推しの子 その瞳に映るのは 作:ノックスさん
人生ってやつはわからないものだと思った。
俺は冷たくなっていく体と暗くなっていく意識の中で死んだ。何を言っているのか、理解できないかもしれないが間違いなく俺は死んだはずだった。
アイのストーカーと思わしき男に突き落とされ、誰にも気付かれぬまま。
必ず、この手で子供達を出産させると誓ったが叶わぬ願いとなった。
だが、今俺の身に起こっていることはどう説明すればいいんだ!?
「あ、起きたの?
目が覚めると俺は推しのアイドルの子供になっていた。
ここは天国なのか? アイに対する執念が転生という形で願いを叶えたとでも言うのだろうか? 星野アイの子供という事は父親は当然、牧野奏ということだ。
アイに高い高いと体を持ち上げられ、浮遊感を感じている。
なぜ、こんな事になっているのかはわからない。それでも今はアイの赤ちゃんという立場を堪能させてもらおう。
「アイ、
赤ちゃん生活を満喫しようと決意した時、対面から声が聞こえて来た。
そっちを見るともう1人の赤ん坊のルビーが俺達の父親に抱えられている。少しグズッているけど、奏に抱えられているのは満更でもないみたいだ。
しかし、アクアマリンにルビーって凄い名前を付けたな。
絶対に漢字で書けって言われてもすぐに出てこないぞ。まさかキラキラネームってやつで名前を付けられるとは思わなかった。
それにしても凄く高そうな賃貸だな?
窓から見える景色から判断してもかなり高層階の一室なんじゃないか? そんな事を考えていると呼び鈴の音が聞こえた。
アイが立ち上がり、壁に設置された機器から訪問者の姿を確認している。
社長達だって言って、近くのボタンを押して玄関の扉のロックを解除していた。扉が開けられ、社長達が室内へと入って来る。
……ほんとにこの部屋は幾らするんだ? 東京ってこんな最新鋭な賃貸ばかりなのか?
前世の自分が居た場所とは違い過ぎて困惑する。
「相変わらず、羨ましい限りだな。俺達よりも良いところに住んでないか?」
「はは、褒めても何も出ませんよ。社長と大手のプロダクションに所属する僕とでは立場も何もかも違います」
「嫌味か、お前は!」
「急に大きな声を出さないでくださいよ。ルビーがびっくりするでしょう?」
アイが所属する苺プロダクションの社長が大きな声を出したのでルビーが驚いて泣き出した。
よしよしっと奏が背中を擦ると同時に一定の間隔である動作を繰り返したことで、すぐに泣くのが収まっていた。
こういうところでもプロなのか。
瞬時にどうすれば、最適な答えであるかがわかっているみたいな動き方だった。
「す、すまん」
「ミヤコ夫人、お久しぶりですね?」
「は、はい! 牧野君も久しぶり」
そして社長夫人のミヤコさんだ。
イケメンが好きらしく、この社長と結婚したのも芸能事務所に居れば、美少年とお近づきに成れるからとかいう不純な理由があったという話をアイと奏が話しているのをコソッと聞いたことがあった。
だから奏が自分に対して笑って話すと時折、顔を赤くしている姿を見せている。
俺からしても父さんってカッコいいというか、綺麗というか美青年であることには間違いなかった。
「アイ、ルビーをお願いするよ。僕はお茶の準備をするから」
「わかった。奏……ん」
「もう、皆が見てますよ」
社長達が来たからお茶を用意するとルビーをアイに預けてキッチンの方へと歩いていこうとした。
その時、彼女が奏の名前を呼んで振り向きさまに触れるだけのキスをしている。目の前で急に見せられたキスに複雑な気持ちだ。
そしてアイがまるで奏は私のものだと言わんばかりの表情でミヤコさんに向かって笑っていた。
なんだろう、二人の間に火花が散っているような気がするぞ?
「俺達が来た理由はわかってるな?」
「私の復帰の事だよね?」
「そうだ。今日の生放送の歌番組、ここが復帰第一弾となる。しかもだ、今回は牧野も参加するとあってかなりの視聴率が想定されている」
「楽しみですね、アイ?」
「うん、復帰第一弾が奏と一緒なんて最高だよ! デュエットならもっと最高だったのになぁ」
そう、今日アイはアイドルとして現場復帰する日なんだ!
B小町の永遠のセンターとして復帰する。彼女が活動休止していた期間は活動していたみたいだけど、あまり活躍できていなかった。
アイあってのB小町だっていうのを意識させられる案件となったらしい。
もちろん、メンバーも技術を磨いて更なる躍進を目指したみたいだけど難しかったようだ。
「贅沢を言うな。わかってるのか? 牧野は様々な業界で今や引っ張りだこなんだぞ。大手に所属してるし、まだ弱小とは言わないが知名度が中間くらいの俺達じゃ頼むのも一苦労なんだ」
「え、でも前はデュエット出来たよ?」
「あれは番組の企画でそうなっただけだ。想像以上に反応がよかったから俺も驚いたがな!」
アイと奏のデュエット。
アクセス数が多すぎて処理落ちするという事態を引き起こした珍事。前世の俺も途中で影響を受けて見れなくなって悔しかったのを覚えている。
斎藤社長としてはまた組ませてやりたいって気持ちはあるだろうけど、組織としての差が大きすぎた。
奏の所属するプロダクションは業界で1,2を争うくらいの超実力派なんだからな。
アイは社長の言葉を受けて少し悲しそうにしている。
ティーセットを持った奏がキッチンの方からやってきて皆の前にカップを置いた。
「あのデュエットは僕も楽しかったですよ。練習なしのぶっつけ本番でやりましたけど、息ぴったりでしたから」
「そうだよね! 私と奏だもん!」
「お前がアイに合わせたんだろうが……! 普通は練習なしであそこまで魅せることはできないんだ! 少しは自覚しろ!?」
当時を楽しかったと語る奏に嬉しそうに相性抜群と言いたげなアイ。
でも社長の言うことはもっともだ。普通は練習もせずに本番で全員を魅了するような歌や踊りを披露できることは非常に稀だ。
だから多くの分野で本番前のリハーサルが行われるんだ。
「何で仕事の前からこんなに疲れなきゃいけねえんだ。はぁ、仕切りなおすぞ」
そう言って何処からか取り出したボードに今回話し合う議題を書き出した。
●B小町アイの復帰
●子供の扱いについて
「前者についてはさっき話した通りだ。生放送だが、問題ないな?」
「もちろん!」
「問題はお前らの子供の扱いだ。これは最重要事項だ。選択肢を一つでもミスったらお終いだからな」
16歳、アイドル、二児の母、どこかに漏れたら大騒ぎになる。
アイの強い要望で奏と一緒に暮らすっていう危険を冒しているんだ。外に出るようなことがあるならそれこそ常に目を光らせないと駄目だ。
「アイが仕事の間は妻のミヤコが子供達の面倒を見る。牧野、お前はどうだ?」
「僕の方も仕事がオフの時は極力子供たちの面倒を見たいです。僕とアイの子供達ですから」
「私も休みの時は奏と一緒にアクアとルビーと過ごすんだー」
「そうか。ならその方針で話を進めるぞ」
それぞれ所属事務所も違って一緒に暮らしてる。
でも目の前で話されているのは苺プロの仕事の話。これって大丈夫なのか? 斎藤社長が問題ないというなら何も問題にならないんだろうけど。
「基本的には子供を連れて行くのは絶対にお前らの子供とバレないことが大前提だ。もし、どうしても連れていきたいというなら俺達の子供という事で現場に連れていく」
「現場に連れていくならアイの仕事場という事になりますね」
「あぁ、お前らの子供の事を知っているのは俺達を除けば、3人だ。アイは苺プロ所属、俺達が仕事場に連れて行っても違和感はない。だが、牧野の場合は仕事上の接点しかないからな……表向きはな」
アイの仕事風景を見てみたいというのは前世から思っていた。
社長達が話していた設定を利用すれば、見に行けないことはない。が、それはバレたら終わりという危険と隣り合わせだ。
それにしても社長達を除いて俺達の存在を知っている人が3人?
1人は奏の母親、1人は奏のマネージャー、あと一人は誰なんだ……? 実際に俺達があったことのない3人目。
「もっとも牧野に関しては何も心配していない。アイ、頼むから変な事を口走らないでくれよ? 16歳、アイドルで二児の母だとバレたら俺も責任を取らされて事務所は終わり。それに牧野もただでは済まなくなる」
「それは私も重々理解してる。だから安心して見守ってよ」
「心配だが、信じるぞ」
赤ちゃん生活の中で見てきたアイの姿から想像すると何かの拍子に口から秘密が漏れてしまうかもと思ってしまっているのは秘密だ。
でも奏が関わっているときはそんなボロを出している所は見たことがなかった。
それほどまでに父さんの前ではアイはしっかりしている。これも愛があるからこそなせる業ってことなのかな?
「そろそろ時間だな。アイ、俺達は先に向かうぞ。ミヤコ、こいつらの子供の世話を頼んだ」
「はい……」
「じゃあ、行くね。アクア、ルビー」
お、おでこにキス!?
こんな幸せな事があっても良いのか!? 推しの子供に生まれて来れてよかった! 前世では絶対にありえないことに思わず舞い上がってしまいそうだ。
「奏はまた現場で会おうね」
「えぇ、行ってらっしゃい。僕ももう少ししたら向かいます」
そうか、一緒に出ていく事は出来ないから時間をズラさないと駄目なんだ。
ここに二人が一緒に住んでいるのは極秘中の極秘。アイドルって内側から見るとやっぱり大変なんだと素直に思ってしまった。
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