◎・レッドウィンター連邦学園 事務局・
「ふふふ……なるほど。権力とは本当に甘く、素晴らしいものだな」
事務局では生徒会長の座に就いたマリナが椅子に何度も座り直してはフィーカを啜り、菓子を食べていた。その顔色は喜色一色であった。
「好きなだけ昼寝もできるし、おやつも好きなだけ食べられる! 会長だけが座れるこの椅子もまぁ、ちょっと小さい感じはするが、フカフカで気に入った! この生活ならいつまでも楽しめるな。これが天国というものか……」
これからの明るい贅沢三昧の生活に思いをはせるマリナ。しかしすぐに険しい顔になる。
「ただ……チェリノ会長の行方がまだ分からないのが気にかかるな……。まぁ、きっとすぐに捕まるだろう。いくらレッドウィンターが広いとはいえ、あの頑固なちんちくりんが行きそうな場所など大方予想もついてるからな。ははは!」
笑いながら椅子から立ち上がり、執務室の中を見て回るマリナ。
「さぁて……次は何をしようか?」
―――ヒュュゥゥゥゥン ドカァァァァアアアンッ!
「なぁっ!?」
突如、執務室が揺れて体勢を崩すマリナ。大きな爆音と揺れ、どこからか何かが燃えている匂いもする。即座に武器を手に取り、机を横に倒して障害物にするマリナ。すると親衛隊の一人が執務室に慌ただしく入ってくる。
「マリナ会長、大変です!」
「どうした、一体何が起きた!?」
「チェリノ会長が、他の生徒たちと一緒に事務局へ押し寄せてきています!」
親衛隊の言葉にマリナは驚く。
「なっ、チェリノ会長がこちらに? ここまでやるのか、あのチビが? ふふふ、あの頑固なちんちくりんが、他の生徒たちをどう説得したのかは知らないが……今は私が生徒会長だ。権力もない今、このマリナ親衛隊の前では無力も同然! 何も恐れることはない! …5、6人ぐらいか?」
マリナが恐る恐ると言った様子で親衛隊に聞くと、親衛隊も恐る恐ると言った様子で答える。
「い、いえ、正確には数えられていませんが、チェリノ会長に従っている生徒の数はおよそ……数百人単位かと」
「す、数百人!? いったいその人数はどこから来たんだ!?」
驚愕で白目を剥く、マリナ。
「旧校舎の『227号特別教室』の生徒たちと、『知識解放戦線』の司書たち、そして『工務部』の労働者たちまでもがチェリノ会長に手を貸しているようでして……」
「その生徒たちを全員、チェリノ会長が説得したとでもいうのか? そんな、バカな……!」
マリナは脳内に『227号特別教室、『知識解放戦線』、『工務部』の生徒たちを思い浮かべるがどいつもこいつも一癖も二癖もある人物ばかりでとてもチェリノが制御できるようには思えない。しかし今、こうして実際に襲撃を受けているのだから、と自分を納得させて受け入れるマリナ。
「しかし、まさか本校舎を爆破するとは思わなかった」
「いえ、それは別の集団の仕業です!」
「別の集団だと? 一体どこが―――「「「灰被りて我らあり!」」」 これは……『ルビコン解放戦線』かッ!」
マリナは本校舎を攻撃してきた集団の正体を察して苦虫を嚙み潰したような表情をする。
「突撃だ!」
「はい?」
「チェリノ会長の方はいくら数がいようと、時間がたっぷりあったわけではない。指揮系統も何もない急ごしらえの寄せ集めにすぎないはず! 『ルビコン解放戦線』のほうも、所詮は唯のゲリラに過ぎない! 先手必勝! 突撃して両方の勢いを殺せれば正気を掴めるはずだ!」
マリナはそう言い放つと勢いよく執務室から飛び出して声を張る。
「マリナ親衛隊、突撃だ! あの無法者どもを蹴散らすぞ!」
「「「Уллаааааааа」」」
マリナは親衛隊たちの戦闘に立ち突撃を敢行した。
「親衛隊が出てきたぞ、やれー!」
「工務部の連中も、親衛隊も全て蹴散らせ! ルビコンの戦士たちよ!」
「消えろブルジョワども!」
三つ巴が衝突し、乱戦となる。レッドウィンター連邦学園の中央市街は混沌に包まれた。あちこちで銃声、怒声、悲鳴が響き渡る。
「先生! 工務部の連中は使えないぞ! こっちの話も指示も聞きやしない!」
『あ、あはは。本当に元気だね。仕方がないから私たちは私たちだけで動こう。前衛にハルミ、グラン。中衛にチェリノ、シグレ。後衛にノドカ、トモエ、モミジで。ハルミとグランがメインアタッカー、チェリノ、シグレはアタッカーの援護で、アタッカーがさばききれない数の敵が殺到しないようにお願い。ノドカは望遠鏡を使ってトモエのスポッターを。モミジはロケットランチャーで大型兵器を狙って』
それぞれが先生の指示のもとに行動を開始する。グランがショットガンを連射してルビコン解放戦線も親衛隊も蹴散らしていく。その隣でハルミもライフルで多くの生徒を倒していく。因みにその殲滅スピードはグランよりもはるかに速い。ハルミはルビコン解放戦線の生徒を倒しながら、グランに話しかける。
「大丈夫ですか、代表。顔色が優れないようですが?」
「ん? いや、今の俺は『シャーレの部長』としてここにいるから仕方がないが、解放戦線を相手にすると少し罪悪感がな……」
「そうでしたか……。っ!? 代表!!」
「ああ!」
ハルミが何かに気が付いてグランに声をかける。グランはそのこえの意図に気が付いてその場から飛びのく。すると先ほどまでグランがいた場所に鎖鎌が刺さる。
「く、鎖鎌?」
「あれはルビコン解放戦線の……」
「信義により立つ関係の裏切り 万死に値する」
グランが鎖鎌の跳んできた方向をみると、電柱の上に佇んで腕組みをしている忍者のような恰好のよくわからん色黒の生徒がいた。
「三途の渡しの六文銭 しかと受け取れい!」
ショートバレルショットガンを右手に、鎖鎌を左手に追って飛び掛かってくる生徒。再び投げつけられた鎖鎌を華麗に蹴りではじき返すハルミ。
「任せても良いかハルミ?」
「お任せください。必ず勝利を……」
「よし。先生! 手練れが出てきた、ハルミが相手するから少し侵攻スピードは落ちるぞ!」
『わかった。シグレ、グランほどじゃなくていいけど、少し前衛目で』
「はーい」
シグレが少し前進してグランの援護に回る。シグレのグレネードで姿勢が崩れた相手をショットガンや蹴りをくらわすことで数を減らすグラン。トモエやチェリノの攻撃もあり着実に生徒たちを制圧していく。すると特に戦闘が激しい場所についた。
「銃弾など怖くない!」
「ここからは力戦になる!」
そこではマリナとフラットウェルが戦っていた。それを建物の陰から観察するグラン。
「先生、親衛隊のリーダー『池倉マリナ』とルビコン解放戦線リーダー『ミドル・フラットウェル』を発見した。池倉はサブマシンガンでの突撃を繰り返しているが、練度がすさまじい。シンプルな戦術故の力強さを押し付けてるな。フラットウェルは回避重視で隙を見てバーストマシンガンで削っているな。地道だが堅実だ」
二人の戦いを見ながらそう感想を述べるグラン。どう攻め込んだものかと考えているグランの隣にチェリノがやってくる。
「あとは我らレッドウィンターの生徒に任せてくれないかカムラッドにシャーレの部長よ」
『チェリノ?』
「ほう」
「トモエ!」
「はい、書記長。227号、知識解放戦線、全員そろっております」
「そうか……では! 諸君、戦列を整えろ!」
チェリノの言葉にこれまでにチェリノが説得してきた生徒たちが整列する。そして戦闘の中に突っ込んでいった。横から突如として現れたチェリノ達に浮足立つ二人。そこからはチェリノが指揮を執りマリナやフラットウェルを相手取っていた。
「おおー。流石のレッドウィンターの統制攻撃、凄まじいな」
『うん。私の指揮はいらなかったかもしれないね。でもチェリノちゃんもしっかり指揮取れてるし、今回のことで生徒会長としての自覚が出来ればいいんだけど……』
「一応、大雑把なことはキッド1から聞いているが今回は何があったんだ先生?」
『ああ……、色々あったんだよ。本当に……』
そんな光景を見ながらグランは先生にこのレッドウィンターであった出来事について詳しく聞くことにした。途中から忍者を撃退したハルミも混ざりレッドウィンターでの思い出話に花を咲かせるのだった。
後日、チェリノは親衛隊とルビコン解放戦線を退けて再び生徒会長の座についた。そして『イワン・クパーラ』を開催したが、生徒会長の座に戻った際に実行すると約束していたことをなぁなぁにしてため、祭りの最中に再びクーデターを起こされたらしい。
◎・ブラックマーケット 『塔』・
ハルミは『塔』の廊下を歩いていた。グランからキッド全員に対して執務室への招集があったからだ。
(一体何の招集だろうか……)
朝一でキッド達に届いた招集命令、今までもキッドが朝一で呼び出されることはあったが、それは各部門で何か問題が起きたときにグランから直々に状況報告を求められたときぐらいだ。こうして全員が一度に呼び出されるときは大抵大きく組織が動く時だ。期待半分、不安半分で執務室への廊下を歩くハルミ。ブラックマーケット行政区の天気はハルミの不安を現すかのように黒い雲が空を覆いつくしていた。
グランの執務室の前に到着するハルミ。部屋に入る前に一度身だしなみを確認してノックをする。グランから入室の許可を得た後部屋の中に入るハルミ。部屋を見回せば既に他のキッド達は到着しており、グランの前に跪いていた。
「申し訳ございません、遅れました。」
「いや、いい」
急いで、しかし見苦しくないように細心の注意を払った速足でキッド2、ムイの隣に跪く。グランは遅れたことを本当に気にしていないようで椅子に深く座りながらそうこぼす。
「さて、それでは始めようか。顔を上げろ」
その言葉で、キッド達は顔を上げてグランの言葉に耳を傾ける。
「本題の前にキッド1、先生はどうだった? お前から見ても厄介か? 俺たちの『敵』に先生はなり得るか?」
「「「「っ!?」」」」
その一言にキッド達はグランがなぜ自分たちを呼んだのかを理解した。理解してしまったからこそ、キッド達の反応はそれぞれだった。ハルミは唇を噛んで、答えずらそうにして、ムイは目を輝かせワクワクして、アムは『遂に来てしまったのか……』と若干呆れを含んだ笑みを浮かべ、フセは今にも泣きそうに眼を涙をためている。
「せ、先生は……」
ハルミは上手く声が出なかった。頭では真実を話すべきだと分かっている、他の誰でもないグランからの命令なのだ忠実に実行すべきなのだ。しかし自分の女としての感情がそれを否定している。ここで真実を話すことはそれだけこの後のグランの人生に影響を及ぼす。声が出なくて困っているとグランがいつの間にかデスクから離れており跪いているハルミの前まで来ていた。
「"ハルミ"」
「ぐ、グラン様?」
「どんな結末をむかえようと、それはお前のせいじゃないよ、ハルミ。例え罪を犯したとしても、許されないことをしたとしても、お前たちが責任を負うことはないんだ。いついかなる時であっても、お前たちをここまで連れてきた俺が背負うべきことだから」
グランは周りのキッド達一人ひとりの眼を見ながらそう言った。その言葉を聞いたハルミは泣き出しそうになり、ムイは嗤って、アムは更に呆れたようで溜息を隠そうともしない、フセは泣き出してしまった。そしてハルミはいを決して口にする、グランのこれからを決める言葉を。
「先生は我々の『敵』になれます。そして我々を必ず打倒できるでしょう」
その言葉を聞いたグランは笑みを浮かべる。そしてハルミの言葉を噛み締めるように何度も何度もうなずく。天気が荒れだしたのだろう、窓に打ち付けられた大粒の雨が大きな音を立て、稲光が空を走る。
「そうか、それではOperation:Salvation in the desertを進めよう」
窓を背に稲光で照らされたグランの笑顔はとても歪んでいた。
レッドウィンター中央市街戦闘後、破壊されたUNACの頭部カメラが僅かに明滅する。
『UNAC 戦闘データ送信 本部にて蓄積開始』
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