◎・レッドウィンター連邦学園 旧校舎・
「いやー、しっかしこのままだと埒が明かないねー。それじゃ、ちょっつとあの件かを止めてきますかね」
「何か方法があるの? えっと……」
「ん? あー、シグレ。間宵シグレだよ、先生」
先生に自己紹介をして言い合いをしているノドカとチェリノの元に歩いていくオコジョの生徒ことシグレ。
「ほーい、二人とも、どっちがよりチビか決着をつけたいならいい方法があるよ」
「シグレちゃん?」
ノドカは笑いながら近づいてきたシグレの行動に疑問を持つ。そしてシグレはそんなノドカの表情により笑みを深めながら話を続ける。
「昔から、真の大人はお酒をどれだけ飲んでも酔わない……って言われているでしょう? だから『飲み比べ勝負』でどちらが本当の大人なのか、そしてどっちがチビなのかを決めよう!」
「お、お酒!? ダメだよ!」
「そうです、シグレちゃん。いくらここが旧校舎といっても、生徒がお酒を飲むのはレッドウィンター連邦学園の校則に反することですよ!」
先生がシグレの発言を受けて驚くがすぐに止めに掛かる。トモエもその後に続いてシグレを止める。二人の制止を受けたシグレはそれでも笑顔を崩さずに両手を上げて降参のポーズをとる。
「二人とも落ち着いて。もちろん本当のお酒を飲むわけじゃないよ。代わりに使うのは今回の『イワン・クパーラ』に向けて私が使った、特性カンポット」
シグレがコートの内側に手を伸ばして瓶を取り出す。瓶の中は果物と液体がなみなみに詰められていた。
「ただ、旧校舎に冷蔵施設なんてものはほぼないから、ちょっと発酵しているかもしれないけど……」
「なんだか今、かなり嫌なことを聞いた気が……」
「怖いなら参加しなくてもいいよ、チェリノ会長。その場合はもちろん、弱虫の汚名は避けられないけど」
シグレはニタリと笑い、手の中のカンポットを転がしながらチェリノを煽る。煽られたチェリノは顔を赤くしカンポットを手に取る。
「だ、誰が弱虫だ!そんなジュースくらい、いくらでも飲んでやる!」
「わ、私も同じです! チェリノ会長に負けたりしません!」
「じゃあ決まり。ついに、去年の秋に作っておいたカンポットの出番が……!」
そう言ってシグレはいくつかのカンポットを更に持ってきて封を切る。すると辺りに酸っぱい匂いがすぐに立ち込める。
「これは……なかなか」
「えっと……シグレちゃん。これ本当にお酒じゃないんだよね?」
その強烈な匂いにはハルミも目を丸くする。
「おっ、思い出した! こいつは以前、配給用カンポットにウォッカを混ぜて退学処分になった、あの……」
チェリノがシグレのことを思い出したのかわずかに震えあがる。
「キヴォトスでお酒って……。手に入れるの結構大変だよね。私もいっつもシャーレの遠くまで行かないといけないし」
「まぁ、キヴォトスは学園都市だ。大多数は酒を飲めない学生だからな。あと、酒自体はブラックマーケットにいけば割と簡単に手に入るぞ。私は飲まないから味は知らないが。……ん? 職場で酒を飲むのか?」
「仕事が多くて家に帰れないし……」
先生が普段の事を思い出しながらキヴォトスの酒事情を語るとハルミはそれに答えながらブラックマーケットの密造酒の事を語る。最後にシャーレの業務量の問題が露呈し、ハルミは『うわぁ』という顔をする。
「さぁさぁ、お喋りしている時間はないよ。それじゃあ準備も出来たし、よーい……スタート!!」
シグレがチェリノとノドカの前に一瓶ずつカンポットを置いて、合図を出す。その合図のあと、一気にカンポットを煽る二人。
そうして『飲み比べ勝負』を始めて、だいたい一時間が過ぎたころ。
「ううっ……ううう……うぷっ」
「く、苦しい……こんなカンポットがあるなんて、聞いたことが無い……」
飲み比べをしていた二人の顔色はもの凄く悪化していた。その様子は周りで見ていたトモエも冷や汗を流し、先生を右往左往させ、ハルミが目を背ける程だった。ただ、シグレだけが笑っていた。
「や、やっぱりお酒が混じってたの?」
先生が恐る恐る聞けばチェリノは首を振って答える。
「いや、そういう問題ではない……」
「甘っ! 甘すぎます! 一体何ですか、シグレちゃん! この歯が溶けそうなほどに甘いカンポットは!?」
チェリノの言葉を引き継ぎノドカが慟哭に近い声を上げる。
「カンポットは元々、果物を砂糖に漬けて作る飲み物。それに、この旧校舎の極寒に耐えるためには、大量の糖分は必須!」
「でもこれはやり過ぎですよ! 飲むたびに口の中で砂糖がジャリジャリして、脳まで溶けそうです! ううっ、後一口でも飲んだら、もう……」
ノドカしそう言いながらカンポットの瓶を下ろす。
「ふ、ふふ……お前はもう限界のようだな。だが、事務局であらゆるスイーツを食べてきたこのチェリノ様にとって、これぐらいの糖分はなんてことない! 諦めるなら今がチャンスだぞ!」
「ううっ……敗北を認めたくないですが……も、もうこれ以上は無理です、私の負け……」
ノドカが敗北宣言をする。
「ばんざーい! 勝った!」
「素晴らしい勝利です、チェリノ会長! さすが会長です! 今日のこの勝負はきちんと記録して、レッドウィンター連邦学園の歴史に永遠に残しましょう!」
「良い案だな、トモエ秘書長! そうすれば遥か後世の生徒たちも、おいらの偉大さを讃えることができる!」
トモエとチェリノは勝利に歓喜し、手を取り合って喜ぶ。その隣でノドカは俯き胸を押さえている。その背中をシグレが摩っている。どうやら胸やけを起こしたらしい。
「しかしなんと書けばいいのだ? 『レッドウィンター連邦学園の偉大なるチェリノ会長、自ら特別クラスの生徒たちと対決して勝利を……』 あれ? そういえば何の為にこんな試合をしていたんだっけ?」
「阿呆が……。どちらがよりガキかという話だっただろう」
「ううっ、悔しい……こんなちびに負けるなんて」
チェリノはすっかり試合理由を忘れていた。その様子にハルミはあきれ果てる。そしてノドカはorzのような姿勢になり、落ち込む。
「お前、勝負に負けてもまだおいらをチビ呼ばわりするのか! まぁそれはそれとして……おいらほどではないが、お前もよく頑張った。普段からまめにプリンを食べていなかったら、いくらおいらでもあのカンポットをあれほど飲むのは難しかっただろう。それに、この極限の中でここまで耐えてきたお前には、敬意を表したいぐらいだ」
「チェリノ会長……」
「おい、なんで感動的な話になっている」
「さ、さぁ? の、飲みにケーションってことなのかな……」
ただの飲み比べのはずが、何故だか感動的なワンシーンのように、座り込むノドカに手を差し伸べるチェリノ。その様子にハルミは隣の先生に問いかけるが、先生も若干困惑顔である。
「おいらが事務局に無事に戻れた暁には、すぐにでもお前たちの停学は取り消してやるぞ!」
「……いや、そもそもこんな勝負が無かったとしても、早く取り消してくださいよ」
「あ、あれ? 今のはおいらを讃える流れじゃなかったのか?」
「はぁ……仕方ないですね。この旧校舎からでるにはチェリノ会長の承認が必要ですし、先生もいるし……しばらくはチェリノ会長たちに協力します」
ノドカは先生たちのほうにも頭を下げる。
「よろしくノドカちゃんにシグレちゃん」
「よろしくお願いします、先生」
「よろしく―、先生。あ、私はシグレって呼び捨てで良いよー」
◎・・・
「ふぁぁ……眠い……」
飲み比べとノドカたちとの和解のあと、しばらくしてチェリノが大きなあくびをした。
「お昼寝の時間まではまだ少し早いですが……もうねむですか、会長?」
「さっき甘いものを食べ過ぎたせいか……瞼が重くて、眠い……」
トモエがうつらうつらとして倒れそうになっているチェリノの体を支える。
「それじゃあ、この校舎の休憩室で暫く休憩する?」
「この校舎で寝るのは……嫌だ。熊が出ると言っていたではないか……」
シグレがスキットルを煽りながらチェリノに提案するが、よほど熊が怖いのか拒否するチェリノ。
「熊が出たら私が追い払いますので、ご心配なさらず!」
「それに、さっき布団の中に虫がいるって……」
「うーん、どうしましょう……会長が安心してお昼寝ができるような場所があれば良いのですが……」
トモエの説得も聞かずに拒否を続けるチェリノ。
「うーん、アレグロブリーズは今、ハルミが回収に行ってるけどまだ時間がかかるだろうし……どうしよっか」
先生はこの場に居ないハルミのことを考える。ちょうど少し前にハルミはレッドウィンター連邦学園本校舎の駐車場に放置されているアレグロブリーズを回収に向かってしまった。流石のハルミでもまだ戻ることはないだろう。
「……おいらにいい考えがある」
「ん?」
眠たげに目を擦りながら自身の考えを喋り出すチェリノ。
「静かで適度に暖かくて、ほんのり良い匂いがする。そんな昼寝にぴったりな場所、それは……」
「図書館だ!」
◎・平和ギャグ時空・
ハロウィン、その日のシャーレ当番はホシノとグランだった。既にグランたちはそれぞれデスクについて作業をしていたが先生の姿はオフィスには無かった。
「それにしても先生遅いねー」
「『ハロウィンの仮装してくる!』とは言っていたが一体何を着てくるつもりなんだか」
ホシノとグランは互いに顔を見合わせて笑った。そしてシャーレオフィスのドアが開いた。二人は仮装してきた先生の方を向いて一瞬で青ざめた。
「じゃじゃーん! 見て―、ホシノの制服! 案外にあって……、どうしたの二人とも!?」
先生が目にしたのは胸を押さえて汗が噴き出て息が荒くなっているホシノと頭を抱えて俯いて何かを泣きながら呟いているグランだった。(本シャーレの先生は金髪になったユメ先輩と言えるほどにユメ先輩に激似+ホシノの制服という名のユメ先輩の格好)
「はぁっ……はぁっ……はぁっ、うぷっ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」
その日、シャーレは機能不全に陥った。
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