推しの子 その瞳に映るのは 作:ノックスさん
アイの出産日予定日まで残り僅か。
僕は歌手としての活動や俳優としての仕事もしっかりと取り組んでいく。大御所の歌手や映画監督、有名なテレビのプロデューサー達とのコネクションも構築も忘れない。
いざという時にこういった繋がりは必ず役に立つ。
「本日のスケジュールはこれにて終了。後はレコーディングを終えれば、しばらくは何の予定もありません」
「ありがとう、亜紀さん」
今日も無事に仕事を終えた僕はマネージャーの亜紀さんと今後のスケジュール確認を行っている。
残すは新曲のレコーディング作業か、これは室内で行う仕事だから気持ち的に少し安心した。歌う事だけに集中していればいいからね。
「私は私の出来ることをしているだけですよ?」
「それでも僕が不自由なく仕事もプライベートも過ごせているのは亜紀さんのおかげ。その事実は変わらない」
「ありがとうございます」
自分のできることをしているだけか。
その出来ることを完璧にこなして実績を残すことが簡単じゃないのは僕にもわかってる。本当に母さんはどこで亜紀さんの事を見つけたんだろう?
僕が生まれる前に何処かで見つけた?
でも、そうなると亜紀さんの年齢からして会った時は2,3歳って事になるけど……。
「私は真莉愛さんと初めて会ったとき、奏さんは産まれていませんでしたよ」
「もしかして、口に出てましたか?」
「いいえ、そう考えていると思いましたので」
これはもしかして読心術っていう高等技術なんじゃないのかな?
いや、でも僕も本質を見抜けるっていう点では頑張れば、相手の考えていることを読めたりするのか?
亜紀さんの言葉からやっぱり、2,3歳くらいの時に母さんに会ってることになる。
う~ん、わからないな。彼女の親が芸能界に居るって話は聞いたことがあるけど、それ繋がりで知り合ったという事でいいのかな。
「内緒です。女性には秘密が多いんですよ?」
何も言ってないんだけどなぁ。
亜紀さんは間違いなく読心術を使えてるよね、これは。自身の口元に人差し指を立てて、そういう姿は妙に様になっていた。
本当になんで専属マネージャーをしているんだろう。
僕としてはすごくありがたいし、感謝しかない。贅沢な願いを言うならこのまま専属マネージャーを続けてほしい限りだ。
◆
新曲のレコーディング作業を終えた僕はすぐに宮崎へと向かった。
伝えられていた出産予定日よりも少し早い到着になるけど、しばらく逢えていなかったからアイとゆっくりと過ごせると思うと不意に笑顔がこぼれた。
最寄りの駅からタクシーで彼女の居る病院まで向かう。
30分くらいで病院へと到着して、僕は彼女の居る部屋まで歩いて行った。何度か来ているから病院内で迷うことはなかった。
コンコンと病室のドアを叩いた。
「はーい!」
「入りますよ、アイ」
彼女の元気のいい返事を聞き、僕は扉を開いて中に入った。
そこにはベッドに背中を預けて前見た時よりもお腹が大きくなっているアイの姿がある。今で40週目、いつ産まれてきてもおかしくない状態だ。
「奏、こっちに来て」
「はい」
「ほら、あなた達のお父さんだよ」
私の傍に来てと僕を呼び、彼女のすぐ隣に移動する。
アイは大きくなったお腹を愛おしそうに撫でながら君達のお父さんが来てくれたとお腹にいる子供達に聞かせるように話す。
「触ってあげて? 奏が来たことを理解してるんじゃないかな。今もお腹を蹴って来るんだ」
「あ、ほんとうだ」
彼女のお腹に触れると確かに時折、動いて蹴っているような感覚がある。
まさか本当に僕が来たことを感じてる? それともアイの言っている言葉をなんとなくわかってるとか。胎教目的で僕も彼女と一緒に軽く歌を歌ったりした。
僕の場合は主にリラックスさせること目的にしたものだけど。
20週目の時点で一般的には聴覚も発達し始めるって聞いたから無駄ではないだ。
「もうすぐ会えるんだね?」
「うん、あと少しでこの子達に会える。その手で抱きしめてあげることが出来るんだよ」
僕の手に自分の手を重ねて一緒にお腹の子達を考えるアイ。
幸せの到達点の一つがすぐ掴めるところまで来ている。それは初めて会った時から動き出した運命だったのかもしれない。
「牧野君、星野さんには伝えてあるが自然分娩で出産することが出来そうです」
「本当ですか? それを聞いて安心しましたよ」
「だから言ったでしょ? 私達の子供なんだから何も問題ないってさ」
「はは、そうだね。雨宮先生、本当にありがとうございます。アイのために時間を割いてくれたと彼女から聞いてます」
これから生まれて来る子供たちをもうすぐ自分達の手で抱きしめることが出来る。
幸せな未来を想像して見つめ合っていると扉が開いてアイを担当してくれている雨宮先生が姿を現した。見つめ合う僕達の姿を見て何とも言えない表情をしているのがわかる。
一呼吸おいた後、改めて出産についての説明をしてくれた。
自然分娩で問題なく出産できるといわれ、安堵の息を吐いた。彼女の体にメスが入ることを想像するだけでも悲しくなるからだ。
「私は必ず星野さんを安全に出産させるとあの時に言いました。だから医師として当然のことです」
「それでもお礼を言わせてください」
「その言葉は彼女が無事に出産を終えてから改めて受け取ります。必ず安全に出産させる、それこそ今の私の本懐です」
「わかりました。では改めてその時にお礼を言わせていただきますね」
業界は違ってもこれがプロなんだなと改めて思う。
自分の受け持つ仕事は責任を持ってやり遂げることが第一か。本当にアイを担当してくれたのが、この先生でよかったな。
まぁ、今でも内心は複雑そうな感じがあるのは否めないけど。
そういうと先生は僕達に気を使ってくれたのか、必要な事だけ伝えて部屋を後にして出て行った。
「仕事の方は大丈夫なの?」
「問題ないよ。教えられた出産予定日からスケジュールも調整してもらって絶対にこの期間はオフにするって決めてたから」
「そっか。じゃあ、しばらくはずっと一緒に居られるんだよね?」
「もちろん、そのつもりで僕も来ましたから」
「ふふ、嬉しいな。やっぱり、奏が傍に居ないと寂しいよ」
仕事のスケジュールなどはアイには伝えていなかった。
自分の体と出産の事だけに集中して欲しかったし、余計な事を考えてほしくなかったからだ。第一声で僕の身を案じてくれているのはやっぱり嬉しいな。
しばらく一緒に過ごすことが出来るとわかるとアイも笑顔になった。
既に近くのホテルも抑えてあるし、時間が許す限りは病院で彼女と過ごすつもりだ。さすがに消灯時間になってしまうと僕もここには居られないだろうから。
「僕もアイが傍に居ないと寂しいな」
「一緒だね? 奏、もっと傍に来て」
無言で頷くとパイプ椅子をもっとベッドの方へと寄せた。
すると彼女は触れ合う距離まで接近するといつかと同じように僕の肩に頭を預け、僕と手を重ねる。アイは深呼吸するように大きく息を吸って吐く。
「あぁ、やっぱり落ち着くなぁ。こうしていると私は本当に奏のことが好きなんだって思う。心も体も温かくなるんだ」
「初めて僕に告白してくれた時を思い出しますね」
「そうだね、私も奏もあの時はこの気持ちが人を好きになった時に感じるものだって知らなかったもんね」
アイがそう感じているように僕も身も心も満たされているように感じた。
好きな人、いや愛している女性とこうして触れ合い過ごすこと。少し前の僕に言ってもきっと信じてもらえないかもしれない。
「誰かを好きになる気持ち、それは僕も知り得なかった。でもアイとの出会いが僕にその答えを与えてくれた」
「うん!」
「そしてその思いの結晶がここに居る」
その答えを得ることが出来たから今の僕とアイがある。
僕と重ねている手とは逆の手で彼女はお腹を大事そうに今も撫でている。もうすぐ、会える。
だからその時はこの言葉を贈らせてほしい。
産まれてきてくれてありがとうって。
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