フロム脳っぽいセリフを並べてる短編集 作:隣の家に晩飯凸する止まらないゴルシ
「どうして目を閉じているか?」
女はゆっくりとこちらを向いた。銀色の美しい髪がうっすらと光を反射している。
「ふふふ………それはね、こうやって始末してると肉が目に入っちゃうからさ」
男はそれを聞いてびくりと体を震わせた。女はそれを見て、さも満足したかのように続けた。「冗談さ」
「人間の脳というのは誰かが考えるよりも高性能。眼球が受け取った光を認識し、外界を確認できる」
女は鉈を振り下ろし、眼下の死体にとどめの一撃を繰り出した。
「脳は、外界を拒める。眼球が伝えた景色の中に、脳が拒絶するものがあれば脳はそれを認識せず、その後ろの景色を想像で補填してから映し出す」
「私はそれさ。五年前のあの日をまだ覚えてる」
鉈にこびりついた血と肉を振り払い、彼女は一息をついた。
「500回の連続射撃で熱くなった機関銃の銃身が私の眼を焼いた感覚をまだ覚えてる。あの日貴方を助ける代わりに失った代償は、まだ覚えてる」
「あぁ、責めてるわけじゃないの。気にしないで―――私はだから目を閉じてる。高性能な電子義眼を入れてしまっては、脳はもう何かを拒絶することができないから」
「すべての処理が、義眼単体で終わってしまうものね」
女は男の方を向き、男の頬に手を触れた。
「嫌なものを見たくないから目を閉じている―――だけれど、それで不便する事は殆ど無い……貴方の心音も聞こえる。あなたの温もりも感じられる。あなたを全身で感じられるなら、私は何もいらない」
彼女の手がゆっくりと、男の頬をつたって男の胸へと落ちてゆく。
「私は何もいらなかった。何もかも…………………だから、貴方も死んでしまった」
「私の愚かな選択によって、あなたは死んで、代わりに私が生きてる」
「神様がいるなら、多分もう死んでる。私が殺して、死んでいる」
男は何も答えない。男の瞳はただぼんやりと、優しく、穏やかに女を見つめていた。その後ろには、幾人の人間が立っている。
幾人もの人間が立っている。血と肉、汚泥と硝煙に汚れた狂戦士達が立っている。老若男女を問わず、何を求めるでもなく、ただ女を見ている。
その足元は暗い。暗い暗い、海の底のように。暗黒の海底、あるいは漆黒に塗られた戦場だ。
「――――許しは乞わない。ただ、見ていて欲しい」
「恨むがいい。憎悪を向けるがいい。私はそれでも生き残ってしまった。あの戦場から。あの場所から、お前たちを見捨てて。貴方を助けることもできずに」
「ただ、見ていてくれ。私と貴方の後ろ、そして足元に広がる屍を歩いて、私は全ての片をつける」
女の瞳の奥には炎が宿っていた。黒い感情が織り交ざった―――復讐の炎だ。
それは真実、その女にしか分からぬものであった。