推しの子 その瞳に映るのは 作:ノックスさん
ミヤコさんが暗示に掛かっていたのはおそらく母さんがやったんだろうな。
何が目的で暗示をかけたのかは未だに謎だけど表面上は特に問題なさそうだった。おそらく深層心理の域まで暗示が掛けられていたら僕でも解除するのは時間が掛かってしまう。
「どういった経緯でミヤコ夫人があんな状態に?」
考えてもその原因がわからない。
状況を整理して、その状態に至った要因を考える。そもそも母さんは基本的にそういったことはあまりしないけど、そうさせたってことは何かミヤコさんが悪いことをしそうになった?
社長夫人なのにアイドルの子供のお世話をさせられストレスが溜まっていた。
それで良からぬことを考えてその現場を母さんに見られたとか……?
「それなら説明が出来るけど……ん? どうしたのルビー?」
考え込んでいるとルビーが僕の隣にハイハイで移動してきて服を引っ張ってきた。
何やら必死にある方向を指さしており、僕に何かを伝えたいようだ。よしよしと抱えるとその場所に向かって歩いていく。
するとある場所を必死に指さしている。
そこは記録帳やアイの母子手帳などが保管されている引き出しだ。もしかして、ミヤコさんはここを開けて何かをした?
「……ありがとう、ルビー」
引き出しを開けると少しだけ触られた形跡が見られた。
暗示、何かを触った形跡、ストレス……あぁ、そういうことか。それなら母さんがミヤコさんに対して暗示をかけた理由も繋がった気がした。
「母子手帳か」
ということは深層心理まで届いている可能性は高い。
彼女は無意識の内に僕達を危険に晒すような行動は取れなくなっているはず。僕がしたのは表面上に掛けられた暗示を解いただけ。
優しく注意しておこう、そう優しくね。
もう大丈夫だと思うけど、これはきっと必要なことなんだよ。アイを、子供達を、危険に晒すわけにはいかないから。
「(パパ、さっき来たパパのお母さんと同じ顔をしてる)」
「(怖っ、父さんて怒るとこんな感じなんだ。滅多な事で怒らない人を怒らせると怖いってこういう事だったのか)」
ん? アクアが何やら僕に対して警戒してる?
少しだけ笑ってあげると体をビクッと震わせて反対方向を向いてしまった。怖い表情でもしてたかな? ルビーを抱えていない手で顔を触るといつもと変わりない表情をしていた。
「ただいまー!」
そんなことをしているとアイが帰ってきた。
ルビーを抱えたままで迎えるために玄関まで歩みを進める。彼女の姿を確認するとルビーもお帰りとでも言うようにきゃきゃっと声を出していた。
「おかえり、アイ」
「うん! あれ? 奏……?」
「どうかしました?」
玄関で出迎えるとアイも僕の顔を見て首を傾げていた。
スッと両手で僕の顔を掴むと彼女の瞳が僕の瞳を覗き込んでくる。相変わらず、その瞳はキラキラと星の様に輝いていた。
「何か、嫌な事でもあったの? 奏、怖い顔してるよ」
「何でもありませんよ」
「嘘。私、奏の事ならわかるもん」
アイもアクアと同じで僕の表情に違和感を感じているのか。
なんでもないと言う言葉はすぐに彼女に否定されてしまう。僕の事なら何でも知っているからとその言葉からは自信が見てとれた。
「いつもの奏の方が好きだよ。――」
「ん……」
すると不意に僕の唇をアイが奪った。
見送るときに行うような触れるだけの口付けではなく舌を交える大人の口付けだ。ルビーを抱えた状態でするようなことではないんだけど、思いながらも僕もそれに答える。
何秒だったのだろうか。
互いの息が切れるまで交わされる口付けは永遠にも感じられた。互いに与えられる快感に次第に息が荒くなっていく。
「ぷはっ――」
「……ふぅ」
「(や、やばい! これヤバいよ!? 推しのママとパパのディープキスがこんな至近距離で?! これはご褒美なの!?)」
僕とアイの唇が離れると唾液がポタポタと滴る。
その一部がルビーの頬にポタリと落ちた。顔を真っ赤にしている娘をよそに僕も彼女も大きく息を吸い込んで肺へと酸素を取り込んだ。
それにしてもルビー、興奮しすぎてないかな?
やっぱり、アクアもルビーも早熟なのかな。アイの方に再び目を移すと彼女も瞳に悦びの感情が浮かんでいるように見えた。
「いつもの奏に戻って」
「はぁ、僕の負けかな」
アイにこんな表情をさせるつもりはなかった。
キスで誤魔化されたけど、本命はこっちか。さっきのも深いキスもやりたかったことではあるけど、僕の感情を抑えるためにわざと別方向へと意識を向けさせたんだね。
それにこんな懇願するような顔をされては今は諦めよう。
でも、何があったかまでは言うつもりはない。所属している事務所の不祥事に繋がりかねない情報漏洩にあたることだから。
「やっぱり、今の奏の方が好き。好きな人には笑っていてほしい」
これが惚れた弱みっていうやつなのかな。
微笑むアイに僕もつられるように笑みを浮かべた。僕の隣へと並ぶと腕を抱え込んでそのまま一緒にリビングへと歩いて行く。
ソファーで横になっていたアクアを見つけると帰ったよーと言いながら高い高いをして構っている。
アクアも満更ではないようで笑みを浮かべているのが目に入った。
「アイ、夕食を作るからルビーも一緒にお願い」
「うん、わかった!」
ルビーをアイに預けて僕は本日の夕食を作っていく。
本当ならワインとか、アルコール類があれば合うんだけど僕らは未成年だからそれはNG。普通の飲料水で代用しておこうかな。
料理が完成し、テーブルの上に並べていく。
アクアは相変わらず哺乳瓶に入れたミルク、ルビーはアイから授乳されて満足そうにゲップしていた。
「ほんとに奏で料理も作るの上手だね」
「母さんから覚えておいて損はないと言われたので、色々とついでに勉強した結果かな」
「今度、私も美味しい料理を奏に振舞いたいから一緒に勉強しよ?」
「構いませんよ」
そして高層階の窓から見える夜景を楽しみながら料理を堪能していく。
自分の作った料理を美味しそうに食べてもらえる姿は嬉しいものだとアイの食べる姿を見ながら僕も食を進めた。
もう少し薄味の方が良かったかな。
作った料理を食べながら自分で批評していく。今度作るときにより美味しいものを提供するためにこの工程だけは省くわけにはいかない。
「ご馳走様でした! 奏の料理はやっぱり美味しいね」
「ふふ、お粗末様です。ありがとうございます」
ゆっくりと途中で話を挟みながら料理を食べ終えると一緒に食器を片付ける。
洗い物は一緒にするって言い、アイが僕の隣に並ぶように食器を洗剤で軽く洗っていく。その後に洗浄機へと入れて作業完了。
「聞いても良い?」
「どうしたんですか?」
「奏が怒ってたのは私の事が関係してるんでしょ?」
「……」
「奏が怒るときは大切な人に危害が加えられそうになる時ばかりだった。原因は……ミヤコさん?」
さすがに鋭い。
僕の事をよく見ていると言わざるを得ないな。もちろん、僕もアイの事ならすぐにわかってしまうから当然なのかもしれない。
そう、僕は大切な人が傷つけられるのは嫌いだ。
特に自分の気持ちを自覚させてくれた愛おしい存在なら余計にだ。
「それは言えない。言ったらアイとミヤコ夫人の仲が悪くなるから」
「私が朝に言ったことが原因なのかなぁ。私ね、今日の朝ミヤコさんにこう言ったんだ」
"奏は私のもの、誰にも渡さないって"
朝、彼女に言っていたのはこういう事だったのか。
何かを言っているのはわかっていたけど、内容までは聞き取れなかったから。それを聞いたミヤコさんがあの行動に出たって事か。
「未遂でも罪には罰が必要です。同じことを二度と繰り返さないように――」
「奏……(あの時の奏だ。見ているだけで震えが……。駄目、弱さを見せちゃ駄目。奏を心配させちゃう!!)」
「大丈夫、何も起こりませんよ。いつもの日常がすぐそこにあるだけです」
あぁ、駄目だ。
考えだしたら感情を抑えられなくなりそうだ。アクア達の面倒を見てもらっているから悪くするつもりはない。
けれど、アイに何かしらの影響を出させるわけにもいかない。
そう、母さんが深層心理に刻み込んだ暗示を利用させてもらおうか。
「アイ、君は何も心配することはないから」
「あ、あれ? 何で急に睡魔が……? さっきまで何も眠くな……かった……のに――」
「お休み」
瞼が徐々に下がって眠りに向かうアイを抱えてベッドへと寝かせた。
今はしっかり休んでね、アイ。大丈夫、次に起きる事にはすべて終わっているから。
ふふ、何もミヤコさんに危害を加えようっていうわけじゃないんだから。
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