推しの子 その瞳に映るのは   作:ノックスさん

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皆さん、母親のモデルに気付いてましたね。


第二十一話

 突然の訪問者に俺もルビーも理解が追い付かない。

ミヤコが部屋へと招き入れたのは奏の実の母親だった。彼女は部屋に入って落ちている母子手帳と携帯電話をすぐに見つけて問い詰めていた。

 ミヤコが何を行おうとしていたかをすぐに理解したからだ。

奏の子供の俺達の事をスキャンダルとして売ろうとしたことに気付いたってことだ。必死に言い訳を考えていた彼女は言い訳をすることも許されずに奏の母親に何かをされていた。

 

「そこのソファーで休んでていいよ」

 

「はい」

 

 これは瞳に光が無くなってる?

一種の催眠状態とも言える状態か? 前世が医者だったおかげでそういった患者の事も少しは勉強していた。じゃあ、さっきの行為は暗示をかけていたのか?

 奏の母親はいったい何者なんだ?

あの息子にしてこの母ありとでも言うべきなのか。とにかく、俺達のことは普通の赤ん坊として扱われるように振舞わないと。

 

「ほら、そんなところに登ってたら危ないよ。こっちにおいで?」

 

 それにこの声、奏と同じで耳に入って来るだけで安心感を覚える。

ルビーは無意識にそれを受け入れて、彼女の腕の中に納まっていた。俺の方にも差し出された手の方へと進んで、その腕の中に納まる。

 ミヤコが横たわるソファーの体面にあるソファーへと腰かけて俺達を膝の上に乗せて抱きしめた。

ちょうど頭の部分が柔らかい何かが当たっている。その正体に気付いて抜け出そうもするが、しっかりと抱きしめられているので逃げ出せない。

 

これは天国なのか、それとも地獄か!?

い、今はこの感触を受け入れるしかないのか。こ、これは不可抗力なんだ!

 

 

だから俺をそんな目で見るんじゃないぞ、ルビー!?

 

「うん、賢い子だね。さすが奏君とアイちゃんの子供達だ」

 

「ばぶ?」

 

「この近くで会議があってね。すぐに終わったから君達に会いに来たんだ」

 

 ルビーがあざとく首を傾げながら彼女を見つめていた。

本当の赤ん坊みたいな動きと言動を行って違和感をあまり感じないほど馴染んで見える。さっきの神の化身だって言った時も様になっていたから演技の才能はあるんだろうな。

 俺の方は棒読みだったからあまり信じてもらえなかったけど、ルビーは迫真の演技だった。

 

「アクア君の目元は奏君に似たのかな。ルビーちゃんはアイちゃんによく似ているね」

 

 一人ずつ高い高いをされ、見上げる姿は母親のそれだ。

自分が産んだ子供の赤ちゃんだからやはり可愛く感じるんだろうな。本当なら普通の赤ん坊として生を受けたかったけど、何の因果か前世を持つ俺達が宿ってしまった。

 それが必然だったのか、それとも偶然だったのかを判断することはできない。

それこそ神のみが知るという答えを返すことしかできないだろう。

 

「うん、確かに奏君が言う通り赤ん坊らしくないね?」

 

「っ……」

 

「私の胸が頭に当たって恥ずかしいのかな」

 

 更に強く胸を俺の頭に押し付けるように抱えられた。

さっきよりもその感触を強く感じて顔に血液が集まり、顔が赤くなっていくのを自覚する。バタバタと腕を動かしても笑うだけで離そうとしてくれない。

 そもそも赤ん坊の力で大人の女性から抜け出すことはできない。

されるがままの状態にどうしようもなくて抵抗する力も自然となくなってしまう。その間もルビーからは冷たい目を向けられる。

 

耳元で妹に聞こえないような小さな声で呟かれた。

 

本当に面白いね、君達。その理知的な瞳の奥にある感情は何なのかな?

 

「ばぶぶ!?」

 

 その妖艶な声に俺は思わず、声を上げてしまう。

今の言葉はいったいどういう意味で言ったんだ? 拘束が緩くなって体を自由に動かせるようになり、振り向いて真莉愛さんの顔を見る。

 同心円状の瞳が俺の瞳を覗き込んでいた。

俺という存在の全てを見透かされてしまうような感覚に陥ってしまう。まさか、俺達の秘密を知ってる……?

 

「秘密があるの?」

 

 その言葉にビクッと体が反応してしまった。

考えていたことが見抜かれたのか? それともただの偶然? いや、偶然にしては質問のタイミングが良すぎる!?

 読心術ってやつか。

相手の考えていることを見抜く。聞いたことはあったけど、使える人にあったのはこれが初めてだ。

 

心を無に、何も考えるな。

でも、秘密を知られてもそれを悪用する? いや、奏から聞いているイメージからしたらそんな事をする人物じゃないはずだ。

 

「私は君達がどんな存在でも息子の子供である事には変わりないの。それに奏君は何かの秘密があった所で愛してくれるよ」

 

「……」

 

「互いに似た者同士の奏君とアイちゃん。人を好きになる気持ちが理解できなかった者同士、少しだけ依存しているのかな」

 

 人を好きになる気持ちがわからないか。

俺がアイを好きなのとはきっとベクトルの方向が違うのかもしれない。確かにアイは好きだし、ずっと応援していた。

 でも、それが愛かと言われると違うと思う。

もしかしたら俺も人を好きになる気持ちがよくわかっていない? 前世で担当した患者のさりなちゃんならきっと理解してくれるかもしれないな。

 

「どうしたの?」

 

 俺が考え込んでいるとルビーが彼女の服を引っ張っていた。

赤ん坊の体だから眠そうにウトウトとし始めている。その行動を見て、ルビーを抱えるとベビーベッドの方へと歩いて行く。

 

「私はもう行くね。いつか、君達が奏君とアイちゃんにその秘密を話せる時が来るといいね?」

 

「おかえりになられますか」

 

「うん。この子達の事は頼むね、ミヤコさん」

 

「はい」

 

 振り返った真莉愛さんはそう言うと玄関へと向かって歩いて行った。

まだ瞳から光が消えているミヤコは彼女の玄関まで一緒に歩いていき、彼女が部屋から出ていくまで見送っていた。

 奏の母親ってやっぱり謎が多い存在だな。

でも愛されてるってことで良いんだよな? 敵意とかがあったわけじゃなかったし、俺も今は眠ろう。

 

 

 

 仕事を終えて帰って来ると玄関にミヤコさんが立って出迎えてくれた。

いつもと同じようにおかえりなさいと言ってくれるけど、彼女の顔を見て違和感を覚える。

 

「どうか致しましたか?」

 

「母さんからアクア達に会いに行ったよって連絡をもらいましたけど、来ましたか?」

 

「はい、真莉愛様は少し前に帰られました」

 

 ジッと彼女の瞳を覗き込むとあることに気付いた。

同じなんだけど、同じではない姿。瞳から光が消えて、感情が表に出てきていない。これは……あれだな。

 

「簡単な暗示が掛けられてるのかな」

 

 そして僕はミヤコさんの目の前でパンっと手を叩く。

その直後、一瞬だけ彼女が硬直して瞳の中に光が戻った。うん、これで元通りだね。

 

「あれ、私何をして……?」

 

「いつもアクア達のお世話をありがとうございます、ミヤコ夫人」

 

「え? いや、これは合意の上で私も賛同した事ですから」

 

「それでも感謝を伝えたいんです。朝、アイから何かを言われていたようですけど?」

 

「あはは、別になんでもありません。女同士のコミュニケーションです」

 

 改めて感謝を伝えると同意したのは私も同じですと言われた。

その時にふと朝の事を思い出して聞いてみると苦笑いで誤魔化されてしまった。女性同士の話題ってことなのかな?

 そしてまた来ますと言って玄関からミヤコさんも出て行った。

僕はアクア達にただいまと言ってアイが戻ってくるまで一緒に過ごす。時間もあるし、今日は僕が料理でも振舞おうかな?

 

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