◎・レッドウィンター本校舎 近郊・
ハルミと合流した先生たちはアレグロブリーズに乗り込み、校舎の近くまで行くことにした。レッドウィンターの街並みを走っていくアレグロブリーズ。その車内ではチェリノが初めての大型キャンピングカーにはしゃいでいた。
「おおっ! とんでもなく大きいベッド! こっちはシャワーか! それにこっちは……おおっ! ここもベッドになるのか!?」
「ふふふっ、チェリノちゃんったら大はしゃぎしちゃって」
そう言いながらチェリノの写真を撮るトモエ。しかしトモエ自身も少しアレグロブリーズに興奮しているのか、キッチンの方をチラチラと見ている。
「なんだかんだ言っても、皆まだ子供だね~」
先生はそんな様子の二人を見てそう呟く。後部座席のソファに座り、緑茶を飲んでいる姿はそれなりに絵になっていた、が。
「先生もアレグロブリーズを初めてみたときはかなり興奮していたと代表から聞いたが?」
「んぐっ」
運転席で運転しながらチラリと後ろの先生を見てそう言い放つハルミ。その言葉に先生は顔が固まる。
「はははっ、トモエ! 決めたぞ、次からレッドウィンター連邦学園事務局の移動車両はキャンピングカーにするぞ!」
「それは……素晴らしいです! 演説後も眠くなったらそのまま寝ることができて効率的です。さすが書記長!」
「そろそろ中央市街に入るぞ」
レッドウィンター連邦学園の中央市街に入る一行。近くにあった駐車場にアレグロブリーズを止めて本校舎に向かって歩いていく。町はきらびやかに着飾られていて、行きかう人々の顔は明るい。だれもかれも『イワン・クパーラ』を楽しみにしているようだった。
「ねぇねぇ、今年の連休って、何か予定ある?」
「ううん。今年の夏至祭は、家で静かに過ごそうかなって」
「え~、せっかくの連休なのに。よかったら市内で一緒に遊ぼうよ! 聞いた話だと、生徒会が3丁目の交差点にすっごい大きな焚火を用意するらしいよ! もしかしたらそこで、素敵な出会いとかあったりするかもしれないじゃん? ……ふふっ!」
「うーん、じゃあそうしようかな……」
連休の予定を語りながら生徒が歩き去っていった。今のはほんの一例で他にも、夏至祭を楽しみにしているような会話があちこちから聞こえてくる。
「……。ううっ……気に入らない! もう何もかもが気に入らない!」
今までアレグロブリーズをいたく気に入って上機嫌だったチェリノはどんどんと不機嫌になっていった。
「どうしたのチェリノちゃん?」
「見ろ! ああしてお祭りの雰囲気に酔いしれて、楽しそうに歩き回る我がレッドウィンターの生徒たちを! レッドウィンター連邦学園で最高の尊厳を持つおいらが、こうしておやつも食べられず、昼寝もできず、大変な苦労をしているというのに、生徒たちは夏至祭の雰囲気を楽しんで……こんなの不公平だ! みんな粛清だ、粛清! 今夏至祭の雰囲気を楽しんでいるやつらは全員一か月グラウンドの草むしりの刑に処する!」
チェリノが怒っているのを見て先生は首を傾げながら喋る。
「でもチェリノちゃんは今、会長じゃないから、罰は与えられないんじゃ?」
「……そうだった。そうしたら今は名前を記録しておいて、復権したらその時に罰を与えるとしよう……。トモエ秘書室長。さっき通り過ぎていった生徒たちの名前を一人残さず記録しておくように!」
「ダメですよ、チェリノちゃん。そもそも生徒全員で夏至祭を楽しもう、って言ったのはチェリノちゃんでしょう? ちょっとした気まぐれで命令を撤回なんてしまうと、みんな嫌がりますよ」
「だって~! おいらだけこうやって遊ぶこともできず、追われたままの立場だなんて……こんなの不公平だぁ! 自由と平等をモットーにする我がレッドウィンター連邦学園に、不公平などあってはならない!」
チェリノの言葉に先生が『自由? 平等?』 とつぶやき更に首を傾げる。ハルミは先生とは違い、チェリノではなくトモエの方に注目していた。
「でしたら折角ですし、私たちも他の生徒たちと一緒に、この夏至の祝祭を楽しんでみませんか?」
「他の生徒たちと一緒に楽しむ……?」
「はい。チェリノ会長はいつも高い位置の席でイベントの統括指揮をされていて、生徒たちと一緒にお祭りを楽しむような機会はありませんでしたし。この機会に、普通の生徒としての立場で楽しんでみたら、次のお祭りの準備に役立つかもしれません」
チェリノにそう話すトモエ。口では理屈を述べているが、その目からはなんの作為も感じず純粋にチェリノに祭りを楽しんでほしいという思いが宿っていた。
「ほう……なるほど。それは良いアイデアだな! 生徒たちがどのように生活しているのかを把握することもまた、指導者としての責務! この機会に一度仕事のことを忘れて、普通の生徒の立場で街を視察するのもアリだな。……決して遊びたくて言っているわけではない!」
チェリノはそう言っているが全身からワクワクしているオーラが隠せていない。そんな様子を見て先生とトモエもほっこりする。
「ではまずあそこのケーキ屋に行くとしよう。急ぐぞ、カムラッド!」
◎・・・
「モグモグ……。はぁ、おいしい~。このお店のメドヴィクは本当に甘くておいしいな! これならいくらでも食べられそうだ!」
「本当に美味しいねー」
「チェリノちゃん、お髭にクリームが付いていますよ」
気が付けばチェリノと先生はイワン・クパーラを満喫しており、そんな二人の後をトモエとハルミがついて行くという形になっていた。
「どうしてこうなった……」
ハルミとしては先生がここまではしゃぐとは思っておらず速やかに生徒会の奪還に向かうものと考えていたため、フラットウェルを焚きつけたのだ。このままでは三つ巴にはならない。
「気が付けばもう一か月分のお小遣いを使ってしまったな。『イワン・クパーラ』……なんという恐ろしいお祭りだ。キヴォトスの商人たちがお祭りの時期を狙って、ありとあらゆる甘いお菓子を出す理由が分かった気がするな……。さぁ、カムラッド。次はどこに遊びに……いや、視察に行こうか?」
チェリノがうんうんと頷きながら次の店を先生と話し合い始める。先生は辺りの店を見回す、すると何かを発見した。
「あの大きな薪の山、何かな?」
「……薪の山?」
先生の視線の先をチェリノも確認する。そしてその視線の先にあるものを見て、納得した。
「ああ、あれは薪ではない。『公務部』が設置中の『イワン・クパーラ』の祭壇だな! 『イワン・クパーラ』では毎回人形を燃やすのだが、今回は特別に巨大な人形を燃やすための『祭壇』を設置するようにと、おいらから指示を出していたのだ!」
チェリノの説明を聞いて小声で『ウィッカーマン?』とつぶやく。
「そうなんだ。でも、まだそうは見えないというか……」
「それは……確かにそうだな。祭壇と呼ぶには飾りが一つもついてないせいか……? お祭りまでもう時間もないのに、どうしてまだあんな状態なんだ? サボっているのか? サボタージュなのか!?」
「落ち着いてください、会長。何か私たちが、勘違いしているのかもしれません」
トモエがチェリノを諫めるがチェリノの感情は収まらない。
「何が勘違いだ! 期間内に仕事を終わらせられない無能な生徒は、我がレッドウィンター連邦学園には必要ない! みんな粛清だ、粛清!」
「会長が祭壇を設置するように指示をされた場所はここではなく、事務局前の広場です。これはきっと、『イワン・クパーラ』とは関係ないものなのでしょう」
「そ、そうだったか? じゃあ、あの薪の山はいったいなんだ?」
トモエの言葉にチェリノも首を傾げる。チェリノと先生が揃って首を傾げている姿にトモエは何かツボったのか顔を逸らして笑っている。
「ちょうどあのあたりに公務部の生徒たちが集まっているな。すこし話を聞いてみるとしよう」
チェリノはそう言って薪の山の元に歩き出す。
「おーい、作業は順調に―――
「あたしたちは、決して奴隷にはならない!!」
「わあああっ―――!!」
「え、あれ? なんだこの雰囲気は……?」
チェリノが向かった集団は何か……とても赤かった。
「これから数日間、『イワン・クパーラ』の連休が始まる。『イワン・クパーラ』はどんな祝祭だ? 冬の間ずっと食べていた乾いたパンや塩漬けの肉を捨て、太陽から贈られる新鮮で豊かな果実を楽しむ、新緑の祝祭ではなかったのか!? これは、レッドウィンターのどの生徒にも例外はない。あたしたちにも、この祝祭の連休を楽しむ権利があるはずだ!」
「そうだ、ぞうだ!!」
「私たちにも連休を!」
「しかしあたしたちは連休はおろか、1日2交代制の過酷な環境の中、昼夜を問わず作業に動員され、労働力を搾取されているではないか! これはあたしたちのレッドウィンター連邦学園の理念である、自由と平等の精神に反する! あたしはこの状況を、強く糾弾したい!」
「おおおおーーー!!」
「そうだ! こんなの間違ってる!」
「チェリノ会長を含む、レッドウィンター連邦学園の事務局所属の者たちは、あたしたち『工務部』の労働者としての権利を保障しろ! あたしたちに十分な休息時間と、追加の手当、そして、えっと……2つずつのプリンを支給しなければ! あたしたちはストライキとデモを続けていくこととする!」
「わああああっーー!」
「ストライキだ、ストライキ!」
薪の山の上で演説をしている生徒。そのカリスマ性は凄まじく周りの公務部の生徒たちも大いに興奮している。その様に先生は唖然として、ハルミは警戒を始める。1個の思想に熱中になっている状態の集団の危険性を知っているからだ。
「待て待て待て! お前たち、誰の許可を得てこんなことをやっているんだ!? 事務局の許可なしに、勝手な集団行動は許されない! お前たちみんな粛清だ、粛清!」
「あ、待ってチェリノ!」
先生の制止も虚しく、チェリノは公務部の生徒たちの注目を集めてしまう。
「……チェリノ会長? なぜこんなところにいるかは知らないが……ちょうどいい! みんな! チェリノ会長を捕まえて、この薪の山に縛っておけ!」
演説をしていた生徒が声を上げると工務部の生徒が手早く、チェリノを拘束してしまう。
「ま、待て! 離せ! おいらを誰だと思っているのだ! ぐっ! そ、それよりも、お前らこんなことをして何を……。……まさか、おいらを人形のように薪ごと燃やしてしまうつもりか!?」
「いいな、それ。面白そうだ」
「ハルミちゃん!」
「冗談だ」
チェリノの想像にハルミが笑いながら期待するようなことを言えば割と本気な顔で先生に名前を呼ばれる。
「とりあえず、チェリノを助けよう。行くよトモエちゃん、ハルミちゃん!」
「ええ。絶対にチェリノちゃんを助けます」
「了解した。先生指揮を頼む」
◎・そのころのグラン・
「もう平熱、相変わらずムイの薬は凄いな。それじゃあ……行くか」
グランは服を着替えて部屋の内線で『塔』の兵器整備室に連絡を入れる。そして部屋を出ていく前に部屋を見回す。
「ホシノとムイは一体どこへ行ったんだ? まぁ、書置き残したし大丈夫だろ」
そう言って部屋から出ていった。
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