シャーレの部長はブラックマーケットの代表   作:四脚好き

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70話

◎・シャーレ オフィス・

 

 山海経で一夜を明かした次の日。グランは朝一でブラックマーケットに帰り自身の溜まった政務をかたずけた。連休明けにも関わらず大して仕事が無かった、部下の優秀さとありがたさを噛み締めつつ決済などを澄まして、有澤を呼びつけ叱りつつ改造した兵装の具合を聞いたりしていた。

 そして数日振りにシャーレを訪れたグランを迎えたのは書類の山と格闘しつつ大分キマッた目で当番の生徒の足を舐めようと随分器用なことをしている先生と、その先生の顔を必死に押さえつけている当番のイオリだった。

 

「……二時間ぐらい外回りでもしてようか?」

「そんなことはしなくていい! 早く先生を止めてくれ代表!!」

 

 イオリと先生が交じり合っている(語弊)のを見て外に出ていこうか? と提案し踵を返すグラン。その背中にイオリの必死過ぎる声がかけられる。その声を聞いた後グランは首を竦めながら先生のほうに歩いて行き、その襟をつかんでイオリから引きはがす。

 

「先生、何徹目だ」

「四日!」

 

 ハイテンションでにっこりと笑いながら答える先生。はぁ、と一つ溜息をついて先生をオフィスの隣にある仮眠室まで引きずっていく。

 

「仕事はしておく、先生は少しでも寝ろ」

「いや、でもほら! まだまだ元気だよ!」

「気絶させられたいか?」

「少し寝させていただきます」

 

 言い訳を始める先生を軽く殺気を出しながら睨むことで黙らすグラン。先生はすごすごと仮眠室に向かっていった。その背中が見えなくなるまでイオリは警戒を緩めなかった。そして先生が消えた後、二人して深く息をついた。

 

「なんか……お疲れ様」

「あぁ、もうまったくだ! 何なんだあのヘンタイは! 本当に先生なのか!」

 

 グランが慰めるように若干哀れみを含んだ目でイオリを見る。先生に散々舐められそうになったことと、グランに向けられた目線のせいでイオリが怒り出す。イオリの口からは先生に愚痴が次から次へと溢れてくる。そのなかでグランが気になったのは『先生がブラックマーケットでイオリの卒アルを買った』という一件だった。

 

「そんなに気に入らなかったなら、何故先生から卒アルを没収しなかったんだ?」

「うっ! そ、それは……。その……」

 

 途端に黙り込むイオリ。その顔は赤く染まり、尻尾が左右にユラユラと揺れていた。そのイオリの様子を見たグランは納得いったようで目を細める。

 

「結局、『嫌よ嫌よも好きのうち』というわけか……」

「なっ! 誰が先生のことなんか!「嫌いなのか?」……嫌いではない」

 

 俯いてしまうイオリ。そんな様子をたいして味の感じないコーヒーを啜りながら横目で眺めるグラン。

 最近グランは味のしない飲食をこうして他人の話を肴として食うことにしていた。味による楽しみが無いのだ、それ以外の楽しみを見つけなければ食事なんて苦痛でしかない。

 

「それで他にはどんなことがあった?」

「なんか……代表、愉しんでないか?」

「……部員のストレス発散に付き合うのも部長の務めだからな。個人的趣向とは別の話さ」

「ホントに?」

「ホントだとも」

 

 無言のまま見つめ合う……というよりにらみ合うような二人。そんな無言が続いた空間に突如ピコン、という間抜けた音が響いた。二人して音の方を確認すると先生の机の上にある『シッテムの箱』が音源だった。

 

「先生、この端末忘れてったのか」

「あぁ、『シッテムの箱』か。まったく、お前も先生が仕事をし過ぎないように言っといてくれよ『アロナ』」

 

 先生の机まで行ってシッテムの箱を撫でるグラン。

 

「『アロナ』誰だそれ? もしかして代表、その端末に名前とかつけているのか?」

 

 若干グランから距離をとるイオリ。そんなイオリを見てか、少し苦笑しながら弁明するグラン。

 

「いやいや、そんなわけあるか。アロナ、っていうのはこの端末『シッテムの箱』のシステム管理AI……らしい」

「なんで疑問形なんだ?」

 

 イオリが隣までやってきてグランが撫でているシッテムの箱を覗き込む。

 

「"俺たちには決して見えないからだ。" 先生がシッテムの箱を触っている間はこの画面の中に映っているらしいんだが、全く見えない。先生が触っているとき後ろから覗き込んだが画面は真っ暗にしか見えなかった」

「それ、先生が適当に嘘言っているだけじゃないか?」

「残念だが、俺が真っ暗な画面を見ている間、先生はシッテムの箱を操作してその効果も確認している。俺の他の生徒にも全く見えないのも確認した。……いったい何なんだろうなこれ」

 

 そう言いながらグランはシッテムの箱を撫でるのを止め、デコピンの要領でシッテムの箱の角を弾いく。そうすると机の上をクルクルと回るシッテムの箱。

 

「ま、それは今どうでも良いか。恐らくメールか何かが届いた音だったはず、緊急で先生を起こすほどの物じゃない」

「そうなのか?」

「あぁ、だからさっさと仕事することにしよう。やりたいこともあるしな」

「やりたいこと?」

 

 グランの言葉に首を傾げるイオリ。それにグランは返事することなくわずかにほほ笑むだけだった。そしてさっさと自分の席に戻り仕事を開始するグラン。部長のグランが仕事を始めてしまったのでそれ以上追求することもできなくなりイオリも仕事に入ることになる。黙々と仕事をこなしていく二人、『敵を発見すると周囲が見えなくなる無鉄砲』と言われることもあるイオリだが頭の回転も速く、優秀な生徒だ。仕事はあっという間に片付いた。

 そしてグランがイオリを連れてきたのはシャーレビル内にある射撃場だ。

 

「お互いスナイパー、少しばかり腕前を競いたくてな」

「なるほど……。ゲヘナ風紀委員会の力を見せてやる」

 

 イオリが勝負に乗り気なのを確認してグランはルールの説明を始める。勝負内容は速さと正確さを競うもの。スタートするとヘルメット団を模したホログラムと市民を模したプログラムがランダムなタイミングで現れる、ヘルメット団を撃てば加点、市民を撃ってしまうと減点で点数を競い合うというものだった。

 

「それに加えて俺たちはスナイパー、的との距離は最長設定だ」

「了解した。……状態も良好、よし! 行ける!」

 

 イオリはクラックショットをグランはViper of Isisを構え、そしてカウントダウンが始まる。意識を研ぎ澄ませる二人、息を深く吸い込む。カウントダウンがゼロになる。

 

「「―――ッ!」」

 

 次々に現れるホログラムを撃ち抜いていく二人。遠距離であり、ホログラムが現れる時間も僅かでありながら二人は一体のホログラムも逃さない。そして……。

 

『シミュレーション終了 勝者 水戸グラン』

 

「だぁーっ! 負けたー!」

「……流石、ゲヘナ風紀委員会幹部だな。点数差ギリギリだ」

 

 イオリは負けたことがかなり悔しかったのか大きな声を上げている。グランは試合内容を振り返りながら冷や汗を流している。

 

「代表!? 仕事はもう無いはずだよな!」

「あぁ、確かに今日の分はもう終わっているな」

「じゃあ、今日は帰りの時間までここで、訓練してる!」

 

 イオリは射撃場の設定をいじり、訓練を始めるイオリ。その様子を見て困ったような笑顔を浮かべるグラン。

 

「俺は上に戻っているから、使った弾丸の数は台帳に記入してくれよ」

 

 グランはそう言いながら射撃場をあとにする。そしてシャーレオフィスに向かう。その道すがらグランは独り言を喋り出す。

 

「……ギリギリな点数差か。昔の俺なら三桁の点数差を付けられただろうに」

 

 歩きながら自分の両手を開けたり閉じたりする。

 

「衰えたな俺も」

 

 グランはオフィス内に入る前に自分の顔を軽く叩いて気持ちを入れ替える。そしてドアを開けてオフィスに入ると先生がシッテムの箱をもっているのが目に入る。

 

「先生、もういいのか?」

「うん、しっかり仮眠取れたよ。お仕事ありがとね。イオリは?」

「射撃場」

 

 自身の机に向かい外出の準備を始めるグラン。そして横目で先生を見ながら質問をする。

 

「それで? 次はどこにいくんだ?」

「ヴぇっ!? わ、分かる?」

「先生がシッテムの箱を見ているときはだいたい新しい仕事が舞い込んでくるときだからな」

 

 グランがそう言うと、先生は『たはは』と笑いながら頭を掻く。そして先生も外出の準備を始める。上着を羽織りながら先生が目的地を告げる。

 

「今度の目的地はミレニアムサイエンススクールだよ」

 




 ハッピーバースデー、グランくん! 君に『衰え』をプレゼントだ! 
 私の描写下手のせいで分かりづらいかもですが、グランくんは作中を通してドンドン弱体化して行ってます。いまでも魑魅一座などに苦戦するのです、これからドンドングランくんには惨めになってもらいましょうね……。大丈夫、対価は必要だけどすぐそばに 絶対的な力(オーバードウェポン)があるからね。

 皆さんもグランくんに色々プレゼントしてあげてくださいね! (露骨な感想稼ぎ)

 私? 私は『衰え』の他にもホシノASMRをプレゼントしようと思います。ただし、代表くん』呼びですが。
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