シャーレの部長はブラックマーケットの代表   作:四脚好き

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60話

◎・レッドウィンター 雪山・

 

 ボリスを撃退したあと先生たち一行は旧校舎を目指して雪山を歩いていた。

 

「うう、もう一時間は歩いたはずなのに……。旧校舎はおろか、建物一つ見えてこないじゃないか! あとどれくらい歩けば、旧校舎に着くんだ?」

 

 チェリノが疲れた表情でそういう。

 

「レッドウィンター連邦学園の敷地は、キヴォトスの学園の中でも五指に入る広さですし……外郭まで歩いていくには、もう少しかかります」

「うう……もう無理なものは無理! 足が痛くて一歩も歩けないっ!」

 

 トモエの解説を聞いてチェリノは半泣きになりながら駄々をこねる。そんなチェリノの様子にトモエは休憩を提案する。

 

「それでは、少し休むとしましょうか?」

 

 少し考え込むチェリノ。少ししてチェリノは何かを思いついたようで手を叩く。

 

「……いや、その必要はない。おいらに良い手がある! カムラッド、おんぶだ!」

「え?」

 

 チェリノは先生に向かって背伸びして両手を広げ向ける。その期待に満ちた顔色に先生は仕方がないと思いチェリノをおんぶする。隣でジト目で先生を見ているハルミ。

 

「う、ううっ……お、思ってたより目線が高くて怖い……。だが、さっきよりもずっと遠くまで見えるし、空気も綺麗な気がする! これが、マリナやトモエが見ている世界なのか……」

「あら、素敵な姿ですね!」

 

 トモエがチェリノと先生の姿を褒める。

 

「まるで木にぶら下がるサルのようで可愛……いえ、威厳で溢れています!」

「……なぁ、お前はあいつの秘書なんだよな……?」

「ん? そうですが」

 

 ハルミはトモエの発言が聞こえていたようでそのあんまりな発言にトモエが本当にチェリノの部下なのか確認した。

 

「威厳で溢れて……えへへ……」

「記念に写真を撮ってもよろしいですか?」

「いくらでも撮るが良い! この状態なら、同じ画面に収まらないなんて心配もないからな!」

 

 突如雪山で始まるチェリノ撮影会。なぜだか先生もノリノリで記念写真している。そんな様子をジト目で見るハルミ。

 

「見てください、チェリノちゃん。先生におんぶしてもらったおかげで、まるで背が高い感じに写ってますよ!」

「どれどれ……。おお、本当だ! ふふ、これは良いな。事務局に戻ってからも、ずっとこうやっておんぶしてもらったまま仕事することにしよう。そうすれば、おいらが小さいからって無視するような生徒たちもいなくなるに違いない……ははは!」

 

 高笑いをするチェリノ。トモエはその後ろでチェリノを褒め称える。なんというか、まるで三流悪党のようなそのやり取りにハルミは顔を顰める。チェリノの振舞いは『気に入らないものは潰す』というグランと似通ったものでありながらその規模は小さく、『我が道を行く』グランと『ただのわがまま』のチェリノという違いがあり、また罰も『死』を与えるグランと『トイレ掃除』を命令するチェリノと苛烈さもない。全てが、温い。ハルミはそう感じ、ストレスをためていく。

 

「素敵なアイディアかと思います、チェリノ会長。会長が、誰かにおんぶしてもらったまま厳かに指示をだす……なんてことになったら生徒たちもきっと驚きを隠せないでしょう」

 

 それだけにハルミは隣のこのトモエという女の事が理解できずにいた。この生徒会長ではまともに学園運営などできないだろう。きっと彼女が実際には学園の実権を握っているに違いないとハルミは睨んでいた。ほぼ一人でこれだけの巨大な学園の運営をしていることだ、かなり優秀な人間のはずだ。それが何故、こんなの(・・・・)に従っているのか、それがハルミには理解できなかった。一度、適当にチェリノを矢面に立ててヘイトコントロールしているのかと思ったがそれなら今回のクーデター時にこうして一緒に脱出していることの説明が行かない。ハルミの思考はドンドン深みにはまっていった。

 

「だろう? 事務局に帰ったらすぐにマリナにおんぶしてもらうように言おう! もちろんその前に、マリナはクーデターを起こした罪で厳しく粛清しなければならないがな! 一か月ウサギの飼育場でエサやりでもやらせようか。……いや、ウサギは可愛いから罰にならない! もっと、もっと恐ろしい罰を与えねば……」

 

 チェリノは先生におんぶされながらウンウンと考え込み始めた。再び歩み始める一行。そのまま一時間近く雪道を歩いた。

 

◎・レッドウィンター連邦学園 旧校舎・

 

 ボロボロで隙間風が入り込むほぼ廃墟な建物『レッドウィンター連邦学園旧校舎』に到着した先生たち。

 

「やっと到着しましたね、会長。 旧校舎……今はもうほとんど使われていませんが、かつてはレッドウィンター連邦学園の生徒たちが勉学に励みながら青春をすごした、名高い場所です」

「その割には、ボロくて汚いただの廃墟にしか見えないが……。なんだか雰囲気も暗いし、熊でも出てきそうだ」

「それは良い。今日の晩飯には困らなくなるからな」

 

 チェリノの不安げな声にハルミが獰猛な笑みを浮かべる。彼女の脳内には豪勢な熊鍋が浮かんでいた。ストレスだらけの環境でもうまい飯のことを思えば多少は良くなるものだ。

 

「と、トモエ、本当にしばらくの間ここで過ごすつもりなのか?」

 

 トモエの表情と雰囲気にチェリノは怖がりながらトモエに質問する。

 

「勿論、いつかはまた事務局に戻ります。しかしこうしてマリナ委員長から追われている間は、おいそれと戻る訳にはいかないしですし……。ですが、チェリノ会長が一生懸命協力してくだされば、きっとすぐに帰れると思います!」

「そ、そうか? やっぱりおいらの力がなければ何も解決できないということだな! よし、それではここをおいらたちの新たな拠点として、事務局を取り戻すとしよう!」

 

 チェリノが点に向かって指をさし、もう片方の手でヒゲを撫でながら宣言する。

 

「誰ですか! 勝手にそんなこと―――バンッ! バンッ! ひゃあっ!!??」

「当たった」

 

 チェリノが宣言をすると奥から別の声が聞こえてきた。ハルミは素早く、銃を構えて声の聞こえてきた場所を撃つ。すると悲鳴とガラガラと何かが倒れる音が聞こえる。

 

「だ、誰だ!? こんな辺鄙な場所に、ま、まさか熊か!?」

「痛てて……。って、熊! どこかに熊がいるんですか!?」

「大丈夫、ノドカ? あと熊はチェリノ会長の勘違い」

 

 音がした方に行くと、大きな望遠鏡を背負った生徒とオコジョの耳と尻尾をもった生徒がいた。その二人を見てチェリノは何かを思い出すように頭を捻る。

 

「お前たちは……」

「ふう、ようやく私たちのことを思い出しましたか?」

「誰だ?」

「ククッ」

 

 チェリノが頭を捻る様を見て、望遠鏡を持った生徒は立ち上がりチェリノに強めの口調で質問した。しかし、チェリノの記憶にこの少女たちの名はなかったらしく、バッサリと言って切る。そのあんまりな言葉にハルミは思わず笑ってしまう。

 

「ほっ、本当に私たちのことを忘れたんですか!? 信じられません! この過酷な環境の旧校舎で、大変な毎日に耐えながら、いつかまたチェリノ会長が新校舎に呼び戻してくれるはずと信じて待っていたのに!」

 

 憤慨する望遠鏡の生徒。その後ろでオコジョの生徒は『やれやれ』といった風に首を振っている。

 

「そうは言っても、本当に思い出せなくてな……。トモエ秘書室長、旧校舎で活動している部活なんてあったのか?」

「公的には存在しませんが旧校舎には、『227号特別クラス』という、レッドウィンター連邦学園内で停学処分を受けた生徒たちが、一時的に生活を送るための施設としての側面があります」

「一時的な施設? ならどうして、こいつらは新校舎に戻らずに、ずっとここにいるんだ?」

「会長の許可なしには戻れませんので、その命令が下るのをずっと待っていたのかと」

「……ぁ、思い出した! いつだったか、校内でこっそりカムラッドのあれやこれやを望遠鏡で覗き見ているのがバレて、停学になった変態ストーカーだな? 事務局のことが色々とと忙しすぎて忘れていたが、そんなこともあったな……」

「へ?」

 

 決してスルー出来るものではない言葉があった。先生は思わず間抜けな顔をさらす。

 

「人を凍える北の地に追い出しておいて、『忘れていた』だなんて! 無責任すぎます! 私がここで生き残るために、どれだけ大変な思いをしていたのかご存知ですか? おやつはもちろん、お腹を満たせるほどの食事もまともに配給されず!」

「この極寒をしのげるまともな暖房器具もないし」

「夜は布団から虫が出てきて!」

「ある時は、飢えた熊が校舎の中を徘徊したりするし?」

 

 『227号特別クラス』の生徒たちは代わる代わるこの旧校舎の出来事を語る。その内容はどれも背筋が冷たくなり、鳥肌が立つものだった。

 

「と、トモエ、やっぱりこの旧校舎は駄目だ。ほ、他の場所を探さないか?」

「ダメですよチェリノちゃん。こういう時こそレッドウィンター連邦学園の指導者らしく、威厳のある姿を見せないとです」

 

 チェリノは旧校舎の実態に震えあがり、トモエにしがみつく。しかしトモエはそんなチェリノを優しく引きはがししっかりと立たせる。

 

「で、でも……熊、怖い」

「それはともかく、こうやってチェリノ会長が直接来てくださったということは、もう私たちは旧校舎から出られるってことですか?」

「いや、それは……」

 

 『227号特別クラス』の生徒がチェリノにズイズイと目を輝かせながら近づく。トモエはその生徒に非情にも現実を突きつける。

 

「残念ですが今の私たちには、みなさんの措置を取り消してあげられる権限がありません」

「ど、どうしてですか!?」

「チェリノ会長は今、クーデターで生徒会長の座から失脚してしまい、逃げている途中なんです」

「これも全てマリナのせいだ! あいつがクーデターさえ起こさなければ、おいらが事務局から脱出してこんな汚い場所に来ることもなかったのに!」

 

 チェリノは激怒をして大声で怒鳴る。そんな様子を『227号特別クラス』の生徒たちは冷ややかな目で見る。

 

「なんだ……ということは、今のチェリノ会長は何の権力もないただのチビッ子ってことですよね?」

「そうだな」

「……ぬか喜びして損しました」

 

 がっくりと肩を下ろして落ち込む望遠鏡の生徒。

 

「……本当に人望ないな。どうやって生徒会長になったんだ、一体」

「うぅ……。誰がチビッ子だ! いくら一時的に生徒会長としての権力を失ったとはいえ、おいらはレッドウィンター連邦学園の書記長であり、環境美化部部長であり、清掃部部長で……様々な職責を任されている偉大なチェリノ様なのだ! この権威の象徴である髭が見えないのか!」

 

 チェリノは髭を望遠鏡の生徒に見せつけるが、望遠鏡の生徒はそれを鼻で笑う。

 

「そんな偽物の髭、誰も権威だと思ってませんよ!」

「な、なに……っ!? と、トモエ。この髭が偽物だということを、何故こいつらが知っているのだ?

ノドカちゃんはきっと、当てずっぽうで言っているだけでしょう。気にしなくて大丈夫ですよ」

 

 望遠鏡の生徒、ノドカの言葉にチェリノはトモエに確認をする。そしてトモエの言葉に自信を取り戻したチェリノはノドカに向き合う。

 

「何も知らないくせに勝手なことを口にするな、このエロガキめ! 休日のたびに高いところに登って、望遠鏡で先生のことを覗きながらハァハァ興奮する変態の癖に!」

「誰がエロガキですか!?」

 

 そして言い合いを始めてしまうノドカとチェリノ。その様子を見ている先生、トモエ、ハルミ、オコジョ生徒の四人。

 

「ふふふ、可愛らしい喧嘩ですね……」

「え? 私の私生活? え?」

「代表の生活を高所から覗き見……興奮してきt……いや、ブラックマーケットに『塔』より高い建造物なんてあったか?」

「ええー、おねーさんもそっち(・・・)側なの?」

 

 旧校舎の混沌に包まれていた。




 グランくんは普段『塔』の一室で生活しています。高い場所の為、行政区をほぼ一望できます。ただし、行政区は雨が多いため、滅多にいい景色は見れません。

◎・そのころのグランくん・

「ゲヘナ風紀委員会の空崎ヒナっているだろう?」
「ええ」
「風紀委員長ちゃんだね~」

 ベッドに横になったグランの言葉にベッドの両脇に腰掛けるホシノとムイが返事をする。

「あいつも、ホシノと同じように小柄で強いだろ?」
「……そ、そうだね」
「確かにこの体躯のどこにあれ程の力が……」

「だから空崎ヒナは実質小鳥遊ホシノだと思うんだ」
「なんでっ!?」
「代表、すぐに薬を持ってきますから今すぐお休みになってください」

 グランの言葉に激しく動揺するホシノと、立ち上がり医務室から新たな薬を持ってこようとするムイ。

「そういえばC&Cのリーダーも小柄で強いようだし、やっぱり小鳥遊ホシノなのでは?」
「グランがそれほど私の事思ってくれてるのは嬉しいけど、一旦物事考えるのを止めて、休もう。ね?」
「キサキも小柄だし……世界はホシノで溢れている? 素敵だ……」
「グラン! ストップ! お願い、思考の海から帰ってきて!」


グランくんの夏休み! どこ行こう?

  • ヒフミが戦車を強奪?ウィッシュリスト 
  • チナツから連絡? 何だ? 委員長の夏休み
  • リゾート運営か……。 海の家FC
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