推しの子 その瞳に映るのは   作:ノックスさん

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お母さま登場。


第二十話

 アクア達は赤ん坊にしてはやっぱり精神が成熟している気がする。

僕とアイが自宅で口付けを交わしていた時も反応が赤ん坊らしくなかった。普通は何をしていたのかを理解しているはずがないんだけど、心なしか二人はわかっているような反応をしていた。

 次の日に朝から僕とアイを見たアクアはなぜか目を合わせようとせず、顔を背けていた。

顔も少し赤くなっていて風邪かと思ったけど、そうじゃなかった。

 

そう、あれはどちらかと言えば恥ずかしがっているというか気まずいという感じの反応の仕方だ。

 

「ミルクを哺乳瓶でしか飲まないのか」

 

「奏ー、ミルクは温まった?」

 

「もうすぐできますよ」

 

 そして赤ん坊だというのになぜか、アクアはアイから授乳されようとしない。

ルビーは進んで欲しがっているけど、正反対の反応を見せている。女の子と男の子だからというだけで説明するのは難しいような……。

 この時期はそんなことを考える思考力とかもないはずだし、ギフテッドとやつなのか?

そう考えるなら一応は説明できるんだけど、違う気がするし。僕達の子供だし、可愛いから別にそこまで気にすることでもないんだけどさ。

 

「うん、いい感じの温度だね。アクア、ミルクだよ」

 

「ばぶっ」

 

 僕の手からミルクの入った哺乳瓶を受け取ると勢いよく飲み始める。

アクアから視線をアイの方へと向けると胸の片方の下着を外して、ルビーに授乳している姿がある。これが普通の赤ん坊の反応の仕方だと思うんだけどな。

 

「奏も飲む?」

 

「子供達の前でそういうのはいけませんよ、アイ」

 

「えへへ、冗談だよ。…………奏にだったら飲んでほしいんだけどなぁ

 

「何か言いましたか?」

 

「ううん、なんでもないよ!」

 

 冗談だと言った後に何かを言っていたみたいだけど、それは聞き取ることが出来なかった。

アイに聞き直したけど、なんでもないって言って教えてくれない。あまり重要な事ではなかったのかな? それなら別に問題ないだけどね。

 

「そろそろ仕事ですね、アイ」

 

「うん、社長達もすぐ到着するって言ってたし、いつでも出発できるよ」

 

「またミヤコ夫人に迷惑をかけると思うと少し忍びなく感じてしまうな。今の現状ではそれが最適であるとはわかっているんですけど……」

 

 社長夫人に子供の面倒を見てもらうというのはどうしても抵抗感が生まれてしまう。

もちろん、納得してくれた上でやってくれているのだから僕からしたら感謝しかない。でもストレスも溜まってしまうんじゃないかな?

 何か恩返しでも出来ればいいんだけどな。

そんな事を考えていると不意にアイが僕の近くまで移動してきていた。

 

 ルビーの授乳を終えて、いつの間にか服も着替えていたようだ。

彼女はジッと僕の目を見つめて無言でこちらを見続けている。どうしたんだろうと思いながら僕もアイの目を見つめた。

 すると満足したのか、微笑んで踵を返していた。

何か気になることでもあったのかな?

 

「(本当に申し訳ないと思ってるなぁ。ミヤコさんには少しだけ注意しとこ)」

 

「仕事の時間だ。アイ、行くぞ」

 

 数分後、斎藤さん達も到着してそれぞれの仕事へと出発した。

ミヤコさんにすれ違いざまに今日もお願いしますと伝えて僕も部屋を出た。アイが彼女に何かを言っていたようだけど、何を話していたんだろうか?

 

 

 私は斎藤ミヤコ、苺プロダクションの社長夫人。

今任されている仕事はB小町の星野アイの子供の世話をすること。社長夫人の仕事がこれっておかしくない?

 そもそも壱護と結婚したのはイケメン俳優とかイケメンアイドルと一緒に仕事が出来ると思ったからなのに……! 

 今やってる仕事が子供の世話? 

明らかにおかしいでしょ!! しかも相手は1,2を争う大手プロダクションの看板とも言える立場になりつつある牧野奏君。

 

 2人とももうすぐ17歳になるってことはやったのは16歳になってそこそこってことでしょ?

私達は子宝に恵まれなかったから仕方ないけど、最近の子達って色々と早すぎない?

 

「うあぁぁん」

 

「はいはい」

 

 ルビーちゃんがぐずり始めた。

私はもう慣れた手つきでオムツを手に取ってすぐに取り換える。だいたい、ぐずり方で何を求めているかがわかり始めた時点で私も末期だわ。

 あぁ、考えれば考えるほど嫌になってくる。

私ほんとになにやってるんだろう。はぁ、もうどうでもよくなってきたわね。

 

「そもそもこれって不祥事の隠蔽よね?」

 

「「っ」」

 

「このネタを週刊誌に売ったらかなりのお金になるわよね。快進撃を続けるアイとその先に居る奏君、そうだ。アイの隠し子って情報だけを売れば、奏君の名は傷つかない。ショックを受ける奏君を慰めてあげれば、私の株も上がる?」

 

 そうよ、子供が居ると言ってもまだ16歳。

まだまだ誰かが隣に居て支えてあげないと駄目よね。私の中の悪魔が耳元でそう囁いているように感じた。これこそが私が幸せを掴むための道だと。

 立ち上がって母子手帳の保管されている引き出しの場所へと向かう。

後ろでアクア君たちが動いている音が聞こえるけど、今の私には関係ない。

 

 引き出しから星野アイと名の刻まれた母子手帳を手に取って携帯のカメラを起動する。

ブレないようにピントを合わせて1枚、2枚と何枚も写真を撮った。後はこれを週刊誌の記者に売りつければ……ふふふふ。

 

「哀れな娘よ、愚かな行いはやめよ」

 

「っ誰!?」

 

 私以外には誰も居ないはずなのにそんな声が聞こえて来たわ。

驚いてすぐに振り向いたけど、そこに居るのはいつの間にかテーブルの上に並ぶように座っているアクア君とルビーちゃん。

 でもこの時期の赤ん坊は言葉を話すことはできない。

だから私は周りを色々と見るけど、他には誰も居ない。ある可能性を除いてあり得ないと思っていたら再び言葉が聞こえてくる。

 

「我は神の使いなるものぞ。貴様の行いはこれ以上見過ごせぬ」

 

「は? 赤ん坊が喋ってる……?」

 

 アクア君の口からスラスラと述べられる言葉に思考が追い付かない。

目の前ではあり得ない事が起こってるからなおさらよ。1歳にもなってない赤ん坊が言葉を話すなんて常識的に考えてあるはずがない。 

 頭を振って目の前の現実を否定する。

そして浮かんでくる一つの可能性。いや、これしかありえないわ!

 

「あ、ドッキリか……いや、ここは奏君が周囲に絶対にバレないようにするために借りた高層階の賃貸。この場所の事を知っているのは限られてる。それをドッキリなんて仕掛けられるはずがない……。だったらこれはほんとに?」

 

「(なんか知らないけど、良い具合に勘違いをしてくれてる! チャンスだ)目の前に現実を受け止めよ」

 

「じゃあ、本当に赤ん坊が喋っているの!?」

 

「言葉を慎め、我は神の化身なるぞ。今、やろうとしている行いは主の天命にあらず。神たる我が命ず、世から時が来るまで星野アイと牧野奏の子供達を守護せよ。それが主の天命じゃ」

 

 目の前で起こっている現実を否定したくても否定できない。

ルビーちゃんが神の化身? アクア君が神の使い? まさか本当にそうだって言うの。確かに赤ん坊にしても大人びていると時々思ったけど、まさか……。

 

「その使命を全うすれば、主には幸福が訪れよう」

 

「幸福?」

 

「それは……」

 

 私に幸福が訪れると言われたその時だった。

インターホンが鳴らされ、目の前の現実を否定したくて立ち上がってモニターを見る。そこには奏君と同じ髪色と瞳をした女性が立っていた。

 

彼のお母さまである牧野真莉愛様がそこに居た。

すぐにドアロックの解除ボタンを押して私は彼女を部屋へと招き入れる。

 

「こんにちは、ミヤコさん」

 

「こ、こんにちは真莉愛様!」

 

 彼女が中へと入って来ると一瞬だけ視線が周囲を観察するように動いているのが目に入る。

そしてある場所で真莉愛様の視線が止まった。私もその場所に視線を向けると床に落ちている母子手帳とカメラが起動している携帯がある。

 それを見て一気に全身から血の気が無くなっていくのを感じた。

ま、まずい何とか誤魔化さないと!! 今の私にはアクア君たちが神の化身やら使いなんてことを頭で考える余裕はなくなっていた。

 

「これ、どうしたの?」

 

「え、いや、これは……その」

 

「これってアイちゃんの母子手帳だね。何で携帯のカメラが起動状態なのかな?」

 

「落とした時に起動しちゃったんですかね? あははは……」

 

 否定しないと私はそんなことをしないと否定しなければ。

母子手帳と起動中のカメラ、その二つが導き出す答えは真莉愛様にとって辿り着くのは容易だ。ゆっくりと近づいてくる彼女に私は腰砕けになってその場に座り込んで俯いてしまう。

 

「ミヤコさん?」

 

「わ、私は……」

 

「私の目を見なさい」

 

「え……?」

 

「私の()を見なさい」

 

 俯いた私の顔が不意に正面に向かされる。

その言葉と共に私は真莉愛様の黄金色の同心円状の瞳を見つめ、囚われてしまう。そして私の全てが見透かされて、何もかも――。

 その瞳をずっと見続けていると急に頭に靄が掛かったような錯覚に襲われる。

どうして急に頭が……? それはまるで酔っているような、冷静な判断を下せない。

 

「私のお願い聞いてくれる?」

 

「はい、真莉愛様……」

 

「良い子だね、ミヤコさん。君は奏が良しと言うまで秘密を胸にしまっておくこと、出来る?」

 

「はい」

 

 意識がふわふわしてる。

私は真莉愛様に言われるがままに頷いて返事をした。

 

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