◎・エンジニア部 部室・
「……素晴らしい」
「くっ、悔しい……ですが、これが結果ですね。アリス、その『光の剣』はあらためて、あなたの物です!」
「それを使いこなせるなんて、本当にすごいね……」
光の剣の攻撃はUNACだけでなく、エンジニア部の面々も吹き飛ばしていたらしい。ウタハ、コトリ、ヒビキが仰向けに倒れながら感嘆の声を上げている。
「わぁ、わぁっ……!」
「ふぅ、とりあえず良かった」
エンジニア部からの言葉を聞いたアリスは光の剣を手に入れたのが嬉しいのか少し前に見たことあるキャラクターみたいな声を上げている。
「おいで、アリス。もう少し使い方を教えて上げる。それから、取っ手の部分をもう少し補強しようか」
ヒビキが立ち上がってアリスの傍により少しばかり光の剣の加工を始めている。俺の方には先生とウタハがやってくる。
「グラン、大丈夫!?」
「君があの攻撃を避け損なうとは思わなかった、無事かい?」
先生が手を伸ばして立ち上がるのを手伝ってくれる。ウタハはこちらを心配しながら義足を慣れた手つきで外した。
「先生、そのままグランを支えながらあっちのベンチまで運んでくれるかい?」
「うん、分かった。ゆっくり運ぶからねグラン」
「あ、ありがとう……ございます」
何だろう。先生も案外体力あるよな。足の方は外しているとは言え義肢もそれなりに重量があるはずなのによく俺を支えられるな。そうしてベンチに腰掛ける。
「先生、どうもありがとう。あとはウタハに任せるからアリスの方に行ってあげていてくれ」
俺がそういうと先生は少し心配そうに俺の顔を覗き込む。
「本当に大丈夫? 何かあるなら直ぐに言ってね」
「ああ、分かった」
そう言うと先生は素直に俺の所から離れていきアリスたちの方に向かった。それと入れ替わるようにウタハが寄ってくる。そして座っている俺に義足を付けてくれてる。
「義足の方に異常はなかったよ」
「つまり問題があるのは……」
「グランの身体のほう、だね」
まぁ、そうだよなぁ……。ミレニアム製でウタハが俺の為に作ってくれた義足だ。そう簡単に壊れるはずがない。
「正直に教えてくれ、最近『OVERED WEAPON』を使ったかい?」
ウタハが俺の肩を掴んで真剣な表情で見つめてくる。
「ヘイローの消失は私たちの生命の消失を意味する。つまり私たちの生命とヘイローは深く結びついている。そしてOVERED WEAPONはヘイローをハッキングするという代物だ。そんなものを使って身体に影響が出ないはずがない、私は開発初期からそう言って反対していたはずだ」
そこまで一気に言ってウタハはこちらの肩を更に強く握りこむ。少し、痛い。
「さて、もう一度問おうか。グラン、君は最近『OVERED WEAPON』を使ったかい?」
「あぁ、使った」
「……」
俺がそう言い切るとウタハは悲しそうな表情をして下を向いてしまう。よく見れば俺の肩を握る手と肩が震えている。……参ったな、思ったより落ち込ませてしまった……。何か明るい話題を……あ。
「右足がダメになったらそっちの義足も作ってくれよ。ウタハが作ってくれた義足が一番馴染むんだ」
「ッ! ……あぁ。だけどそうならないことを祈っておくよ」
そう言うとウタハは一度俺から離れていく。右足は……うん。大分感覚が戻ってきた。それにしてもまさか戦闘中に急に感覚が無くなるとはな。これからも続くようだったら戦闘行動に問題が起きるし、いっそ事前に自分で切り落としておくか? まぁ、それは今は置いておくとして。
「ウタハ……アリスをどう見る?」
「……可愛い後輩じゃないか」
感覚が戻ってきた足を動かしてウタハに声かけながら立ち上がる。ウタハは近くの散乱した瓦礫を軽く整理しながらすっとぼける。
「そうじゃない。気が付いているんだろう?」
「……最低でも1トン以上の握力、発射時にもブレない安定した体幹バランス、強度や出力はもちろん、肌全体に傷すら見当たらない綺麗な肉体……いや、機体。つまり最初から厳しい環境での活動を想定し、ナノマシンによって『自己修復』することを前提として作られた体……。その目的はきっと……『戦闘』、だね」
ウタハはそう結論付けて、ゲーム部と先生と話して笑っているアリスの方を見る。
「彼女は一体?」
「それは俺も聞きたいな。専門家のお前ならと思ったがお前でもダメか」
アリスに武器を与えるのも目的だったが、俺としてはウタハにアリスを見せることでその正体を探ることの方が目的だった。だからこそモモイの言い出したエンジニア部訪問に賛成したんだ。結果は無意味だったがな。
ウタハと話しているとアリスが光の剣を抱えてポテポテと歩いて近づいてくる。その様子は大変可愛らしいのだが、抱えている光の剣のデカさとゴツさのせいかかなりの圧を感じる。
「お兄様! やりました! アリスは光の剣を入手しました!」
あぁ、やっぱり聞き間違いじゃなかったか。光の剣を掲げて喜ぶアリス。おぉう、アリスの力からすれば問題はないんだろうが見ていて不安になる光景だ。
「良かったなアリス。……ところでその『お兄様』というのは?」
「そうだよ、アリス! ずっと気になってた!」
「別に言わされているわけじゃないんだよね、アリスちゃん?」
「おい、俺をなんだと思っている」
ミドリに思わずデコピンをくらわす。そうしている間にアリスは光の剣を背負い直して、手を上げて説明しだす。
「はい。グランはアリスにとって近くにいて安心する年上の男性です。このような存在を『兄』と呼ぶとアリスはゲームで学習しました」
あぁ……それで。しかし、俺が『兄』ねぇ……? 俺はそんな大層な人間じゃないんだけどなぁ。俺がそう考えていると、ふと服が引っ張られる。
「ダメ……ですか?」
アリスが不安そうな表情でこちらを見上げながら俺の服をつまんでいた。
瞬間、俺の脳裏に今までアリスと共に過ごしてきた記憶が駆け巡った。あぁ、なんで忘れて居たんだろう、アリスはずっと俺の妹だったじゃないか。いくつもの思い出が湧き出てくる。晴れた日は手を繋いで一緒に公園に行ったな。アリスは元気いっぱいで力いっぱい遊ぶから俺はついて行くのが精一杯でな。そんで疲れたら少し離れた場所でこっちを見て笑っているお父さんとお母さんの所まで行ってみんなで作ったサンドイッチを食べるんだ。二人でサンドイッチのできを競ったり、自分の好きなものだけを詰め込んだりでとても楽しかった。俺が進学で一人暮らしするっていったときアリスはずっと泣いて反対していたもんな。あの時は本当に困ったもんだ、日ごろから我儘ではあったけどあそこまで大暴れするとは思わなかった。最終的に月に三回は家に帰ることで決着したのも今ではなつかしい。あんな小さかったアリスがあのキヴォトス三大校の一つであるミレニアムに合格したときは俺も両親も両手を上げて喜んだ。その日の晩飯はアリスの好物がずらっと並んでいてとても豪華だったよな。アリスが遂に高校生かと俺も涙したもんだ……。
「別に……構わない。俺たちは兄妹なんだからな」
「! ありがとうございます、お兄様!」
俺が呼び方を認めるとアリスは嬉しそうに飛び跳ねる。そのたびにガションガションと光の剣が大きく揺れて心配になる。 ん? ウタハ?
「アリス、私の事を『お義姉ちゃん』と呼んでくれないか」
「? ウタハ先輩はウタハ先輩ですよ?」
「……っく、ダメか」
「いや、人の妹にナニ言わせようとしてるんだよ」
思わずウタハに突っ込みを入れる。
「いや、グランもナチュラルに兄になってるじゃん!」
「なっている……? もともと兄妹だが?」
先生も可笑しなことを言う。今までずっとアリスは一緒に居ただろう。
「ダメだ。グランがなんか変になってる」
先生はそう言って手のひらで顔を覆って上を見上げる。何か変なことを言ったか?
「こう言っちゃあれだけどグランとアリスの見た目が違いすぎるよ。一体どんな両親なのさ」
俺の両親? 俺の両親は……出世第一で……子供を道具として見て……いて……。あぁ、そんな両親からアリスは生まれないな。そうだな、アリスは俺の妹じゃなかったな。危なかった、脳内が存在しない記憶で溢れていた。
「あー、うん。そうだな。ありがとう先生、正気になったわ。アリスは別に妹じゃなかったわ」
「え……」
本来の両親のことを思い出したことをで一気に頭が冷えていくのを感じる。そうして思ったことを口に出せばアリスがショックを受けた顔をしている。
「あ、別に呼んじゃいけない訳じゃないからな。俺の事は好きに呼ぶと言い」
「! はい、お兄様!」
血がつながっていないとはいえこの歳で妹ができるとは思わなかった。ただアリスの嬉しそうな顔を見れば、まぁこういうことが在っても良いだろうと思えた。
先生……グランに家族関連の話はダメだって……。ま、先生は何も知らないから仕方がないけどね☆