推しの子 その瞳に映るのは   作:ノックスさん

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第一話

 私には愛が何なのか、わからなかった。

お母さんは盗みを働いて捕まった。育ててくれる人がお母さんしか、いなかった私は施設に入るしかなくて

施設で育ったんだ。

 

愛情が何か理解できない。

他人にどう接すれば、いいのか本当にわからなかった。

 

施設でどれだけ待っていても結局、お母さんは迎えに来ることはなかった。

 

 

そして気づいたんだ。

私は実の母親に捨てられたんだって。

 

「これが悲しいってことなんだね」

 

 施設の人からお母さんが釈放されたって言われた時はうれしかった。

また一緒に暮らせるんだって来る日も来る日も同じ場所で待ち続けたの。でも迎えに来ることはなくて私はいらない子だったんだって理解しちゃった。

 無意識の内に目から涙が溢れ、視界がぼやけて視界が歪んで見えた。

施設の人も私の背中を撫でてくれけど、その視線には憐みの感情が載せられているような気がする。

 

 それからかな、私は周りの目を気にして会話に嘘を織り交ぜるようになったのは。

人は誰もが本心を話している訳じゃないのがわかってきた。小さなころはわからなかったことも成長するにつれて少しずつ、少しずつ理解する。

 

「ずっと嘘をついて疲れない?」

 

 そんなとき、施設に一人の男の子がやってきた。

桃色に近い髪色をした同心円状の瞳を持つ特徴的な目をしている男の子。新しい子が施設に入ってきたのかと思ったけど、違ったみたい。

 

その子が私を見て呟いたのがその言葉だった。

 

「な、何を言ってるの?」

 

「無意識? 違うよね、君はわかってるはずだよ」

 

 ドクンっと心臓の鼓動が大きく聞こえた。

あの時から私は自然な笑顔、行動、立ち回りをしてみんなから不自然に思われたことはなかった。ある程度、付き合いが長くなった子には小さな違和感を感じられたことはあったけど……。

 

 初対面で私にこんな事を言ってきた男の子は初めてだった。

駄目だ、あの瞳に覗き込まれると私の内面が見透かされるような気する。

 

「初めて会ったんだよ? 私の何を知ってるの?」

 

「何も知らないけど、君の言葉からは違和感しか感じられないよ。本心をひたすら隠して演じようとしているような……」

 

「言い過ぎよ、奏君。初対面の女の子に何を言ってるの?」

 

 私がひた隠しにする内面を解き明かすように次々と紡がれる言葉を否定することはできなかった。

私は嘘で出来ているというのは嘘じゃない。愛を知らないから嘘という表現で周りから孤立しないようにしたし、合わせてきた。

 自分を否定されているようで涙が出そうになった。

その時、彼の母親らしき人が初対面の人にいう言葉じゃないと叱っていた。

 

「ごめんなさい、言い過ぎたよ。僕は牧野奏、自己紹介もしてなかったね」

 

「あ、うん。私は星野アイ」

 

「星野さん、ごめんなさいね」

 

「はい、大丈夫です」

 

 本当に親子なんだと思った。

しゃがんで私に視線を合わせて頭を撫でながら言う姿はお母さんっていうのはこんな感じなのかなと思ってしまう。

 私の知っているお母さんとは何もかもが違った。

 

「でも、奏君のいう事もわかる気がするわ」

 

 透き通るような声で彼の言葉に同意する言葉が耳に入る。

それで不意に視界が真っ白になって温かい感触に頭が包まれた。いきなりの事で頭が混乱したけど、落ち着いて周りを見ると私はこの人に抱きしめられているんだってわかった。

 

「寂しかったね、星野さん。今は自分に素直になってもいいのよ?」

 

「……っ」

 

「きっとこの出会いには意味がある。あなたの未来に幸福がありますように―」

 

 自分の感情を抑えきれなかった。

目から涙が溢れ、声を上げて泣いてしまった。周りの子達はどうしたんだとこっちをちらちらと見ているみたいだけど、気にする余裕はなかった。

 

 あぁ、これが母親が子供に向ける愛情なのかな。

どれくらい泣いただろう? きっと私の目は真っ赤になっているに違いないだろうなと思った。

 

「ご、ごめんなさい。洋服、汚しちゃった」

 

「ふふ、良いのよ。これくらいどうってことないわ」

 

「使っていいよ」

 

「え、ありがとう」

 

 涙で洋服を汚してしまったことを謝ったら微笑んで許してくれた。

そしたら奏君が私にハンカチを差し出し、これで涙を拭けと言ってくれているのが分かった。その時の私は本当の意味で自然に笑えていたんだと思う。

 

だって奏君も笑ってくれていたから。

 

 

これが私の始まり。

星野アイという人間の起源かな。

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