!」
「グラン! 二人頼むね!」
「おう」
先生の言葉に返事して、すぐさま、先生と狐耳を両手に抱えて一気に跳躍。脚力に物を言わせて、建物の上を跳んで追っ手との距離をとる。
「わぁ! 貴方は忍者なんですか?」
「に、忍者?」
「あはは、確かにこの街並みにこの移動方法は忍者みたいだね」
狐耳が素っ頓狂なことを言い出したとおもったら先生まで同意している。しばらく二人を抱えながら建物の上を移動して逃げ切ることができた。
「ここまでくればいいだろう」
「ありがとう、グラン」
「えっと、イズナを助けてくれてありがとうございました! ところであなた達は……。百鬼夜行の生徒ではなさそうですし、片方は大人の方……?」
狐耳もといイズナはこちら……というより先生の方に注目している。
「初めまして、シャーレで先生をしている者です」
「シャーレ、先生……? あ、もしかして……! イズナ、聞いたことあります! シャーレには、キヴォトスの色々な事件をズバッと解決してくれる、すごい大人の人がいるって! どこにでも現れて即座に解決……まるで忍者みたいです!」
「お前の忍者判定どうなってるんだ」
「まさか噂の先生にお会いできるなんて……! すごい、本物なんですね!」
先生の周りをぐるぐると周りなにか感激した様子を見せるイズナ。そんなイズナが可愛いのかイズナを撫でまわす先生。モフられてるイズナ。
「それで、そちらの方は?」
「連邦議会ブラックマーケット代表兼『ODI ET AMO』代表兼連邦捜査部シャーレ部長、水戸グラン」
「??」
「連邦議会ブラックマーケット代表兼『ODI ET AMO』代表兼連邦捜査部シャーレ部長、水戸グラン」
「??」
一応、2回名乗ってみたが通じなかったみたいだ。イズナは首を傾げて疑問符を浮かべるだけだった。まぁ、百鬼夜行からブラックマーケットは遠いし、自治区の政治に関わってなければ俺の名前は聞かないだろうしな。
「とりあえず、シャーレの部長だし覚えておけばいい」
「はい! して、シャーレのお二人はどうしてここに?」
「この『百夜ノ春ノ桜花祭』を見に来たの」
「なるほど……そうだったんですね! 折角の桜花祭ですし……よろしければこのイズナに、このお祭りを案内させてください!」
俺たちから一歩離れ、1回転してから胸を張るという演技がかった動きをするイズナ。ただ、こちらを騙そうという演技ではなく、天然からの動きらしい。イズナからはそういう汚い人間の匂いが全くしない。心の根っこから純粋ないい子なんだろうな……。
「俺と違って」
「どうしたのー! グラン! 先行っちゃうよー!」
イズナに案内してもらうことは決定したのか、先生とイズナは既に歩き出しており、先生が立ち止まっている俺に声をかけてくる。手を軽く上げて返事をして小走りで先生の所へ。
「見てください、この屋台で百鬼夜行の名物、キツネせんべいを売ってます! あっちには『桜花祭といえば』のタヌキ印のお好み焼きも売っていますし! あとは、桜の花びらで作ったサクラ大福もとっても美味しいんですよ! 桜花祭の名物なんです、えへへっ!」
そういってあっちこっちを駆け回り祭りを案内してくれるイズナ。先生は微笑ましいもの見る目でイズナを見ている、俺もちょっとわかる。こんないい子を追っていた奴らは一体何を考えてたんだか。……俺は蹴りを叩き込もうとしたんだよな、この子に。……あ゛ーあ゛ー、クスリかタバコが欲しくなってきた!
「そうだ、せっかくですし……。『百夜ノ春ノ桜花祭』といえば、あれを見に行かなくては! こっちです先生、グラン殿」
「おお! 今度はなにかなイズナ!」
「『グラン殿』って初めて呼ばれたぞ……」
ルンルンで菓子を食いながら先導するイズナの後をついて行く、百鬼夜行名物を抱えた先生。百鬼夜行だし、買うなら煙管か?
◎・百鬼夜行 展望台・
イズナに連れられてきたのは百鬼夜行を一望できる展望台だった。中々な階段を上ることになったので先生が途中でバテた。そこからは俺が先生の買った百鬼名物を持ってどうにか先生を励ましながら展望台を上り切った。展望台からの眺めは絶景だった。しかし、何かデジャヴが……。
「あんなに大きな桜が……」
「あ、あれも桜なのか」
「えへへへ、そうです! ちょうどこの時期に一番きれいに咲く、百鬼夜行の自慢です! イズナは、ご神木と百鬼夜行の街並みが同時に見渡せるこの場所が、大好きなんです! ここでこうしていると、イズナも夢の為にまだまだ頑張らなきゃって気持ちになります」
「夢?」
「ユメ?」
イズナの口からなんでユメ先輩の名前が―――あ、『夢』か……。
「はい! イズナには夢があるんです! キヴォトスで、一番の忍者になるという夢が……!―――
イズナが何かを喋っているが全く耳に入ってこなくなった。展望台の手すりまで進んで、百鬼夜行の景色を良く眺める。そしてようやくこのデジャヴの正体がわかった。構図が似ているんだ、ブラックマーケットと。晴天の百鬼夜行、並ぶ伝統的な建物に中央に立つ大きな桜。雨天のブラックマーケット、並ぶビル群に中央に立つ『塔』。ここの景色が構図は似ているのに景色を構成する要素が真逆すぎて変にデジャヴを感じていたのか。ちらりと先生と話しているイズナを横目で見る。似たような構図の街に住んでいて、自分と同じように夢をもつ存在。なんだか自分を重ねてしまいそうだ……。
「イズナ、夢、叶えろよ」
「は、はい! イズナの夢を応援してくれる方が二人も!まだ色々失敗も多い身ではありますが、改めてイズナは立派な忍者になって見せます! ……あっ、雇い主の依頼を終えていないのを思い出しました! すいません、イズナはお先に失礼します! では、また!」
そうしてイズナは素早く百鬼夜行の街へ消えていった。俺も、あんな時期があったのかな。
イズナ、お前は俺みたいになるなよ。
今回から桜花爛漫編スタートです!
いきなり蹴り飛ばそうとしたり、『夢』を『ユメ先輩』と勘違いしたり、イズナに自分を重ねたり、外面は無事なグラン君ですが、内面は不安定になっています。……というかメンタルが正常になるときなんてグラン君にあるんですかね?
現在読者参加企画を計画中です。アビドス編終了後、幾つかのサイドストーリーとイベントストーリーをはさんでその時点での設定などを纏めた話を出します。その話り中で質問コーナーを少しやります。その名も、『代表の電波も支配しちゃうぞRadio』 詳しくは活動報告にあげているので皆さん、是非ご参加ください。