推しの子 その瞳に映るのは 作:ノックスさん
誤字報告ありがとうございます。
アイとは時間をズラしてテレビ局の方へと向かう途中で考えていた。
僕達の子供の名前は幾つか候補があったんだけど、どうしてもこの名前が良いって彼女が引かなかったんだ。いわゆるキラキラネームっていうやつ。
まだルビーの方は女の子だし、問題ないけど……。
略称でアクアって呼んでいるけど、本当の名前はアクアマリン。漢字では愛久愛海、絶対に初めて見た人は読めないと思う。
愛久愛だけの方が良かったかな?
「奏さん、あと10分ほどでテレビ局へと到着しますよ」
「いつもありがとう、亜紀さん」
「これもマネージャーとしての務めですから」
運転してくれているのは専属マネージャーの亜紀さん。
タクシーでも良かったんだけど、私が運転した方が確実ですと言われて以降は仕事場への送迎は彼女に行ってもらっている。
亜紀さんに運転してもらっているときは周りの目を気にする必要がないというのも大きい。
タクシーではプライベートな話もすることはできないからね。
亜紀さんも僕達の子供のことは知っている。
もちろん、所属プロダクションの方はアイとの間に子供が出来たなんて知る由もない。亜紀さんの協力のおかげでこの辺りの情報はコントロールされている。
「アイさんの復帰は楽しみですね」
「そうですね。また日本中を熱狂させるアイドルへの足掛かりとなることを願っています」
「しかし、本当にそうなりたいならある選択を迫られると思いますよ?」
「……その選択をアイは悩んでいるみたいだよ」
復帰したアイが再び日本を熱狂させるのは間違いないだろう。
だって彼女は人に魅せる方法を知り、愛とは何かを学んだ。より自然な笑顔で多くのファン達を魅了するだろうね。
そして亜紀さんの言う通り、彼女が一番星に早く手を届かせたいなら一つの選択が迫られる。
B小町は確かに成功しているけど、その中心にいるのはアイだ。あまり言いたくはないが、歌唱力にはまだ飛び抜けて差はない。
けれど、カリスマ性という点においては飛び抜けている。
諦めてはいないメンバーも多いが、それでも強すぎる光に対抗することが出来ていない。加えて言うならアイが活動を休止してから今まで大きな仕事を取れていないというのも大きいな。
「時には切り捨てるという選択をする必要があります。それがたとえ、同じ事務所に所属するグループだとしてもです」
「まぁ、そうですね。世間からも業界からもアイが居てのB小町と思われている部分はある。メンバーからの負の感情は強いでしょうね」
「だからこそ、彼女は選択を迫られます。このまま仲間と共に頂を目指すのか、それとも奏さんと並ぶために切り捨てるのかを」
そう、芸能界っていうのはそういうところだ。
弱者はいつも強者の糧にしかなれない。人は誰しも平等じゃない、環境によって価値観が左右され完全な人は生まれない。
アイも母親からの与えられたものが愛だと覚え、愛は痛いものだと信じ続けていた。
きっと昔の彼女にそれは偽りの愛だと教えてもすぐに信じることはないだろう。
「アイがどちらを選んだとしても僕は否定しません。きっと当分は悩むことだろうし、簡単に決断できることでもないから」
「皆さん、努力はしておられると思います。けれど、芸能界は努力だけでは壁を越えられません。奏さんの所属する事務所では特に。超実力主義の事務所ですし、それ故に結果を残すものには寛容です」
「そうですね。金の成る木は手放したくないという事ですね」
「悪い言い方をすればですが……」
いずれ選択の時は迫られる。
どの選択をしようとも僕はアイを支えるだけ、最愛の女性としても良きライバルになってくれる歌手としても。
ただ、本音を言うならグループ内で表面上は何も起こってないけど、裏でこそこそとされるのは面白くないのも事実。
もし、今後それが顕著になって来るなら口を出すこともあるかもしれない。
僕が言う前に斎藤さんが気づいて何とかしてくれることを祈っているけど……。斎藤さんが何か言っても逆効果かな? アイを他のメンバーよりも少し贔屓しているのは事実だし。
「それだけの評価をしてくれている。今はそれだけで十分ですよ」
「奏さんがそういうなら私としても問題はありません」
亜紀さんも納得してくれたようだし、そろそろテレビ局だ。
アイも居るし、今日も頑張っていこうか。
◆
歌番組のスタジオに到着し、スタッフさんや番組を進行してくれる司会者にも挨拶していく。
「牧野君、久しぶり。最近どう?」
「お久しぶりです。いつもと変わりませんが、絶好調ですよ」
「それは良かった。今日もよろしく頼むよ」
簡単な挨拶を交わした僕は番組進行のスケジュールが掛かれた台本を改めて確認する。
生放送で行われるため、極端なアドリブを入れて番組を混乱させてはならないという暗黙のルールも存在したりする。
もちろん、すべてが決められているわけではない。
台本に書かれているフリートークという部分には決まりはないので、ここではある程度自由にすることもできる。
「僕の出番はB小町の後か……最後なんだ」
「牧野君、今日も期待してるよ。君が番組に出ると視聴率も高いからね、こっちとしては毎回でも来てほしいくらいだよ」
「頑張ります。でも、それってあんまり大きな声で言わない方が良いんじゃないですか?」
「はは、ここのスタッフの皆は言わなくてもわかってるよ。私達も数字で評価されるからね、だから君が来てくれると本当にありがたいんだ。それに大きな声では言えないけど……ほんとならB小町のアイとデュエットの方が良い。数字が跳ね上がるからね」
「僕は何と答えるのが正解なんですか?」
「別に答えなくてもいいさ。あくまで私達が数字をあげるためにどうすればいいかという答えの一つと言うだけさ」
出番前に軽いトークが入って、そこから生歌を披露という順番だ。
この辺りは前に呼ばれた時とあまり変わっていないようで安心した。台本を確認していると番組の責任者の人がこっちに来て話しかけて来る。
内容は隠すつもりもないのか、やはり番組視聴率のことだ。
僕らはそういう数字はあまり関係ないが、この人達の場合はその数字がすべて。だから質の高いパフォーマンスを行ってもらうために様々な嘘を付く。
思ってもみないことを普通に言ってくる。
笑顔の裏に打算ありということだ。高い結果を残すために手段としても間違っていない。誰もが一度は通る道というところかな。
笑いながらよろしく頼むと言って裏の方へと行ってしまった。
やるからには僕もプロとして必ず結果を出せるように全力で行うのは当然の事だから言われるまでもない。
そして番組がスタートした。
「本日のメインB小町の皆さんと牧野奏さんです!」
それぞれが呼ばれ、入場用の入口からスタジオへと入っていく。
僕が後ろに居ることに気付いたアイが気付かれないようにウインクをしてくる。公共の場では親密そうには見せないようにと言われているのに。
僕もそれに合わせてウインクを返す。
満足そうにした彼女はB小町のメンバーと先に入場した。でも、明らかに誰の視界にも入ってないタイミングで行ったことから見てもカメラの配置とかも全部把握しているっぽいな。
「本日、活動再開となるアイさんです。」
「どう、絶好調?」
「はい! 心配をかけましたけど、元気いっぱいです!」
やはり、最初に話題を振られるのは当然アイだ。
今回のメインの中でも中心となるのは活動休止明けとなる彼女しかいない。振られた話題に対してリハーサルでもやったように無難な返しを行っている。
これなら問題なさそうだ。
斎藤さんがだいぶ心配していたからどうかと思ったけど、心配する必要はなかった。
「牧野君からも何かある?」
「そうですね。やはり第一声は復帰おめでとうと言わせてもらいます。同世代ですし、高みを目指すライバルとして戻ってきてくれて嬉しいです」
「おぉ、メラメラ燃えてるね。若いっていいね」
このタイミングで僕に話を振って来るってどこにも書いてないんだけど。
一瞬だけ司会者へと視線を移すとニヤっていう感じで笑ってた。……わざとやったなこの人。たまにアドリブを入れて来るのは知ってたけど、生放送でしてくるなよと言ってやりたい。
そしてスタッフの人達も苦笑いしてないで、止めてほしかった。
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