◎・百夜堂・
「さあ善は急げです! 行きましょう、二人とも! 百鬼夜行で何かトラブルが起こった時に相談する相手といえば……」
「……言えば?」
先生の提案を受けてシズコは席を立ち、色々荷物を纏め始める。そして溜めを作って語りだす。
「すぐに思い当たる所は二つ。一つは、実質的に百鬼夜行連合学院の生徒会とも言える『陰陽部』。そしてもう一つは『百花繚乱紛争調停委員会』というところ、なのですが……」
「……何か問題があるの?」
先生が不安そうな顔をしたシズコの手を両手で包み込むように握りながら聞く。……無意識でそういうことするとか、前から思っていたが、先生も中々人たらしというか罪な人だよな……。
「聞いた話によると今、百花繚乱は全員不在だそうデス!」
「はい、フィーナの言う通り、そちらは今頼れない状況です。 今の私たちが頼るとすると陰陽部の方、なのですが……」
「なのですが……?」
首を傾げる先生。
「うーん、その、何と言いますか……。えぇいッ! 実際会った方が早い! さぁ、行きますよ! ……あ、フィーナ。 私がいない間、百夜堂の留守番はお願いね?」
「モチロン! 任侠の精神で守り通してみせマス!」
……これ、大丈夫か? ほら見ろフィーナ、シズコも若干疑いの眼でお前を見ているぞ。なんせ、『任侠』だもんな……。
「じゃあ問題」
「ハイ!」
おお、なんか始まった。
「先生たちと私がいない間に魑魅一座が来たとするわ。やつらが『喉が渇いちゃったんだけど、お水を一杯貰っていい?』って言いながら百夜堂に入ってこようとしたら……どうする?」
「困った人がいたら助ける! それが任侠デス!」
ああ、駄目だな。俺なら喉に一発蹴り叩き込んで血を吐かせてやる。そうして言ってやるんだ『これで喉が潤っただろう?』ってな。
「だーかーらっ、それじゃダメなの! 追い出しなさい! はぁ……本当に……。任せて大丈夫なのよね?」
「ハイ、委員長! フィーナにお任せクダサイ!」
大丈夫か? 本当に……。
◎・陰陽部・
シズコに案内されてやってきたのは、『これぞ百鬼夜行』といった感じの建物だった。でっけー。先頭を歩いていたシズコがくるりと振り返る。
「ここは百鬼夜行連合学院の中でも、かなり重要な場所の一つ……。この奥に、陰陽部の部室があります。うぅ……何度来ても胃が痛くなる……」
「大丈夫か?」
「それはどうして?」
先生と共に心配の声をかける。
「陰陽部はかなり腰が重いことで有名で、何かをお願いしてもなかなか動いてくれないんです。そもそも、そういう実際の対処をするのはほとんど百花繚乱の方で……。陰陽部はその名の通りと言いますか、自分たちは百鬼夜行のバランスを保つために存在していると言っているんですが、その実、何かが起きても大抵ニコニコしながら『私たちには権限がないので~』とか曖昧な態度をとってばっかりで……。特にあの部長! こっちが何かクレームを入れに行っても、いっつも『重要な案件は書面でお願いします』ばっかりだし……。書面じゃ遅いんだってばっ!! 官僚制! 官僚制なの!? なんでそんなに動きが遅いの!! それが通る頃にはよくも悪くも解決してるってば!!」
ああ、大変なんだな。シズコの怒涛の早口に先生も俺も若干引き気味だ。……確かに官僚制は面倒だよな……。それに比べて独裁は楽でいいぞ、独裁は。まぁ、間違いを誰も止めてくれない欠点とか、全ての責任を背負うとか大変なことはあるけどな。
「……ふふっ、でもそれもこれも今日までの話。そういう態度なら、こっちだって方法を考えるまで。なんせ今こっちにはシャーレがいるんだから! シャーレさえいれば、きっとあの陰陽部の部長だって重い腰を上げてすぐに協力せざるを得ないはず」
……完全にこっちを当てにしている。
「あのいっつも余裕そうな態度をこちらの思うがままに顎で使って……ふふふっ……」
「本性、本性でてる」
「……はっ!? ……あーっと……本性って何のことですかー? シズコ、お話聞いてくれるか心配~」
「……そろそろ取り繕わなくてもいいよ?」
ほらもう、先生も最初にシャーレに電話が来た時みたいに『可愛い』とか言わなくなっちゃったじゃんか、シズコのせいだろ。先生のことだから心ではしっかり可愛い生徒だとは思っているだろうが。
「と、とにかく! 早く中に入りましょう!」
シズコは顔を赤くしながら、歩き出して、陰陽部の部室に入っていった。風流な建物の中を進んで部室のなかに入ると、水色髪の少女がいた。
「ようこそ、先生、代表。待ってた」
「チセ……って、あれ? 今、『待ってた』って言った? 私たちが来ることを知ってたの?」
この水色髪の少女はチセというのか。
「うん、部長が言ってた。三人来る、可愛い大人と臆病な狂人とタヌキさん」
「誰が臆病だぁ!?」
「だっ、誰がタヌキよ!? こほん……それで、相変わらずその『全部知ってます』みたいな態度の部長はどこ?」
確か、連邦議会に顔を出している百鬼夜行のトップは……あの片角糸目の奴だったな。あまりかかわらなかったから名前も覚えちゃいないが。今度会ったらもう片方の角も折ってやるか。
「部長は……。えっと……。うーん。確か、飼うなら黒猫が良い、って」
「ペットの好みは聞いていない! ……もしかして、さっきの『タヌキ』っていうのもペットの話じゃないわよね!? 私、先生のペットとかじゃないから!!」
「ペットプレイ……」
「先生?」
なにやら不穏な言葉を先生が呟いた気がする。……本当に大丈夫か? ペットプレイ……チナツ、マコト、キッド1、2、4ぐらいか?
「はぁ、兎も角今日はあなたと遊ぶためじゃなくて、部長に会いに来たの。もう一度聞くけど、部長はどこ?」
「部長……。今日はもう……下校しました。また明日」
逃げられたな。
「……え、下校? まだ昼でしょ? どういうこと?」
「……どうしてだと思う?」
「さぁ……じゃなくて、なんであなたが聞くのよ! 何もかも意味が分からないんだけど!? ううっ、よりによってこんな大事な時に居ないなんて……」
「初めましてチセちゃん。私は屋浦ニイ、シャーレの先生。今日、私たちがここに来た理由は―――
「うん、分かってる。桜花祭を邪魔しようとする騒ぎの件、でしょ?」
先生がシズコと共に陰陽部に訪れた理由を説明しようとするが、チセはその先生の言葉を遮って言い当てる。
「知ってたの!?」
「部長は言ってた、助けてあげることはできないけど代わりに、修行部に行けば何とかなるはず、って」
新しい奴等の登場だな。
「……修行部?」
「修行部からも来たの、クレーム。街がうるさいって。それで部長が、一つでダメなら、二つを合わせればいいんじゃない? ……って」
「同じ悩みを抱えている部活があるっていうことね?」
「ううっ、修行部か……」
先生が、チセに確認している。その脇にいるシズコは修行部の名を聞いて顔をしかめている。
「仕方ない、今度は修行部の方に……。チセ、もし後で部長が帰ってきたらまた連絡してくれる? さぁ先生、行きましょう!」
「いってらっしゃ~い」
シズコと先生が陰陽部の部室を出ていく。俺もそれについて行くが、後ろを見ればチセがひらひらと手を振りながら見送ってくれた。……なんか、天然っぽさというか、独特の雰囲気を持つ子だったな。ファンとかいそう。
◎・百鬼夜行 商店街・
「にしても修行部、修行部かぁ……」
「なにか、問題があるのか?」
シズコは陰陽部の部室で修行部の名前を聞いてからしかめっ面だ。その修行部とやらには何か、万代があるのかと疑問に思いシズコに聞いてみる。
「いや、修行部の生徒たちって、結構変わり者でして……」
「そうなの?」
「……ブーメラン?」
なんだ、シズコも修行部のメンバーだったのか。ああ、そりゃあ変わり者だらけなわけだ。
「え、はぁ!? じゃなくて……嫌ですね二人とも、何を言っているんですか~? 変わり者なんかじゃなくてシズコ、百夜堂の可愛い可愛い看板娘ですよっ☆」
「……」
「見た目は良いよな」
「と、とにかく! 修行部は、毎回修行のためと言いながら、色々と良くわからない活動をしている部活です。例えば、修行の一環として寝ながらジグソーパズルをやる人とか」
「え」
「素敵なレディーになるためと言いながら、何故か街のチンピラたちを退治している人とか」
「自分の身位は守れる力は必要だし、良いんじゃないか?」
「大和撫子としての嗜みとか言って、読心術を使える部員もいるとか」
「「……??」」
大和撫子が何故読心術を……。ああ、でも夫の言葉を聞かずともそっと支えてくれる妻……と考えたら理解できなくも……ない……のか? わからん。それにしてもウチの開発部と似た感じだな。ロマンの為と言って、レーザー兵器ばかり研究してるカラサワ研究員とか、可愛いからとかいって生物兵器を研究しているキサラギ研究員とか、巨艦大砲謝儀を追い求めてばかりの有澤チーフとか……。あとは新動力とか言って謎の粒子研究をしているコジマ博士とか。
「まあ私も噂でしか聞いたことないので、実際の所は直接確認してみないと分からないんですけど。そんな変わり者たちに、そもそも協力してもらえるのかどうか……。うーん……いや、悲観的に考えるのはもうやめ! こういうのは、実際にぶつかってみないと分からないものです! さぁ、早く修行部の所に行きましょう!」
……シズコは凄いな。これだけ色々な不幸があって、おまけに上の連中も不真面目なのに腐らずに悲観的にもなってない。俺とは違って
ッッ!?
「こっちに!!」
「な、何!?」
「きゃぁ!」
先生とシズコの手を引っ張って二人を抱き寄せて羽で覆い隠し伏せる。
ドガガガーーン!!
大きな爆発が起きる。爆発で、羽が傷つくのを感じる。……あぁ、ミカにまた怒られる。
「ふははっ! 今度こそ桜花祭を台無しにするため、魑魅一座の参上だ!」
「今度こそぶっ潰してやるっす!」
またあいつらか……。
「また蹴り倒してや……うへ?」
足に力が入らず、立ち眩みを起こす。
「ぐ、グラン、守ってくれてありがとう! でも頭から出血してる、無理して動かないで」
「大丈夫! この百夜堂の看板娘のシズコにお任せください! 先生、指揮をお願いします!」
そう言って二人を俺を近くの建物の中に避難させ魑魅一座に向かって行ってしまう。
「待て、待って先生。俺は戦えるから……まって。おいて行かないで」
懸命にに手を伸ばすがその手は空を掴む。こんな、こんな所で止まってられないんだ。
「うっ……くっ、ググッ」
足に力を入れ、どうにか立ち上がろうとする。どうにか立ち上がっても足がふらふらでうまく歩けない。情けないッ! この程度で……。もっと、もっと力が俺にあれば……。
キッド2から『いざという時に』と渡されていた注射器を取り出して震える手を抑え込んで無理やり首元に注射する。 ……震えが止まり、体から痛みが消える。それ二ナンだカきぶんがよクなってきタ。
「ふふフふフふフフフ」
・カラサワ研究員 レーザー武器ばかり研究している研究員。独特の発射音をがするレーザーライフルと月光のコードネームを持つレーザーブレードを開発している。
・キサラギ研究員 『AMIDA』と呼ばれる生物兵器を研究しており、『AMIDA』を溺愛している。時々『AMIDA』が脱走して騒ぎになる。
・有澤チーフ 巨大な砲、強大な火力を常に追い求めて、非常に強力なグレネードランチャーを研究している。その威力は一撃でビルをも吹き飛ばす。
・コジマ博士 開発部の最奥で新動力を研究している。彼が発見した新粒子を動力源として利用できないかを考えているらしい。