シャーレの部長はブラックマーケットの代表   作:四脚好き

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はい、という訳でIFグラン君シリーズです。ただし今回のお話は少しばかりいつもと事情は違って……?


ミレニアムグラン君

◎・ミレニアム 戦闘演習場・

 

 ミレニアムの演習場、普段は新開発のロボットや武装、装甲などのテストのために新素材開発部や、エンジニア部が多用する場。そんな演習場を二人の生徒が、普段の演習よりもより激しい音を立てながら駆けまわっていた。

 

「オラオラオラオラぁ」

「ほぉ、そういう動きもあるのか」

 

 片方はミレニアムの特殊エージェント集団『Cleaning&Clearing』のリーダー、コールサイン00こと美甘ネル。もう一人はセミナー直属の戦闘部隊『ヴェスパー』の序列1位水戸グラン。コードネームは―――

 

『「フロイト」何を遊んでいるのです。既に作戦ミーティングの時間です。その狂犬は無視してミーティングルームへ来なさい』

 

 突如、演習場のスピーカーから男の声が聞こえ、グランのコードネームを呼ぶ。スピーカーの声の主はセミナーの庶務であり、ヴェスパーの序列2位、コードネーム『スネイル』だった。どうやら次の作戦のミーティング時間になってもやってこない、フロイトを呼び出しているようだった。

 

「そうだったな、スネイル。了解した」

 

 そう言ってフロイトは通信を切り、演習場のスピーカーを狙撃して壊した。そして満足そうな表情でネルの方に向き直る。

 

「さて、続けようか」

「アッハハハ、良いのかよオイ!」

 

 フロイトの行動に眼を丸くした後思わず大笑いしてしまうネル。

 

「あぁ、今はこのままお前とやり合いたい。そういう気分だ」

「はっ、嬉しい事言ってくれるじゃねぇか!」

 

 そのまま二人は模擬線を再開してしまう。そんなフロイトの様子を見ていたミレニアムタワーの管制室ではスネイルが思いっきり台パンをして隣にいたヴェスパー序列7位のスウィンバーンと序列6位のメーテルリンクを震え上がらせていた。

 

「しゃおらァ!」

「お前の戦い方、正に猟犬といった感じだな。なるほどスネイルの『狂犬』発言もあながち間違いではないかもな」

「あ゛あ゛っ!?」

 

 フロイトの発言に一気に苛烈になるネルの攻撃。二丁の銃から雨あられと猛烈な量の銃弾が吐き出される。それを回避したり、時には左手の義手(・・)に仕込まれたブレードでいなしながら負けじと右手のライフルでネルに攻撃を加える。

 

「おいおい、犬なのは否定できないだろ。昨日の夜だって『尻尾』まで付けてベッドの上でキャンキャン鳴いてただろ?」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あっ゛、その口閉じやがれ!」

 

 ネルは顔を真っ赤にしながら激怒してさらに苛烈にフロイトを攻撃するのだった。その姿は雅に悪鬼羅刹のようだったと後にフロイトは語る。

 

◎・・・

 

「動け、俺の身体、これからもっと面白く……」

「大丈夫かー? あんま無理して動くんじゃねぇよ」

 

 数十分後、演習場のロッカールームでフロイトはネルに膝枕されていた。二人は戦闘で汚れた普段着ではなく、ジャージ姿になっており冷えたドリンクを飲みながら休憩していた。

 

「最後のブレード展開が間に合えばまだ勝ち目はあったんだがな……」

「……まだ反応が鈍いのか?」

「それでも最初のころからは全然よくなった。ミレニアムにも、お前にも感謝している」

 

 そう言いながらフロイトは自身がまだ『水戸グラン』だった頃を思い出す。アビドスで過ごした楽しかった日々、笑いながら借金返済に明け暮れた日々、思いあっていた少女との甘い日々、全てが壊れて亡くなったあの日。ユメ先輩を泣くし、居場所も腕もなくなった日、行く当てもなく放浪していた所を当時一年だったネルに拾われてミレニアムに転入することになった。そこで義手を貰い、ネルの強さを見て彼女に憧れるようになった。憧れに少しでも近づけるように、努力を重ねた結果、彼はコードネーム『フロイト』を手に入れ、セミナー直属の戦闘部隊のリーダー『ヴェスパー』の首席にまで上り詰めた。

 それでも今だ勝ち越しすることが出来ない、自身の憧れ兼恋人の強さには感嘆するばかりである。

 

「なぁ、グラ――「フロイト。そう呼んでくれって言ってるだろう」――けど最近、お前どこ行っても『フロイト』って呼ばれてるじゃねぇか。もうお前の本名を知らねぇって後輩どころか、教師までいんだぞ。誰かが一人は……アタシだけでも覚えていてやらないと『水戸グラン』が本当にいなくなっちまうよ……」

 

 フロイトの頬に心配そうな顔をしながら手を添えるネル。添えられた手に自分の手を重ねることもできず、かといって振り払うことも出来ないフロイトはそのまま、ネルの眼を見つめ返して口を開く。

 

そんな弱い奴(水戸グラン)なんかいなくなっても構わない」

「構うんだよ!」

「!?」

 

 フロイトがそう冷たく言い放つと大声でネルが否定する。ネルの目からは若干涙が溢れていた。予想外のリアクションに()()()は思わず慌てる。

 

「そ、そんな泣くほどかぁ?」

「お前、アタシが告白した時の言葉覚えてるか?」

「え?『お前の事はアタシが幸せにしてやるからさ!』だったか?」

「しっかり覚えてんじゃねぇか。……あの時言った『お前』にはお前(グラン)も含まれてんだよ。アタシはお前が抱えているモンの全部を知ってる訳じゃない。話して貰っても全部解決できるかも分かんねぇ、けど! アタシも力を貸すから……。勝ってに諦めて、勝手に消えるんじゃねぇよ……」

 

 ついにあふれ出た涙がポツリポツリとグランの頬に堕ちてくる。そんなネルの涙を見てグランの目が丸くなり、次第に胸に熱いものがこみ上げてくるのと同時に自分も目頭が熱くなってくるのが分かった。すぐにグランは膝枕された状態から起き上がりネルの隣に座って彼女を抱きしめる。

 

「ごめん……」

「ぐすっ、う、うるせぇ……。人の気も知らねぇで勝手に消えようとしやがって」

「ごめん、ネル」

「アタシが、アタシがどれだけ辛かったか……馬鹿野郎が」

「それでも俺に弱いところを見せずに、俺の憧れたネルで居てくれたんだろ? ……いや、憧れのままで居させたんだよな俺が……本当にゴメン」

 

 グランは漸く気が付く、自分がずっと憧れと言うフィルターを通してネルの事を見ていたという事を。ネルだって本当は年頃のただの女の子、辛い時も、苦しい時もあっただろう。しかしそんな場面を一度たりともグランは見たことがない。何故ならそれはネルがそうしていたから。グランが自分を憧れと言うフィルターを通してみていたことにネルは気が付いていた。だから憧れであり続けようとした、グランに嫌われることを恐れて。そんな無茶をずっとネルにさせていたことにグランは気が付いて涙をこぼす。

 

「ごめん、ごめん、ずっと憧れで居させて。ずっと憧れで居てくれて、ありがとう」

「あぁ、ああっ! やっとアタシを見やがったな……。付き合ってるくせにおせぇんだよ」

 

 二人は互いに抱きしめ合い、見つめ合う。そしてどちらがそう言うまでもなく、静かに唇を重ねる。握りしめた手は固く、体に回した腕にもう離さないと言わんばかりに力を込めて。こうして二人は真の意味でカップルになったのだった。

 

◎・・・

 

 二時間ほど経った頃、二人は漸くロッカールームから出てきた。グランは上手く歩けないのか足が震えているネルに腕を貸しつつ既に夕暮れ時のミレニアムを歩く。

 

「ったく……手加減しろってのッ!」

「悪い悪い、少し盛り上がり過ぎたな」

 

 顔を赤くしながらグランの腰辺りを殴るネル。しかしその拳にあまり力は入っておらずグランも笑うだけだった。ふと二人が住むマンションに向かっている最中見晴らしの良い上り坂に差し掛かりグランはそこで足を止める。そして沈みよく夕日をなんとも言えない表情で見つめる。

 

「どうしたよ?」

 

 急に立ち止まったグランにネルは話しかける。話しかけられたグランはネルの方を見て微笑み、空いている方の腕でネルを撫でつつ、再び夕日に目をやって喋り出す。

 

「俺さ、前にいた学校でもある人にずっと憧れてたんだよ。それも大分拗れた憧れ方でさ。憧れで、大好きで、妬ましかった」

「……」

「どうしてそんなにお前は強いんだ、どうして俺にはその力が無いんだ、そんなに強いのにどうして『あの人』を助けられなかったんだって。笑えるよ、あれはアイツだけの責任じゃないってのに……」

「……」

「それでふと思ったんだ、アイツにももしかしたら、憧れを押し付けてたのかなぁ……ってな。前の学校もこういう風にきれいな夕日がよく見れてさ、それで思い出したんだよ」

 

 グランはそこまで言ってネルの手を引いて再び歩き出す。

 

「もう良いのか?」

「あぁ。ネルが言ってくれたからな、過去(グラン)も大切にする。けど過去に囚われてばかりだと(未来)に進めないからな。適度に浸る程度でいい」

「そうか、そうだな!」

 

 ニカッとネルが笑って二人はまた歩き出す。

 

「にしても……なんか忘れてる気がするんだよなぁ」

「あぁ? どうせ大した用事じゃねぇだろ、また明日にでも……」

 

 二人は首を傾げながらマンションの前に辿り着くとそこに待ち伏せしていただろう人間を見て固まる。

 

「裏切り者の生徒会長、頭の悪い連邦生徒会、そして何より……仕事を放ってって丸投げする序列1位……どいつもこいつもこの私を苛立たせる…! 死んで平伏しろ! 私こそがセミナーだ!」

「ネル先輩……? 時間になっても部室に現れないと思いましたが……成程。彼氏様と随分"お楽しみ"だったようですね!」

「よぉ、スネイル。そんなに怒ってたら将来禿げるぞ? もっとリラックスしたらどうだ?」

「誰のせいでッッ!!」

「ア、アカネッ……これはその…あーっと……逃げるぞグラン!」

「はははっ、了解!」

 

 ネルとグランはマンションに背を向けて走り出す。

 

「グラン、このあとどうする?」

「そうだな……取り合えず撒いた後どっかのホテルで合流かな……続きもしたいし」

「ばっ、ま、まだヤんのか!?」

 

 走りながらグランの言葉に真っ赤になるネル。そんなネルの耳元でにやけながらグランが喋る。

 

「でも……嫌いじゃないだろ?」

「~~ッッ! 馬鹿! 馬鹿バーカ!」

 

 ネルの大声が辺りに響きわたるのであった。

 





・水戸グラン
 セミナー直属の戦闘部隊『ヴェスパー』の隊長。コードネームは『フロイト』
 その勤務態度はけっして良いものとはいえず書類仕事などは殆どスネイルに丸投げである。
 正体は元アビドス生であり、ホシノの私刑後ブラックマーケットではなく、ミレニアムに流れ着いた場合の姿。ネルに保護され彼女の元で療養後、ミレニアムに転入する。ネルの強さに憧れて、あるいは誰かを重ねて、彼女の元で経験を重ねてミレニアムではネルに次ぐ実力者まで上り詰めた。左手はミレニアム製の義手になっており、中には拡散グレネード砲やブレードが仕込まれている。
 今回の件で真の意味でネルと相思相愛になれた。
 最近の悩み、ネルが可愛すぎて辛い。
 

・美甘ネル
 圧倒的ヒロイン。ミレニアム一年生でC&Cに入ったばかりの頃、血だらけの男がいると連絡を受けてグランを発見する。その後目の前で倒れたグランをなんとなく放っておけずに見舞いなど続けている内に打ち解けていった。
 暫くしてグランがミレニアムに転入すると良き友人として、ともに過ごしていた。ただある日、自分の実力をグランに見せたとき、グランの自分を見る目に『ナニカが』混じったことに気が付く。そのナニカとグランの抱える闇に薄々気が付きつつも彼の師として鍛え上げた。
 そしてグランがフロイトになった日、このままではグランが危ういと気が付いたネルは元々好意を寄せていたこともあって『グラン』を引き留めるために告白。二人は付き合うことに。
 今回の件で真の意味でグランと相思相愛になれた。
最近の悩み、グランに"後ろ"を開発され過ぎて弄られるとすぐヨワヨワになってしまう。

スネイル
 セミナー直属の戦闘部隊『ヴェスパー』の副長。本名不明。金髪オールバック眼鏡のヴェスパーのナンバー2。しかしヴェスパーの実験を握っているのは彼である。何故なら本来仕事をすべき彼の上司のフロイトはいつも戦っているか、彼女といちゃついてと好き勝手しまくっているからである。しまいにセミナーももう仕事の依頼や請求書はフロイトではなくスネイルに出す様になってしまい。一般生徒からもスネイルがヴェスパーの隊長だと思う始末。普段は冷徹で合理主義な彼だが、ストレスがあまりにたまりすぎると『セミナー』を自称し 無茶苦茶やり出す。そんな奇行もミレニアムでは風物詩として扱われている。
最近の悩み、朝起きた時に枕につく抜け毛の量が増えてきていること。



 最近、ネルが可愛すぎてしょうがない。元々嫌いでは無かったんですけど『推し!』というほどでもなかったんです。それが何故だか最近はいつもネルのことばっかり考えて小説を書いている……。この作品はホシノがメインヒロインなのにッ! ネル、恐ろしい娘ッ!

いつか考えているイベント回グランが若返ります。1年や幼児は体の年齢。記憶は頭の中身、なしだとその体の当時の記憶しかない。ケガは主に四肢欠損のありなし。

  • 一年、記憶あり、ケガあり
  • 一年、記憶なし、ケガあり
  • 一年、記憶あり、ケガなし
  • 一年、記憶なし、ケガなし
  • 幼児、記憶あり、ケガあり
  • 幼児、記憶なし、ケガあり
  • 幼児、記憶あり、ケガなし
  • 幼児、記憶なし、ケガなし
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