推しの子 その瞳に映るのは 作:ノックスさん
奏の子供を無事に産んだ私は幸せの絶頂にいた。
奏が居て、私が居て、この子達も居る。愛を知らなかった私が愛を知って、母親になれた。改めて母親になったことへの実感が湧いて幸福感を感じてる。
「しばらくはゆっくり出来るんだね?」
「はい。マネージャーの亜紀さんがスケジュールを完璧に調整してくれてますから」
「真莉愛さんが紹介してくれた人だね」
静かな場所で奏達とゆっくり過ごすことが出来る。
都会と違ってここでの生活は体を癒すのに良かったんだと思う。本当なら先生にも私達の子供を見てもらいたかった。
でもあの日から先生は姿を消してどこにいるかわからない。
奏や佐藤社長に聞いても、こっちから連絡しても繋がらないって教えてくれなかった。何かを隠してる? でも意味なく奏がそんなことをしないのは私が一番知ってる。
だから彼の口からその事が語られるまで私は待つんだ。
「えぇ、母さんの紹介なので信頼してもらって大丈夫ですよ」
「もちろん、疑ってないんていないよ? でもマネージャーって事は奏と行動を共にしてるってことでしょ? 愛されてるってわかっても妬けちゃうなぁ」
もちろん奏が不貞を働くだなんて思わないよ。
でも、私以外の女の人と長い時間一緒に過ごしているという事実に嫉妬してしまう。奏は私のものだと体が無意識に彼の腕を胸に抱え込んだ。
それがわかってか、奏は笑って私の頭を撫でてくれた。
あぁ、やっぱり奏は私の気持ちもお見通しなんだね。体を更に押し付けるようにくっついて彼の温もりを感じる。
ドクンドクンって心臓の鼓動が高鳴る。
奏の胸に耳を当てると同じように鼓動が高鳴っていた。私を感じてくれているんだ――。
「僕が好きなのは後にも先にもアイだけですよ」
「うん、私も。きっと奏以外にはそんな人は出来ないと思うんだ」
奏の黄金色の同心円状の瞳が私の瞳を覗き込んでる。
この瞳が薄暗い闇の中に居た私を見つけ出してくれた。私の内面を見通して、光という希望で私を救い出してくれたんだ。
奏の頬に手を添えて、唇を奪った。
時間にしたらほんの数秒だけの口付け。互いの唇が離れて、奏から甘い吐息が吐かれる。
また気持ちを抑えられなくなりそう。
ずっとこのままでいたい、彼の傍に居るとき私は本当の私のままでいられる。アイドルとしてのアイじゃなくて、星野アイとしての姿。
「いきなりはびっくりします」
「ふふっ、でも嫌じゃないでしょ?」
「うん、嬉しいよ。だって星野アイは僕だけを愛してくれてるんだから」
「……もう、ズルいなぁ」
もう、急にそんなこと言うなんて奏はズルいよ。
今の私は顔が赤くなっていると思う。だって頬が熱くなっているのを感じるし、今の奏を見ることが出来ない。
恥ずかしくなった私は顔を見られないように彼の胸に顔を押し付けて奏から見えないようにした。
愛してる、その言葉を不意に言われるとまだ幸せと恥ずかしさを感じる。でも、きっと他の人から言われてもこうはならない。
私がこんな姿を見せるのは奏だけだから――。
しばらく奏に寄り添ってこの時間を満喫した。
それで今後、どのようにして生活していくかを話し合う。
「ベビー用品は斎藤社長達が買い揃えてくれるって言ってたから僕達は住居を決めないとね」
「新しい住居かぁ」
表立って私達の子供だって公表することはできない。
だから事前に話し合って決めた通りに表向きこの子達は佐藤社長の子供って事になるんだよね。でも住居に関してはどういった物件が良いのかな?
「と言っても候補は既に決めてありますよ。完全に情報の漏洩を防ぎたいなら僕達は別々に住居を用意して暮らした方がいいけど……」
「いや! そんなの絶対に嫌だ!!」
頭では理解してる、でも心がそれを拒んだ。
私は奏がそう言い切ったと同時に嫌だと拒絶の意を示した。やっと一緒に暮らせるんだよ? スキャンダルっていう危険に怯えてたら何もできない。
だから私はそう叫んだ。
嫌な女だと思われるかな? 自分の欲のために奏達を危険に晒してしまうことになっちゃう。恐る恐る私は彼の顔を見ると微笑んでいた。
「だったらこの場所にしましょうか」
私が別々に住むことを拒絶するのは奏はわかってたんだ。
携帯を操作して幾つかある物件の中から一つの物件を選んで見せてくれた。そこは特殊な作りなっている物件で安全面とプライバシーを守るって意味ではすごく評価が高いって言われている場所だった。
私も奏と付き合うようになってから物件についてリサーチしたことがある。
その時に見つけた物件の一つだった。でもここはそういう面が優れているだけあってすっごく高い部屋だっていうのを今でも覚えてる。
「え、でもここって月々の料金がすごく高い場所だよね?」
「そうですね。まぁ、これくらいかな」
教えてもらった月々の値段は思っていた以上に高かった。
奏のおかげで私はB小町で色んな人達から注目を浴びて、色んな場所で歌えるようになった。テレビで特集を組まれたり、CMにも呼ばれた事もある。
呼ばれたのは私だけだったからメンバーの皆には申し訳なさを感じることもあったけど。
皆は苦笑いしてたけど、わかってた。その目に映るのは嫉妬、憎悪、憤怒、悔しさ、諦め。
みんなわかってるんだよ。
芸能界って世界で生き残るのには才能が必要なんだって。このまま芸能界に身を置くなら今は悔しくても自分の感情を抑えるしかない。
だから私のお給料はみんなよりも多い。
多いと言っても苺プロはまだ大手のプロダクションとは言えないからそこまで多くのお給料は支払えない。月々の支払いを考えると本当にこの場所に住めるのかなと思ってしまうんだ。
「高いよ!? 私のお給料とあまり変わらないよ!」
「僕が支払うから大丈夫ですよ」
え、奏が支払うって言ってもそんな簡単に払えるものなの?
そう言えば、私って奏がどれくらいお給料を貰っているとかの話を聞いたことなかった。いったい所属しているプロダクションからいくら貰っているんだろう?
歌手としても俳優としても名が売れている奏。
CMだって私よりも遥かに多く出てるし、ドラマも主演で出ていた時もあった。本当の意味でマルチで活躍できる歌手だって世間では言われ続けてる。
「私も頑張るから!」
「無理はしないでくださいね」
ぐっと両拳を握り締めて頑張るよってアピールすると奏は嬉しそうに笑ってくれた。
私の顔を考えてたことがわかったのかな。本当に小さく耳元で私だけに聞こえる声で囁くように言葉を紡いでくれた。
吐息が当たって擽ったかったけど、言われた内容に一瞬体が固まった。
それは奏が芸能プロダクションからもらっている月々のお給料。私と同じ年齢でそんな金額が貰えるのと思ってしまう。
奏って私が思っている以上に凄かったんだ!
「今はまだこの時間を満喫しましょう」
「うん、そうだね」
奏の言葉に私は頷いた。
そう、今はこの時間を大切にしたい。今だって私を愛してくれるし、その思いも伝わって来るよ。それに私の全てはもう奏のものなんだから。
でもいつかきっと奏の全てを手に入れるよ――だって私は欲張りなアイドルだから。
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