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普段であれば静寂と気品にあふれた雰囲気の漂うトリニティの商店街。しかし今日はいつもと違い、銃声と硝煙の香りに満ちていた。
「グラン先輩! 奥の赤い自動車の裏、RL持ちです! 援護お願いします!」
『了解……。ほい、前進どうぞ』
「ありがとうございます! 皆さん警戒しつつ注意を怠らないように……突撃!!」
男は無線機から聞こえてきた言葉を便りにスコープを覗き込んで目標を撃ち抜く。ロケットランチャーを持った不良は男の狙撃を受けて倒れこむ。その隙に後輩で現在の自警団のエース、守月スズミが閃光弾片手に不良たちに突っ込んでいく。
その光景を商店街の建物の上から眺めつつ、もう大丈夫だと判断した男は銃を構えるのを止める。
「正直、ずっと眺めてるとこっちまで閃光で目がやられるしね」
一応、万が一があってもすぐ対応できるように警戒しつつ屋根に座り込む男、
「スズミも十分実力者だし、1年にも期待のレイサがいる。そろそろ俺も引退して、好き勝手しようかね……」
眼下のトリニティの街並みを暗い目で見下ろしながらグランはそう呟く。グランは一応トリニティ自警団に所属している物の正直なことを言ってしまえばどうにもこうにもこの街を好きになり切れなかった。
グランの両親は金を稼ぐことだけに執着していた。そんな二人がした出世の為だけの結婚、円満な夫婦を演じる為だけに作られた子供、それがグランだった。そんな子供の役割は『ウチにも同じくらいの子供がいるんです』と仕事上の付き合いでトリニティの名家への挨拶周りの際に両親と名家の間の交流のきっかけになる事だけだった。
「色々な家に行ったよなぁ……。ほとんど顔も覚えてないし、あだ名呼びだったから本名なんて知らんけど。……今何してるんだろう」
子供同士の交流なんて最初だけ、数回会えばあとは大人のどうしで仕事の会話。必然的に子供を連れていくことは無くなり、グランと各名家の令嬢たちとの交流は無くなっていった。
「ナギちゃんとミーちゃん……それからサクちゃん、アケミちゃん。ふふふ、"みんな"『おっきく成ったら結婚しよう』なんて言ってたっけ……。本当、今、どこで何してるんだろう」
そこまで考えたときにふと自身の左手が僅かに震えていることに気が付く。グランはそれを見て一瞬冷や汗が噴き出るが深呼吸をしてどうにか落ち着きを取り戻し、胸ポケットから小さな小瓶を取り出す。
「ふ、ふふふ、まるで私を忘れるなとでも言いたげなタイミングだね……。ミネちゃん」
救護騎士団の医務室から
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色とりどりの花々が咲き誇る庭園にあるガゼボの中で二人の子供がいた。水色の髪の子は熱心に本を読んでいて、もう一人の黒髪の少年は退屈そうに足を揺らしている。
「ね~、ミネちゃん。本ばっかり読んでないで遊ぼうよ~」
「いえ、そういうわけにもいきません。わたしは将来多くの人を救いたいのです。その為にも勉強は欠かせません」
黒髪の少年は水色髪の少女を遊びに誘うが水色髪の少女はそれをきっぱりと断り、再び本に集中する。構ってくれない水色髪の少女に黒髪の少年は頬を膨らませる。それもそのはず、少年にとってこの時間は普段両親に遊んでもらえない彼が唯一遊び相手を得られる時間なのだ。そんな希少な時間と遊び相手だ、少年は少しでも多くの時間を遊んですごしたい。しかし目の前の水色髪の少女は少年の相手をせずに一心に手元の本に集中している。
どうにかこうにか遊んで欲しい少年は目の前の少女を本から引きはがすにはどうすればいいのかを考える。そして少しして何かを思いついたのか明るい顔になる。
「そうだ! それじゃあ、僕がみんなを守れるようになる! そうすれば怪我をする人がいなくなるからミネちゃんが『救護』する必要がなくなるよ!」
「……怪我をする人が少なくなるのは良い事ですが、それでも病気などで救護は必要になります。だから私が歩みを止めることはありません。『必要な方に必要な救護を』……私は自分の信念を曲げません」
「それでも少しは時間の余裕ができるでしょ! 僕、その分ミネちゃんと一緒にいたい!」
「もう、そこまで私と遊びたいんですか、グランくん」
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「随分、懐かしいユメを見ましたね……」
時刻は深夜を回った頃、救護騎士団団長、蒼森ミネは寝苦しさを覚えて目を覚ました。辺りを見回せば救護騎士団の本部の一室だった。どうやら救護活動のあと、活動で消費した数々の備品についてや『ヨハネ分派』の首長として処理をしなくてはいけない書類の相手をしていた。その内に、机に突っ伏して寝落ちしてしまっていたらしい。
「……ん? っ! これはっ!!」」
ふと机の上にある携帯に目が留まる。グランからの着信が何件か深夜帯に来ていた。すぐに嫌な予感がミネの脳裏をよぎる。携帯をとってグランに電話をかける。それと同時に医療バッグを手に取って部屋を飛び出す。目指すのはグランの自室。
「まにあって……出てください、グランっ!」
『……』
「グランっ! いまどこですか、自室にいますか!?」
『っ……よォ、ミネちゃん……。っは、ごめん……はっ、はっ、またやっちゃた……』
「分かってます。大丈夫です、私が助けます。今どこにいますか!?」
『部屋……』
「そこにいてください!」
ミネはグランの部屋の前まで走った。そして手早く合鍵でドアを開けて靴を脱ぐことも忘れ、部屋に駆け込む。ミネの視界に入ってきたのはベッドの上で胸を押さえて荒い呼吸を繰り返し、ヘイローが明滅しているグランの姿だった。
「……み、ミネちゃん……」
「動かないで『救護』を開始します」
素早くグランに近寄って状態を確認する。首元に手を当て脈を図り、サイドテーブルに散らかった薬瓶を見て成分を確認する。
「呼吸困難、発汗に瞳孔の開いた目、興奮状態……典型的なオーバードーズの症状ですね。グラン、あなたまた勝手に薬を持ち出しましたね」
「あ、あはは! はーっ、はーっ、もうさ、わっかんないよねぇ! めのまえキラキラして、すっごいの! ゲホッ、ケホ。ねぇ、ミネちゃん、チューしていい? いや、するね!」
「ちょ! 待ってください! 今は治療が先で、嫌! グラン落ち着いて!」
首元に当てられていたミネの手を取り強引にベッドの中に引きずり込み、押し倒すグラン。浅い呼吸をくり返し、異常な興奮状態のグランをどうにか落ち着かせようと抵抗するミネだったがその手はグランによって乱暴に拘束される。
「はぁーっ、本当に綺麗になったね、ミネちゃん。大好きィっ!」
「い、痛いです、グラン! 離してッ、ん! んむぅぅ!!」
強引に唇を合わせるグラン。抵抗するミネに無理矢理の形でしたため、稀に歯ががちがちと辺り、グランに握られた手首と合わせての苦痛に顔を歪めるミネ。しかし今のグランにはその痛覚すらエッセンスとなり得るのか暫くの間、強引な口付けは続いた。
「あっは……見てよ、ミネ。俺今、すっごく、幸せ! まだまだできそう……だ…よ、ミネ?」
グランが満面の笑みを見せつけてやろうと、ミネの顔を覗き込むとミネは涙を流していた。その光景を見て固まるグラン。
「ぐすっ……いやです、嫌です、こんなの……。せめて、優しく、優しくしてよ、"グランくん"」
その呼び方は幼き頃のもので、今でもたまにミネがグランに甘えてくるときの呼び名で、ミネが本気で参ってるときの呼び方だった。
「あ、あ、あああぁぁぁ! ごめん、ごめんミネちゃん! 俺は、僕はッ! うううぅぅぅ゛゛゛」
ミネの身体から離れ、ベッドから落ちる。そのあと部屋の隅に行き両手で頭を抱えて、己の身体を掻きむしり、唸りはじめたグラン。髪は乱れ、肌は爪で傷がつく。
「……グランくん」
「ごめん、ごめん。僕、分かってるのに。わかってるのに! またこんな事して、そのたびにミネちゃんに迷惑かけてェ!」
ミネはベッドから降りてゆっくりとグランに歩み寄り、その身体をそっと抱きしめる。
「……ミネちゃん」
「大丈夫です。『必要な方に必要な救護を』貴方も勿論例外ではありません」
ミネはグランの身体を抱き上げベッドに横たえる。そして肌の傷を治療する。そして治療が終わるとグランの身体を抱きしめる。この年来の男子としては異常に細く、二の腕などはミネが掴めば指がくっついてしまうのではと思う位のか細い身体を。
あの頃の純真だった黒髪の少年にとってトリニティの派閥政治は耐え切れなかった。正義実現委員会に所属しても常に派閥の影がちらつき、政治的意図のせいで助けられなかったり、見て見ぬふりをした生徒がいたこともあった。それはドンドン少年の心を蝕んでいき、ついには決壊させた。少年は正義実現委員会を脱退し、いつのまにか薬に身を堕としてしまった。自分の幼馴染がドンドン壊れていったことが決定的になるまで気が付けなかったミネは後悔し、己を恥じた。最初は償いの意味も込めてグランをミネは受け入れた。もしかしたらいつの日かあの優しい幼馴染に戻ってくれるかもと信じて。だからこそ……
「大丈夫です。私はいつまでも貴女と一緒にいますから……」
ミネはこの愛しく哀れな恋人を捨てられないのだ。
・トリニティグラン
両親がアビドスではなく、トリニティで仕事をしていた場合のグラン君。他の世界線のグラン君たちとは違って『名家と共通の話題作りの為』という明確な目的をもって両親が作ったグラン君。たしかにネグレクト気味ではあるが他の世界線と違って最低限の交流があるため、家族仲は一番良いグラン君。その影響もあるのかグランの両親も一番成功している世界線でもある。
幼い頃に両親に連れられトリニティの名家に対する挨拶回りをさせられたため、各家の令嬢たちとつながりがあった。グラン本人は小さい頃の記憶として思い出化しているし、相手の顔も覚えていない。
"なお、相手側はしっかりと『約束含めて』覚えている模様"
武力面では各世界線のグラン君の中では正義実現委員会副委員長であったこともありかなり上位。かつては近距離のツルギに遠距離のグランと恐れられていた。ミネの影響もあり、人を救うことを目標としていたが理想と現実のギャップに苦しみ、副委員長の座をハスミに譲り正義実現委員会を辞める。
それからしばらくの間心神喪失のような状態であったが幼馴染のミネが支えてくれたことでどうにか復活。自身を献身的に支えてくれる綺麗になった幼馴染にグランはぞっこん。彼から告白して晴れて恋人同士になった。
以降、自警団に身を寄せ、自分の思う『正義』の為に活動に没頭するも怪我した時に打った鎮痛剤の魔力に取りつかれてしまう。恵まれた環境で育ったせいか精神面では一番弱いグラン君かもしれない。そして一番女に刺されるであろうグラン君もこのトリニティグランである。
・蒼森ミネ
『救護ォ!』の人。『舞い降りる盾』トリニティの名家の一つであり、『ヨハネ分派』の首長でもある。幼い頃からグランとの付き合いがあり、他の令嬢たちと違い関係が続いた要因は幼い頃から医学について勉強していたため、グランの体躯が本来の男子の適正体型よりも細く、小さい事に気が付いたから。守る、救護する。形は違えど人を救いたいという願いは一緒、ともに夢に向かって進んでいこうとしたら幼馴染がいつの間にか政治闘争ですり潰されていた。本来グランのことは大、大、大好きだが、最近は罪悪感の方が大きくなり始めてきてしまった。
・トリニティの令嬢たち。
ナギちゃん……桐藤ナギサ
ミーちゃん……聖園ミカ
サクちゃん……歌住サクラコ
アケミちゃん……栗浜アケミ
アケミが名家出身はオリジナル設定です。
各世界線、グラン君戦闘力比較。
ゲヘナグラン>アリウスグラン(未登場)=ミレニアムグラン>トリニティグラン>SRTグラン(未登場)>便利屋グラン(未登場)>百鬼グラン(未登場)>山海グラン(未登場)>ヴァルグラン(未登場)>>>>本編グラン>ハイランダーグラン(未登場)>レッドウィンターグラン>>>アビドス残留グラン(未登場)
いつか考えているイベント回グランが若返ります。1年や幼児は体の年齢。記憶は頭の中身、なしだとその体の当時の記憶しかない。ケガは主に四肢欠損のありなし。
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一年、記憶あり、ケガあり
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一年、記憶なし、ケガあり
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一年、記憶あり、ケガなし
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一年、記憶なし、ケガなし
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幼児、記憶あり、ケガあり
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幼児、記憶なし、ケガあり
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幼児、記憶あり、ケガなし
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幼児、記憶なし、ケガなし